第142話 終わらない特売ラッシュと、オカンの絶品炊き出し
カリカの港を実効支配し、巨大な元請け(国家)へ宣戦布告してから一ヶ月。
海から押し寄せる国家の『無敵艦隊・第2波』による波状攻撃は、昼夜を問わず、狂ったような頻度で繰り返されとった。
「第3防波堤、敵の強襲揚陸艦が接舷! 獣人部隊、特設ワゴン(海上バリケード)の裏から押し返せ!」
「アレン殿! 右翼の防衛線に敵の精鋭部隊が取り付いています! レジ(防衛線)がパンクします!」
「任せてください! 『刹那の観測』、全開……ッ!」
旧総督府に設けた対策本部からギディオンが怒号を飛ばし、アレンが防壁の上を神速で駆け抜け、群がる敵兵を次々と海へ叩き落としていく。
オカン店長(静江)の「特売の動線管理」を軍略に翻訳した防衛網は、見事に機能しとった。入り口を狭くし、敵を縦一列に並ばせて両側から叩く『十字砲火』。
だが、相手は腐っても国家の正規軍。いくら効率よく捌いても、絶望的なまでの「物量の差」が、少しずつ、けれど確実にうちらの防衛線を削り取っていきよるんや。
「……くそっ! 倒しても倒しても、次から次へと新しい船が来やがる!」
「腕が……もう、上がらねぇ……」
防壁の裏で、ドワーフや獣人たちが次々とその場にへたり込み、荒い息を吐いとる。
いくら種族適性法から解放されたとはいえ、彼らはついこの間まで過酷な労働を強いられていた素人や。そこに終わりの見えない防衛戦(連日の超特大タイムセール)が重なり、精神的な摩耗と睡眠不足が限界に達しつつあった。
「……静江殿。東の大和郷、西のルミナからの援軍が到着するまで、早くてもあと数ヶ月はかかります。ですが、このままのペースで消耗戦が続けば、十日も持ちません」
片眼鏡を血と泥で汚したギディオンが、本部の机に手をついて渋い顔をする。彼自身も、連日の不眠不休の指揮で目の下に真っ黒なクマを作っとった。
アレンも、剣を杖代わりにして戻ってきたが、その呼吸は浅く、全身の筋肉が悲鳴を上げとるのが目に見えて分かった。
「……せやな。いくら『イチゴ味』の飴ちゃん配っても、眠気と『いつまで続くか分からん絶望感』までは回復しきれへんわ」
うちは、アイテムボックスから飴ちゃんを取り出そうとした手を止めた。
薬やサプリメント(飴)で無理やり身体を動かしても、心が折れたらそこでおしまいや。大和郷の戦いや供養をする旅の時もそうやった。取鳥城の兵糧攻めと高松城の水攻めで不眠不休のストレスは、どんな屈強な戦士でも一瞬でポンコツにしてしまうんや。
「……しゃあない。アレン、ギディオン! ちょっとの間、防衛は獣人の兄ちゃんらに任せて、あんたらはこっち来なはれ!」
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うちは二人を引き連れて、防壁のすぐ裏にある安全な広場へと向かった。
そこには、疲れ果てて泥のように眠る者や、虚ろな目で宙を見つめる労働者たちがひしめいとった。
うちは広場のド真ん中に、アイテムボックスから『特大の寸胴鍋』と、薪をドサドサッと組み上げた。
「……静江さん? 敵がすぐそこまで来ているのに、何を……」
「腹が減っては、レジ打ちはできん! 疲れた時はな、サプリメントより『温かくて美味いもん』を胃袋にぶち込むんが一番の特効薬や!」
うちは火打石で薪に火をつけ、ボックスの中に溜め込んでいた食材――ルミナの干し肉、大和郷の昆布と味噌、そしてカリカの市場で手に入れた大量の根菜類を、鍋の中に豪快に放り込んでいった。
グツグツと煮え立つ鍋に、大和郷の特産品である「出汁」の香りと、味噌の焼ける暴力的なまでに食欲をそそる匂いが立ち上る。
「仕上げはこれや!」
うちは、すり鉢で粉々に砕いた『メロン味』と『オレンジ味』の飴ちゃんを、特製スパイスとして鍋の中にドバドバと投入した。
飴ちゃんの魔力が溶け込んだ特大の『異世界合同・具沢山豚汁(※豚はないけど干し肉入り)』の完成や!
「ほら! おばちゃん特製の炊き出しや! ボサッとしてんと、お椀持って一列に並びなはれ!」
うちが特大のゴミ拾いトングでお椀を叩いて知らせると、その匂いに釣られて、死んだような顔をしていたドワーフや獣人たちが、フラフラと立ち上がり始めた。
「……なんだこの匂いは……。腹の底が、グゥッと鳴りやがった」
「温かい……汁物……」
うちは、並んだ彼らのお椀に、アツアツの具沢山汁をたっぷりと注いで手渡していった。
彼らがそれを一口すすった瞬間。
「……あ、ああぁ……。五臓六腑に、染み渡る……!」
「うめぇ……! 肉の旨味と、このしょっぱい汁が……疲れた身体を、内側から温めてくれる……!」
飴ちゃんの魔力と、オカンの愛情(出汁)が合わさった究極のソウルフード。
それを胃袋に流し込んだ労働者たちの顔から、ドス黒い疲労と絶望がスゥッと抜け落ち、代わりに「生きるための活気」が赤々と灯り始めたんや。
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「アレン、ギディオン! あんたらも遠慮せんと食べなはれ!」
うちは、二人に山盛りのお椀を押し付けた。
アレンはフーフーと息を吹きかけながら汁をすり、「……っ! 静江さんの料理は、いつ食べても……心がホッとしますね」と、張り詰めていた表情を和らげた。
ギディオンも、尻尾をパタパタと揺らしながら、「……素晴らしい。これほどの士気高揚効果が、一杯の汁物にあるとは……」と、涙ぐみながら根菜を咀嚼しとる。
「せやろ? 人間も獣人もエルフも、腹いっぱい美味いもん食えば、とりあえず『明日も頑張ろか』って気になれるもんや」
うちは、空になった寸胴鍋を叩きながら、広場に集まった全員を見渡した。
「ええか、あんたら! 敵はぎょうさんおるけど、あいつらはただ命令されて無理やりやらされてる『ブラック企業の下請け』や! 対するうちらは、自分らの『店(街)』を守るための戦いや! 気合が違うねん!」
「「「おおぉぉぉッ!!」」」
温かい汁物で満たされた労働者たちが、再び武器を握りしめて雄叫びを上げる。
「東西の家族からの特大の援軍が来るまで、あと数ヶ月! それまで、おばちゃんが毎日、とびきり美味い炊き出しを作ったる! だから、このカリカ(店)は、絶対に潰させへんよ!」
「「「任せておけ、オカン店長!!」」」
士気は完全に回復し、いや、以前よりも強固な連帯感となって防衛軍を包み込んだ。
一方、海上の無敵艦隊の旗艦。
双眼鏡でカリカの防壁を監視していた国家の将軍は、信じられないものを見る目で震えとった。
「……馬鹿な。数日間にわたる波状攻撃で、奴らは疲労困憊のはずだ。なぜ、あれほどまでに活気を取り戻しているのだ……!? あの防壁の裏で、一体何が起きているというのだ!」
彼らには一生分からんやろう。
何万の兵力よりも、オカンが作る一杯の「温かい飯」の方が、人の心を奮い立たせる力があるっちゅうことを。
終わりの見えない籠城戦は、おばちゃんの「絶品炊き出し」という最強のバフを得て、いよいよ泥沼の、けれど決して折れない持久戦へと突入していったんや!
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