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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第11章:魔の海域と海賊諸島! 無法者たちのオカン爆誕

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第154話 魔の海域の難破船と、分かれる針路

 南の熱帯雨林で小さな社長となったリリルたちと別れ、うちら一行は西の大陸・ルミナへ向けて穏やかな航海を続けとった。

 大和郷やカリカで手に入れた莫大な交易品を積んだ、三隻の魔導ガレオン船団。

 やけど、巨大中継港カリカから西の海域に入った途端、空の様子が少しずつ変わり始めていた。


「……静江さん。前方の霧の中に、船が。ですが……あれは、酷い」


 マストの上から周囲を警戒していたアレンが、甲板に飛び降りてきて緊迫した声で報告する。


「にゃー……! シャーッ!」


 うちの足元で、新しい家族としてすっかり馴染んだ黒猫の『クロ』も、その船から漂ってくる血と硝煙の匂いを感じ取り、尻尾をタヌキのように太くして毛を逆立てとった。


 霧が晴れた先に見えたのは、マストが中折れし、船体のあちこちに『巨大な穴』が空いて、今にも波間に沈みそうになっとる一隻の難破船やった。


「……なんやあれ。暗礁にぶつかったような傷やないな」


「はい。大砲の弾を、至近距離から何発も浴びた『砲撃の痕』です」


 アレンの言葉に、うちは特大のサングラスを押し上げて眉をひそめた。


「……砲撃やて? 誰がこんなとこで商船なんか撃つんや。アレン、カイル! 船が沈む前に生存者を探しなはれ! クレアちゃんも準備や!」


「了解しました!」


 アレンが風の魔法を足元に纏い、荒れる波を飛び越えて難破船へと飛び移る。同時に、カイルが魔導書を開き、難破船の底から水竜巻を発生させて、船の沈没を一時的に食い止めた。


 やがて、アレンが数人の血まみれの船乗りたちを抱えて戻ってきた。


「……ゲホッ、ゴホッ! た、助かった……」


 甲板に寝かされたのは、立派な商人の服をボロボロにし、顔を真っ青にした初老の船長と、数名の水夫たちやった。

 クレアが純白の作業着を翻して駆け寄り、「神聖なる癒やしのサンクチュアリ!」と杖を掲げて彼らの致命傷を塞いでいく。

 うちはすぐさまアイテムボックスから、体力を回復させる『イチゴ味』の飴ちゃんを取り出した。それをすり鉢でゴリゴリと砕き、水に溶かして彼らの口元へと流し込む。


「ほら、ゆっくり飲みなはれ。おばちゃん特製の回復薬や。……あんたら、一体誰にやられたんや? イスパナの残党か?」


 飴の効果と聖女の魔法で少しだけ血色を取り戻した船長は、震える手で『南西の海』――海図の端、未知の領域を指差した。


「……海賊、です。この先の南西方面、『魔の海域』に巣食う、無法者どもの大艦隊にやられたのです」


「海賊ぅ? ……あぁ、そういや森の兄ちゃんら(大和郷の海将)が言うとったな。巨大中継港カリカからこっちの海は、うちらの身内(森一族)の縄張り外で、完全な『無法地帯』になっとるって」


 うちは腕を組んで、南西のどんよりとした空を見つめた。


「はい。そこからさらに南西……未知の資源が莫大に眠る『新大陸』へと続く航路があるのです。大小の島々が入り組んだ多島海。我々はそこを抜けようとして……奴らの大砲の餌食になりました」


===========


 船長の話によると、南西のその海域は今、とんでもないことになっとるらしい。

 新大陸の莫大な富を求めて、アルビオン帝国をはじめとする各国の軍船や商船がこぞってその海に殺到している。だが、そこは単に海賊が多いだけやない。

 そこは『魔の海域』と呼ばれるほど、異常な自然現象が多発する呪われた場所やった。


「……急激な嵐やスコールは日常茶飯事。海流は複雑に絡み合い、羅針盤コンパスの針は狂ったように回り続ける。さらには、海が突然ブクブクと『泡立って』、船を底なし沼のように海底へ飲み込むことすらある……」


 船長が、恐怖を思い出したように体をガタガタと震わせた。


「そんな地獄のような自然環境を熟知し、暗礁の間に隠れ家を作っているのが、無数の海賊たちです。彼らの力は強大で、今や世界最大の覇権国であるアルビオン帝国の軍船でさえ、あの海域では海賊に歯が立たず、莫大な通行料を奪われている始末で……」



「……なるほどな」


 うちは、アイテムボックスからパイプ椅子を取り出し、甲板にどっかと座り込んだ。


「急な天候変化に、磁気異常。それに船を沈める巨大なメタンハイドレートか。……完全に、前世でテレビで見た『バミューダなんとか』やないの」


「バミューダ? なんですかそれは」


 カイルがインテリ眼鏡を光らせて首を傾げる。


「まぁ、魔の三角海域っちゅうやつや。……みんな、アルビオン帝国の本国に殴り込みをかける前に、ちょっと寄り道せえへんか?」


 うちがニヤリと極悪な笑みを浮かべると、アレンが嫌な予感を察知して一歩後ずさった。


「よ、寄り道って……静江さん、まさか……」


「ええか。アルビオン帝国すら手を焼いてる、その『新大陸の航路』っちゅう特大の金脈。……そして、そこを仕切ってる荒くれ者の海賊ども。そいつらを根こそぎ味方につけたら、対アルビオンのえげつない戦力になると思わへんか?」


「……海賊を、味方に!? 静江さん、相手は法も秩序も通じない、血も涙もない無法者の集団ですよ!?」


 アレンが目を丸くして叫んだ。

 船長たちも「気でも狂ったのか」という顔でうちを見上げとる。


「アホ! 無法者っちゅうのはな、ちゃんとした『オカン』がおらんからグレとるだけや!」


 うちは立ち上がり、南西の海をビシッと指差した。


「腹いっぱい美味い飯食わせて、悪いことしたらお尻叩いて叱ってやれば、立派な身内(家族)になるわ! 束ねるもんがおらんからバラバラに暴れとるんやろ! やったら、うちがその海賊どもの『オカン』になって、全員一つに束ね上げたろやないか!」


===========


 うちはパイプ椅子を畳み、三隻の船団を率いるカイルたちに向き直った。


「……ちゅうわけで。カイル、クレアちゃん! あんたらは、この生存者の船長さんらと一緒に、残り二隻の船でルミナへ帰りなはれ!」


「静江さん、あなたとアレンはどうするつもりですか!?」


「うちらはこの一隻で、南西の『魔の海域』へ特売ダッシュや! カリカの貿易ルートの安全確保も兼ねて、あの海賊どもを全員『うちの身内』にして束ね上げたろと思てんねん!」


 うちの無茶苦茶な提案に、カイルが呆れたようにインテリ眼鏡を押し上げた。


「……相変わらず、無茶苦茶な人だ。ですが、理にはかなっていますね。そもそも、私たちの船には大和郷やカリカで仕入れた莫大な『交易品』が積まれています。これを一刻も早くルミナに持ち帰り、エルゼ様やバネッサに特大の戦果報告と商売の準備をさせる必要がありますから」


「せやろ! 商機は逃したらアカンで!」


「分かりました。ルミナへの報告と、この方々の護衛は私が責任を持って行いましょう。……クロ、私たちはお留守番のようだね」


「にゃーん!」


 カイルが肩をすくめると、クロも彼の足元で「任せとき」とばかりに威勢よく鳴いた。もともとルミナの酒場の看板猫になる予定やったからな、一足先にマーサさんの美味しいご飯にありつけるっちゅうわけや。


「静江さん、アレンさん……どうか、ご無事で……!」


 純白の作業着を着たクレアが、心配そうに祈るように両手を組む。


「心配あらへん! おばちゃんが、海の不良どもを全員きっちり更生させたるからな!」


 うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、南西の空へ向かってバシッと一枚展開した。

 出たのは、『戦車(The Chariot)』の正位置。


「……よっしゃ、カードも『前進あるのみ』って言うとるわ。アレン、行くで!」


「はい! 静江さんのためなら、魔の海域でもどこへでも!」


 ルミナへ向かう二隻の船と別れ、おばちゃんとアレンを乗せた一隻のガレオン船は、無法者の海賊たちが待つ南西の魔の海域へと舵を切った。


 世界最大の覇権国・アルビオン帝国を打ち倒すための、最大の裏工作。


 三十の海賊団がひしめくカリブの海で、おばちゃんとアレンの最強バディによる『海賊諸島編』が、今、荒波とともにド派手に幕を開けようとしとったんや!



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