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此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第六章】此彼村・裏村境
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村から出る方法

「ひっ」


 平野マナは思わずしりもちをついた。ずしゃ、と尻にじめついた落ち葉や土の不快な感覚が伝う。


「マナちゃん」


 堀井ユリはゆっくりと平野マナに振り返った。その顔は、いつも通りの堀井ユリの顔だ。


「え、だ、大丈夫、マナちゃん」


 戸惑いがちに堀井ユリは平野マナに手を差し伸べた。しかし、先ほどの空洞の顔が頭に過り、その手が取れない。


 今目の前にいるこの女は、果たして本当に堀井ユリなのだろうか。


 この山には何か霊的なものがあって、堀井ユリは別の存在に成り代わっているのではないだろうか。


「……」


 確かに守りたいと思っていた存在の手が、取れない。


 平野マナが堀井ユリをじっと見つめていると、後ろで「平野、堀ユリ」と辺見ハヤトの声が響いた。彼は福爲を伴い、平野マナたちのいるほうに駆けてくる。


「……っ」


 堀井ユリは怯えた顔をした。平野マナが視線を追うと、その先にいたのは福爲だった。


「何があった……?」

「いや、その……」


 辺見ハヤトの問いに堀井ユリは言いよどむ。しばらくして、「ハヤトがいなくて」と、懐から電子タバコの機械を出した。


「え? あいつどっか行ったってこと?」

「う、うん。これが、廊下に落ちてて……だってヒロキ、煙草吸うんだよ? 落とすわけないじゃん。それに……」

「それに? なんだよ。ハッキリ言えよ」

「出られないの」


 堀井ユリが深刻な顔で続けた。


「出られない?」


 辺見ハヤトがやや苛立った調子で聞き返す。


「この先に、行けない。進んでも、無理で」

「は?」

「み、見てて」


 堀井ユリは山道を進んでいく。姿が見えなくなったところで、「ねえ」と声が響いた。


 さっき、自分たちが見送ったはずの堀井ユリの姿が、背後の道から現れる。


「え」


 辺見ハヤトが眉間にしわを寄せた。「どういうこと?」とまるで責めるように戻ってきた堀井ユリに問う。


「分かんないの。山の中を歩いていたら、来た道に戻ってきちゃって……」

「……待って」


 辺見ハヤトはスマホアプリを取り出し、カメラを前に向けながら、さっき堀井ユリが通った道を進む。しかし堀井ユリと同じように後ろから戻ってきた。


「マジだわ。帰れない」


 辺見ハヤトが愕然とした顔をする。さっき平野マナと二人で話をしてた時、彼は橋本ヒロキが帰ってこないことについて、「取れ高としてはアリ」と若干嬉しそうにコメントしていた。その調子に平野マナは温度差を感じていたが、今の彼は明らかに調子が違っていた。


「ちょっと、福爲、行ってみて」

「え」

「他の奴が行ってるのも撮りたい」

「でも」

「行けよ。お前だけ行かないのおかしくない?」


 自分はまだ行ってない。平野マナは思うが、福爲を積極的に庇いたいとも思えなかった。それに辺見ハヤトがいたとしても、堀井ユリが福爲に怯えた以上、女として離れるのは無責任に思う。


「……」


 福爲は納得していない雰囲気を出しながらも、山道を進んでいく。


 しかし──、

「え」


 福爲は何故か、来た道から戻ってきていた。


「何してんのお前」


 辺見ハヤトがスマホのカメラを福爲に向ける。福爲は「分かんないけど、出れそうで……分かんないから、戻ってきた」と答える。


「は? 意味わかんねえ。行くぞ」


 辺見ハヤトは福爲の肩を掴み、強引にもう一度、堀井ユリが進んだ道を辿る。しかし──、

 辺見ハヤトだけが、後ろの道からやってくる。しばらくして、福爲が来た道から戻ってくる。


「なんで?」


 平野マナはとうとう疑問を口にした。意味が分からない。堀井ユリは村から離れようとして、戻ってきてしまった。辺見ハヤトもだ。まるで連れ戻されるように。なのに福爲だけは、自分の意思で村から逃れることが出来て、怖いからという、自分の意思で戻ってこれる。


「ちょっと福爲札出せ」


 後から戻ってきた辺見ハヤトは、帰ってきた福爲を詰めた。


「え」

「いいからだ出せ」

「あ……」


 福爲はポケットから札を渡す。辺見ハヤトはそれを握りしめると、山道の奥へ走っていく。そしてしばらくして、福爲と同じように帰ってきた。


「札だわ。札があると帰れる。で、さっき俺は福爲と出ようとしたとき、こいつだけ出れた感じだから──一人一枚で、多分、村から出られるし、逆を言えば──札がないと村から出られない」


 福爲が、編集者から貰ったらしい、札。


 その一枚が、この気味の悪い村を出ていく鍵になる。


 しかし、辺見ハヤト、堀井ユリ、福爲、そして自分。


 ここにいない橋本ヒロキが無事だったとしても、五枚必要になる。


 目の前にある札は、一枚のみ。


 誰かが札を使って出て、警察を呼ぶ。しかし、警察を呼んでも怪異に対応できるだろうか。


「札五枚、見つけて、全員で出よう」


 辺見ハヤトが宣言した。



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