第157話 奇跡の秘薬争奪戦と、オカン流・悪徳社長の潰し方
アーニャの船で、眼帯の副船長と感動の再会を果たし、五十個の『レモン味の飴ちゃん』でバラックス一家の船員たち全員を「海の呪い(壊血病)」から救い出した直後。
いざ、島で一番デカい顔をしている派閥に挨拶(ガサ入れ)に行こうとした矢先、船の外からけたたましい怒号と、無数の松明の光が押し寄せてきた。
「……静江さん! 港の周囲を、何百人もの荒くれ者たちが包囲しています!」
マストの上から周囲を警戒していたアレンが、甲板に飛び降りてきて緊迫した声で報告する。
「なんだと!? あの旗は……このトルーガ島で一番デカい顔をしている最大派閥、『毒鮫一家』の連中だ!」
完全に体力を取り戻し、大剣を構えた眼帯の副船長が、血走った目で港を睨みつける。
船を取り囲む無数の海賊たちの中から、昼間酒場でアレンにテーブルを真っ二つにされて逃げ出した、あのサメの歯のネックレスをしたチンピラが、一人の大男にへこへこと付き従いながら進み出てきた。
「ボ、ボス! あいつです! あのヒョウ柄の女が、海の呪いを一瞬で解く『奇跡の秘薬』を持ってやがるんです!」
「……ほう。本当にバラックス一家の死にかけの連中が、ピンピンしてやがるな」
チンピラから「ボス」と呼ばれた男は、全身に金銀財宝をジャラジャラと巻きつけ、手には毒々しい緑色に光る曲刀を持った、えげつないほど人相の悪い男やった。
「俺は毒鮫一家の頭、ガトーだ! おい、そこの派手な女! 貴様の持つその『秘薬』を、今すぐ俺にすべて寄越せ! そして貴様自身も、俺の船で一生薬を作り続けろ!」
ガトーが、傲慢にふんぞり返ってヤクザな要求を突きつけてくる。
「……はぁ? なんでうちが、あんたなんかの言うこと聞かなあかんねん」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、鼻で笑った。
「ゲハハハ! 分からねぇのか? 治す術のない『海の呪い』は、海賊にとって一番の恐怖だ。その特効薬を俺の派閥が『独占』すれば……薬が欲しくて泣きついてくる他の二十九の海賊団を、俺が完全に支配できる! 世界最大のアルビオン帝国の軍艦すら恐れるこの無法の島を、俺が『王』として統べる日が来たんだよ!」
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特効薬を独占し、恐怖とカネで他人を支配する。
いかにも悪党が考えそうな、しょうもない算段や。
うちは大きくため息をつき、アイテムボックスからタロットカードを取り出して、甲板の手すりにバシッと一枚展開した。
出たのは、『悪魔(The Devil)』の正位置や。
「……あーあ。悪魔のカード、欲望と執着、そして『腐った支配』の暗示や。……ガトーの兄ちゃん。あんたの考え、まさに『悪徳ブラック企業の社長』そのものやわ」
「ブラック、きぎょう……? なんだそれは!」
「薬を独占して、弱いもんの足元を見て言うこと聞かせる。……そんなセコいやり方で人の上に立っても、誰の心もついてこんわ! 部下かて、いつ自分が見捨てられるかビクビクしながら働くことになるんやで!」
うちは甲板の縁に片足を乗せ、眼下のガトーに向かってトングを突きつけた。
「ええか! ほんまに上の立つもん(王様)になりたいんやったらな、独り占めするんやのうて、みんなに気前よう分け与えて『恩』を売るんが一番の近道やろが! あんたみたいなケチ臭い男に、この島をまとめる器はあらへんわ!」
「だ、黙れッ! この絶体絶命の包囲網の中で、説教などと舐めた真似を! 野郎ども、女を捕らえろ! 抵抗する奴は皆殺しだ!」
ガトーが顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、数百人の海賊たちが一斉に船に向かって鉤縄を投げ込もうとした。
だが、うちらの陣営は、ただ黙って包囲されとるわけやない。
「静江さんに指一本触れさせるか!」
アレンが『刹那の観測』の神速で甲板を蹴り、宙を舞って敵の先陣のド真ん中へと飛び込んだ。
鞘に入ったままの西の大陸の長剣が、目にも止まらぬ速さで海賊たちの鳩尾や首筋を叩き抜き、瞬く間に数十人を気絶させていく。
「オカンを舐めるなよ! 俺たちバラックス一家の『恩返し』、とくと味わいやがれぇッ!」
眼帯の副船長が、完全復活した身体で大剣を振り回し、船に乗り込もうとする敵を次々と海へと叩き落とす。
「野郎ども、私たちの誇りを見せなさい! オカンを守るわよ!」
アーニャも双剣を抜き放ち、船員たちと共に怒涛の反撃を開始した。
壊血病から復活したばかりやというのに、彼らの動きには「絶対に恩人を守り抜く」という強烈な気迫と義理人情が籠もっとった。
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「な、なんだこいつら!? 死にかけだったはずのバラックス一家が、なぜこんなに動けるんだ!」
ガトーが、自軍の陣形がたった一隻の海賊団と一人の剣士によってズタズタにされていくのを見て、パニックを起こす。
「……チッ! ならば俺が直々に、あの女を切り刻んで薬を奪ってやる!」
ガトーが毒塗りの曲刀を構え、甲板にいるうちに向かって狂ったように跳躍してきた。
だが、うちは一歩も引かず、飛んでくるガトーを真っ向から見据えた。
「……悪いけど、あんたみたいな『特売品(薬)の買い占め・転売ヤー』には、お仕置きが必要やな」
うちは、アイテムボックスの奥深くに手を突っ込み、真っ黒で炭のように苦い『薬草味』の飴ちゃんを取り出した。
そして、空中にいるガトーの大きく開いた口めがけて、指で思いっきり弾き飛ばした。
「んぐっ……!? げはっ……!!」
ガトーの喉の奥に、激苦の飴ちゃんが見事にクリーンヒットする。
「にっ、がぁぁぁぁっ!? 毒か!? やはり貴様、魔女……!」
あまりの苦さと不快感に、ガトーは空中で完全にバランスを崩し、ドシャァッ! と情けない音を立てて甲板に顔面から墜落した。
「毒ちゃうわ! 体の悪いもん(毒素)を抜く、極上のデトックス飴や! 性根の腐ってるあんたには、これくらい苦いのがちょうどええねん!」
うちは墜落して呻いているガトーの背中を厚底ブーツで踏みつけ、特大トングでその後頭部をスパーン! と叩いた。
「いてぇぇッ!」
「薬独占してデカい顔しようやなんて、二度と考えるな! どうや、まだやる気あるか! 次はもっと苦い『特濃・センブリ味』の飴ちゃん、鼻の穴から突っ込んだろか!」
「ひぃぃぃッ! や、やめろ! 降参だ、俺の負けだぁっ!」
海賊島で一番デカい顔をしていた最大派閥のボスは、おばちゃんの激苦飴とトングの前に、涙と鼻水を流して完全降伏したんや。
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ボスの情けない姿を見た毒鮫一家の海賊たちは、完全に戦意を喪失し、武器を捨てて土下座を始めた。
「……ふぅ。これで、この島の一番デカいゴミ(派閥)は片付いたな」
うちはトングを肩に担ぎ直し、甲板から周囲を見渡した。
港には、騒ぎを聞きつけて集まってきた他の海賊団の連中が、遠巻きにうちらの戦いを見つめとった。
彼らの顔には、うちらの圧倒的な武力への恐怖と……そして、アーニャたちを一瞬で治した『奇跡の秘薬』への、切実な渇望が浮かんどった。
「……静江さん。この騒ぎで、あなたの『特効薬』の噂は、島中に広まってしまいましたよ。……これからどうするんですか?」
アレンが剣を納め、少しだけ心配そうに聞いてくる。
「決まっとるやろ」
うちは、アイテムボックスから色鮮やかなレモン味の飴ちゃんの袋をドサッと取り出し、港の海賊たちに見せつけるように高く掲げた。
「おーい! あんたら! 隠れてんと出てきなはれ! 薬が欲しかったら、うちらの『占いの館・海賊島出張所』に一列に並ぶんや! 悩み聞いて、悪いことせえへんって約束したら、この特効薬、なんぼでも分けたるわ!」
うちの宣言に、島中の海賊たちが一斉にどよめいた。
恐怖と暴力で支配するんやない。オカンの「飴ちゃん(無償の愛)」と「説教」で、三十の海賊団の胃袋と心をガッチリ掴んでいく。
おばちゃん流の『海賊島・大統一プロジェクト』は、こうして史上最大の「お悩み相談の大行列」とともに、本格的に幕を開けたんや!
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