第105話 古都の御簾と、やんごとなき名誉会長
堺での大宴会と、佐吉たち若武者陣営との合流を経て、薩摩軍はいよいよ関白の本陣へ向けて出立の準備を進めとった。
だが、うちは本軍を動かす前に、アレンとリリルだけを連れて、三人でお忍びの「寄り道」をすることにしたんや。
向かった先は、堺からほど近い、大和郷の歴史と権威の中心地……『古都』や。
「……静江さん。いくらお忍びとはいえ、関白の膝元である古都に三人だけで潜入するなんて、危険すぎませんか?」
編み笠で金髪を隠したアレンが、周囲を警戒しながら小声で聞いてくる。
「せやな。でも、関白っていうブラック社長をクビにして、地方の大名たちで『合同会社(大名サミット)』を作るんやったら、どうしても挨拶しとかなあかん人がおるんや」
「挨拶、ですか?」
「この国で一番偉くて、一番神聖な御方……『帝』や。新しい会社立ち上げるなら、その土地の地主……いや、『名誉会長』にお墨付きをもらうんが、筋ってもんやろ?」
うちは、ヒョウ柄のポンチョを深く被り直し、ニカッと笑った。
リリルも「おばちゃん、すっごく偉い人に会いに行くんだね」と、緊張した面持ちでうちのポンチョの裾をギュッと握りしめとる。
古都の奥深く、一般の者は近づくことすら許されない『御所』。
そこは、王都の煌びやかな王宮とは違い、果てしなく静かで、重苦しいしきたりと埃の匂いが立ち込める空間やった。
アレンの神速の動きと、うちのタロットによる「死角の観測」を駆使して、うちらは警護の目を潜り抜け、御所の最深部へと足を踏み入れた。
薄暗い部屋の奥。何重にも垂れ下がった『御簾』の向こう側に、一人の若い男がポツンと座っていた。
彼こそが、この大和郷の最高権威である、若き帝や。
だが、その姿は水晶を透かして見るまでもなく、ただの「豪華な鳥籠に閉じ込められた鳥」にしか見えへんかった。
外の世界の光を浴びたことのない、病的なまでに白い肌。そして、自分自身の意志を完全に奪われ、ただ関白の操り人形として日々をやり過ごしている、虚ろな瞳。
彼は「自分は神聖な存在だから、地に足をつけてはいけない、自由に笑ってはいけない」と洗脳され、このジメジメした部屋で息を殺して生きとったんや。
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「……誰だ。そこにいるのは」
帝が、微かな足音に気づいて弱々しい声を上げた。
その瞬間、うちは躊躇することなく、その神聖な御簾をバサァッ! と力任せにめくり上げた。
「なんやこの御簾! 風通し悪くて埃が溜まっとるやないか! こんなジメジメしたとこにおったら、心までカビ生えるで!」
「なっ……!?」
突然、御簾をめくってズカズカと上がり込んできた派手なギャル(おばちゃん)を見て、帝は目を丸くして言葉を失った。
「き、貴様……何者だ! 余の顔を直接見るなど、許されざる大罪だぞ!」
「大罪もクソもあるかいな。うちは出張鑑定に来た占い師や。……あんた、えらい顔色悪いな。神様みたいに扱われてるかもしれんけど、ただの窮屈な『お飾り』にされてるだけやんか」
うちはパイプ椅子を取り出し、帝の真正面にどっかと腰を下ろした。
そして、アイテムボックスから鮮やかな緑色の「メロン味」の飴ちゃんを取り出し、帝の口に向かってポンッと放り投げた。
「んぐっ……!? ど、毒か……!」
帝が吐き出そうとするが、強烈なメロンの甘さと、腹の底から湧き上がるような栄養満点の満足感が、彼の味覚を強引に支配した。
外の世界の「俗な味」を初めて知った帝の瞳に、少しずつ、人間らしい生気が戻っていく。
「……な、なんだこの甘露は。……体が、内側から温かくなっていく……」
「せやろ? おばちゃん特製の、元気が出る特効薬や。……さて、帝さん。お腹も膨れたところで、ちょっと商談といこか」
うちは、手元にタロットカードを展開しながら、ニヤリと笑った。
「今の関白っていうブラック社長、うちらが近いうちに倒したるわ。そんで、地方の大名たちが協力して国を運営する『合同会社』を作る。……あんた、その新しい会社の『名誉会長』にならへんか?」
「め、名誉……会長……?」
「せや。実務や政治の泥臭いことは、うちらが全部やったる。あんたは難しい顔して座ってる必要なんかあらへん。美味しいもん食べて、好きなように外の空気吸って、みんなの平和を笑って見守っとったらええねん。……あんたの人生、もっと自由に生きてええんやで」
うちの言葉に、帝は呆然とし、やがてその大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「……自由に。……私が、外の空気を……吸っても、よいと……?」
「当たり前や。おばちゃんが保証したるわ」
「……ああ。……私も、見てみたい。この御簾の外の、本当の世界を」
帝は涙を拭い、力強く頷いた。
これで、関白を討ち倒し、新しい国を作るための「最強の大義名分(お墨付き)」をゲットしたっちゅうわけや。
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だが。
おばちゃんの出張鑑定が、そう簡単に終わるはずがあらへん。
帝との密会を終え、うちらが古都の片隅にある小さな寺に身を隠し、夜明けを待っていたその時やった。
ゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!
突如として、古都の地面を揺るがすような、不気味な地鳴りが響き渡った。
「……静江さん! 大変です!」
外の様子を探っていたアレンが、血相を変えて寺の本堂に駆け込んできた。
「どないしたんや、アレン。夜中にえらい騒々しいな」
「包囲されました……! 関白軍の正規兵です。その数、ざっと数万! 古都に続く道をすべて封鎖し、この寺を何重にも取り囲んでいます!」
「な、数万……!?」
どうやら、うちらが古都に潜入したこと、そして帝と接触したことは、関白の耳に筒抜けやったらしい。
関白からすれば、最大の脅威である薩摩の頭脳が、本軍から離れてたった三人で古都にいるなんて、これ以上ない「絶好の殺し時」や。
「……お、おばちゃん……。外、すっごくいっぱい、怖い人たちがいるよ……」
リリルが、うちのポンチョの裾を握りしめてガタガタと震えとる。
数万の完全武装した敵兵に対するは、おばちゃんと、若き騎士と、五歳のエルフの子供。
普通なら、ここで絶望して腹を切るしかない「完全な詰み」の状況や。
だが、うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ニカッと不敵な笑みを浮かべた。
「……アレン。敵の連中、こっちがたった三人で絶望して、朝には降伏すると思とるやろな」
「……ええ。完全に油断しきって、周囲で松明を焚いて見張っているだけです」
「よっしゃ。ほな、関白の馬鹿どもに、夜の『特売タイムセール』の恐ろしさ、たっぷり教え込んだろか」
うちは、アイテムボックスの奥から、大量の「オレンジ味」と「イチゴ味」の飴ちゃんを取り出した。
夜の闇に包まれた絶体絶命の包囲網。
この絶対不利の状況から、大和郷の歴史に残る奇跡の大逆転……オカン流のトンデモない「特売ダッシュ(夜襲)」の幕が、今ここに切って落とされようとしとったんや。
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