第152話 魔導ヘドロ・プラントの解体と、オカン流・配管スッキリ大掃除
死のジャングルを強引に突破し、うちらが辿り着いたのは、かつて森の中心であった場所にそびえ立つ、巨大な鉄の要塞『魔導ヘドロ・プラント』やった。
無数の煙突から吐き出されるドス黒い煙が空を覆い、太い鉄のパイプが、まるで巨大な寄生虫の血管のように、周囲の大地に深く突き刺さっとる。
「……なんやこれ。森の真ん中に、こんな不恰好で空気の悪いもん建てて。建築基準法も景観法も、完全にガン無視やな」
うちは特大のサングラスを押し上げ、むせ返るようなヘドロの悪臭に鼻をつまんだ。
「おばちゃん……。お城の中から、森の精霊さんたちがいっぱい泣いてる声が聞こえるよ。……痛いよ、苦しいよって」
リリルが、うちのスカジャンの裾をギュッと握りしめ、悲痛な顔で巨大な鉄扉を見上げる。
「静江さん。入り口は堅く閉ざされていますが、どうしますか?」
アレンが剣を構えながら尋ねてくる。
「どうするも何も、こんな不法建築、正面から堂々とピンポンダッシュ(物理)したらええねん! アレン、開けなはれ!」
「了解しました! 『刹那の観測』……一閃!」
アレンの神速の剣技が、分厚い鉄扉の蝶番を正確に斬り飛ばす。
ガガァァァンッ! と凄まじい音を立てて、プラントの巨大な扉が内側へと倒れ込んだ。
中に踏み込むと、そこはまさに「搾取の地獄」やった。
薄暗い工場内には、巨大な魔力タンクがいくつも並び、そこに繋がれた無数の透明なチューブの中を、ドス黒いヘドロのような液体がドクドクと脈打ちながら循環しとる。
そして、そのタンクの魔力源として、数十人のエルフたちが足枷をつけられ、生きた「魔力バッテリー」として無理やり魔力を吸い上げられとった。
『な、何者だ! 警報を鳴らせ! 侵入者だ!』
赤い軍服を着た帝国軍の兵士たちが慌てふためく中、工場の奥から、冷酷な足音とともに一人の男が現れた。
豪奢な軍服に身を包み、片眼鏡を光らせた、いかにもエリートといった風体の工場長や。
『……ほう。野蛮な獣人どもかと思えば、見慣れぬ派手な女と剣士か。よくぞ我が魔導ヘドロ・プラントの防衛網を抜けてきたものだ』
工場長は、うちらを見下すように冷笑を浮かべた。
「あんたがこのゴミ工場の責任者か。他人の故郷の木を切り倒して、ヘドロ撒き散らして……。随分とタチの悪い商売しとるなぁ」
『タチが悪いだと? 笑わせる。我々神聖アルビオン帝国は、この無駄の多い未開の森を「開発」し、莫大な富を生み出す資源へと変えてやっているのだ。エルフの魔力を吸い上げ、大地を燃料に変える。これぞ究極の「効率化」というものだよ』
男は、まるで素晴らしい芸術品でも語るかのように、醜いパイプ群を誇らしげに両手で示した。
『自然などというものは、我々優秀な人間が利用してこそ価値が出る。マニュアル通りに搾取し尽くせば、この森は帝国に永遠の富をもたらすのだ!』
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「……アホか」
うちは、腹の底から呆れ果てた溜息をついた。
「効率? 開発? 笑わせんといて! あんたのやってることはな、ただの『使い捨て』や! 自然のサイクルを無視して、吸い上げるだけ吸い上げてゴミ(ヘドロ)を垂れ流す。……そんなもん、いずれ自分らの首を絞めるだけの、最悪の『大赤字(借金)』やないか!」
『黙れ、野蛮人! 貴様らに帝国の偉大なシステムが理解できるものか! 衛兵、殺せ! そのエルフの子供は極上のバッテリーになりそうだ、生け捕りにしろ!』
工場長の号令とともに、周囲のパイプからドス黒い『毒のヘドロガス』が噴射され、兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
「静江さん、下がって!」
アレンが風の魔法を纏い、吹き出してくる毒ガスを剣圧で弾き飛ばしながら、兵士たちの懐に飛び込んでいく。
だが、工場長はニヤリと笑って、手元の制御盤のレバーを引いた。
『無駄だ! このプラントのパイプには、森中から吸い上げた無尽蔵の毒が循環している! 貴様らがどれだけ足掻こうが、いずれこの毒ガスに巻かれて窒息する運命だ!』
ゴボゴボゴボッ!
工場内のあちこちのパイプから、真っ黒なヘドロが溢れ出し、うちらの足元を覆い尽くそうと迫ってくる。
さらに、タンクに繋がれたエルフたちが、苦痛に顔を歪めて悲鳴を上げた。彼らの生命力が、プラントの稼働エネルギーとして限界まで吸い上げられようとしとるんや。
「……おばちゃん! おじさんたちが、死んじゃう……!」
リリルが涙目で訴えかけてくる。
「……上等やわ。パイプの中に毒を溜め込んで、ドヤ顔しとるんか」
うちはアイテムボックスから取り出したタロットカードを、一枚バシッと展開した。
出たのは、入り口で占ったのと同じ、『塔(The Tower)』の正位置や。
「ええか、工場長の兄ちゃん。水回りのパイプにドロドロの汚れが詰まった時、おばちゃんがどうやって掃除するか、教えたるわ」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「アレン! 兵士は適当にあしらって、あそこの一番デカいメインパイプの『吸い込み口』を、剣でぶった斬りなはれ!」
「えっ!? 了解しました!」
アレンが神速の踏み込みで兵士を峰打ちで散らし、工場長の後ろにある極太のパイプの継ぎ目を、容赦なく一刀両断にした。
プシューッ! と黒いガスが漏れ出す。
「よし! リリルちゃん、エルフのおっちゃんら! おばちゃんが今から『特製のパイプクリーナー』を投入するから、あんたらの自然魔法で、それを一気にパイプの中に『逆流』させなはれ!」
「う、うん! わかった!」
うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、怪我や毒を中和する黄色の『レモン味(クエン酸)』と、体力を爆発的に回復させる赤の『イチゴ味』の飴ちゃんを、これでもかというほど大量に引っ張り出した。
それをすり鉢で粉々に砕き、水筒の水と混ぜ合わせる。
さらに、王宮のガサ入れで使って余っていた『浄化の粗塩(重曹の代わり)』をドバドバと投入した。
「ほら! おばちゃん特製、レモンと塩の『超強力・発泡パイプクリーナー』や! 詰まった汚れは、酸とアルカリの化学反応で一気に浮かせてぶっ飛ばすんが鉄則やで!!」
うちは、そのドロドロに泡立った特製クリーナーを、アレンが斬り開いたメインパイプの吸い込み口に向かって、バシャァァッ!! と豪快に流し込んだ。
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ジュワアアアアァァァッ!!!
特製クリーナーがパイプの中のドス黒いヘドロに触れた瞬間、凄まじい化学反応(と飴ちゃんの浄化魔力)が起きた。
パイプの中で、純白の泡が爆発的に膨張し始める。
「おじさんたち、今だよ! 綺麗なお水、森に帰れーッ!」
リリルと、魔力タンクに繋がれていたエルフたちが、残された力を振り絞って一斉に自然魔法を詠唱した。
エルフたちの清らかな魔力が、膨張した純白の泡を押し出し、プラント中のパイプを猛烈な勢いで『逆流』していく。
『な、なんだと!? パイプ内の圧力が異常上昇している! 魔力が……浄化されて逆流しているだと!?』
工場長が制御盤を見て、顔面を蒼白にして叫ぶ。
ドゴォォォン! バキバキバキッ!
工場のあちこちで、ドス黒いヘドロが詰まっていたパイプが、純白の泡の圧力に耐えきれずに次々と破裂していく。
破裂した箇所からは、毒ガスではなく、レモンとイチゴの甘酸っぱくて清らかな香りが、マイナスイオンのように工場内に噴き出してきたんや。
『ば、馬鹿な! 帝国の完璧なマニュアルで作られたプラントが、こんな……こんな出鱈目な泡で崩壊するだと!?』
「マニュアルが聞いて呆れるわ! メンテナンスもせんと汚れ溜め込むから、ちょっと発泡させただけでパンクするんやろが!」
うちは制御盤にしがみつく工場長の前までズンズンと歩み寄り、特大トングの先で彼の片眼鏡をカチンと弾いた。
「自然を『搾取するだけの道具』やと思ってるから、こういう特大のしっぺ返しを食らうんや。……あんたらみたいなブラック企業に、この森は一秒たりとも貸したれへんわ! さっさと荷物まとめて、あんたらの冷たい帝国へ帰りなはれ!」
うちのオカン説教と同時に、プラントのメインタンクが「ピキーッ!」と限界の悲鳴を上げた。
「アレン、リリルちゃん! エルフのおっちゃんら連れて、特売ダッシュで外へ逃げるで! この工場、もうおしまい(倒産)や!」
「はいっ!」
うちらは、鎖から解放されたエルフの大人たちを担ぎ上げ、崩壊するプラントから一目散に外へと駆け出した。
直後。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
『塔』のカードが示した通りの、見事な大崩壊。
森を汚染し続けていた巨大な鉄の要塞は、純白の泡とともに大爆発を起こし、跡形もなく崩れ去ったんや。
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「……ふぅ。えらい派手なホコリが舞ったけど、これで大掃除完了やな」
うちは、崩れ落ちたプラントの残骸を見下ろしながら、特大のサングラスを押し上げてニカッと笑った。
工場長をはじめとする帝国軍の残党は、真っ白な泡にまみれて腰を抜かし、完全に戦意を喪失して逃げ出していった。
「……おばちゃん、見て! 森が、喜んでるよ!」
リリルが、嬉しそうに飛び跳ねて空を指差す。
プラントが破壊され、パイプから逆流した「浄化の泡」が大地に染み込んだことで、死の沼と化していたジャングルに、信じられない変化が起きとった。
ドス黒かったヘドロが透き通った清流へと変わり、切り株しか残っていなかった大地から、鮮やかな緑色の新芽が、次々と顔を出し始めたんや。
「……おおぉぉ……。我らの森が……命の息吹が、戻ってきた……!」
解放されたエルフや獣人の大人たちが、蘇りつつある故郷の土に膝をつき、ポロポロと嬉し泣きを流しとる。
アレンも、剣の汚れを拭いながら、その美しい光景に目を細めていた。
「……静江さん。本当に、ただの『配管掃除』で、死の森を蘇らせてしまいましたね」
「せやろ? 詰まりを抜いて、ええもんを循環させる。それが一番の『エコ』やからな」
うちは、アイテムボックスからパイプ椅子を取り出してどっかと座り、蘇る森の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
南の熱帯雨林の解放。
これで、ドワーフの高地に続き、エルフと獣人の故郷も、帝国の不法占拠から完全に取り戻すことができた。
大帝国アルビオンへの反撃は、もはや誰にも止められない特大のドミノ倒しとなって、次の標的へと向けて勢いを増していくんや!
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