第146話 超特大・合同炊き出しと、小さな王女の宣戦布告
特権商社の残党とイスパナのハイエナ艦隊を完全に海の藻屑にし、カリカを真の「自由貿易港」として実効支配したその日の夜。
港の巨大な広場では、種族も大陸も超えた、歴史上類を見ない規模の『超特大・合同炊き出し(祝勝会)』が開かれとった。
「ガハハハ! 飲め飲めぇ! 西の酒もなかなか美味いではないか!」
「東のサムライは野蛮だと聞いていたが、お前たち、最高に気が合うな! さぁ、俺の焼いた肉も食え!」
大和郷から駆けつけた薩摩の若武者(佐吉や久義たち)と、西の大陸の魔導師や傭兵たちが、言葉の壁を越えて肩を組み、酒樽を囲んで大笑いしとる。
広場の中央では、うちが特大の寸胴鍋をいくつも並べ、アイテムボックスに溜め込んでいた東西の極上食材を惜しげもなく使った「異世界合同・具沢山スープ」を振る舞っとった。
「ほら! 獣人の兄ちゃんらも、遠慮せんとぎょうさん食べなはれ! クレアちゃん、そっちのドワーフのおっちゃんらに、お代わりついであげたって!」
「はい、静江さん! 皆さん、たくさん食べて元気になってくださいね!」
聖女クレアが、純白の作業着を少し汚しながらも、満面の笑みで給仕をして回る。
過酷なカースト制度(種族適性法)から解放された労働者たちの顔には、これまでの絶望が嘘のように、明るい生気が満ち溢れとった。
やけど、宴会が落ち着き、潮風が夜の静寂を運んできた頃。
ふと、温かいスープをすする彼らの口から、ポツリポツリと「望郷の念」が漏れ始めたんや。
「……美味え。本当に美味え飯だ。……だが、この温かいスープを飲むと、思い出しちまうな」
顔を煤で真っ黒にしたドワーフの職人が、空を見上げて呟いた。
「ああ。……カリカの熱砂じゃなくて、俺たちの本来の故郷……北の険しくも涼しい高地の、あの地下王国の空気をな」
「俺もだ。……帝国に森を焼かれ、ここへ連れてこられる前に嗅いだ、故郷の豊かな熱帯雨林の匂いが恋しい……」
獣人やエルフの大人たちも、焚き火の光を見つめながら、静かに涙をこぼした。
そうや。カリカは彼らにとって、無理やり連行されてきた「職場(地獄)」に過ぎへん。
特権商社を潰し、港を解放しただけでは、彼らの本当の傷は癒えへんのや。巨大国家『神聖アルビオン帝国』に奪われたままの、彼らが一番輝ける場所(故郷)を取り戻さない限りは。
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「……みんな」
そのしんみりとした空気を破ったのは、鈴を転がすような、けれど芯の通った澄んだ声やった。
広場の中央、焚き火の前に進み出たのは、うちが手縫いで作ってやったヒョウ柄のポンチョを纏った、五歳のエルフの女の子……リリルや。
かつて、悪い大人に捕まるのを恐れて暗い木箱の奥でガタガタと震えていた彼女はもうおらん。
彼女は、何千人もの大人たちの視線を一身に浴びながらも、一歩も退かずに『エルフの小さな王女』として堂々と顔を上げた。
「……おばちゃんが、このカリカを『誰かが泣く街』から、みんなが笑える街にしてくれた。……でも、みんなの心がまだ少しだけ泣いてるのは、帰る場所が、まだ悪い帝国に奪われたままだからだよね」
リリルの言葉に、ドワーフや獣人たちが静かに頷く。
「……わたしね、おばちゃんに教えてもらったの。泣いてるお友達がいたら、今度はわたしが手を差し伸べる番だって」
リリルは両手でタロットカードの束をギュッと握りしめ、西の果て、神聖アルビオン帝国が支配する植民地領の方角を真っ直ぐに指差した。
「だから……今度は、わたしたちの番! おばちゃんがカリカを解放してくれたように、今度はわたしが、みんなと一緒に、帝国に奪われたみんなの『故郷』を取り戻しに行くよ!」
それは、五歳の少女が巨大な帝国に向けて放った、あまりにも無謀で、けれど誰よりも気高い「宣戦布告」やった。
「おおぉぉ……!」
「小さな王女様が、我らの故郷を……!」
その小さな背中に、ドワーフも、獣人も、そして虐げられていたエルフの同胞たちも、震えるほどの希望を見出し、一斉に歓声を上げた。
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「……立派になったもんや。あんなふうに、自分で『選べる』ようになったんやな」
うちは特大のサングラスを少しだけ押し上げ、目頭が熱くなるのを誤魔化した。
すると、うちの横で、大和郷から来た黒衣の天才軍師・黒戸と、ルミナの天才魔導師・カイルの『東西インテリコンビ』が、同時にニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「……静江さん。王女様の素晴らしい宣戦布告です。我々『世界商圏プロジェクト』としても、これは見過ごせませんね?」
カイルがインテリ眼鏡を光らせる。
「ええ。西の魔導技術と、東の武力。カリカという最高のハブ(店舗)を手に入れた我々の、次なる『出店先』は……あの大帝国アルビオンが不当に搾取している『植民地領』というわけだ」
黒戸も、パチパチと算盤を弾きながら、すでに特大の利益計算を終えとる。
「せやな! ゴミみたいな法律で人を縛り付ける帝国に、本当の『適材適所』っちゅうもんを教えたらなあかんな!」
うちはパイプ椅子の上に立ち上がり、合同炊き出しで盛り上がる「世界連合軍」の全員に向かって、特大のゴミ拾いトングを天高く突き上げた。
「よう聞きなはれ、あんたら! カリカのオープン記念セールはこれで終わりや! 次は、うちらの家族の故郷を奪ったアルビオン帝国に、特大のクレーム叩き込みに行くで! 帝国から、あんたらの故郷を全部まとめて買い戻したる(奪い返す)わ!!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
カリカの夜空に、種族の壁を越えた、世界を揺るがすほどの地鳴りのような歓声が轟き渡った。
理不尽な法律を敷く大帝国アルビオンへの逆襲。
ドミノ倒しのように世界中の植民地を解放していく、おばちゃんと小さな王女のさらなる大掃除が、今、このカリカの港から力強く始まろうとしとったんや!
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