第102話 狂戦士の海戦と、特売詰め放題のルール
大和郷の中央と西を繋ぐ、波の穏やかな内海
。
そこにある関白軍の補給港では、守備隊の兵士たちが、朝霧の向こうから迫り来る無数の船影を見て、慌ただしく鐘を鳴らしとった。
「て、敵襲だ! 西の海将、森一族の船団だぞ!」
「弓を構えろ! 奴らの水軍は陣形を重んじる! 鶴翼の陣で来るはずだ、火矢の準備を――」
守備隊の将が指示を出し終える前に、彼の目は信じられないものを見て点になった。
森一族と、それに続く四国勢の連合艦隊。彼らは「陣形」などという小賢しいものを完全にかなぐり捨てていた。
横一列に並ぶどころか、すべての船が我先にと、港の防波堤めがけて「一直線のダッシュ」をかましてきとったんや。
「関白の犬ども! 我ら森一族が味わったブラックな下請けの恨み、今ここで晴らしてくれるわ!」
「我ら四国勢も続くぞ! 薩摩の兄弟分として、初太刀は譲らん! チェストォォォォォッ!!」
かつては「船を鎖で繋ぐなど愚の骨頂!」と常識的なことを言っていた海のプロフェッショナルたちが。
そして、四国で慎重に生きてきた猛者たちが。
血走った目をひん剥き、船の舳先に立って、完全に「薩摩の狂戦士(脳筋)」と同じ奇声を上げとる。
ドゴォォォォンッ!!
森一族の先頭の船が、減速することなく港の軍用防波堤に激突し、木っ端微塵に砕け散る。だが、それに乗っていた兵たちは、船が壊れる衝撃をそのまま利用して宙を舞い、関白軍の陣地へと直接斬り込んでいった。
「な、なんだあいつら! 陣形もクソもない! 船ごと突っ込んできやがった!」
「ヒィィッ! 狂っている! 逃げろぉぉっ!」
関白軍の守備隊は、完全に常軌を逸した「狂戦士の特攻」を前に、弓を射ることも忘れて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
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「……なぜだ。なぜ誰も、私の指示通りに動かないのだ……」
連合艦隊の旗艦。その後方にある安全な甲板で、うちらの陣営にヘッドハンティングされたばかりの天才軍師・黒戸が、顔面を蒼白にして胃のあたりを強く押さえとった。
「私が徹夜で、風向きと潮の流れを計算し尽くした『完璧な鶴翼の包囲陣』の図面を渡したはずだ! なぜ全員、それを無視して嬉々として死地に突っ込んでいく!? あれではただの玉砕ではないか!」
完璧主義の黒戸にとって、自分の美しい計算式が「気合とチェスト」という原始的な暴力で踏みにじられるのは、耐え難いストレスやった。
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ヒョウ柄のポンチョをはためかせながら、胃を痛める黒戸の隣にどっかと座り込んだ。
「しゃあないわ、黒戸の兄ちゃん。あいつら、薩摩の連中と一緒にご飯食べてるうちに、すっかり『脳筋のウイルス』に感染してもうたんや。関白への恨みも溜まっとるし、今は頭より体が先に動くお年頃なんやわ」
「お年頃で済むか! あのままでは、敵の港を落とせても、こちらの船が何隻沈むか分からん! 修理費と人命の損失を考えれば、完全に大赤字だ!」
「せやな。船壊されたら、後で修理代かさむのはうちも困るわ。……ほら、兄ちゃん。これ舐めなはれ。胃に穴が開くで」
うちはアイテムボックスから、鮮やかな黄色の「レモン味」の飴ちゃんを取り出し、黒戸の口に強引に放り込んだ。
「んぐっ……!? またこの甘露か……。……しかし、確かに、キリキリと焼け付くような胃の痛みが引いていく……」
「兄ちゃんは、前線で指揮棒振るうより、後ろで算盤弾いてる方が向いとるわ。……あいつらの手綱は、おばちゃんが引いたる。あんたはそこで、奪った物資の計算(経理)だけしといたらええねん!」
うちは立ち上がり、舳先へと進み出た。
そして、アイテムボックスからカイルが作った『拡声魔法の魔道具』を取り出し、それを口元に当てて、港で暴れ回る森一族と四国勢に向かって、腹の底から怒声を響かせた。
「こらーーーッ!! あんたら、ええ加減にしなはれ!!」
おばちゃんの凄まじい怒声が、戦場の喧騒を切り裂いて港全体にビリビリと響き渡る。
狂戦士と化していた森の長兄や四国の武将たちが、ビクッと肩を揺らして動きを止めた。
「静江殿! なぜ止める! 憎き関白の港だ、火を放ち、すべてを灰燼に帰してやる!」
「アホか! 壊したらもったいないやろが! それにな、民家や町人の店には絶対に手ぇ出したらアカンで! うちらは泥棒やない、出張鑑定に来ただけや!」
うちはメガホンを持ったまま、港の奥にある重厚な軍用の蔵をビシッと指差した。
「よう見ときや! 関白が町の連中から巻き上げて溜め込んどる米、武器、それに火薬! あそこの『関白軍の蔵』だけが、今日からうちら連合軍の『特売の詰め放題会場』やで!!」
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「と、特売の……詰め放題……?」
血走っていた武将たちの目に、ポカンとした戸惑いが浮かぶ。
「せや! 町のもんを壊すんやない! 関白の隠し財産を限界まで船に積み込んで、うちのルミナ商業ギルドに持ち帰るんや! 船に積めるだけ積んだ奴が、今日のMVP(一番手柄)や! ほら、ボサッとしてんと、さっさと米俵担がんかい! あ、ついでに町の人らにも、米一俵ずつお裾分けしたれ!」
おばちゃんの「町民保護と節約術」が組み合わさった略奪許可が出た瞬間。
狂戦士たちのモチベーションが、破壊から「強奪」へと見事にシフトした。
「お、おおぉぉっ! 特売じゃあ! 関白の米はすべて俺たちのものだ!」
「四国の船は積載量が大きいぞ! 町の衆、安心しろ! 俺たちが頂くのは関白の蔵だけだ! ほら、あんたらにも米を分けてやる!」
彼らは嬉々として関白軍の蔵から米俵や武具を運び出し、自分たちの船へとピラニアのように群がって積み込み始めた。
怯えていた町民たちは、家を焼かれるどころか笑顔で米を渡され、「な、なんだこの親切な軍隊は……!」と、逆に関白軍への怒りを爆発させて、うちらの荷運びを手伝い始める始末や。
旗艦の甲板で、胃痛が治まった天才軍師・黒戸は、その光景を見てパチパチと手元の算盤を弾いていた。
「……なるほど。無駄に血を流す破壊を防ぎ、民衆の支持(お裾分け)を得つつ、敵の兵站だけを完全に破壊する……。気合と狂気を『特売』という名で統制する、極めて理にかなった『超・合理戦術』だ。……静江殿、あなたの頭脳は、私の数式をはるかに凌駕している」
黒戸の瞳に、冷徹な計算と、おばちゃんの「生活の知恵」への深い尊敬の念が宿り始めとる。彼もまた、この連合軍のペースに完全に染まりつつあった。
「せやろ? 使えるもんは敵の財布でも使う! けど、一般人からは絶対に奪わん! これがおばちゃんのやり方や!」
うちはメガホンを下ろし、ガハハと笑った。
関白への恨みと薩摩の狂気が、おばちゃんの「特売詰め放題」によって見事なエコ活動(民衆救済)へと昇華された内海の強襲戦。
港の軍用蔵を次々と空っぽにされ、西の流通を完全に断たれた中央の関白は、いよいよ逃げ場のない「大赤字」のどん底へと追い詰められようとしとったんや。
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