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此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第二章】廃村へのバスロータリー
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行方不明の女の子

 会社を出た後、私は前の刊行でお世話になった寺と神社に向かった。


 一般的に寺は仏、神社は神を奉り、寺は退ける、神社は浄化するみたいな話を各々神主と僧侶から聞いたが「担当作家がホラー書くので、なにかあったら嫌なんです」との一点突破で札やお守り、お神酒を求めて作家に押し付けた。


 今回、深夜に押しかけたわけだが両者ともに協力は得られた。


 ということで私は、神社からお神酒、寺から札を仕入れた状態で、バスを乗り継ぎ此彼村に向かった。


 寄り道した分もあるが、会社から此彼村の最寄り駅までは四時間。その後は『本当の田舎を知っているか。バスが、四時間に、一本しか、ない』という作家の言葉通り、四時間に一本しか来ないバスを待つことになった。


 現在時刻は12時40分。


 此彼村行きのバスは9時、13時、17時で終わりだ。四時間に一本しかないバスを抱えているような駅なので、普通に都会の駅とは活気も雰囲気も全く違う。外壁の塗装はここ二十年手つかずといった感じだし、掲示板にはフリー素材のイラストを駆使して作った雑多デザインのポスターと、全国区で整えられたであろう防犯ポスターが並んでいる。


 その隣には、ネットで見た情報を補うようなポスターが貼られていた。

西ヶ住(にしがすみ)希乃(きの)ちゃんを探しています』

 西ヶ住希乃ちゃん6歳。


 5歳の誕生日のバースデーケーキを前にした、キャラ物ニットを着た女の子の写真。


 行方不明になって、誕生日を迎えた子供。


 6歳の姿は誰も見てない子。


 じっと見ていると、カートを引いたお婆さんが声をかけてきた。


「あんたよそから来たのかい」

「え」

「そんなでっかいリュック背負って」


 そう言って私の背を見るお婆さんのカートには長ねぎと大根が突っ込まれている。靴はマジックテープ式。地元住民のようだ。お婆さんはしわくちゃで血管の浮き出ている手をゆっくりと私に向けてきた。


「あっちに行っちゃだめだよ。そこの、バス停の先、チラシ配ってんのいるだろ」

「ああ」


 お婆さんの言う通り、バス停の先ではチラシを配っている男がいた。


「あれ、これの父親だよ。受け取らないと追っかけまわされるからね。行きも野暮ったいのがとっ掴まってねえ、お役所勤めだかなんだかで、大変だったんだから」


 どうやら親切心の声掛けだったようだ。一瞬、お婆さんそのものを警戒してしまった。


「大変?」

「もう死んでるだろうに、土日になるとずーっとあそこで配ってんだ。あそこで物なんて配っちゃダメなのに、駅員もねぇ、どうにもできないって。警察も色々あるから、受け取らないと追っかけるってんで、大変なんだよ。やもめだからって」

「ありがとうございます」

「うんうん、気をつけな」


 お婆さんはお礼遮るようにして、ガタガタカートを引きながら歩いていく。配ったものを受け取らないと追いかける。今の時期、そんなことをしたらSNSにアップされてしまいそうなものだが。私は『西ヶ住希乃 父』と検索してみる。しかし、SNSアカウントでは同情の声が多く、そもそも駅でチラシ配りをしているような記事はニュースサイトだけが取り上げていた。


 そしてまばらに、名探偵気取りの無責任な邪推が並ぶ。


『虐待で殺して山に埋めたとかじゃないですよね?』

『男親という時点で察した』


 捨てアカウントやこういう呟きしかしないようなアカウントかと思いきや、普通に日常生活を送ってるアカウントも並んでいる。


 ──大変なんだよ。やもめだからって。 


 さっきお婆さんはそう言っていた。


 やもめというのは、配偶者と別れた人間のことを示す言葉だ。高齢者は悪気なく使うが、いい言葉か悪い言葉か微妙なところがある。おそらく校閲に入れたら文脈により指摘が入るだろう。


 私はスマホに保存していた、西ヶ住希乃ちゃんの行方不明事件のブックマークを開いた。


≪此彼村女児行方不明事件≫


 11月◎日午後20時頃、自宅から当時5歳の西ヶ住希乃ちゃんの行方が分からなくなりました。


 その一文に、彼女の身体的特徴や自宅の住所、地図が続いていく。


 要するに、父親が仕事でおらず、自宅で一人で留守番をしているところ、いなくなったということだ。鍵は開けっ放し。家の中に荒された形跡はない。本当なら小学校に入学してランドセルを背負っていたであろう子供の事件。そばには此彼川と呼ばれる大きな川が通っているらしい。川にも捜索隊が入ったが、何も見つからなかったそうだ。


 その川が、此彼村に続いている。


 だからか検索によく引っかかる。実際希乃ちゃんは此彼村のそばの町に住んでいた普通の女の子なのに。


 バスを待ちながら、チラシを配る西ヶ住希乃ちゃんの父を見る。地元住民であろう人間は皆嫌そうにチラシを貰っている。毎日毎日バスロータリーを利用するたびにチラシを渡されれば、ああもなるだろう。顔は覚えるだろうし。顔を覚えてもらうというのが意図であれば、目的は果たされている。忘れられる、関心がなくなることは、捜索の上で痛い。わずかでも人々の関心が残れば、希望が見れる。被害者がどこかにいたときに、誰かが気付いてくれるかもしれないと。


 だからこそ、同期の担当漫画家は、早めに動く必要があった。警察に任せてマスコミを動かすのが手っ取り早いけど、顔が出る。覆面作家で前を出ることを嫌がるタイプらしいので、全国ネットで行方不明者として顔が乗るのは不本意だろう。有名な賞の授賞式で顔が割れるとか、インタビューならまだしも。

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