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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第9章:熱砂の巨大中継港! 理不尽な法律とオカン・ユニオンの逆襲

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第129話 退路なき聖なるドブ川と、仕送りのスパイスカレー

 港でふんぞり返っていた特権商社の役人を、特大のゴミ拾いトングでフルスイングしてぶっ飛ばしたうちらは、追手の獣人傭兵たちを撒くため、迷路のようなカリカの裏路地を走っとった。


「おばちゃん、こっち! わたしが昔、隠れてた場所があるの!」


 リリルが、うちのポンチョの裾を引っ張り、スルスルと暗がりを進んでいく。

 かつて「極上の魔力バッテリー」として狙われ、必死に生き延びていた彼女の土地勘は、アレンの神速よりも頼りになった。


 やがて、うちらは街の地下深く……光の届かない、巨大な地下水路と繋がった『スラム街』へと辿り着いた。

 そこは、特権商社の指定する『種族適性法』の枠組みからすら弾き出された、混血児や魔族の血を引く「不可触民」、そして逃亡した第4階級の「エルフの子供」たちが、身を寄せ合って生きるどん底の場所やった。

 安全な物陰に隠れ、アレンが壁に背中を預けて荒い息を吐いた。


「……追手は撒けたようです。ですが、静江さん。森一族の船を逃がしたことで、僕たちはこの街で完全に孤立しました。今頃、港は特権商社の武装商船団で封鎖されているはずです」


「せやな。海に出るための『足(船)』はもうあらへん。退路は完全に断たれたわ」


 うちは、ヒョウ柄のポンチョの埃を払いながら、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。


「アレン、薩摩におった時もそうやったやろ。逃げ道がないなら、前向いて道作らんかい! うちらが海に出るための新しい船を手に入れるか、森の兄ちゃんらを呼び戻せる安全な港にするために……このカースト制度のド真ん中から、街のルールごと全部ひっくり返したるんや!」


「……ええ。あなたならそう言うと思っていました。僕の剣は、その大掃除のために振るいます」


 アレンも腹を括ったように、西の大陸の長剣を力強く握り直した。


 ……やけど、気合いを入れ直した直後。

 スラムの奥へと足を踏み入れた瞬間、うちは思わず鼻をつまんで顔をしかめた。


「……うっわ。なんやこれ、えげつない臭いやな……!」


 スラムの中心には、カリカの街を貫く巨大な大河……『ガンザ大河』の支流が流れ込んどった。

 カリカに向かう途中の町で、水夫たちからガンザ大河は「神々が宿る聖なる川」であり、第1階級の人間たちは毎日その水で身を清めているという噂を聞いとった。

 だが、目の前を流れているその水は、神聖さとは程遠い、ドロドロに濁った茶黒い「ヘドロの川」やった。

 上流に住む特権階級の人間たちが、自分たちの生活排水や、工場の魔力廃液、さらには行き倒れた奴隷の死体までも「聖なる川がすべてを浄化してくれる」という都合のええ建前で、全部下流に垂れ流しとったんや。


===========


「静江さん、鼻が曲がりそうです……。これが、あの美しいカリカの街の真の姿ですか」


 アレンがマントで口元を覆い、絶句する。


「……リリル!? リリルなの!?」


 その時、暗がりから、ボロボロの布を被ったエルフの子供たちが数人、おずおずと姿を現した。リリルのかつての仲間たちや。


「みんな! わたしだよ! 大和郷から帰ってきたの!」


「よかった、生きてたんだね……! でも、どうして戻って……ゴホッ、ゲホォッ!」


 子供たちの一人が、激しく咳き込んでその場にうずくまった。

 彼らの肌は病的に青白く、手足は枯れ枝のように細い。

 しかも、おかしなことに、ここには「大人のエルフ」の姿が一人もあらへん。五、六歳の幼い子供たちばかりが身を寄せ合っとるんや。

 見れば、スラムの不可触民の大人たちが、そのドロドロの「聖なる川」の水を、粗末な布で必死に濾過して、子供たちへの飲み水として使おうとしとるやないか。


「ちょっと待ちなはれ! そんな水、飲んだらアカン!」


 うちは慌てて駆け寄り、汚れた水をすくおうとしていた大人の手から、木の椀をひったくった。


「な、何をする! 我らは不可触民。上の綺麗な井戸を使うことは法律で禁じられている。この『聖なる水』を飲むしか、生きる術はないのだ!」


「どこが聖なる水やねん! ただの特大のドブ川やないか!」


 うちは、濁った川面に向かって、腹の底から怒鳴りつけた。


「上流の連中、自分の出したゴミを下流に押し付けて、何が第1階級や! 『神様が浄化してくれる』やて? アホか! 神様はゴミ処理業者ちゃうわ! 人間が散らかしたもんは、人間が片付けなアカンに決まっとるやろ!」


 うちの怒声に、スラムの住人たちがビクッと肩を震わせる。


「……でも、我々にはどうすることも……。特権商社に逆らえば、殺されます……」


「逆らわんくても、こんなヘドロの水飲んでたら病気で死ぬわ! アレン! うちらの飲み水の備蓄、全部出しなはれ! カイルが作ってくれた浄化の魔道具もフル稼働や!」


「はいッ!」


 うちはアイテムボックスから、大和郷で買い溜めておいた大量の根菜や豚肉、そして特大の寸胴鍋を取り出した。


「ええか、あんたら! 絶望する前に、まずは腹に温かいもん入れなはれ! 身体が冷えたら、心までカビるで!」


 うちは持っていた「特製スパイス」――前世の大阪でカレーを作る時にこだわっていたブレンドを思い出しながら、大和郷の堺で仕入れていた香辛料と、第127話でエルゼからの仕送りに入っとった『西の大陸の高級ハーブ』を、鍋にドバドバと放り込んだ。


 大和郷の出汁と、西のハーブが融合した、オカン特製の『超絶スタミナ・スパイスカレー(豚汁風)』や。


 そこに、傷を癒す黄色の「レモン味」と、栄養満点の緑色の「メロン味」の飴ちゃんをすり潰して、隠し味として鍋に溶かし込む。

 ドロドロの悪臭が漂っていたスラムに、暴力的なまでに食欲をそそる、スパイシーで温かいカレーの匂いが一気に立ち込めた。


===========


「ほら、並びなはれ! 順番やで! リリルちゃんのお友達には、特別にお肉多めにしたるわ!」


 うちは、持っていたお椀に熱々のカレーをよそい、スラムの住人たちに次々と配っていった。


「……な、なんだこの食べ物は。口の中が燃えるように熱いのに……涙が出るほど美味しい……!」


「ゴホッ……あれ? 咳が止まった……。お腹の底から、力が湧いてくる……!」


 飴ちゃんの魔力と、スパイスの発汗作用。

 それが、ドブ川の瘴気で冷え切っていた彼らの内臓を叩き起こし、劇的な回復力をもたらしたんや。


 エルフの子供たちも、夢中になってカレーを頬張り、さっきまでの死相が嘘のように、頬を赤く染めて笑顔を見せとる。

「おばちゃん、すっごく美味しい! わたしのお友達も、みんな元気になったよ!」


 リリルが、誇らしげにうちのポンチョの裾を引っ張る。


「せやろ。腹が膨れたら、次にやることは一つや」


 うちは、空になった寸胴鍋をアイテムボックスにしまい、悪臭を放ち続けるガンザ大河の支流を、デコネイルの光る指でビシッと指差した。


「あんたら、このまま一生、上流のエリートどもが垂れ流したウンコ水すすって生きるつもりか?」


 うちの挑発的な問いに、カレーを食べて活力を取り戻したスラムの大人たちが、ギリッと唇を噛み締めた。


「……そんなわけがない! だが、我々には力が……!」


「力なんかいらん。必要なのは『怒り』と『連帯』や」


 うちは、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。


「特権商社は、あんたら下層の労働力を奴隷やと思ってタダ働きさせとる。やったら、その労働力を『全部ストップ』させたらどないなる? うちらは今、退路を断たれて逃げ場があらへん。だからこそ、ここで港の荷下ろしも、船の修理も、この大河の清掃も。……全部一斉にボイコット(ストライキ)して、この街の機能を内側から完全に麻痺させたるんや!」


 スラムの住人たちが、息を呑む。


「そのためには、まずこの特大の『ドブ川』を掃除して、うちらの『本陣』を綺麗にするで! 悪臭を放つ過去の常識ごと、おばちゃんが全部漂白ブリーチしたるわ!」


 聖なる川という名のゴミ捨て場。

 退路を断たれた地下深くで、オカンのスパイスカレーを起爆剤にした、特権商社をぶっ潰すための『超特大・労働組合ストライキ』の火種が、今、赤々と燃え上がり始めたんや!


読んでくれてありがとうございます!


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