第138話 無敵艦隊の大渋滞と、オカン流・レジ打ち防衛戦
カリカの港に、地鳴りのような轟音が響き渡った。
水平線を真っ黒に染め上げて迫り来る、特権商社本体と西の国家が誇る『無敵艦隊』。彼らは港の沖合に展開すると、一切の警告も降伏勧告もなく、容赦ない艦砲射撃を開始したんや。
「ひぃぃっ! 大砲が飛んでくるぞ!」
「落ち着きなはれ! うちらの『防壁』の裏にしゃがんどったら、絶対に当たらへんわ!」
うちは特大のゴミ拾いトングを振り上げ、防壁の上で身をすくめる獣人やドワーフたちに檄を飛ばした。
ドォォォン! と凄まじい音を立てて砲弾が防壁に着弾するが、ドワーフの技術と魔石でガチガチに補強されたカリカの『絶対防衛要塞』は、ビクともせえへん。
「……静江殿。敵の艦砲射撃は威嚇に過ぎません。本命は、陸戦部隊を乗せた『強襲揚陸艦』の突入です! 来ます!」
片眼鏡を光らせたギディオンが、海を指差して叫ぶ。
彼の言う通り、砲撃の煙を掻き分けるようにして、何十隻もの巨大な装甲船が、カリカの港の入り口めがけて猛スピードで突進してきた。
数万の正規兵が、一気に港へなだれ込もうとしとるんや。
普通なら、その圧倒的な質量と数の暴力の前に、港の防衛線など一瞬で蹂躙されてしまう。
……普通なら、な。
「……なんだと!? 港の入り口に、巨大な『障害物』がジグザグに配置されているぞ!」
「真っ直ぐ進めん! 舵を切れ! 減速しろぉぉっ!」
敵の先頭を走っていた装甲船の甲板から、悲鳴のような怒号が上がった。
港の入り口には、うちらが昨日徹夜で組み上げた船の残骸や鉄屑による『特設ワゴン(海上バリケード)』が、嫌らしい角度で設置されとったんや。
急減速を強いられ、ジグザグの狭い水路を無理やり進もうとした敵の先頭船は、完全に速度を殺され、港の入り口でピタリと足止めを食らってしもうた。
「おい、早く進め! 後ろが閊えているぞ!」
「無理だ! 二隻同時に通れる幅がない!」
先頭が詰まったことで、後続の何十隻もの船が次々と数珠繋ぎになり、港の入り口はあっという間に身動きの取れない『大渋滞』を引き起こした。
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「……素晴らしい! 完璧な誘導だ!」
ギディオンが、図面と海上の光景を見比べながら、興奮に尻尾を震わせた。
「敵は数の暴力を活かすために横隊で押し寄せましたが、静江殿の設置したバリケードによって『縦一列』にならざるを得ない! どんなに大軍であろうと、この狭い入り口では、一度に戦える数は『一隻分』に制限されます!」
「せやろ? 特売日のタイムセールで、お客さんをいっぺんに店内に入れたら、レジがパンクして怪我人が出るんや! こうやって『パーテーション(仕切り)』を置いて、一列に並ばせるのが店長のマナーっちゅうもんやで!」
うちはガハハと笑い、パイプ椅子の上から指示を飛ばした。
大軍の突撃を、「特売日の客の誘導」と同じ理屈で捌き切ったんや。
「さぁ、あんたら! お客さんがレジ前で並んで待っとるで! レジ打ち(迎撃)、フル稼働でさばきなはれ!」
「「「おおぉぉぉッ!!」」」
おばちゃんの号令とともに、港の両サイドに配置されていたオカン・ユニオンの労働者たちが、一斉に牙を剥いた。
ドワーフたちが組み上げた巨大な投石機が、岩の雨を降らせて敵船の甲板を破壊する。
獣人たちは、敵が撃ち込んできた大砲の不発弾を拾い上げ、持ち前の馬鹿力でそのまま敵船へ向かって投げ返しよった。
「アレン! レジの回転率、もっと上げなはれ!」
「はい! お任せください!」
アレンが防壁から海面へと飛び降り、沈みかけた敵船の残骸を足場にして、神速の剣技で敵の指揮官たちを次々と叩き伏せていく。
ジグザグの入り口に誘い込まれ、一箇所に集められた敵船の群れは、両サイドからの『十字砲火』を浴びて、ただの巨大なサンドバッグと化しとった。
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「……くそっ! 港に入れない! 一度後退して、陣形を立て直せ!」
無敵艦隊の指揮官が、たまらず撤退の号令をかけた。
だが、彼らが後退しようと船を反転させた、その背後の海域で。
突如として、無数の小さな『火の手』が上がり始めたんや。
「……な、なんだあれは!? 我々の背後に、無数の小舟が……!」
「お、おばちゃん! 見て! お友達がいっぱい来てくれたよ!」
防壁の上で、リリルが目を輝かせて海を指差した。
無敵艦隊の背後、広い海原のあちこちから湧き出すように現れたのは、小さな漁船や、ボロボロの商船の群れやった。
それは、うちがばら撒いた『特売チラシ(解放の報せ)』を見て、周辺の町や森から決死の覚悟で蜂起し、駆けつけてくれた同胞たちや。
そして、その小舟の群れを先導するように、一隻の巨大な軍船が、西の海将の旗を掲げて無敵艦隊の背後へと猛スピードで突っ込んできた。
「ガハハハッ! 待たせたな、静江の姉ちゃん! 大和郷で世話になった『森一族』の水軍、一番槍をもらいにきたぜ!」
甲板で大太刀を振り回し、豪快に笑っているのは、あの森の長兄やった。
大和郷からの長い航海を共にした彼らが、沖合での待機を終え、周辺の蜂起した同胞たちを取りまとめて、完璧なタイミングで「背後からのゲリラ奇襲」を仕掛けてくれたんや。
「……馬鹿な! 背後から奇襲だと!? どこからこれほどの反乱軍が湧いて出たのだ!」
無敵艦隊は、完全に恐慌状態に陥った。
前方は、オカン店長と参謀ギディオンが構築した「絶対防衛の特設ワゴン(キルゾーン)」。
後方は、森一族と解放を求める同胞たちによる「怒りのゲリラ船団」。
海を埋め尽くすほどの数万の正規軍が、前後を完全に挟み撃ちにされ、身動きが取れんようになっとる。
「……静江殿。これほど完璧な包囲網が完成するとは。……あなたの撒いた『チラシ』が、周辺の不満をすべて吸い上げ、このカリカを巨大な罠(すり鉢)へと変えたのですね」
ギディオンが、震える手で片眼鏡を押さえ、畏敬の念を込めてうちを見つめた。
「せやろ? 特売の口コミの力は、大軍の移動より早いんや。……さぁて、無敵艦隊の坊ちゃんら!」
うちは、拡声魔法の魔道具を口元に当て、海峡全体に響き渡る声で怒鳴りつけた。
「あんたら、マナーの悪い横入りのお客さんは、おばちゃんが全部まとめて『返品処理』したるわ! 覚悟しなはれ!」
前門のオカン要塞、後門のゲリラ船団。
世界商圏の命運を懸けたカリカ防衛戦は、おばちゃん流の店舗運営戦術によって、特権商社と国家の軍勢を、絶望的な大渋滞のド真ん中へと叩き落としたんや!
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