第121話 山の祟り神と、オカン流・お社(やしろ)リフォーム
海峡での特大のアフターサービス(関白軍の怨念供養)を終え、うちらはいよいよ大和郷の中心地を擁する広大な本州へと足を踏み入れた。
九州から海を渡り、そのまま北側の海に面した街道を東へ向かって進む。
この辺りは海と険しい山々に挟まれていて、どこかジメッとした、独特の重たい空気が漂っとる。
「……おばちゃん。この村、なんだかすごく静かだね。子供たちの遊ぶ声が全然しないよ」
街道沿いにある寂れた村に入ると、リリルがうちのポンチョの裾を握りながら、不思議そうに周囲を見回した。
「にゃーん……」
うちの足元を歩く黒猫のクロも、どこか警戒するように尻尾を下げとる。
村人たちは皆、疲れ切った顔で足早に歩き、家々の窓や戸は固く閉ざされとった。
「……すんません。ちょっとお茶でもいただきたいんやけど、えらいお通夜みたいな空気やね。何かあったんか?」
うちは、軒先でうずくまっていた村長らしき老人に声をかけた。
「……旅のお方。悪いことは言わんから、早くこの村を通り過ぎなされ。ここは今、山の神様の『祟り』に遭っとるんじゃ」
村長は怯えたように山の方角を指差し、重い口を開いた。
「祟り? 神様が何でそんなことすんねん」
「……先の戦乱で、山に陣を敷いた武士どもが、古くから村を守ってくださっていた『道祖神』のお社を壊してしまったんじゃ。それ以来、山から恐ろしい熱風が吹き下ろし……山に近づいた村の子供たちが次々と、原因不明の高熱を出して倒れてしまってな。今も何人もの子が、生死の境を彷徨っておる」
「なるほどな。子どもに高熱を出させる祟り神か……。アレン、今日の宿はこの村や。おばちゃんがその神様の『ご機嫌取り』に行ったるわ」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ニヤリと笑った。
その日の夜。
うちらは村人たちの制止を振り切り、重苦しい熱気が漂う山の中腹へと足を踏み入れとった。
木々は枯れかけ、初夏だというのに、まるで真夏のサウナの中にいるような息苦しい空気がまとわりついてくる。
「……静江さん、ここです。石の祠が、無残に砕かれています」
アレンが松明の光で照らし出したのは、獣道の脇に転がる、バラバラに打ち砕かれた古い石の祠と、真っ二つに割れた道祖神の石像やった。
その瞬間、ゴオォォォッ……! と、周囲の木々を揺らして、むせ返るような赤黒い「熱気」が吹き荒れた。
『……痛い……。苦しい……。我が家が……我が身体が……!』
砕けた石像の真上に、三メートルはあろうかという巨大な赤黒い影が浮かび上がる。
怒りと痛みに身を焦がす、山の祟り神や。
「……アレン、リリルちゃん。ちょっと視せてもらうで」
うちはアイテムボックスから特大の水晶玉を取り出し、両手でそっと触れた。
視界がカチッと切り替わる。
水晶越しに視えたのは、威厳ある神様の姿やない。
家を壊され、身体を割られ、行き場を失った痛みを「熱」に変えて撒き散らしている、ただの寂しがり屋の精霊の姿やった。
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水晶を通じて、神様の『家を奪われた激しい怒りと、焼け付くような痛み』が、うちの精神に直接流れ込んでくる。
途端に、激しい精神的疲労が押し寄せ、視界の端にザザッとノイズが走った。
一瞬だけ、前世の大阪で、真夏の猛暑日にクーラーが突然壊れ、修理業者も捕まらずにサウナ状態の部屋で熱中症になりかけた時の、あの「どうにもならないイライラと苦しさ」の記憶が重なって見えたわ。
(……あー、わかるで。暑くて居場所がない時って、周りのもん全部に八つ当たりしたくなるんやんな……)
うちは、神様の放つ怒りの熱にアテられそうになる意識を、アイテムボックスから取り出した「ハチミツ味」の飴ちゃんを奥歯でガリッと噛み砕くことで、無理やり現在に引き戻した。
濃厚な甘さが脳を叩き起こし、幻覚のノイズを散らす。
「……静江さん、熱気が強すぎます! このままでは僕たちまで熱に当てられてしまう!」
アレンが腕で顔を覆うが、うちは水晶玉から手を離し、ズンズンと熱風のド真ん中へ歩み出た。
「おい! そこの神様! ええ加減にしなはれ!」
うちが怒鳴ると、巨大な赤黒い影がギョロリとこちらを睨みつけた。
『……人間……。我の家を壊した憎き人間ども……! その身を熱で焼き尽くしてくれる!』
「アホか! 壊したんは武士の連中で、うちらやないわ! それにな、家壊されて腹立つのは分かるけど、何で無関係な近所の子供に八つ当たり(高熱)しとんねん! ええ大人が……いや、神様が、弱いもんいじめして恥ずかしないんか!」
うちの容赦ないオカン説教に、祟り神の動きが一瞬だけピタリと止まった。
「家がないんやったら、新しく建て直せばええんや! アレン! 出番やで!」
「えっ!? 僕ですか!?」
「あんたの『神速の剣技』で、そのバラバラになった石のお社と仏さん、一瞬でパズルみたいに組み直しなはれ! 隙間は泥と聖水で固めるんや!」
「い、石のパズルを神速で……!? わ、分かりました! はあああッ!」
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アレンがモップ槍と素手を駆使し、目にも止まらぬ速さで、バラバラになっていた石のパーツを拾い集めていく。
彼の『刹那の観測』にかかれば、どの石がどこに嵌まるかなんて一目瞭然や。
ガキン、ゴキン! と音を立てて、ほんの数十秒で、壊れていた道祖神の祠と石像が、見事に元の形へと組み上がった。
「よし、土台はできたで! 仕上げはこれや!」
うちは、アイテムボックスから怪我を治す黄色の「レモン味」と、体力を回復させる赤の「イチゴ味」の飴ちゃんを取り出し、それをすり鉢で粉々に砕いた。
そして、水筒の冷たいお茶にその粉末を溶かし、特製の「ひんやりフルーツシロップ」を作った。
「ほら! おばちゃん特製のお供え物や! 熱出してイライラしてる時は、冷たくて甘いもん飲んで大人しく寝ときなはれ!」
うちはそのシロップを、組み上がったばかりの石像にバシャァァッ! と豪快にぶちまけた。
『ギャアアアッ!? な、なんだこれはぁぁっ!?』
怒りで赤黒く燃えていた祟り神の身体に、レモンとイチゴの冷たい甘さが染み込んでいく。
ジュワァァァッ! と水蒸気が上がり、山を覆っていた異常な熱気が、一気にスゥッと引いていった。
『……あ、あれ……? 身体が……痛くない。それに、新しい家が……』
飴ちゃんの魔力によって石像の継ぎ目が完全に癒着し、神様の身体から怒りの熱が完全に消え去った。
赤黒かった影は、本来の穏やかな緑色の光を放つ精霊の姿へと戻り、嬉しそうに新しい祠にスッと吸い込まれていった。
「にゃーん」
クロが祠の前に近づき、ゴロゴロと喉を鳴らして石像にスリスリと頭を擦り付ける。
山の空気が、嘘のように涼しく、清らかなものに変わっとった。
「……消えましたね。山の熱も、完全に引きました」
アレンが汗を拭いながら、ホッと息をつく。
「せや。神様かて、居場所がのうなったら寂しくてグレるもんや。ちゃんとケアしてやれば、悪いようにはせんわ」
うちはトングを肩に担ぎ直し、大きく伸びをした。
翌朝。
村の子供たちの高熱は嘘のように下がり、村はかつての活気を取り戻した。
村人たちが涙を流して感謝する中、うちらは再び街道を東へと歩き始めた。
「さてと! この調子で、本州の街道沿いに落ちてる『心のゴミ』、片っ端から分別していくで!」
おばちゃんの出張鑑定は、日本海側の因縁を晴らしながら、さらに大和郷の奥深くへと進んでいくんや。
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