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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第8章:戦跡の特殊清掃

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第120話 海峡の火だるま船団と、オカン流クーリングオフ(ハッカの粉雪)

 戸次川で四国兵たちの未練を晴らしたうちらは、大和郷の南の島(九州)の最北端、本州とを隔てる狭く潮の流れが速い『海峡』へと辿り着いた。


 ここは数ヶ月前、アレンの「ヤケクソ営業」で関白軍の大船団を鎖で繋がせ、うちらが特大の火攻めと魔導砲で丸焼きにして沈めた、因縁の激戦地や。


「……おばちゃん。ここの村の人たち、みんなお耳を隠してブルブル震えてるよ」


 海峡を見下ろす小さな漁村に入ると、リリルの言う通り、村人たちが頭に手ぬぐいを巻いて、何かに怯えとった。

 村長に話を聞くと、あの戦の後から、この海峡に恐ろしい怪異が毎晩のように現れるようになったらしい。


「夜になると、海から火だるまになった巨大な船の群れが浮かび上がってきてなぁ。『熱いぃぃ!』『あの算盤を持った剣士を許すなァァ!』って呻きながら、村の若い琵琶法師を毎晩海へ連れ去って、一晩中恨み節を弾き語りさせとるんじゃ。このままじゃ、あいつは耳を引きちぎられて呪い殺されてしまう……!」


 村長の言葉に、アレンが「ヒッ」と息を呑んで、背中の黄金の算盤を隠した。


「……完全に、僕たちへのクレームですね、静江さん……」


「せやな。自分らで燃やしたんやから、アフターサービス(供養)はきっちりやったるのが商売人の筋やわ。しゃあない、その琵琶法師の兄ちゃんの身代わり、うちらが引き受けたろ」


 その日の夜。

 潮騒が響く真っ暗な海峡の浜辺に、うちはパイプ椅子を広げてどっかと座っとった。アレンは申し訳なさそうにモップ槍を抱えて立ち、リリルはうちの背中に隠れとる。

 やがて、海面がボコボコと沸騰するように泡立ち、むせ返るような焦げ臭い匂いとともに、鎖で繋がれた無数の『火だるまの幽霊船』がズズズッと浮上してきた。


『……琵琶法師はどこだ……。我らの熱さを……屈辱を、弾き語れぇぇ……!』


 燃え盛る船の甲板には、真っ黒こげになった関白軍のエリート武将たちや、カニの甲羅に怒った顔を浮かべた大昔の戦の怨霊(うちの目には完全に平家ガニに見える)が、ぎっしりとひしめいとった。


「……アレン、リリルちゃん。ちょっと視せてもらうで」


 うちはアイテムボックスから特大の水晶玉を取り出し、両手でそっと触れた。

 視界がカチッと切り替わる。

 水晶越しに視えたのは、炎の物理的な熱さよりも、アレンの大根芝居に騙された『エリートとしてのプライドを粉々にされた屈辱感』やった。


===========


 水晶を通じて、彼らの『騙されて丸焼けにされた激しい怒りと熱』が、うちの精神に直接流れ込んでくる。


 途端に、激しい精神的疲労が押し寄せ、視界の端にザザッとノイズが走った。


 一瞬だけ、前世の大阪で、家電量販店のサービスカウンターで「この扇風機、すぐ壊れたやないか!」と顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくる、クレーマーのオッサンの熱気が重なって見えたわ。


(……あー、わかるで。騙されたと思たら、頭に血ぃ昇って引くに引けんようになるんやんな……)


 うちは、彼らの怒りの熱にアテられそうになる意識を、アイテムボックスから取り出した「ハチミツ味」の飴ちゃんを奥歯でガリッと噛み砕くことで、無理やり現在に引き戻した。

 濃厚な甘さが脳を叩き起こし、幻覚のノイズを散らす。


「静江さん、奴ら、僕に気づきました! 火の玉を飛ばしてきます!」


 アレンがモップ槍を構えるが、うちは水晶玉から手を離し、パイプ椅子から立ち上がった。


「アレン、武器は下ろしなはれ! クレーム対応の基本は、まず相手の『熱』を冷ますことや!」


 うちは浜辺のギリギリまで歩み寄り、火だるまの船団に向かって大声で怒鳴った。


「おーい! 関白軍の兄ちゃんら! あの時は特売の火攻め、えげつないことして堪忍な! その商品(作戦)の『クーリングオフ(返品)』はできへんけど、代わりに極上の『クールダウン』をしたげるわ!」


『き、貴様はあの時の派手な女! そしてその後ろにいるのは、我らを騙した算盤の剣士! 許さん、お前らもこの業火で丸焼きに――』


「アレン! 今や! あんたの神速の剣で、これ、粉雪みたいにみじん切りにしなはれ!」


 うちはアイテムボックスから、無限に出せる青い『ハッカ味(強烈な清涼感)』の飴ちゃんを、ジャラジャラジャラッ! と浜辺に山のように(ざっと数万個)放り出した。


「えっ!? この大量の飴を斬るんですか!? わ、わかりました! はあああッ!」


 アレンがモップ槍を剣に持ち替え、目にも止まらぬ『刹那の観測』の剣技で、ハッカ飴の山を瞬く間に粉々の「極寒の粉雪」へと変えていく。


 うちは、そこに緑の「メロン味」の飴の粉末も混ぜ合わせ、特大トングをスコップ代わりにして構えた。


===========


「ほら! おばちゃん特製、アフターサービス用『超特大・ハッカの粉雪(メロン風味)』や! 頭に血ぃ昇ってる時は、スースーするもん被って落ち着きなはれ!」


 うちは、アレンが剣の風圧で巻き上げたハッカの粉雪を、火だるまの幽霊船に向かってバサァァッ! と豪快にぶちまけた。


『ギャアアアッ!? な、なんだこれはぁぁっ!?』


 燃え盛っていたエリート武将たちの怨念の炎に、ハッカの強烈な清涼感が直撃する。

 まるで全身にハッカ油を塗りたくられたような極寒の刺激に、ジュワァァァッ!! と凄まじい水蒸気が上がり、海峡を覆っていた熱気が一気に冷やされていく。


 飴ちゃんの魔力が溶け込んだ粉雪が、彼らの「騙された怒り」と「焼け死んだ熱さ」を、物理的にも精神的にも急速に鎮火していった。


『……あ、あれ……? 熱くない……。むしろ、冷たくて……スースーして、甘い……』


『……怒りで煮えくり返っていた頭が……スッと冴え渡っていく……』


 火だるまだった武将たちの炎が消え、元の青白い(少し涼しげな)亡霊の姿へと戻っていく。


 その中から、アレンの営業に騙されたあのエリート将軍が、少しバツが悪そうに進み出てきた。


「……騙して、本当にすみませんでした。でも、あの時は僕たちも必死だったんです。どうか、安らかに眠ってください」


 アレンが深々と頭を下げる。

 将軍の霊は、ハッカの冷たさで完全に毒気を抜かれた顔で、一つため息をついた。


『……見事な手際だったぞ、異国の剣士よ。我らは驕りゆえに騙された。……この冷たい甘露で、あの時の怒りは水に流そう』


 将軍の言葉とともに、鎖で繋がれた船団も、武将たちも、そしてついでに便乗していたカニの怨霊たちも、「いい湯……じゃなくて、いい氷だったわ〜」と満足げな顔になり、キラキラとした光の粒に変わって夜空へと昇っていった。


「……消えましたね。海峡の熱気も、完全に引きました」


 アレンが剣を納め、ホッと胸を撫で下ろす。


「せや。クレーム対応は、迅速な冷却と誠意ある謝罪が一番やからな」


 うちはトングを肩に担ぎ直し、夜明けの海峡に向かって大きく伸びをした。


「にゃーん」


 クロがうちの足元ですりすりと甘え、リリルも「お兄ちゃん、ちゃんと謝れて偉いね!」とアレンを褒めとる。


「さてと! うちらがやらかした最大のアフターサービスもこれで完了や! 気持ちよく前に進めるな!」


 うちは特大のトングを肩に担いで、海峡の先――これから足を踏み入れる広大な『本州』の大地を指差した。


「……ええ。西の大陸から始まった僕たちの旅も、ついにこの国の中心部まで来ましたね」


 アレンが感慨深そうに頷き、リリルも期待に目を輝かせとる。


「さぁて、本州にはどんな厄介な『心のゴミ』が落ちとるんか。気合入れて、大和郷のド真ん中までピカピカに掃除していくで!」


「にゃーん!」


 自分たちで出した特大のゴミ(怨念)を見事に片付けたおばちゃん一行は、晴れ渡った海峡を渡り、いよいよ大和郷の中心地へと力強く足を踏み入れていくんや。


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