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此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第四章】此彼村・村境
6/9

 バス停あるある。バス停の名前にもなっている建物や目的地が、バスの停留所から離れがち。


 此彼村もそうらしく、バス停を離れると車道も歩道もごっちゃになっているトンチンカン山道になっていた。右手は車道、左手に見えるのは雑木林の謎急斜面。怪異どころか熊が出そうだと警戒していれば、先にバスを降りていたはずの青年が声をかけてきた。


「あの、お金」


 そう言って青年はバス料金を差し出してくる。どうやら私を待っていたらしい。


「別にいいよ」

「いや、でも」


 青年はどうしていいか分からない顔をする。知人ならまだしも他人に強く出れないのだろう。こういう時の善意のやり取りは面倒くさい。受け取るのが失礼か受け取らないのが失礼か論。


 そしてこういう絶妙な知人かどうか分からない関係性で目的地が一緒というのも中々面倒だ。


 青年も似たようなことを考えているのか、こちらを探るように歩幅を合わせている。私が足を止めると、青年は一拍置いて止まった。


「祠だ」


 車道と反対側、雑木林の茂る木々の合間から祠が見えた。


 編集長から送られてきた漫画家のPDFファイルの地図と似てる。左斜め下に描かれた祠。


 多分これが、あの地図の祠だ。


「こういうのはとにかく挨拶しておくに限るよ」


 私は祠に向かった。祠の傍には看板と賽銭箱があった。


「さっきのお金、ここに入れておいて。私今財布出すの面倒だから」

「え、あ、でも」

「まあ、普通に、飲み物用に取っておくのもアリだと思うけど、ここら辺、井戸水とかみたいだし、自販機あれば、そっちのほうがいいだろうから」

「あ、ああ」


 青年は迷い、最終的に私の顔を見て賽銭箱にお金を入れた。意思決定に難あり、映像サークルと言っていたが立ち回りは監督やカメラマンではなさそうだ。


 私は祠に頭を下げ、手を合わせた。


 こういう時に、お邪魔します、みたいな挨拶はしたほうがいいようなことを聞いた。


 ──漫画家を探しに来ました。荒らしに来たんじゃありません。


 私は身元証明をしたあと、少し考えて、もう一つお願いした。


 ──西ヶ住希乃ちゃんが無事でありますように。


 こんなものだろうと、私は一応の挨拶を済ませた。青年は私の様子を観察し、真似る。


 一応青年のお金で挨拶をしているので青年の願いを待っていれば、青年は顔を上げた。


「えっと……ここ、なんのご利益があるんでしょうね」

「さぁ、看板に在るんじゃないかな。そもそもご利益とかじゃなく土地を納めてるタイプの神様かもしれないし」


 私は看板を見る。『三沙輪様』と記されていた。


 これおじいさんが言っていた『みしゃわさま』では?

 よそ者が嫌いな神様に挨拶した可能性出てきてしまった。


 よそ者二人がよそ者のお金を入れて願う、神の視点では最悪なのでは。


 私は後悔しながらも、看板の写真を撮る。覚えていられないし漫画家の手がかりになるかもしれないからだ。


 ≪三沙輪様≫

 三沙輪様はこの此彼村に古くから伝わる神様です。


 木枯れ、かつては何もなかったこの土地は、三沙輪様の降臨により変わりました。


 川を引き、命を育み、生命の故郷に変えてくださった三沙輪様。


 此彼村にとって、三沙輪様はかけがえのない大切な神様です。


 三沙輪様は自然を愛し、この土地が豊かになり、子供が笑って生きられることを望みます。


 幸せであれ。


 幸せであれ。


 三沙輪様は豊穣の神様ですが、あなたの幸せを祈ります。


「やばいっすね、こわ」


 青年は露骨に引いていた。


「ホラーの撮影で来たんじゃないの?」

「いやっ、あの、なんか、決める人間は別っていうか」


 青年は話題の矛先を逸らしてくる。


「へー、あとの四人は先に行ってるって言ってたけど、どこに?」

「はい、多分。地図とか持ってるんで、それ頼りに行ってんじゃないですか」


 四人の居場所を聞いているつもりだが、青年はさらに話題を逸らしてきた。


「地図? ネットにあったの?」


 此彼村の地図はネットに無い。マップアプリでは木しかなかった。


「いや、本です」

「本?」

「オカルト系の本があって、これです」


 青年はバックのポケットからA4のコピー用紙を取り出した。


 編集長からもらった漫画家のPDFファイルにのっていた地図と似ている。


 同じ村の地図なわけだから、似てるも何もないけど。


 正方形の図面に、上に向かって山を描くような絵。地図の上部はお屋敷みたいなものがあり、下のほうにはぽつぽつと民家がある。


 そして真ん中には、祠の絵があった。私は振り返って、さっき手を合わせていた祠の屋根を見る。


 屋根の形が違う。これじゃない。


 左斜め下には、祠がない。


「これなんて本に載ってた?」

「そこまでは……」


 青年は視線を落とす。言い辛いのではなく本当に覚えてないようだ。


 本にあるならネットに無いわけだ。本の内容をネットにアップするのは引用や参考図書等の問題もあるから、そのまま貼り付けるのは特に扱いが難しくなる。一般人は許可を取って承認を待ち掲載するよりも未掲載を選ぶだろう。


 行方不明の漫画家も、同じような本から着想を得たのだろうか。


 でも地図の絵柄が違う。


「著者はこの村にまた調べに行って、死んでるっていうので、そういうところがいいって、サークルの奴らが気に入って。事件があったんですよここ」

「事件?」

「はい。五十年前に、ここで──」

「あ、福爲(ふくい)──‼」


 山道を歩いていると、前方から明るい声が響く。


 視線の先には、男子大学生2人と女子大生2人が青年よりも軽装備で立っていた。


 どうやらこの青年の名前は福爲というらしい。


「福爲」


 呼びかけると、「あ、はい」と青年はこちらを見た。


 やはりこの青年は福爲という名だ。


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