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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第7章:戦国大和郷! オカンの特売戦術と天下分け目の株主総会

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第104話 白衣の病弱軍師と、二人の天才軍師の北上

 関白軍の最後の防衛線。その奥深くにある本陣の天幕では、一人の男が、深夜の薄明かりの中で激しく咳き込んどった。


「……ゴホッ、ゲホォッ……! まだだ、まだ布陣に隙がある……。薩摩の、あの黒戸の計算を凌駕するには……ゴホッ!」


 真っ白な羽織を血で汚しながら、机にかじりついて図面を引いている青白い顔の青年。彼こそが、関白のもう一つの頭脳、天才軍師の『半月』や。


「半月様! もうお休みください! お命が持ちません!」


 側近が止めるのも聞かず、半月は震える手で筆を握り続ける。


「……駄目だ。私が倒れれば、関白殿下は終わる。……この命、殿下のために使い切ると決めたのだ……!」


 美しくも悲壮な、忠義の姿。


 ……やけど、そんな湿っぽい空気を、シャカシャカという場違いな足音が完全にぶち壊した。


「やかましいわ! 命使い切る前に、有給やすみ取らんかい!」

「なっ……!?」


 天幕の入り口がバサッと開き、ヒョウ柄のポンチョを羽織ったうちが、特大のゴミ拾いトングを肩に担いでズカズカと踏み込んできた。

 外の護衛は、すでにアレンと佐吉が峰打ちで静かに眠らせとる。


「き、貴様は……薩摩の妖女……ゴホッ!」

「妖女ちゃうわ、お節介な出張鑑定士や。……あんた、えらい顔色悪いな。死相が出まくっとるで」


===========


 半月は咳き込みながらも、近くにあった采配を握りしめ、うちを鋭く睨んだ。


「……私を殺しに来たか。だが、遅いぞ。すでに防衛の図面は完成している……ゴホッ!」

「殺す? 誰がそんな面倒なことするかいな。あんたを殺しに来とるのは、あんた自身と、あんたを酷使してる関白っていうブラック社長やわ!」


 うちは半月の机まで歩み寄ると、彼が命を削って描いた図面を、バサッと無造作に取り上げた。


「返せ……! それは、私の生きた証……!」

「こんなもんが証か? あんた、自分が死んだ後、関白が『よう働いてくれた』って泣いてくれると思てんの? アホ言いな。ブラック社長はな、代わりの駒が壊れたくらいにしか思わへんわ!」


 うちはアイテムボックスから、鮮やかな赤色の『イチゴ味』と、黄色の『レモン味』の飴ちゃんを取り出した。


「ええか、兄ちゃん。命削ってする仕事なんて、この世に一つもあらへん。あんたのその優秀な頭脳は、もっと自分が楽しく生きるために使うべきや!」


 うちは、咳き込んで口を開けた半月の口の中に、二つの飴ちゃんを同時にポイッと放り込んだ。


「んぐっ……!? な、なにを……ゴホッ……あ……?」


 半月が吐き出そうとした瞬間、強烈な果実の甘みと酸味が、彼の舌の上で弾けた。

 次の瞬間、彼の肺にこびりついていた重苦しい熱が嘘のように引き、すり減っていた体力が内側からゴウゴウと湧き上がってきたんや。


「……な、なんだこれは……。呼吸が……息が、苦しくない……? 体が、羽のように軽い……!」


 半月は信じられないものを見るように、自分の両手を見つめた。数年ぶりに味わう、健康な肉体の感覚や。


「せやろ。おばちゃんの特効薬や。……病気が治ったら、急に冷静になってきたんちゃうか?」


 うちはパイプ椅子を出して彼の前に座り、ニヤリと笑った。


「……確かに。私は、何という無駄な死に急ぎをしていたのだ……。こんなにも世界はクリアで、考えるべき戦術は山ほどあるというのに」


 半月の瞳から、死への執着(ブラック洗脳)が完全に消え去り、極めて冷静な、生気にあふれる天才軍師の光が戻った。


「気が済んだか? ほな、商談成立や。今日からあんたは、うちら薩摩のホワイト陣営で、その頭脳を存分に振るいなはれ!」


「……フッ。まさか、一粒の飴で、私の命と忠義を買い取るとは。……負けましたよ、静江殿。この健康な体、あなたの陣営のために使いましょう」


===========


 こうして、関白軍の最強の盾であった天才軍師・半月は、おばちゃんの飴ちゃんによってあっさりと薩摩へと寝返った。


 これで、黒戸と半月という、大和郷を代表する二人の天才が、うちらの陣営に揃ったんや。


「……静江さん。これ以上の無駄な血を流さないあなたの『生活第一の戦』……我々も完全に理解しました」


 後日、堺の陣所で、黒戸と、すっかり血色が良くなった半月が、うちの前に並んで頭を下げた。


「せや。力でねじ伏せるんやのうて、相手の財布と胃袋を握るんが一番の近道や。……で、あんたらに頼みがあるんやけど」


 うちは、その後ろに控えている佐吉と久義を指差した。


「この若いの(佐吉と久義)、気合と度胸は申し分ないんやけど、ちょっと脳筋が過ぎるんや。……あんたら二人、この子らが率いる『北側方面軍』の軍師として付いていってくれへんか? 東のタヌキ親父が動く前に、北側の憂いを完全に無くしておきたいんやわ」


 黒戸と半月は顔を見合わせ、不敵な笑みを浮かべた。


「承知いたしました。我ら二人の頭脳があれば、日本海側の敵など、赤子の手をひねるようなもの」

「ええ。佐吉殿、久義殿。我らの計算と、あなた方の武勇……最高の舞台を用意しましょう」

 「おおっ! 頼もしいぜ!」と佐吉が目を輝かせ、「ククッ、北の血をすべて刈り取ってくれるわ!」と久義が物騒に笑う。


 おばちゃんの「特効薬」によって結成された、若武者と天才軍師のドリームチーム。

 彼らが日本海側へと北上を開始したことで、いよいよ関白の命運は風前の灯となり、残る最大の敵、東のタヌキ親父との最終決戦の時が、静かに、けれど確実に迫りつつあったんや。



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