第103話 堺の大宴会と、立派になった孤児
中国地方から瀬戸内海の湾岸エリア、そして大和郷最大の商業都市である『堺』の港まで。
狂戦士と化した水軍の特売ダッシュによって、西の制海権を完全に掌握した薩摩軍は、久しぶりの平和な夜を迎え、堺の陣所で盛大な宴会を開いとった。
「ガハハ! 飲め飲め! 関白の蔵からぶんどった酒じゃ! 今日は無礼講じゃあ!」
「チェストォォ! 堺の魚は美味いのお!」
薩摩の武将たちが、樽から直接酒を煽り、大声で笑い合っとる。
うちは陣所の奥に敷かれた緋毛氈の上にどっかと座り、山盛りの刺身と白いご飯を頬張りながら、その賑やかな光景を眺めていた。
「……静江さん。本当に、ここまであっという間でしたね。西日本は完全に我々薩摩軍の支配下です」
隣でアレンが、少しだけ得意げにお茶をすする。
「せやな。でも、一番の強敵である中央の関白と、東でタヌキ寝入りを決め込んどるあのタヌキ親父が残っとる。……あのおっちゃん、完全に引きこもって、こっちが関白と削り合うの待っとるで」
うちがタロットカードの『隠者』を指で弾いた、その時やった。
陣所の外から、地響きのような足音と、若々しくも野太い声が響いてきた。
「――日本海側方面軍、只今帰還した! 北の海路と山城、すべて俺たちが掃除してきたぜ!」
「おおっ!? その声は!」
ズカズカと陣所に入ってきたのは、島津の若殿・久義や義家、そして……彼らの先頭に立つ、一人の立派な若武者やった。
背はすっかり伸び、引き締まった体には使い込まれた立派な鎧。その顔つきには、かつて村を焼かれて泣いていた孤児の面影はなく、数多の修羅場をくぐり抜けて部下を束ねる「将」としての静かな迫力が宿っとった。
「……佐吉! あんた、佐吉か!」
「ただいま、おばちゃん。約束通り、北の海を制圧して合流したよ。俺、少しは一番上に近づけたかな?」
佐吉がニカッと笑い、深々と頭を下げる。
うちは手から箸をポロリと落とし、目頭が熱くなるのを抑えきれんかった。
「……アホ、立派になりすぎやわ! ほんまに……怪我してへんか? ちゃんと飯食うてたんか!」
うちは立ち上がり、佐吉の肩をバシバシと叩いて、そのまま自分の横に強引に座らせた。
「アレン! そこの一番ええ鯛の塩焼きと、白ご飯、山盛りで持ってきたって! 佐吉、あんた腹減っとるやろ、遠慮せんと全部食べなはれ!」
「おわっ!? ちょ、おばちゃん、そんなに食えないって!」
うちはオカン全開で、佐吉の茶碗におかずを山のように積み上げた。
若武者として箔がついた佐吉も、うちの前ではタジタジになっとる。その光景に、陣所中がドッと温かい笑いに包まれた。
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宴会が落ち着き、諸将が寝静まった深夜。
うちらは陣所の奥で、佐吉たち日本海側方面軍と、うちの陣営に下ったばかりの天才軍師・黒戸を交えて、今後の作戦会議を開いとった。
「……日本海側と瀬戸内海、両方を押さえたことで、関白の首根っこは完全に押さえました。ですが……」
黒戸が、広げた地図の上で苦虫を噛み潰したような顔をする。
「関白の本陣へと続く最後の防衛線、あの堅牢な山城だけが、どうしても崩せません。……私の計算を、すべて一手先で読んで防いでくる者がいるのです」
「黒戸の兄ちゃんの計算を上回る? そんな天才がおるんか?」
うちが尋ねると、黒戸は重々しく頷いた。
「ええ。かつての私の同僚であり、この大和郷で私と並び称されるもう一人の軍師。……名を、『半月』と言います」
「半月……。なんや、ロマンチックな名前やな」
「……彼は、重い労咳(病気)を患い、本来なら床に伏せているはずの男です。ですが、あの男は命を削り、血を吐きながらでも、関白のためにえげつない策を献上し続けている。……彼の『直感と閃き』は、私の数式では計り知れないのです」
病気で死にかけやのに、無理して働いとるやて?
その言葉を聞いた瞬間、うちの脳内で『ブラック企業』というアラートがけたたましく鳴り響いた。
「……アホか。病気やのに働かせる関白も関白やし、命削って仕事するその半月って兄ちゃんも大アホや! そんなん、ただの自己満足の洗脳やないか!」
うちは机をバンッ! と叩いて立ち上がった。
「黒戸! その半月がおる陣地、案内しなはれ! おばちゃんが直接乗り込んで、そのブラックな働き方、根本から叩き直したるわ!」
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