第107話 関白本城の陥落と、タヌキ親父の裏切り
嵐の夜の「特売ダッシュ(夜襲)」で、数万の包囲網をあっさりと粉砕した薩摩軍。
いよいよ残すは、大和郷の中央にそびえ立つ、関白の最後の牙城のみとなった。
「……さて。ここから先は、総力戦やな。でも、おばちゃんの勘が『退路だけは確保しとけ』って言うとるわ」
うちは、古都の外れの陣で、タロットカードの『隠者』を指で弾きながら、佐吉たち日本海側方面軍に指示を出した。
「佐吉、久義、それに黒戸と半月の両兵衛。あんたらは本隊から離れて、先に北へ向かいなはれ。北の海に面した港……ここから一番近い『金ヶ崎』の港町を制圧して、いつでも船が出せるように待機しとくんや」
「船? 関白を倒したら、それで終わりじゃないのか?」
佐吉が不思議そうに首を傾げる。
「世の中、そうすんなり終わるもんやないんや。……東でタヌキ寝入りしとる、あのおっちゃんが動く気配がプンプンするからな」
「……承知いたしました。静江さんの直感、我々の数式よりも信が置けます。北の港は、必ず確保しておきましょう」
黒戸が深く頷き、半月と共に佐吉たちを連れて北へと向かっていった。
本隊に残ったのは、うちとアレン、リリル、そして薩摩本国の主力部隊や。
数日後。うちらはついに、大和郷の中心、巨大な盆地にそびえ立つ関白の『本城』へと辿り着いた。
城は堅牢やが、度重なる敗戦で兵の士気はどん底まで落ちとる。
薩摩の武士たちが「チェストォォォッ!」と咆哮を上げて城門に突撃すると、関白軍の防衛線は紙切れのように破られていった。
「……静江さん! 見てください、東の街道から大軍が!」
本陣から戦況を見守っていたアレンが、鋭い声を上げた。
土煙を上げて近づいてきたのは、見渡す限りの見事な甲冑に身を包んだ、無傷の数万の大軍。
掲げられた旗印は……東の最大勢力、タヌキ親父の軍勢や。
「おおっ! ついに東のタヌキ殿が援軍に来てくだされたか!」
薩摩の武将たちが歓声を上げる。一時同盟を結んでいる以上、彼らは味方のはずや。
だが、うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担いだまま、舌打ちをした。
「……援軍? アホ言いな。あいつら、城を攻める気なんか一ミリもあらへんで。後方の安全な高台で陣を敷いて、高みの見物決め込んどるわ」
うちの言う通り、タヌキ親父の軍勢は城攻めには一切加わらず、ただ周囲を取り囲むように布陣しただけやった。
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「まぁええわ。あんな腹黒いおっちゃんの手ぇ借りんでも、この城は落ちる」
うちらは城の奥深くへと進軍し、ついに天守の広間で、追い詰められた関白を捕らえた。
数々のブラックな労働を強いてきた関白も、今や豪華な衣装を乱し、震え上がって床にへたり込んどる。
「や、やめろ! 余を誰だと思っている! 余はこの大和郷の……」
「はいはい、ブラック社長の御託は聞き飽きたわ。あんたは今日でクビ! 隠居して、反省文百枚書きなはれ!」
うちがハリセンで関白の頭をスパーンと叩き、これで大和郷の戦乱もようやく終わる……。
誰もがそう思って、息をついた、その瞬間やった。
ドゴォォォォンッ!!
城の外、薩摩軍が布陣していた後方から、凄まじい爆発音と怒号が響き渡った。
「な、なんだ!? 敵の伏兵か!?」
アレンが慌てて天守の窓から外を見下ろし……その顔を、さぁっと青ざめさせた。
「し、静江さん……! 留守を任せていた城外の薩摩部隊が、急襲されています! 攻撃を仕掛けているのは……東のタヌキの軍勢です!!」
「……なんやて!?」
うちは窓辺に駆け寄り、眼下の光景を見てギリッと歯を食いしばった。
味方だと思っていたタヌキ軍が、突如として牙を剥き、城攻めで疲弊していた薩摩の留守部隊を背後から容赦なく蹂躙しとったんや。
一切の容赦がない、完全な騙し討ち。
「……あのクソタヌキ! うちらが帝から『お墨付き』もろてるの知ってるくせに! 混乱に乗じてうちらと関白を相打ちにさせて、全部『戦の不慮の事故』として片付けるつもりやったんや!」
「おのれぇぇッ! あの古狸め、帝の威光すら無視して我らを謀りおったか!」
薩摩の武将たちが怒りで血の涙を流すが、状況は絶望的やった。
うちらは今、制圧したばかりの城の中に孤立している。外には、無傷の数万のタヌキ軍が、城を完全に包囲してしもうとる。
「……お、おばちゃん。外、すっごくいっぱい、怖い人たちがいるよ……。お家に、帰れないの……?」
リリルが、うちのポンチョの裾をギュッと握りしめて、ガタガタと震えとる。
前門の虎、後門の狼。
いや、完全に袋のネズミや。普通なら、ここで降伏するか、武士の意地で切腹するしかない、完全な詰みの盤面。
だが。
うちは、ポンチョの背中で揺れる『極』の刺繍をバサッと翻し、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「……リリルちゃん。心配せんでええ。おばちゃんが、絶対に帰したるわ」
「静江さん、まさか……。外のタヌキの軍勢は数万。城にいる我らはわずか数千です。このまま籠城しても、ジリ貧になるだけですが……」
「籠城? 誰がそんなジメジメしたことするかいな!」
うちは、特大のトングをタヌキ軍の本陣の方角へとビシッと突きつけた。
「ええか、あんたら! 後ろ向いて逃げても、追いつかれて背中切られるだけや! 帰る道がないなら、前向いて道作らんかい!」
「ま、前へ……? まさか、あの無傷の数万の敵のド真ん中を……!?」
「せや! 敵の本陣のド真ん中を一直線にぶち抜いて、佐吉たちが待つ北の港まで『特大の退却ダッシュ』をかますで!!」
おばちゃんの口から飛び出した、戦場の常識を完全に無視した「前進退却」の号令。
大和郷の歴史に最も狂気的で、最も熱い伝説として刻まれる退却戦が、今ここに火蓋を切ろうとしとったんや。
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