第151話 天然のウッドデッキと、神速の復活
神聖アルビオン帝国によって、豊かな熱帯雨林から「死のヘドロ沼」へと作り変えられてしまった、エルフと獣人たちの故郷。
底なしの泥濘に足を取られ、殺人的な湿気と熱気に体力を奪われる中、姿を見せない帝国軍のゲリラ部隊からの『毒矢の雨』が、うちらをジリ貧の窮地へと追い込んどった。
「アレン! あんた、足場さえあれば走れるんやな!」
うちは泥の中に立てたパイプ椅子から勢いよく立ち上がり、飛んでくる毒矢を特大のゴミ拾いトングでバシィッと弾き落としながら叫んだ。
「は、はい! 平らな地面さえあれば、一瞬で敵の懐に潜り込めますが……この底なし沼では!」
アレンが剣を構えたまま、焦燥に顔を歪める。
「ええねん! 道がないなら、作ったらええだけのことや!」
うちは特大のサングラスを押し上げ、周囲を見渡した。
帝国軍の乱開発によって、見上げるような巨木はすべて根本から無惨に切り倒されとる。だが、その巨大な『切り株』たちは、泥の海の中で等間隔に、まるで墓標のように列をなして残されとった。
「……リリルちゃん、エルフのおっちゃんら! あの切り株、まだ生きてるか!?」
うちの問いに、リリルが泥だらけの小さな両手を地面の切り株にそっと当てた。
「……うん。お水が毒になっちゃって、すっごく苦しそうだけど……土の奥の方で、まだ根っこさんが頑張って生きてるよ」
「よっしゃ! ほな、ちょっと『栄養』ぶっ刺したるわ!」
うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、無限に出せる飴ちゃんの中から、怪我や毒を癒す黄色の『レモン味』と、体力を極限まで回復させる赤色の『イチゴ味』を大量に引っ張り出した。
それらをすり鉢に放り込み、ゴリゴリと音を立てて粉々に砕いていく。
そして、水筒の綺麗な水にその粉末をたっぷりと溶かし込み、オカン特製の「超高濃度・植物用活力剤」を完成させた。
「ええか! 庭の植木かて、弱った時は栄養剤を根元にぶっ刺すんが鉄則や! リリルちゃん、エルフのおっちゃんら! 森の精霊に声かけなはれ!」
「わ、わかった!」
うちは、完成したドロドロの飴の活力剤を、近くの巨大な切り株の根元にバシャァァッ! と豪快にぶちまけた。
ジュワァァァッ!
飴ちゃんの強烈な魔力と回復効果が、毒に侵されていた切り株に染み込んでいく。
「おじさんたち、今だよ! 根っこさん、起きてーッ!」
リリルとエルフの大人たちが一斉に自然魔法を詠唱し、大地に魔力を流し込んだ。
その瞬間やった。
ミシミシッ……メキメキメキィッ!!
息を吹き返した巨大な切り株から、大蛇のように太い『木の根』が猛烈な勢いで這い出してきた。
根は泥沼の上を這い、隣の切り株へ。そしてさらにその隣の切り株へと、まるで意思を持っているかのように絡み合い、頑丈に編み込まれていく。
数十秒も経たないうちに、うちらの目の前の泥沼の上に、強靭な木の根で編まれた、幅数メートルにも及ぶ『天然のウッドデッキ(木道)』が、敵の潜む森の奥へと向かって真っ直ぐに形成されたんや!
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『……な、何が起きている!? マニュアルにないぞ! 泥沼の上に、突然「木の道」が形成されていく!?』
シダ植物の陰に隠れて毒矢を射掛けていた赤い軍服の帝国兵たちが、信じられない光景にパニックを起こして声を上げた。
「お待たせしましたね、静江さん!」
木の根が編み込まれた強靭な足場の上。
泥の呪縛から解放されたアレンの最大の武器である『神速』が、ついに100パーセントの力で解放された。
彼は風を纏い、天然のウッドデッキの上を滑るように駆け抜け、毒矢を放っていた帝国兵たちの懐に、瞬きする間もなく潜り込んだ。
『ひぃっ!? 剣士が来たぞ! 抜剣しろ、近接戦闘――』
「『刹那の観測』!」
アレンの瞳が青白く輝く。
敵が腰の剣に手をかけるよりも早く、アレンの長剣の峰が、帝国兵たちの鳩尾や首筋を、次々と正確に叩き抜いていった。
「ぐはっ!」
「あがっ……!」
迷彩色のポンチョを着た帝国兵たちが、次々と白目を剥いて泥の中に倒れ込んでいく。
地の利(泥沼)という「環境」を奪われた途端、マニュアル通りの待ち伏せしかできない彼らは、アレンの圧倒的な個人の武力の前に、ただの案山子と成り下がった。
「よっしゃ! その調子やアレン! ガンガン道を開いていきなはれ!」
うちはパイプ椅子を畳み、獣人やエルフたちを引き連れて、アレンが切り拓いたばかりの木道の上を、泥に足を取られることなく悠々と歩き始めた。
『……ば、馬鹿な! 我々の完璧なジャングル防衛戦術が、あんなふざけた植物の暴走で無効化されただと!?』
ゲリラ部隊の隊長らしき将校が、茂みの奥から這い出し、絶望に顔を歪めて叫んだ。
彼は震える手で拡声魔道具を口に当て、うちらに向かって喚き散らす。
『調子に乗るな、野蛮人ども! 貴様らがどれだけ足掻こうが、この森の奥にある「魔導ヘドロ・プラント」が稼働している限り、この森は永遠に毒の沼だ! 貴様らも、いずれは全員腐り果てる運命なのだ!』
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「……誰が腐り果てるって?」
将校が喚き散らしている背後から、地を這うような低く凄みのある声が響いた。
『ヒッ!?』
将校が振り返ると、いつの間にか彼の背後に、特大のゴミ拾いトングを肩に担いだうちが立っとった。
アレンが道を切り拓いたおかげで、うちも木道の上を歩いて、一瞬で敵のド真ん中までやってこれたんや。
「あんたなぁ。自分らの都合で他人の故郷の木を切り倒して、ヘドロ撒き散らして……。それで『完璧な戦術』やて? ほんまに笑わせるわ」
うちは、将校の胸ぐらをガシッと掴み上げ、特大のサングラス越しにその目を射抜いた。
「自然を舐めたらアカンで。あんたらが撒き散らしたその毒、全部まとめて、おばちゃんが『不法投棄』としてあんたらの胃袋に突っ込み返したるからな。……プラント? 上等やわ! その汚い工場ごと、ピカピカに解体(大掃除)したる!」
『ひ、ひぃぃぃっ……! ば、化け物……!』
将校は恐怖に顔を引きつらせ、腰を抜かして泥の中にへたり込んだ。
彼ら帝国軍が絶対の自信を持っていた「死のジャングル」の地の利は、おばちゃんの特製活力剤とエルフたちの魔法の前に、完全な敗北を喫したんや。
「……静江さん。前方の霧が晴れました。……あれが、この森を汚染している元凶ですね」
アレンが剣の血振りをして鞘に納め、森の最奥を指差した。
そこには、かつて「世界樹」と呼ばれる巨大な大樹があったであろう場所に、無機質でドス黒い煙を吐き出し続ける、巨大な鉄の要塞……『魔導ヘドロ・プラント』が、悍ましい(おぞましい)姿でそびえ立っとった。
周囲の木々は完全に立ち枯れ、プラントから伸びる無数のパイプが、大地の魔力を無理やり吸い上げている。
「……おばちゃん。あのお城から、森の泣き声が、いっぱいいっぱい聞こえるよ……」
リリルが、胸をギュッと押さえながら、悲痛な顔で巨大なプラントを見上げた。
「……大丈夫や、リリルちゃん。あの汚い煙突、今日でおしまい(定休日)や」
うちは、アイテムボックスからタロットカードを取り出し、木の道の上に一枚展開した。
出たのは、『塔(The Tower)』の正位置。
「さてと! アレン、エルフのおっちゃんら! この木道の終点は、あの汚い工場や! 帝国の環境破壊マニュアル、根底からぶっ壊し(大掃除し)に行くで!!」
神速を取り戻したアレンと、怒りに燃えるオカン。
死のジャングルに道を拓いたうちらの、真の元凶へ向けたド派手なカチ込みが、いよいよ始まろうとしとったんや!
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