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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第8章:戦跡の特殊清掃

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第125話 本城の無念と、オカン流・合同慰労会

 古都の夜をド派手なイルミネーションで照らし出し、同士討ちの未練を晴らしたうちらは、大和郷の中央……巨大な盆地に位置する『関白の本城』跡地へと辿り着いた。


 ここはかつて、うちら薩摩軍が関白の防衛線を紙切れのように破って本城を制圧した直後、味方やったはずの東のタヌキ親父に騙し討ちされ、城外の留守部隊が無残に蹂躙された因縁の地や。


「……おばちゃん。ここ、なんだかすごく寒くて……土の下から、ずっと悔しそうな泣き声が聞こえるよ」


 リリルが、うちのポンチョの裾をギュッと握りしめ、怯えたように足元の黒い土を見つめる。


 にゃーんと鳴くクロも、毛を逆立てて威嚇の姿勢をとっとる。


「……ええ。あの時、僕たちは退却戦を選ぶしかなく、犠牲になった仲間や、激戦で散った関白の兵たちの亡骸を弔うことすらできませんでした。この大地には、彼らの底知れぬ無念が、まだドロドロにこびりついているはずです」


 アレンが、悲痛な面持ちでモップ槍を握りしめた。


 日が落ち、盆地に冷たい夜風が吹き始めると、周囲の土がボコボコと不自然に隆起し始めた。


 青白い燐光が漏れ出し、ズル……ズル……と、重たい甲冑を引きずるような音と、血を吐くような呻き声が、盆地全体を包み込むように響き渡る。


 肉眼では姿は見えへんが、尋常やない数の「気配」が、うちらを取り囲んでジリジリと迫ってきとった。


「……アレン、リリルちゃん。ちょっと視せてもらうで」


 うちはアイテムボックスから特大の水晶玉を取り出し、両手でそっと触れた。

 視界がカチッと切り替わり、肉眼では見えん彼らの姿が鮮明に浮かび上がり、声が直接耳に流れ込んでくる。


『……無念じゃ……。なぜ、味方に背後から……。薩摩の恥……!』


『……薩摩の悪鬼どもめ……。我らは引き裂かれ……関白様は我らを見捨てて……』


 水晶越しに視えたのは、二つの無念の群れやった。


 一方は、背中に無数の矢や刀傷を受け、タヌキの騙し討ちに散った泥だらけの『薩摩の留守部隊』。


 そしてもう一方は、正面から薩摩の狂気じみた突撃を真っ向から受け、無惨に斬り伏せられた『関白軍の兵たち』や。


 薩摩の兵は「背中から斬られて死んだ恥辱」に縛られ、関白の兵は「理不尽な暴力で蹂躙され、主君に見捨てられた絶望」に囚われ、互いに泥の中を這いつくばっとったんや。


===========


 水晶を通じて、彼らの『やり場のない惨めさと絶望』が、うちの精神に直接流れ込んでくる。


 途端に、激しい精神的疲労が押し寄せ、視界の端にザザッとノイズが走った。


 一瞬だけ、前世の阪大で、信じていた共同経営者に裏切られて店の資金を持ち逃げされ、「私の見る目がなかったせいで、従業員みんなに迷惑をかけてしまった……」と、頭を抱えて泣き崩れていた知り合いの社長の姿が重なって見えたわ。


(……あー、わかるで。一生懸命やってたのに、理不尽に使い捨てられるんが、一番心をえぐるんやんな……)


 うちは、彼らの重たい自責と怨念に引っ張られそうになる意識を、アイテムボックスから取り出した「ハチミツ味」の飴ちゃんを奥歯でガリッと噛み砕くことで、無理やり現在に引き戻した。


 濃厚な甘さが脳を叩き起こし、幻覚のノイズを散らす。


「静江さん、奴ら……いや、かつての仲間と敵兵たちが、怨念に囚われたままこちらへ向かってきます! このままでは悪霊に堕ちてしまう!」


 アレンが悲痛な声で叫ぶ。


 うちは水晶玉から手を離し、パイプ椅子からスッと立ち上がった。


「アレン、武器は下ろしなはれ! 落ち込んでる子らに、刃物向けるバカがどこにおるんや!」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、迫り来る泥だらけの亡霊たちのド真ん中へと、ズンズン歩み出た。


「おい! そこの薩摩の兄ちゃんら! それに関白の兵隊さんらもや! ええ加減に顔上げなはれ!」


 腹の底からのオカンの怒声に、亡霊たちがビクッと肩を揺らして動きを止めた。


『……し、静江殿……? おお、我らは……背中を斬られ、無様に……』


「アホか! 背中を斬られたからって、何が恥やねん!」


 うちはトングの先で、泣き言を漏らす薩摩の部将の鼻先をビシッと指差した。


「背中からやられたっちゅうことはな、あんたらが『前(関白)』だけを向いて、逃げずに一生懸命戦ってたっちゅう何よりの証拠やろが! あんたらが城の外で踏ん張ってくれたから、うちらはあのタヌキから無事に逃げ切れたんや! 恥じるべきなんは、一生懸命やってる人間の背中を後ろから刺す、あのタヌキみたいなクソ野郎の方や!」


 うちの「解釈の転換」に、薩摩の亡霊たちがポカンと口を開けた。


 うちはそのまま振り返り、今度は関白軍の兵たちに向かってトングを突きつけた。


「そんで、関白の兵隊さんら! あんたらもや! あんたら、うちらの薩摩の連中にえげつない勢いでやられて、トラウマになっとるみたいやけどな! ……よう考えや! あの狂犬みたいな薩摩の突撃から、一歩も逃げずに立ち向かったんやで!? それって、めちゃくちゃ凄くて立派なことやないか!」


『……我らが、立派……?』


「せや! あんたらの主君(関白)はブラックなアホやったかもしれんけど、あんたらの現場での『働きぶり』は百点満点やったわ! うちら薩摩が一番よく分かっとる! 敵ながら天晴れや!」


===========


『こ、功労者……。我らが……?』


 薩摩の兵も、関白の兵も、その目に微かな光が宿る。


「アレン! 出番や! 昨日の敵は今日の友や! 『合同慰労会』の準備や!」


「はいッ!」


 うちはアイテムボックスから、薩摩の特産品であるサツマイモと買い溜めておいた豚肉、そして特大の寸胴鍋を取り出した。


「ほら! 薩摩名物、サツマイモの天ぷらと特製豚汁や! ここに、怪我を治す『レモン味』と、前向きになる『リンゴ味』の飴ちゃんを隠し味でドバドバ入れたるわ!」


 アレンが神速の剣技で具材を切り刻み、うちが火を点けて一気に煮込み、揚げる。


 盆地に、出汁の効いた豚汁と、天ぷらの暴力的なまでに香ばしい匂いが立ち込めた。


「まだまだ! これが一番大事なもんや!」


 うちはアイテムボックスから、真っ白な最高級の和紙と、太筆を取り出した。


 そして、その場で豪快にデカデカと文字を書き殴り、亡霊たちの前にバサァッ! と広げて見せつけた。


『特大感謝状! 薩摩の留守部隊、ならびに関白の兵隊殿! あんたらはどっちも、自分の持ち場を命懸けで守り抜いた最高の功労者や! ブラックな上司に振り回されただけで、あんたらの働きは絶対に無駄やなかった! ほんまにお疲れさん! 代表取締役・御堂静江!』


 おばちゃん手書きの、超特大の『感謝状』や。


「ほら! この表彰状見ながら、腹いっぱい食いなはれ! 堂々と胸張って、お天道様の下に帰り!」


===========


 飴ちゃんの魔力が溶け込んだ豚汁と天ぷらの匂い。そして、自分たちの戦いを全力で肯定してくれた、特大の感謝状。

 亡霊たちは、震える手でその紙を拝むように見つめた。


『……おお……。我らの背中は……無様では、なかったのだな……』


『……静江殿。我らの働きも……無駄ではなかったと、認めてもらえるのだな……!』


 レモンとリンゴの飴の力が、彼らの身体に刻まれていた痛々しい傷跡を、スゥッと綺麗に癒やしていく。

 泥と血にまみれていた彼らの姿が、出陣した日のような、誇り高く勇ましい武士の姿へと戻っていった。


『……ありがとう、静江殿。アレン殿。……この温かい飯と、誇らしい言葉。あの世への、最高の土産になった!』


 薩摩の兵も、関白の兵も、かつての敵味方の恨みを忘れ、満足げな笑顔で互いの肩を叩き合いながら、次々とキラキラとした光の粒になって、盆地の夜空へと昇っていった。


「……消えましたね。彼らの無念も……そして誇りも、完全に満たされました」


 アレンが剣を納め、光の粒を見上げながら涙を拭う。


「にゃーん」


 クロが、おこぼれのサツマイモを食べて満足そうに喉を鳴らとる。


「せや。一生懸命やってたのに理不尽な目に遭うたなら、それは上が100パーセント悪いんや。現場で頑張った者同士が、憎しみ合う必要なんて一ミリもあらへん」


 うちは空になった寸胴鍋と感謝状をアイテムボックスに仕舞い、大きく伸びをした。


「さてと! うちらの仲間と、立派なライバルへの一番大事なアフターサービスも、これで完了やな! ……次はいよいよ、この大和郷の商業のド真ん中、『堺』の街や! うちの故郷とよう似たその場所で、大掃除の総仕上げといこか!」


 かつての戦友と敵兵の背中を力強く押し出したおばちゃん一行は、大和郷編の最終目的地である大商業都市へと向けて、新たな一歩を踏み出すんや。



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