第128話 熱砂の巨大港と、適材適所を知らん『種族適性法』
大和郷の平定を終えたうちらは、西の大陸との間を結ぶ「世界商圏プロジェクト」の足場を作るため、未知なる海のど真ん中……巨大中継港『カリカ』へと辿り着いた。
数週間の航海を経て、船の甲板から見えてきたその街は、うちの想像を遥かに超えるカオスな場所やった。
肌を刺すような熱気。そして、むせ返るような強烈なスパイスの匂い。
極彩色の布が街中にはためき、港には巨大な象の魔獣が重い荷物を引きずって歩いとる。
「……うわぁ、凄い熱気ですね! 目が回りそうだ!」
アレンが眩しそうに目を細める横で、うちはテンション爆上がりやった。
「おおぉぉっ! 大阪の黒門市場の年末セールを百倍カオスにしたみたいや! ええなぁ、このドギツイ原色の色彩感覚、ヒョウ柄が完全に風景に溶け込むわ!」
うちは大きく深呼吸をして、異国の活気を胸いっぱいに吸い込んだ。
……やけど。
うちの足元で、五歳のエルフの弟子、リリルだけがガタガタと震え、うちのポンチョの中にすっぽりと隠れ込もうとしとった。
「……お、おばちゃん……。怖いよぉ……。ここ、嫌だ……」
「リリルちゃん? どないしたんや、お腹痛いんか?」
リリルの様子が、明らかに普通やない。
彼女はかつて「悪い大人に捕まりそうになって密航した」と言うてたけど……その「悪い大人」がおったんが、このカリカやったんか。
船が港の桟橋に接岸し、うちらが陸へ降り立った、その時やった。
「――そこな異国船! 勝手に荷を下ろすな! ここは『西方・特権商社』の管理下にある!」
偉そうな怒声と共に、派手なターバンに宝石をジャラジャラとつけた、恰幅のええ人間の役人が、護衛の兵士たちを引き連れてズカズカと歩み寄ってきた。
護衛をしているのは、筋骨隆々のライオンやトラの獣人たちや。
彼らは、港で働く他の種族たちを、ムチで叩いて道を空けさせながら進んでくる。
===========
うちは、その役人が近づいてくるまでの間に、港の「異様な労働風景」をじっと観察しとった。
活気があるように見えたけど、よく見ると完全に狂っとる。
手先が器用で本来は職人に向いているはずの『ドワーフ』たちが、熱砂の中で限界まで重い荷物を運ばされ、過労でバタバタと倒れとる。
逆に、圧倒的な腕力を持つはずの『獣人』たちが、役人の横で小さく丸まって、不器用な太い指で必死に「入港の帳簿(細かい事務作業)」を書かされて、役人に「字が汚い!」と蹴り飛ばされとるんや。
(……なんやこの街。誰一人として、自分の『得意なこと』をやらせてもらえてへんやないか)
おばちゃんの「生活の知恵」が、この街に蔓延る『特大の非効率』に対して、静かに、けれど確実に怒りのアラートを鳴らし始めた。
「貴様らが船長か? 見ない顔だな。この港を使うには、我が特権商社に法外な……いや、適正な『入港税』を払う義務がある。積荷の価値の八割を、今すぐここに置いていけ!」
人間の役人が、ふんぞり返ってヤクザな要求を突きつけてきた。
「……八割やて? アホか! どんだけえげつないショバ代取んねん!」
うちが前に出ると、役人はうちのヒョウ柄の格好を見て、鼻で笑った。
「なんだその下賤な服は! 貴様、人間であっても我ら特権商社の『身分証』を持たぬよそ者だな! 我々『第1階級』の言葉に逆らうとは、カリカの『種族適性法』を知らぬ田舎者め。払えぬというなら、その船ごと没収――ん?」
役人の言葉が、途切れた。
彼の濁った瞳が、うちの背後に隠れていたリリルの「金色の髪」と「尖った耳」を捉えたんや。
その瞬間、役人の顔に、下卑た歓喜の色が浮かんだ。
「……おいおい、嘘だろう。そのエルフのガキ……数年前に、我らの手から逃げ出した『極上の魔力バッテリー』じゃないか!」
「……っ! ひぃぃっ……!」
リリルが悲鳴を上げ、ポンチョを強く握りしめる。
===========
「バッテリーやて……?」
うちの声が、地を這うように低くなった。
「そうだ! そいつは、かつて我々が焼き払った森の『王族』の生き残りだ! あの小娘の魔力があれば、商社の巨大魔導船を一年はタダで動かせるんだよ! 探す手間が省けたわ、大人しくこっちへ渡せ!」
役人が、汚らわしい手をリリルへ向かって伸ばしてきた。
――バシィィィィンッ!!!
乾いた、凄まじい破裂音が港に響き渡った。
「ぎゃああっ!? い、痛ぇぇッ!」
役人が手を抱えてのたうち回る。
うちは、アイテムボックスから取り出した『特大のゴミ拾いトング』をフルスイングして、その薄汚い手を全力で弾き飛ばしたんや。
「……静江さん!」
アレンが即座に抜剣し、獣人の傭兵たちを威圧する。
「き、貴様……! 第1階級である私に、暴力を……ッ! 獣人ども、殺せ! その女を殺せ!」
役人が喚き散らすが、うちは特大トングを肩に担ぎ、ギラギラのデコネイルで役人の鼻先をビシッと指差した。
「やかましいわ! うちの可愛い一番弟子に、気安く触んな! だいたいなんやねん、王族のエルフを捕まえて『電池』代わりにするやて!?」
腹の底から湧き上がる、オカンの激怒。
うちは、港全体に響き渡るような大声で、この街の根幹そのものに特大のツッコミを叩き込んだ。
「あんたら、さっきから見てたら、ほんまにイライラするわ! 種族適性法やて? どこが適性やねん! 手先の器用なドワーフに重労働させて、字の書けん獣人に帳簿つけさせて、自然を愛するエルフを電池にする! アホか! 『適材適所』っちゅう言葉を知らんのか!」
===========
「て、適材適所……?」
役人だけでなく、ムチを持っていた獣人たちや、倒れていたドワーフたちも、うちの言葉にポカンと口を開けた。
「せや! 掃除かて料理かて、道具を正しく使わな綺麗にならんのと同じや! 種族の身分やなんていう下らんモンで縛り付けて、誰も得意なことさせてもらえてへんから、この街はこんなに淀んでカビ臭いんやわ!」
うちは、腰に手を当てて、役人を見下ろした。
「それに、第1階級の人間やからって偉そうにしてるあんたもや! さっきから見てたら、あんた計算間違えまくって、獣人に八つ当たりして誤魔化してるだけやないか! 本当は細かい計算なんか苦手なんやろ! あんたみたいな見栄っ張りが、第1階級やからって無理して支配者ぶってるから、誰も幸せになれへんのや!」
役人の顔が、図星を突かれて真っ赤に染まった。
「エルフはな、森で木々を育てるんが一番輝くんや! うちのリリルちゃんを電池扱いするようなブラック企業、おばちゃんが絶対に許さへんで!」
「……お、おばちゃん……」
背中で震えていたリリルの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。
「ほ、ほざけ! 階級はこの街の絶対の法律だ! 武装商船団を呼べ! こいつらを港から逃がすな!」
役人が喚き散らし、港の奥から特権商社の完全武装した兵士たちがわらわらと押し寄せてくるのが見えた。
真正面からやり合えば、いくらアレンの剣があっても多勢に無勢や。
うちは背後の海に浮かぶ船に向かって、大声で叫んだ。
「森の兄ちゃんら! 大和郷の積荷はうちがアイテムボックスに全部突っ込んであるわ! あんたらは商社の船に囲まれる前に、すぐに出航して沖合で待機しとき!」
「応ッ! 了解した! 姉ちゃんたちも無事でな!」
森一族の水夫たちが、神業のような操船技術でいかりを上げ、特権商社の手が届く前に、猛スピードで港から離脱していく。
「よし! これで船は安全や!」
うちはタロットカードをバシッと一枚展開した。
出たのは、『塔』の正位置。
「……上等やわ。ボッタクリのショバ代も払わへんし、あんたらのその『腐った適性法』も、おばちゃんが根本から解体(ぶっ壊)したるわ! アレン、リリルちゃん! 一旦、街の奥へ特売ダッシュ(撤退)や!」
「はい! 静江さんの……いえ、リリルのためなら、いくらでも!」
欲望とペテン、そして理不尽な身分制度が支配する巨大中継港『カリカ』。
エルフの王女であるリリルと同胞たちを救うための、おばちゃん流の「適材適所」を取り戻す大掃除が、今、熱砂の港でド派手に幕を開けたんや!
読んでくれてありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、
作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!
みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。
引き続きよろしくお願いします!




