第137話 絶対防衛要塞の構築と、オカン店長の店舗設計
巨大中継港カリカを実効支配した『オカン・ユニオン』は、勝利の余韻に浸る間もなく、背後の巨大国家からの報復に備え、街の「大改装」に乗り出しとった。
目指すは、国家の正規軍がどれだけ押し寄せようとも絶対に破られない『絶対防衛要塞』や。
「ドワーフの兄ちゃんら! 港の入り口はガバガバやから、そこに『特設ワゴン(障害物)』をジグザグに並べなはれ! お客さん(敵)がいっぺんに入ってきたら、レジ(防衛線)がパンクするやろ! 歩くルートを一本に絞って、順番に並ばせるんや!」
うちは特大のゴミ拾いトングを指揮棒代わりに振り回し、街の入り口でシャカシャカと走り回りながら指示を飛ばした。
「おう! 任せとけ! 船の残骸と鉄屑で、絶対に真っ直ぐ進めないバリケードを作ってやる!」
「獣人の兄ちゃんらは、倉庫から物資の品出しや! 籠城戦は胃袋の大きさが勝負やで! アレン、あんたは従業員のシフト組みや! 休憩なしのブラック労働は絶対アカンで!」
「はい! 各部隊のローテーション表は作成済みです!」
おばちゃんの口から飛び出すのは、「キルゾーン」や「縦深陣地」といった物騒な軍事用語やない。あくまで、大阪のスーパーマーケットで『特売日の大群(客)をどうやって効率よく捌くか』という、店舗運営のノウハウや。
だが、その横で分厚い羊皮紙に図面を引いていた、片眼鏡のリザードマン・ギディオンが、ハッとして羽ペンを止めた。
「……なんと。障害物をジグザグに配置して敵の侵入ルート(動線)を限定し、一箇所に集めた上で、両側面から弓と魔法を浴びせる……。これは、完璧な『キルゾーン(十字砲火)』の構築理論だ!」
ギディオンは興奮したように太い尻尾を揺らし、うちの指示を精密な軍事戦術に「翻訳」して図面に書き込んでいく。
「レジのパンクを防ぐための誘導……つまり、敵の数の暴力を削ぎ、各個撃破の形に持ち込むというわけですね! 静江殿の『店作り』の感覚は、恐ろしいまでに防衛陣形の理にかなっている……!」
「せやろ? 特売日のオバチャンたちの突進力は、下手な軍隊よりよっぽど怖いで。それを捌ききってこそ、一流の店長なんやわ」
うちはガハハと笑い、労働を終えたドワーフや獣人たちに「イチゴ味(疲労回復)」の飴ちゃんを配って回った。
大雑把な方針とハッタリはうちが担当し、精密な計算と軍事知識はギディオンが担当する。この「オカン店長とエリート参謀」の完璧な分業体制によって、カリカの街は瞬く間に難攻不落の要塞へと作り変えられていったんや。
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その頃。
カリカから海を隔てた周辺の都市や、山深くの森の中。
特権商社の目を逃れ、息を殺して隠れ住んでいたエルフの生き残りたちや、過酷な労働から逃げ出した獣人たちの隠れ家に、次々と「ある物」が舞い込んどった。
森一族の水軍が、夜の闇に紛れて周辺地域にばら撒いた『解放の報せ』――オカン流の特売チラシや。
『カリカの港は、我らオカン・ユニオンが実効支配した!
理不尽な種族適性法は完全撤廃! ドワーフも獣人もエルフも、誰もが自分の「得意なこと」で正当な報酬をもらい、温かいご飯を食べている!
特権商社と国家をぶっ潰すための大バーゲンセール、絶賛開催中! 隠れて泣くのはもう終わりだ! カリカへ集結し、共に誇りを取り戻そう!』
ギディオンの達筆で書かれたそのチラシを読んだ周辺の同胞たちは、最初は「特権商社の罠ではないか」と疑った。
だが、チラシの隅に押された、小さな、けれど見覚えのある『紋章』を見た瞬間、エルフの大人たちの顔色が変わった。
「……こ、これは……。かつて焼き払われた我が森の王族の、命の芽吹きの紋章……!」
「王女様が……リリル様が生きておられる! 我々を導くために、カリカで立ち上がられたのだ!」
絶望の底で隠れ住んでいた彼らの瞳に、かつての誇りと、燃え盛るような闘志の火が灯った。
「武器を取れ! カリカへ向かうぞ!」
「特権商社の支配を終わらせるのだ! 王女様の下へ集えぇッ!」
まるで乾いた草に火が放たれたように。
周辺の町や森で、次々と「虐げられてきた者たち」の武装蜂起が始まった。
彼らは特権商社の末端の拠点を次々と襲撃して物資を奪い、カリカを目指して大移動を開始したんや。
リリルの発案した「お友達を呼ぶ作戦」は、この西の海域全体を巻き込む、巨大な革命のうねり(連鎖的な呼応)となって広がり始めとった。
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「……おばちゃん。ギディオンおじちゃんがね、周辺の町から、お友達がいっぱいカリカに向かってくれてるって教えてくれたよ!」
要塞化が進むカリカの防壁の上。リリルが、うちのポンチョの裾を引っ張りながら、嬉しそうに目を輝かせて報告してくれた。
「せやろ? 特売の口コミの力は、どんな魔法より早く遠くまで届くんやわ。……でもな、リリルちゃん」
うちは、特大のサングラスを少しだけずらし、西の水平線をジッと睨みつけた。
爽やかだった海風が、突如として鉄の匂いと、冷たい殺気を孕んで吹き付けてくる。
「……向こうの『元請け(国家)』も、黙ってうちらのオープンを待っててはくれへんみたいやで」
うちの言葉に、アレンが弾かれたように海を見渡し、息を呑んだ。
「……静江さん! あれを……!」
アレンの指差す先。
はるか西の水平線が、まるで墨をこぼしたように真っ黒に染まっとった。
雲ではない。それは、海面を埋め尽くすほどの異常な数の『軍艦』の群れやった。
カリカの奪還と、オカン・ユニオンの殲滅を掲げて出撃してきた、特権商社本体と西の巨大国家が誇る、正規軍の『無敵艦隊』。
その威容は、かつて大和郷で沈めた関白の船団すらも児戯に思えるほどの、絶望的なスケールやった。
「……静江殿。敵の数は、目算で数百隻。兵力は数万を下りません。……対する我らは、急造の要塞と数千の労働者のみ。圧倒的な戦力差です」
ギディオンが片眼鏡を光らせ、冷や汗を流しながら報告する。
「……来たな。あれが、理不尽な法律を作った元凶たちや」
うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、海風に吹かれながらバシッと一枚展開した。
出たのは、『塔(The Tower)』の正位置、そして『戦車(The Chariot)』の逆位置や。
「強大な暴力の接近と、行きすぎた制圧の暗示。……向こうは話し合いなんかする気ゼロやな。力でうちらをすり潰す気満々やわ」
無敵艦隊が放つ圧倒的なプレッシャーに、カリカの防壁に立つ獣人やドワーフたちも、思わず息を呑んで武器を握り直す。
だが、うちはパイプ椅子を広げてその上に立ち上がり、防壁の上の仲間たちに向かって、腹の底から怒鳴りつけた。
「あんたら! 何ビビっとんねん! 敵はデカいけど、ここはもううちらの『城(店)』や! 品出しもレジの準備も完璧やろが!」
「「「お、おおっ……!」」」
「向こうがどんなデカい船で来ようと、うちらが作ったこのカリカの『絶対防衛要塞』は絶対に破られへん! アレン、ギディオン! お客さんのお出迎え準備や! この街のルールは、今日からうちらが作るんやで!」
国家の無敵艦隊による、圧倒的な海上封鎖と総攻撃。
そして、それに立ち向かうオカン店長と参謀ギディオンの絶対防衛戦。
世界商圏の命運を懸けた、カリカ攻防戦の火蓋が、今、激しい砲撃の音と共に切って落とされたんや!
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