第126話 阪大城の霊道と、オカン流・超特大還元セール
本城での合同慰労会を終えたうちらは、大和郷最大の商業都市であり、この国の経済の心臓部でもある『阪大』へと辿り着いた。
水路が張り巡らされ、商人の活気に満ちたその街並みは、うちの前世の故郷である「大阪」の空気を、どこよりも色濃く残しとった。
……やけど、街の中心にそびえ立つはずのシンボル、『阪大城』だけが、無惨に半壊し、どんよりとした瘴気に包まれとったんや。
「……おばちゃん。あのお城、すっごく泣いてるよ。それに、色んなものが渦巻いてて……お空に真っ黒な道ができてる」
リリルが、うちのポンチョの裾を握りしめ、怯えたように空を指差す。
宿屋の女将に話を聞くと、街の人々は皆、あの城を恐れて近づかんようになっとった。
「……旅のお方、あのお城には近づかん方がええですよ。あそこは今や『霊の通り道(霊道)』になっちまってるんです。……数ヶ月前、西の森一族と四国の軍勢が、関白様の軍事設備を狙って『特売の詰め放題じゃあ!』と狂ったように攻め込んできましてね。奴ら、勢い余って城の蔵から設備まで根こそぎ奪い去り、城を半壊させていったんです。……その時に蔵を守ろうとして犠牲になった関白の兵や、すべてを奪われた城の無念が、霊道と結びついて巨大な怪異になっちまったんでさぁ」
「あ……」
その言葉を聞いて、うちは思わず天を仰いだ。アレンも「ああっ……」と頭を抱えとる。
せや。あの内海での戦いの時、うちが「関白の蔵だけが詰め放題の会場や!」と許可を出したせいで、完全にタガが外れた森一族や四国勢が、この阪大城の軍事設備まで「特売ダッシュ」で略奪してしもうたんや。
「……完全に、僕たちの身内がやらかした『略奪のツケ』ですね、静江さん……」
「……そ、そうやな。身内の不始末は、社長がケツ拭かなあかん。しゃあない、大和郷の『大掃除の総仕上げ』や。……今日の夜、うちが自腹切って、あいつらの無念を精算したるわ」
その日の深夜。
瓦礫の散乱する阪大城の本丸跡に、うちはパイプ椅子を広げてどっかと座っとった。アレンがモップ槍を構え、リリルとクロはうちの背中に隠れとる。
やがて、冷たい風が吹き抜け、半壊した城のあちこちから、青白い燐光がボコボコと湧き出してきた。
それは空に向かって巨大な渦(霊道)を作り出し、ドロドロとした怨念の気配が、うちらを押し潰さんと迫ってくる。
「……アレン、リリルちゃん。ちょっと視せてもらうで」
うちはアイテムボックスから特大の水晶玉を取り出し、両手でそっと触れた。
視界がカチッと切り替わり、肉眼では見えん彼らの姿が鮮明に浮かび上がり、声が直接耳に流れ込んでくる。
『……返せ……。我らの城を……我らの備蓄を……』
『……根こそぎ奪い去りおって……。野盗め……理不尽な……』
水晶越しに視えたのは、無惨に半壊した阪大城そのものの悲鳴と、蔵を守ろうとして無残に蹂躙された関白兵たちの、奪われたことへの「底なしの喪失感」と「怒り」の集合体やった。
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水晶を通じて、彼らの『すべてを理不尽に奪われた絶望』が、うちの精神に直接流れ込んでくる。
途端に、激しい精神的疲労が押し寄せ、視界の端にザザッとノイズが走った。
一瞬だけ、前世の大阪の記憶がフラッシュバックする。
空き巣に入られて、大切にしていた亭主の形見の時計や、へそくりを根こそぎ持っていかれた時の、あの「怒り」と、どうしようもない「胸の穴が空いたような虚無感」。それに、幼い頃に見た、活気ある大阪の商店街の原風景が、悲しい色に染まって重なって見えたわ。
(……あー、わかるで。大事なもんを理不尽に奪われたら、そら誰だって化けて出たくなるわな……)
うちは、彼らの喪失感に引っ張られそうになる意識を、アイテムボックスから取り出した「ハチミツ味」の飴ちゃんを奥歯でガリッと噛み砕くことで、無理やり現在に引き戻した。
濃厚な甘さが脳を叩き起こし、幻覚のノイズを散らす。
「静江さん、奴ら、奪われた恨みで巨大な怨念の渦となって襲いかかってきます!」
アレンが身構えるが、うちは水晶玉から手を離し、パイプ椅子から勢いよく立ち上がった。
「アレン! 武器は下ろしなはれ! うちらの身内が泥棒したんやから、被害者に刃物向けるなんて絶対アカン!」
「で、でも、このままでは……!」
「奪われた恨みはな、謝罪と『それ以上の見返り』で返すんが、商人の街・阪大のルールや! アレン! 出番や!」
うちはアイテムボックスの奥深くに腕を突っ込み、これまでの大和郷の旅で、関白の蔵やタヌキ親父から巻き上げた(賠償金として回収した)莫大な量の金銀財宝、反物等の品々を、ドサドサッと瓦礫の広場に放り出した。
「アレン! あんたの神速で、この宝の山を、広場いっぱいに『見やすく、綺麗に』並べなはれ!」
「えっ!? こんな大量の財宝を、並べるんですか!?」
「せや! これからここで、『超特大・阪大城復興の大還元バーゲンセール』を開催するんや! はよ行きなはれ!」
「わ、わかりました! はあああッ!」
アレンが目にも止まらぬ『刹那の観測』の神速で、山のような財宝をあっという間に、まるで高級百貨店の陳列のように美しく並べていく。
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「よし! 準備完了や!」
うちは、すり鉢で粉々に砕いておいた、黄色の「レモン味」と、赤色の「リンゴ味」の飴ちゃんの粉末を、美しく並べられた財宝の山に向かって、バサァァッ! と豪快に撒き散らした。
「ほら! 阪大城の亡霊さんら! うちらの身内がえらい迷惑かけて、ほんまに堪忍な!」
うちは拡声魔道具を口に当て、怨念の渦に向かって腹の底から叫んだ。
「奪われたもんは、なかなか元には戻らん! せやけど、ここに並んどるんは、あんたらが失ったもんの十倍以上の価値がある特大の『還元ボーナス』や! 好きなもん、なんでも持って帰りなはれ! 怨念なんか捨てて、パーッと景気よう笑って許したってや!!」
おばちゃんの「全財産大放出」の宣言と、キラキラと輝く財宝の山。
そして何より、リンゴ味の飴が放つ「前向きなエネルギー」に当てられ、巨大な怨念の渦がピタリと動きを止めた。
『……お、おお……。奪われた備蓄より、はるかに多い……』
『……なんという輝きだ。これなら、城も……我らの無念も……』
奪われたことへの執着が、目の前に積まれた「特大の還元(誠意)」によって、強引に「満足感」へと上書きされていく。
亡霊たちは、まるで特売日のワゴンに群がるお客さんのように、嬉しそうに金銀財宝や反物を手に取り始めた。
レモン飴の修復の魔力が、彼らの傷ついた魂と、半壊していた城の瓦礫を、見えない光で優しく包み込んでいく。
『……ありがとう、異国の姉ちゃん。……あんたのその誠意、確かに受け取った。これで我らも……この城も、前を向ける』
亡霊たちは、財宝を抱えたまま深く頭を下げ、満足げな笑顔で次々とキラキラとした光の粒になって、霊道を通って天へと昇っていった。
「……消えましたね。城の怨念も、すべて浄化されました」
アレンが汗を拭いながら、ホッと息をつく。
「にゃーん」
クロが、足元ですりすりと甘えてくる。
「せや。奪われた悲しみには、それ以上のモンをドンと還元して『得した』って思わせるんが、一番の特効薬やからな」
うちは空っぽになった広場を見渡し、大きく伸びをした。
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夜明けの光が、阪大の街を照らし始める。
浄化され、清々しい空気に包まれた阪大城と街並みが、朝日に輝く。
その瞬間、うちの目に、活気あふれる商人たちの声と、昔よく歩いた「前世の大阪の商店街」の幻影が、今の阪大の街並みと一瞬だけ重なって見えたわ。
「……ああ。ええ街になったな」
うちは目を細め、故郷によく似たこの街に、心からの笑顔を向けた。
その時やった。
「静江殿ォーッ!」
浄化されたばかりの広場に、息を切らして駆け込んでくる荒くれ者たちがおった。
西の海を牛耳る水軍の頭領、森一族の長兄やないか。
「なんや、森の兄ちゃん。朝からえらい騒々しいな。もしかして、うちらが尻拭いしたんを聞きつけて、謝りに来たんか?」
「い、いや! もちろんそれもあるが、今日は急ぎの知らせがあってな! 実は西の大陸のルミナにいる『エルゼ』という女侯爵殿から、特大の届け物が届いたのだ!」
「エルゼちゃんから?」
「ああ! 大和郷の特産品のお礼だと言って、ものすごい量の荷物が船で運ばれてきた! ひとまず、あんたらの大和郷での拠点である『薩摩の外城』に全部運び込んでおいたぜ!」
それを聞いて、アレンがパッと顔を輝かせた。
「ルミナのみんなから! 静江さん、これは帰る前に一度、薩摩に戻らないといけませんね!」
「せやな。あの子ら、一体何を送ってきたんやろ……」
うちは思わず頬を緩ませた。
「おばちゃん、またお船に乗るの?」
リリルが手を繋いできて見上げる。
「せや。……森の兄ちゃん! あんたの船で、特急で薩摩まで送ってもらうで! 略奪のツケの『送迎代』として、もちろんタダや!」
「がははっ、お安い御用だ! 俺たちの最速の船に乗ってくだせぇ!」
大和郷の戦乱の遺恨をすべて洗い流したおばちゃん一行は、朝日に照らされる阪大の街を背に、胸を張って西の海へと歩き出す。
ルミナの家族からの届け物を受け取るため、大和郷の始まりの地である「薩摩」への凱旋航海が、今、賑やかに始まるんや。
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