第149話 地下王国の祝杯と、次なる標的への羅針盤
第149話 地下王国の祝杯と、次なる標的への羅針盤
神聖アルビオン帝国の冷徹な「マニュアル支配」を、ドワーフたちの職人魂の限界突破とオカンのお説教で見事に打ち砕いた、その日の夜。
険しい高地の地下王国『ガルダ』は、かつての活気と熱気を、文字通り「爆発的」に取り戻しとった。
「おうおう! 帝国の連中が勝手に張り付けた、この無機質でダサい鉄板、全部引っぺがせ! 俺たちの美しい石造りの柱が泣いてるぜ!」
「魔導炉の火力も、規定値なんかに縛られるな! 俺たちの勘と魂で、最高の温度に調整するんだ!」
ドワーフの職人たちが、汗と煤にまみれながら、嬉々としてハンマーやピッケルを振るい、帝国軍が要塞化していた入り口や工房を、自分たちの手で本来の姿へと「リフォーム(原状回復)」していく。
カンカン、キィィィン! と、高地の冷たい空気を切り裂いて響き渡る、小気味よい槌音。
それは、ただの鉄の玉を作らされていた時の単調な音やない。彼らが心からモノづくりを楽しむ、誇り高き「命の音」やった。
「……ふふっ。やっぱり、職人のおっちゃんらはこうやないとアカンな」
うちは、工房の中心にある広場に特大の寸胴鍋をいくつも並べ、特大のゴミ拾いトングをお玉代わりにしながら、グツグツと煮え立つ鍋をかき混ぜとった。
高地の夜は、骨の芯まで凍りつくほど寒い。そんな寒さと、長年の強制労働の疲れを吹き飛ばすための、おばちゃん特製「超・具沢山ピリ辛モツ煮込み」や。
大和郷で仕入れた新鮮なモツと根菜を、味噌と唐辛子でじっくりと煮込み、そこに体力を回復させる「イチゴ味」と、精神を安定させる「オレンジ味」の飴ちゃんを隠し味としてドバドバと投入しとる。
「ほら! おっちゃんら、作業の途中でもええから、一旦手ぇ止めて飯にしなはれ! 腹が減ってはええ仕事はできへんで!」
うちが鍋の縁をコンカンと叩いて知らせると、その暴力的なまでに食欲をそそる味噌とニンニクの匂いに釣られて、ドワーフたちが一斉に群がってきた。
「おおぉぉ……! なんだこの、五臓六腑にガツンとくる匂いは!」
「たまんねぇ……! 帝国の配給の、味のしねぇ固焼きパンとは大違いだ!」
アレンとリリルが、大きなお椀にたっぷりのモツ煮込みを注いで、並んだドワーフたちに次々と手渡していく。
彼らがそれを一口すすった瞬間。
「……あ、あぁぁぁ……! 辛ぇ! うめぇ! 凍えきっていた胃袋が、内側からカッカと燃えるように温まっていく……!」
「最高だ! 飴の魔力が溶け込んでいるのか、擦り切れていた筋肉の痛みが、嘘みたいに消えちまうぞ!」
ドワーフたちは、涙と鼻水を流しながら、一心不乱にモツ煮込みを胃袋へと流し込んだ。
その顔には、数時間前までの「死んだような虚ろな目」の面影は微塵もない。生きる喜びと、美味しい飯を食える幸せが、赤々と灯っとったんや。
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「……オカン殿。いや……俺たちにとっては、やっぱり『静江の姉ちゃん』だな。……俺たちガルダの民を、あの冷たいマニュアル地獄から救い出してくれて、本当にありがとうよ」
ドワーフの親方が、空になったお椀を大事そうに両手で持ちながら、うちの前に進み出て、深く、深く頭を下げた。
「俺たちの職人としての誇りは、あの赤い軍服の連中に、完全にへし折られかけていた。……あんたのその『栄養ドリンク』と、何よりあんたの言葉がなけりゃ、俺たちは一生、魂の抜けた生産部品のままだった」
親方の言葉に、周囲のドワーフたちも一斉に深く頷く。
「大げさやな、おっちゃん。うちはただ、あんたらが不貞腐れてる背中を、ちょっとドツいただけやわ」
うちはパイプ椅子にどっかと座り、特大のサングラスを少しだけずらして、ニヤリと笑った。
「せやけど、タダで助けたわけやあらへんで。……おっちゃんら、これからは帝国の下請けでゴミみたいな鉄球作るんはやめて、うちらの『世界商圏プロジェクト』の専属工房にならへんか?」
「せかいしょうけん、プロジェクト……?」
「せや! うちの仲間が仕切ってるグランシェル王国のルミナ商業ギルド、それに東の大和郷。うちらが作った巨大な貿易ネットワークに、あんたらの最高の技術で作った武具や魔導具、便利な生活用品をバンバン輸出するんや! もちろん、儲けはガッツリあんたらに還元する。帝国の搾取とは違う、超ホワイトな直取引やで!」
うちがデコネイルを突き立てて提案すると、親方の目がカッと見開かれた。
「……俺たちの作ったものを、世界中の人間が適正な価格で買ってくれる……? それこそ、俺たち職人が一番望んでいた夢だ! やらせてくれ、姉ちゃん! 俺たちの魂を込めた最高の品を、あんたらの商売の『最強の目玉商品』にしてみせるぜ!」
「「「オオォォォォォッ!!」」」
ドワーフたちの熱い雄叫びが、地下王国に響き渡る。
これで、うちらの世界連合軍は、グランシェル王国の財力と魔法技術、大和郷の圧倒的な武力に加え、ドワーフの「世界最高の生産力(工房)」という最強の手札を手に入れたんや。
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一方、広場の隅では、もう一つの「解放」が静かに行われとった。
帝国軍の魔導炉に繋がれ、「魔力バッテリー」として極限まで命をすり減らされていたエルフたちだ。
彼らはモツ煮込みを食べ、アレンが配った回復の飴ちゃんを舐めることで、ようやく自力で立ち上がれるまでになっていた。
「……よかった。おじさんたち、もうお目目が真っ暗じゃないね。……ちゃんと、お星さまみたいな光が戻ってるよ」
リリルが、うちが手縫いで作ってやったヒョウ柄のポンチョを揺らしながら、エルフの大人たちの手を、小さな両手でぎゅっと握りしめている。
「……小さな王女様。我ら同胞を救うために、このような過酷な場所まで……。何とお礼を申し上げればよいか……」
エルフの男性が、ポロポロと涙を流しながらリリルに跪く。
リリルは首を横に振り、かつての怯えていた顔とは違う、凛とした『王女』としての瞳で彼らを見つめ返した。
「お礼なんていらないよ。……だって、まだ終わってないもん。ドワーフのおじちゃんたちは、自分たちのお家(工房)を取り戻した。……だから次は、わたしたちの番だよ」
彼女は、南の空の方角――ここから遥か遠く離れた、豊かな緑が広がるはずの場所を、真っ直ぐに指差した。
「帝国に焼かれて、奪われたままの……みんなの本当のお家。……南のあったかい森を、絶対に取り戻しに行こうね!」
「……おおぉっ……! 南の、熱帯雨林……我らの、故郷……!」
「王女様について行きます! 森を取り戻し、再び精霊たちと共生する日々を……!」
エルフたち、そして同じく南の森を故郷とする獣人たちも、リリルの力強い宣言に、望郷の念と熱い闘志を燃やし始めた。
五歳の小さな王女は、確かなカリスマを持って、彼らの心を一つに束ね上げとったんや。
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「……立派になったもんや。あのビクビクして木箱に隠れてた子が、今じゃいっちょ前に同胞を導いとる」
うちは、その光景を頼もしそうに眺めながら、アイテムボックスからタロットカードを取り出し、冷たい岩のテーブルにバシッと一枚展開した。
出たのは、『戦車(The Chariot)』の正位置、そして『太陽(The Sun)』の正位置や。
「静江さん、これは……次なる目的地への、力強い前進の暗示ですね」
アレンがモップ槍の汚れを拭いながら、うちの隣からカードを覗き込む。
「せや。勝利を約束された前進、そして南の強い日差し……つまり、エルフや獣人の故郷である『南の熱帯雨林』へ向かえっちゅうことやな。……でも、アレン。油断したらアカンで」
うちはカードの絵柄をなぞり、表情を引き締めた。
「アルビオン帝国の連中、この地下王国を奪い返されたことで、間違いなく本気でうちらを潰しにかかってくる。マニュアルで動く軍隊の次は、もっと卑劣な『環境破壊』や『経済的な搾取』で、森を食い荒らしとるはずや。……南の森は、ここ以上に過酷な『ゴミ屋敷』になっとるかもしれへんで」
「……ええ。ですが、どんな相手でも、僕の剣と静江さんの『占い』があれば、必ず切り拓けます。彼らの故郷を、絶対に奪い返しましょう」
アレンが真っ直ぐな瞳で頷く。
「その意気や! どんなブラック企業でも、おばちゃんが全部労基に……いや、物理的にぶっ壊したるわ! ほな、明日には出発や! リリルちゃん、しっかり寝て体力つけときや!」
ドワーフの高地の地下王国を解放し、世界商圏の生産拠点を手に入れたおばちゃん連合軍。
大帝国アルビオンへの反撃のドミノ倒しは、次なる標的である「エルフと獣人の故郷」――灼熱の熱帯雨林へと向けて、いよいよ力強く動き出そうとしとったんや!
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