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此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第六章】此彼村・裏村境
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排除すべき者

「え」


 福爲が驚く。何でこのタイミングでその反応なのか、平野マナは理解できなかった。


 見捨てる気だったんじゃないか。もしや自分だけが助かる気だったのではないか。


 そもそも福爲は荒破翼という女編集者と共にこの山へやってきた。その道中、札について聞いていてもおかしくない。それに荒破翼は編集者だ。この村のことが記された本について、知っていてもおかしくない。むしろ知っているほうが自然だ。


 ならば荒破翼はこの村から逃れる手段を知っていて、それを福爲にだけは伝えていて、福爲は隠していたのでは。


「札五枚ってどうするの? だって、あの女の人、札は五枚って言ってなかった?」

「ヒロキは……最悪いないかもしれない。でも、俺はあの人から札を奪ってでも、村を出ることを優先したい。俺は監督だし。サークルのみんなの安全を、俺は取るよ。何をしてでも」


 辺見ハヤトは覚悟を滲ませながら話す。サークルで撮影した映画が公開になったとき、彼は監督として人々の前に立ち、制作について話をしていた。作業中、辺見ハヤトのやり方に思う所はあれど、最後は必ず納得させてくれる人。それが辺見ハヤトだ。


 辺見ハヤトはみんなを救うことを考えている。


「私も、監督と同じ気持ちです」


 そう平野マナは言うが、計算は違っていた。


 荒破翼本人を排除してでも、橋本ヒロキはもう間に合わないかもしれないと辺見ハヤトは計算している。しかし、平野マナの計算は違う。


 平野マナは、この村を紹介した。


 誰もそれを責めないけれど、平野マナは忘れない。


 サークルの人間の行く先をこの村にした責任が、平野マナには、ある。


 


 サークルは、一旦屋敷に戻ることにした。


「そういえば、お婆さんってなんなんだろ」


 堀井ユリが不安そうに呟く。


「この村がおかしい以上、あのお婆さんもおかしい可能性はあるよな」


 辺見ハヤトが即答する。平野マナは同意できなかった。


「平野?」


 平野マナの沈黙を、辺見ハヤトは敏感に察知してきた。


「さっき、ユリ先輩がいなくなったとき、探してたら、あのお婆さん心配してて、それで、山のほう見に行くって言ってくれてたから……」

「山?」


 堀井ユリが訝しげな顔をした。「それって、なんか、私たちになにかするから、いなくなると困るからじゃないよね……?」と疑うそぶりを見せる。


「それは分かんないけど……」

「分かんないじゃなくない? だって村から出られないんだよ? それに変な儀式とか言ってたじゃん。人がいないから儀式は出来なかったとかって」


 堀井ユリは平野マナをなじるように反論した。平野マナは言葉を詰まらせる。「ほらぁ‼」と堀井ユリは続けた。


 変な儀式のある村を、サークルに紹介した。


 そんなつもりなかった。そもそも止めてた。西ヶ住希乃ちゃんの事件があったから。


 平野マナは行きのバスを思い出す。西ヶ住希乃ちゃんの父親が、必死にチラシを配っていた。平野マナはそのチラシを受け取れなかった。代わりに堀井ユリが受け取り、辺見ハヤトにチラシを渡した。


 そのチラシは、最後──、

「逃げるなアアアアアアアアアアアアアアアア」


 まるで何かのサイレンのような方向が響く。


 山道わき道から、鉈を持った男が走ってきた。男の顔は肩のあたりに黒い靄がかかり、すぐそばにいた辺見ハヤトに襲い掛かる。


「うわっくそっ」


 鉈を持った男は思い切り辺見ハヤトに鉈を振りかぶり、振り下ろした。実体があるのかないのか分からないが、咄嗟にかわした辺見ハヤトのいた場所は、鉈で大きくえぐれた。


「アアアアアアアアアアアアアアア」


 鉈を持った男は辺見ハヤトに掴みかかる。そしてもう一度、鉈を振り下ろそうとしたその瞬間──、

 辺見ハヤトは思い切り札を男に押し付けた。


「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 アクセルを踏み、タイヤを思い切り道路に擦らせたような音が響く。同時に鉈を持った男が揺れ、花火が散るように黒い靄が霧散し、男ごと消えた。


 辺見ハヤトは息を荒くしながら、その場で呆然としている。


 堀井ユリもだ。恐怖で今まで動けなかったようで、がくがくと足を震わせている。


「ご、ごめん、札ごと、消えちゃった」


 辺見ハヤトが謝罪する。


 残り四枚を荒破翼から奪えば五人全員脱出できた札。


 しかし五枚揃わぬうちに、総数が四枚になった。


 堀井ユリは何も言わない。


「大丈夫だよ。大丈夫」


 平野マナは誰も言わない代わりに繰り返す。


 荒破翼どうこう以前に、札は、四枚でいい。


 信用できない、今後サークルの活動に害をもたらすかもしれない存在が、近くにいる。


 そしてその存在は、女である自分や堀井ユリと異なり、辺見ハヤトを助けられる存在だったはずなのに、さっきの鉈の男の襲撃で、棒立ちだった。何も言わず、ただじっとしてるだけ。


 辺見ハヤトを見捨てていた。


 荒破翼の持つ札は四枚。誰かひとりは確実に犠牲になる。


 辺見ハヤトは橋本ヒロキの生存を絶望視している。ゆえに今後橋本ヒロキが見つかった時、辺見ハヤトは苦悩するのだろう。そして誰かを見捨てることに苦悩するのだろうが、平野マナは違う。


 橋本ヒロキが生存していても、何も問題は無い。


 答えは決まっている。今現在、サークル内で誰も言いださないことを、平野マナは言える。


 言う責任がある。


「とりあえず、あのお婆さんが鉈の男をこっちに仕向けたかもしれないし……老婆が今外にいるなら、今のうちに屋敷で荷物を取りに帰ろう」


 辺見ハヤトの言葉に、堀井ユリが「うん」と心細そうにうなずく。福爲は返事をせず黙ってついていく。


 平野マナはその横顔を、観察するように見つめていた。


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