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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第10話 飴ちゃん外交と、鉄の守銭奴

 エルゼが屋敷で「膿」を出し切ってから数日。

 ルミナの街は一見、平和そのものや。けど、うちの占いのカードには、北の侯爵領から伸びてくる「毒蛇」の影がはっきり出とる。


「静江さん、今日もお客さんが表まで並んでますよ。……でも、あそこに止まってる黒塗りの馬車、さっきから動かないんです。中からこっちをじっと見てる気がして……」


 アレンが窓の外を気にしながら、声を潜めて言うてきた。うちは鼻先でフンと笑って、鏡の前で特注のヒョウ柄スカーフをピシッと巻き直す。


「ええねん。あんな立派な馬車で来るんは、相談料をぎょうさん持っとる『金づる』か、あるいはこの街の財布を握っとる『親玉』のどっちかや。アレン、ええ茶葉淹れとき」


 その時、酒場の扉がバァーン! と勢いよく開いた。

 入ってきたんは、指という指に宝石を嵌めた、うちより少し年上の恰幅のええ老婆や。周囲を固める用心棒たちの殺気も凄いが、その老婆自身から放たれる「カネの匂い」と「威圧感」が、酒場の空気を一瞬で塗り替えた。


「どいつだい? 飴一つで伯爵家の令嬢を化け物に変えたっていう、不遜な占い師は!」


 老婆の声が店内に響き渡る。客たちが一斉に沈黙し、コップを置く音さえ消える中、うちは悠然とエールを煽った。


「うちやけど。……あんた、ええ帯締めとるなぁ。それ、相当ええ店知っとるやろ。センスあるわぁ」


「……ほう、目利きだけはできるらしいね。私は商業ギルドの長、バネッサだ。あんた、うちの街で勝手な商売して、秩序を乱すのは私が許さないよ」


 バネッサと名乗った老婆は、うちの真正面にドカッと座り込んだ。

 アレンが背後で息を呑むのがわかる。けれど、うちは平気や。こういう「自分に自信があるおばちゃん」との交渉は、大阪の商店街で何千回とやってきた。


「秩序ぉ? 硬いこと言いなはんな。うちがおらな、今頃この街は侯爵家に実質乗っ取られて、あんたらの商売も重税で干上がってたんとちゃうか?」


「ふん。……令嬢がハンスを切り捨てたのは確かに見事だ。だが、そのせいで侯爵家が激怒して、北との交易路を封鎖しようとしている。おかげでうちの商人は大損さ。あんた、どう落とし前つけるんだい?」


 バネッサの目は笑ってへん。完全に「損得勘定」でうちを値踏みしとる。

 ふと、うちは彼女の顔色を見た。頬の痩せ方、そして時折、胃のあたりを不自然にさする指先。


「落とし前、なぁ……。バネッサさん、あんた、さっきから何度も胃を押さえてるな。……忙しすぎて、まともに飯も食うてへんのとちゃうか? カネ数える前に、まずはこれ、食べ」


 うちはアイテムボックスから、一粒の「メロン味」の飴ちゃんを取り出した。


「メロン味や。うちのお気に入り」


「……ふざけるんじゃないよ、たかが飴玉一つで――」


「ええから黙って舐めなはれ! おばちゃんの言うことに間違いはないんやから!」


 うちは強引に、バネッサの口にメロン味を放り込んだ。

 一分、二分。

 飴が口の中で転がるにつれ、バネッサの表情から、険しい「疲れ」がほんの少しだけ和らいだ。


「……なんだい、これは。胃のムカムカが、少しマシになった気がするね。……それに、なんだか今日は、もう少しだけ働けそうな気分だよ」


 バネッサは驚いたように自分の腹に手を当てた。


「あんた……。ただの占い師じゃないね」


「せやろ? 気が紛れたところで、商談といこか。……あんたらのギルド、今、侯爵家への納品を渋ってる奴らがおるやろ?」


 うちはおもむろにカードを三枚、テーブルに叩きつけた。


「侯爵家が交易路を封鎖する? 笑わせんといて。……物止めたら、向こうが困るだけや。困ったら泣きついてくる。その時に高く売ったらええねん。……そのための『きっかけ』を、うちがカードで作ったるわ。ピンチはチャンスや。もっと大きく儲けたいと思わんのか?」


 バネッサの瞳に、ギラリとした「守銭奴の光」が戻った。

 彼女は、うちのハデハデなスカーフを指差して、豪快に笑い出した。


「……ハハハ! 気に入ったよ、このハデハデ占い師! あんた、占いの皮を被った『強欲の魔女』だね!」


「魔女やなんて、失礼やわぁ。……ただの、おせっかいなおばちゃんや。……で、どうする? うちの令嬢と一緒に、侯爵家を丸裸にしてみる気はある?」


 バネッサは立ち上がり、差し出されたうちの手を無視して、鼻を鳴らした。


「いいだろう。商業ギルドは、エルゼ令嬢を全面的に支持するよ。……ただし、静江。あんた、面白いけど私は信用せんよ。一回でも失敗して損を出したら、即座に切り捨てる。その時は、覚悟しな」


「あはは! ええねぇ、その冷たさ! 嫌いじゃないわ。……商売はシビアにいかなあかんな!」


 酒場に、おばちゃん二人の笑い(と火花)が響き渡った。

 アレンが呆れたように溜息をついているけど、これで「ルミナの財布」を動かすパイプができた。


「……さぁて、アレン。次は、侯爵家から派遣されてくるっていう、気取った占星術師のお相手や。……星の動きばっかり見てんと、足元注意せなあかんでぇ、っておばちゃんが教えたげんとなぁ」


 静江は再びエールを飲み干した。



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