第139話 旗艦へのクレーム対応と、自由貿易港の誕生
カリカの港を包み囲むように展開していた、特権商社と西の国家が誇る『無敵艦隊』。
だが、その威容は今や見る影もあらへんかった。
前方の港の入り口は、オカン店長と参謀ギディオンが構築した「特設ワゴン(ジグザグの海上バリケード)」によって完全に大渋滞。そこに両岸からの十字砲火が容赦なく降り注ぐ。
そして後方からは、森一族の水軍と、蜂起した周辺の同胞たちが怒涛のゲリラ奇襲を仕掛け、敵の退路を完全に塞いどった。
「ぎゃあぁぁっ! 前も後ろも塞がれている! 船が身動きとれん!」
「陣形が組めない! このままでは一方的に的になるだけだ!」
数万の正規軍は、狭い海域に押し込められたまま、パニックを起こして同士討ちすら始めよったんや。
「よっしゃ! お客さん(敵)の足並みは完全に崩れたで!」
うちは防壁の上でガハハと笑い、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直した。
「ギディオン! 防衛線の指揮は任せたで! アレン、獣人の兄ちゃんら! うちらは直接『本社(元請け)』の責任者に、特大のクレーム叩き込みに行くで!」
「はい! 敵の旗艦への道は、僕が切り拓きます!」
アレンが剣を抜き放ち、獣人たちが分厚い大盾を掲げて雄叫びを上げる。
「わたしも行く!」と、リリルも背中にピッタリとくっついてきた。
うちらの乗った小舟が、燃え盛る無敵艦隊の隙間を縫うようにして、海峡のド真ん中に孤立している一際巨大な『旗艦』へと猛スピードで接近する。
「敵が来るぞ! 迎撃しろ!」
旗艦の甲板から矢が射掛けられるが、アレンの『刹那の観測』がそのすべてを弾き落とし、獣人たちの馬鹿力が小舟ごと敵の甲板へと乗り上げさせた。
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「どこや、この船の『店長(総大将)』は!」
土煙を上げて旗艦の甲板に降り立ったうちは、トングをガチンと鳴らして怒鳴りつけた。
そこに立っていたのは、全身を白銀の豪華な鎧で包み、何重にも魔法の結界を張った、いかにも高慢ちきな初老の貴族将軍やった。
「……下等種族のゴミどもめ、よくも我が艦隊を……! 私は、西の神聖帝国が誇る正規軍総司令官、バルディアスだ! 貴様らのような野蛮人が、国家に逆らって無事で済むと思っているのか!」
バルディアスが、血走った目でうちらを睨みつける。
だが、その威圧感は、大和郷で死線をくぐり抜けてきたうちらには、そよ風ほども効かへん。
「国家ぁ? あんたらの国が作った『種族適性法』っちゅうふざけたマニュアルのせいで、こっちはえらい迷惑しとんねん!」
うちはズンズンと歩み寄り、アイテムボックスからタロットカードを取り出し、将軍の鼻先にバシッと突きつけた。
出たのは、『審判(Judgement)』の正位置、そして『世界(The World)』の正位置や。
「『審判』は過去の精算。『世界』は新しいサイクルの完成や! ……将軍さん。あんたらの『力で下請けを搾取する時代』は、今日で完全に終わりや。カリカの港は、今この瞬間からうちら『オカン・ユニオン』が実効支配する!」
「ふざけるな! たかが暴動ごときで、国家の威信が……!」
バルディアスが剣を抜こうとした瞬間。
背後から、大太刀を担いだ森の長兄が、豪快な笑い声とともに甲板に飛び乗ってきた。
「ガハハハ! 静江の姉ちゃん、待たせたな! 敵の船団、おかげさんで半分以上無力化したぜ!」
さらに、甲板の周囲を、森一族の軍船と蜂起した同胞たちの小舟がぐるりと包囲する。
完全に逃げ場を失ったバルディアスの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「な、なんだと……。我が無敵艦隊が、こんな寄せ集めに……」
「寄せ集めちゃうわ! それぞれの『得意なこと(適材適所)』を活かした、最強の労働組合や!」
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うちは、パイプ椅子を取り出して甲板のド真ん中にどっかと座り、足を組んだ。
「ええか、将軍さん。あんたの命まで取る気はあらへん。……これを、あんたの国の一番偉い奴に持って帰りなはれ」
うちが差し出したのは、ギディオンが徹夜で書き上げた、分厚い羊皮紙の『要求書(新しい契約書)』や。
「カリカは今日から『自由貿易港』や。種族適性法は完全撤廃。誰でも得意なことで商売ができる。……あんたらの国が、今まで通り東のスパイスや魔力結晶を欲しがるなら、武力で奪うんやのうて、真っ当な『対等のカネ』を払って取引しなはれ!」
「こ、国家に対し、対等な取引を要求するだと……!? そのような屈辱、我が国が飲むはずが……」
「飲まへんのなら、ええよ。……あんたらの国に、東からの物資は永遠に届かんようになるだけや。……今、どっちが『首根っこ』握っとるか、よう考えや?」
うちのサングラス越しの凄みに、バルディアスは完全に言葉を失った。
物流のハブであるカリカを失い、艦隊まで壊滅させられた今、国家にはうちらの条件を飲む以外の選択肢は残されてへんのや。
「……くっ……! わ、分かった……! 軍を引く……。この要求書、必ず本国へ持ち帰ろう……」
膝から崩れ落ちた将軍に、うちはアイテムボックスから、精神を落ち着かせる「オレンジ味」の飴ちゃんを取り出してポイッと投げ渡した。
「ほら、これ舐めて落ち着きなはれ。……血圧上げて怒鳴り散らしてたら、国に帰る前に血管切れるで。おばちゃんからの、出張鑑定(クレーム処理)のサービスや」
バルディアスが震える手で飴を口に含み、撤退の号令をかける。
無敵艦隊の残存艦が、ボロボロになりながら西の海へと逃げ帰っていくのを、うちらは甲板から誇らしく見送った。
「……おばちゃん。……勝ったの?」
リリルが、うちのポンチョの裾を握りしめ、大きな瞳に涙をいっぱいに溜めて見上げてくる。
「せやで、リリルちゃん。もう、誰かが無理やり嫌なことさせられて泣くような街やない。……あんたの言葉が、みんなを繋いだんやで」
うちが彼女の頭を優しく撫でると、カリカの港から、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
ドワーフが、獣人が、エルフが、そして不可触民たちが。
種族の壁を越えて抱き合い、自由の勝利を祝福しとる。
「……お見事です、静江殿。一つの街の労働争議から始まり、ついに国家を相手に『新しい理』を認めさせてしまうとは」
防壁から駆けつけてきたギディオンが、片眼鏡を光らせて感嘆の息を漏らす。
「せやろ? 特大のクレームも、通せば新しい『常識』になるんや。……さぁ、あんたら! 街の大掃除は終わったで! 今日からカリカは、うちらの新しい『お店(拠点)』や!」
おばちゃんの圧倒的な生活感と、小さな王女の共感が成し遂げた、巨大中継港カリカの完全解放。
理不尽なカースト制度を粉砕し、世界を結ぶ新しい自由貿易のハブが、今ここに力強く誕生したんや!
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