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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第10章:奪われた故郷! ドワーフの実家とエルフの森の大掃除

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第148話 マニュアルの死角と、職人魂のオーバーフロー

 ドワーフたちの本来の故郷である、険しい高地の地下王国『ガルダ』。

 かつては壮麗な石造りの門が誇らしげにそびえていたその入り口は、今や神聖アルビオン帝国の赤い軍服を着た将校たちによって、無機質で冷たい鉄板とコンクリートで覆われた「工場」へと作り変えられとった。


 切り立った崖の上から眼下の陣地を見下ろし、うちらは息を潜めていた。

 工場の煙突からは昼夜を問わず黒煙が吐き出され、むせ返るような鉄と油の匂いが風に乗って漂ってくる。

 敷地内では、ドワーフたちが足枷をつけられ、赤く焼けた鉄の塊を単調なリズムで叩かされている。そのすぐ横では、魔力バッテリーとして何十本もの魔導管に繋がれたエルフたちが、虚ろな目で魔力炉にエネルギーを注ぎ込み続けとった。


「……ひどい。おばちゃん、あのおじさんたち、まるで死んでるみたいに動いてるよ……。お目目が、真っ暗だもん」

 リリルが、うちのスカジャンの裾をギュッと握りしめて、震える声で呟いた。

 隣にしゃがみ込んでいるアレンも、剣の柄を握る手にギリッと力を込めとる。

「静江さん。マニュアルの死角を突くと言っても、あの監視の目です。見張りの兵士が数歩間隔で立っている。正面から戦わずに、どうやってこの巨大な地下王国を奪い返すんですか?」


 アレンの問いに、うちは特大のサングラスを少しだけずらし、鼻でフンと笑った。

「ええか、アレン。あいつら帝国の連中はな、人間の心を『数字』でしか見とらんのや。『一時間に百個作れ』っていうマニュアル通りの数字が出てる間は、それが人間の手によるものか、機械によるものかも気にせんと安心しきってるんや」

「数字が出ている間は、安心……?」

「せや。やったら、その数字を限界突破オーバーフローさせて、あいつらの大事なマニュアルを根底からバグらせたったらええねん!」


 うちはニヤリと極悪な笑みを浮かべ、アイテムボックスの奥底からドサドサッと大量の飴ちゃんを取り出した。

 体力を限界まで回復させる赤色の『イチゴ味』と、前向きな集中力と情熱を引き出す黄緑色の『リンゴ味』や。

 うちはそれらをすり鉢に放り込み、ゴリゴリと音を立てて粉々に砕いていく。そして、持参した水筒の冷たい水にその粉末をたっぷりと溶かし込み、オカン特製の「超・栄養ドリンク」を完成させた。


 水筒からは、強烈な果実の甘い香りと、チカチカと輝くような高密度の魔力が立ち上っとる。

「アレン! あんたの神速で、下で働かされてるおっちゃん(ドワーフ)らとエルフの子らに、これ飲ませてきなはれ! 監視の兵士がよそ見をした一瞬の『死角』を突くんや。あんたの目ならできるやろ?」

「……なるほど! 強制的な栄養補給ですね。任せてください、『刹那の観測』なら造作もないことです!」

 アレンが水筒を受け取り、頼もしく頷く。

 彼は身を低くすると、風の魔法を足元に纏い、目にも止まらぬ速さで崖を滑り降りていった。


===========


 工場のド真ん中では、相変わらず無機質な怒号が響き渡っとった。

『……おい! 作業効率が落ちているぞ! マニュアル第12条に従い、規定サイズの「大砲の弾」を、一分間に三十回ハンマーを振り下ろして作れ! 余計なことは考えるな、貴様らは帝国の生産部品だ!』

 赤い軍服の将校が、分厚いマニュアル本を片手に、冷酷な声でドワーフの親方を怒鳴り散らしている。

 親方は顔を煤で真っ黒にしながら、反抗する気力すら奪われた虚ろな目で、ただの「丸い鉄球」を作るためだけに重いハンマーを振り下ろそうとしていた。


 ――その、ハンマーが頂点に達した一瞬の隙。

 将校が次のページをめくるために視線を落とした、わずか数秒の死角。

 そこへ、一陣の銀色の風が吹き抜けた。

 アレンは神速の足捌きで親方の背後に回り込むと、水筒の口を親方の唇に押し当て、特製ドリンクを強引に流し込んだんや。

『なっ……んぐっ!?』

 親方が驚く間もなく、アレンはすでに次のドワーフ、そして魔導管に繋がれたエルフたちの口元へと、次々にドリンクを注ぎ込んでいく。将校が顔を上げた時には、アレンの姿はすでに物陰へと消え去っとった。


『……ん? どうした、手を止めるな! マニュアル違反で鞭を食らいたいのか!』

 将校が苛立たしげに鞭を鳴らす。

 だが、アレンの配った特製ドリンクを喉に流し込んだドワーフたちの様子が、急激におかしくなり始めた。

 イチゴ味の爆発的な体力回復と、リンゴ味の「前向きなエネルギー」。それが、極限まで抑圧され、冷え切っていた彼らの『職人としてのプライド』のど真ん中に、強烈なガソリンをぶち撒けてしもうたんや。


『……あ、あぁ……。なんだ、これは。身体の底から……いや、魂の底から、熱い力が湧いてくる……!』

 ドワーフの親方が、自分のゴツゴツとした両手を見つめ、ワナワナと震え出した。

『……俺は、今まで何を作らされていたんだ。こんな、ただの「丸い無機質な鉄の玉」を作るだけの虚しい作業……。俺たちは、誇り高きガルダの鍛冶職人だぞ! こんな魂の籠もっていないゴミを作らされて、黙っていられるかぁッ!』

 親方が、突然目を血走らせて咆哮を上げた。

『な、なんだ貴様! 勝手に持ち場を離れるな! 精神異常はマニュアル第――』

 将校が慌てて鞭を振るうが、完全に覚醒した親方は、飛んできた鞭を素手でガシッと掴み取り、ニカッと牙を剥き出しにして笑った。

『おい野郎ども! 帝国の連中に、俺たちドワーフの「本気の仕事」を見せてやれ! 魂を込めて、鉄を打てェェッ!』

「「「オオォォォォォッ!!」」」


 カーン! カーン! キィィィンッ!

 地下王国に、かつてないほどリズミカルで、情熱的で、そして芸術的な槌音つちおとが響き渡り始めた。

 マニュアルでは「ただの丸い鉄球」を作るはずやった。

 だが、職人魂が爆発したドワーフたちは、ただの鉄球の表面に、信じられないほどのスピードで『無駄に精巧な龍の鱗の彫刻』を彫り込み始め、あるいは空力抵抗を極限まで計算した『規格外の流線型フォルム』に勝手に作り替え始めたんや。


『ば、馬鹿な! 何をしている! その弾はデカすぎて、我々の大砲の筒に入らないぞ! マニュアル違反だ! 規定サイズに戻せ! 直ちに作業を中止しろ!』

 将校が顔を真っ青にして叫ぶが、ドワーフたちは「うるせえ! 芸術の邪魔をするな! こっちの方が絶対に飛ぶんだよ!」と完全に没頭しとる。

 さらに、魔力バッテリーとして繋がれていたエルフたちも、飴の効果で魔力が爆発的に回復し、自らの意志で魔導炉に規定の十倍以上のエネルギーを流し込み始めた。


『ピィィィィーッ! 警告! 魔導炉、臨界突破! メルトダウンの危険あり!』

 帝国軍の監視機械が、けたたましい赤色のエラー光を放ち、けたたましいサイレンを鳴らし始める。

『ひぃっ!? 魔力が想定値を超えている! ま、マニュアル! マニュアルの第73条、想定外の魔力暴走の場合は……ええと、現場の責任者が本国に指示を仰ぎ、承認印をもらってから冷却装置を……!』

 将校が完全にパニックに陥り、分厚いマニュアル本をパラパラと必死にめくり始めた。

 目の前の機械が火を噴きそうになっている異常事態やというのに、自分で判断して動くことができず、ただ「本国の承認プロセス」を探しとる。

 これが、数字とルールでしか動けないエリート軍隊の、最も致命的で滑稽な弱点やった。


===========


「……おい、そこの赤服の兄ちゃん!」

『ヒッ!?』

 マニュアル本にすがりついて震えていた将校の背後から、特大のゴミ拾いトングを肩に担いだうちが、悠々と歩み寄った。

 うちは、将校が震える手で持っていた分厚いマニュアル本を、トングの先でバシィィン! と容赦なく叩き落とした。


「マ、マニュアルが……! 貴様、何者だ! グランシェル王国の方角から来た野蛮人か! ここは神聖アルビオン帝国の――」

「ただの出張鑑定人や! ……ええか兄ちゃん、よーく聞きなはれ!」

 うちはトングの先を将校の鼻先に突きつけ、腹の底から怒鳴りつけた。

「目の前の機械が火ぃ噴きそうになっとるのに、本読んでる暇があるかいな! マニュアルっちゅうのはな、仕事を円滑にするためのただの『道具』や! それに縛られて現場の火の元を見失ったら、本末転倒もええとこやろが!」

「な、なにを……!」


「あんたらは、人間の心を『数字』で縛れると思っとる。でもな、現場で汗水垂らしてる『職人の情熱』は、マニュアルの枠になんか絶対に収まらへんのや! あんたらの冷たい数字が、この熱い魂のオーバーフローに勝てるわけないやろ!」

 うちのオカン説教が、サイレンの鳴り響く工場にビリビリと轟く。

 将校は腰を抜かし、「衛兵! 衛兵! この狂女を撃ち殺せ!」と叫んだ。

 だが、誰も彼を助けに来ることはなかった。


「……衛兵なんか、もう一人もおらへんよ。あんたらの警備マニュアル、完全にバグって機能停止しとるわ」

 うちが顎でしゃくると、将校の背後の光景が目に入った。

 そこでは、アレンの神速の剣と、情熱を取り戻したドワーフたちが振り回す『芸術的なハンマー』によって、帝国兵たちが次々と峰打ちで叩き伏せられ、泥の中に転がっとったんや。

「俺たちの実家(工房)で、デカい顔してんじゃねえぞ、帝国の犬どもが!」

 親方が、気絶した帝国兵を跨いでニカッと笑う。


「……ひ、ひぃぃぃっ……!」

 将校は完全に戦意を喪失し、叩き落とされたマニュアル本を抱え込むようにして震え上がった。

 うちは、アイテムボックスから折りたたみ式のパイプ椅子を取り出し、ガシャン! と大きな音を立てて広げ、そこにどっかと座って足を組んだ。


「現場の『職人の心』を数字で縛り付けようとするから、こんな特大のしっぺ返しを食らうんや。……あんたらみたいな血の通ってへんブラック地上げ屋に、このおっちゃんらの大事な実家は任せられへん。さっさと荷物まとめて、あんたらの冷たい帝国へ帰りなはれ!」

 冷徹なマニュアル軍隊である神聖アルビオン帝国が、おばちゃんの「栄養ドリンク」と「職人の現場力」の前に、大パニックを起こして完全敗北した瞬間やった。

 ドワーフたちの誇り高き槌音が、奪還された地下王国に、勝利の凱歌のように力強く響き渡っとった。


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