第140話 海を越える仕送りと、小さな王女の出陣
特権商社のカリカ支部を完全制圧し、「自由貿易港」としての実効支配を宣言してから数日。
街は、種族適性法から解放された労働者たちの活気に満ちていたが、その裏では、特権商社の本体と西の国家による「第2波、第3波の報復」に備え、昼夜を問わず防衛線の構築が進められとった。
「……静江殿。特権商社の残党が周辺の町へ逃げ込み、不足した労働力を補うために、残されたエルフや獣人たちへの搾取をさらに強めているとの報告が入りました」
旧総督執務室を改装した『オカン・ユニオン本部』で、参謀のギディオンが片眼鏡を光らせながら渋い顔をする。
「せやろな。本店が潰れたら、しわ寄せは全部支店(周辺の町)にいく。……相手が国や商社本体ともなれば、カリカに立て籠もっとるだけじゃジリ貧や。防衛と並行して、周辺の町をこっちから『解放』して回る別働隊が必要やな」
うちはパイプ椅子に座ったまま、卓上のカリカ周辺の海図をトントンと指で叩いた。
「別働隊の編成と、このカリカを守り抜くための戦力。……どちらも、今の我々だけでは数が足りません。いずれ、国家の物量に押し潰されます」
「心配しなはんな。うちらには、東と西に『とびきり優秀な家族』がおるやろ? ……アレン! 森の兄ちゃん! ちょっと来なはれ!」
うちが声をかけると、アレンと森の長兄が執務室に入ってきた。
「アレン。あんたが西の大陸から乗ってきた『ガレオン船』。あれで一回、ルミナに戻りなはれ」
「えっ!? 僕が、ですか?」
「アホ、あんたが帰ったらうちの用心棒がのうなるやろ。あんたの部下に船を任せて、エルゼちゃんやバネッサさん宛に『特大の商談の手紙』と『仕送り』を届けるんや。……森の兄ちゃんも、あんたとこの一番速い船で、大和郷の佐吉や黒戸たちのところへ手紙を届けてほしいんやわ」
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うちはアイテムボックスから、カリカで手に入れた極上のスパイスや、色とりどりの魔力結晶、そして大量の飴ちゃんを木箱に詰め込みながら、ニヤリと笑った。
「手紙の中身は簡単や。『カリカの独占交易権、あんたらに優先して回したる。その代わり、大至急、ありったけの兵力と最新技術を持ってこっちに合流しなはれ』……これだけや。東の『島津グループ』と、西の『ルミナ商業ギルド』への、特大の営業(援軍要請)やで!」
うちの言葉に、アレンが目を輝かせる。
「なるほど……! あの二大勢力にカリカの独占権をエサにすれば、彼らは国を挙げて援軍を送ってくれますね!」
「……しかし静江殿。大和郷への航海は往復で四ヶ月。西の大陸のルミナへは往復で半年はかかります。……それまでの間、我々は単独で国家の猛攻を耐え凌がねばならないのですよ?」
ギディオンが、冷静な計算を口にする。
半年。それは、この小さな労働組合だけで、巨大な国家の正規軍を相手に籠城戦とゲリラ戦を続けなければならないという、絶望的なタイムリミットやった。
だが、うちはガハハと笑い飛ばした。
「上等やないの! 半年後に特大の援軍が来るって分かってるなら、あとはそれまで『店』を死守するだけや! 向こうの国かて、半年間ずっと総攻撃かけ続けられるほど体力(予算)あらへんやろ。……援軍が到着した時が、国家を挟み撃ちにする『大逆転のバーゲンセール』やで!」
「……フッ。分かりました。このギディオン、命に代えても半年間、このカリカを難攻不落の要塞として維持してみせましょう」
ギディオンが深く頭を下げ、森の兄ちゃんとアレンの部下が、それぞれの故郷へ向けての「特大の仕送り(援軍要請)」を積んだ船を出航させていった。
これで、未来の布石は打った。
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「さて。防衛はうちとギディオンたちでやる。……リリルちゃん、こっち来なはれ」
うちは、部屋の隅で、小さな手でタロットカードを握りしめていたリリルを呼び寄せた。
「あんたには、別働隊として『周辺都市の解放軍』のリーダーになってもらうで」
「……えっ。わ、わたしが……? リーダー……?」
リリルがおどおどと目を丸くする。
「せや。おばちゃんが力技で解放して回っても、ただ別の怖い支配者に変わったって思われるだけや。……かつてすべてを奪われ、怯えて隠れとった『エルフの王女』であるあんたが、自分の足で立ち上がり、同じように泣いとる同胞たちに手を差し伸べる。……それが一番、みんなの心に響く『本物の解放』なんやわ」
「……おばちゃん……」
リリルは、うちの言葉にギュッと唇を噛み締め、タロットカードを胸に抱きしめた。
「ガハハハ! 心配すんな、小さな王女様! 俺たち『森一族』の水軍の残りが、あんたの護衛としてどこまでも付いていってやるぜ!」
豪快な笑い声と共に、森の長兄が、大太刀を肩に担いでリリルの背後に立った。
彼らが、リリルの頼もしい『武力』となる。
「……うん。わたし、行くよ」
リリルは、ボロボロと涙をこぼしながらも、しっかりと顔を上げ、力強く頷いた。
「わたし……おばちゃんみたいに強くないし、まだすっごく怖いけど……。でも、お友達がいじめられて泣いてるのは、もっと嫌だもん。……わたしが、みんなを助けに行く!」
「よう言うた! 立派なもんやで!」
うちは、リリルの頭を少しだけ乱暴に、けれど温かく撫でてやった。
大和郷からの最強の海将を従え、エルフの小さな王女が、カリカの港から周辺都市へと出陣していく。
そしてカリカには、国家の『無敵艦隊(第2波)』が、黒い雲を引き連れて迫りつつあった。
東西の家族からの援軍が到着するまでの、半年間。
終わりのないヒリヒリとした防衛戦と、小さな王女の解放戦争という『二方面作戦』が、今ここに熱く幕を開けたんや!
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