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此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第六章】此彼村・裏村境
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四枚の札

 バス停に戻れない。


 どんなに歩いてもどんなに歩いても、看板がなくなったと思ったころに此彼村の看板が現れる。


「出れないのでは」


 私は確信を持ちながら呟く。


「そんなことは」


 山田さんが弱々しく否定しながら、山道を降りる。


 しかし一向に、景色が変わらない。進めど進めど、うっそうと茂る雑木林は増えもしなければ減りもしない。


 景色が変わらない。


 なにひとつ。


 戻ろうとすると、同じところに戻ってくる。ならば村の奥へ行こうとしたらどうなるか。そう考えた私は、地図を頼りに村に戻ることにした。


 といっても村に入ってすぐの民家で下肢のない男に襲われ、そこから走り転がり落ちている。


 この村一帯を、時計で例えると、おそらく行きに福爲と手を合わせた祠が時計の六時の方向、福爲たちの向かった宿が時計の針の中心としたら、今私がいる場所は三時の部分である。そこから針の中心を目指す。とりあえず山道の坂を上がるが──、

「あの……も、戻りませんか? 少なくとも安全な場所に避難していただきたいんですけど……」

「この辺りに安全な場所ってあるんですかね、延々と同じ道でしたよ。村の外に出ようとすると」


 山田さんはあれから果敢に私を連れ村から出ようとしたが、叶わなかった。方向を変え降りようとしても、必ず元の道に戻ってしまう。そして今、私の後についてきている。


「しかし民間の方が探索をするというのは、私が……出口を探すので……」


 山田さんは苦悩交じりに話す。私こと、民間人を安全な場所に置き避難経路を探したいのだろうが、その安全地帯がない。山を降りるという最適解は、何でか来た道を戻るというロジック無視の怪異により捻じ曲げられている。山道で日が暮れたら致命傷。ならば小屋のある村の中に入るしかないが、危険と隣り合わせ。正解がない。


「災害対策基本法において、民間人は連携協力の努力義務に関する条項があったとの記憶ですが」

「確かにそうですが……災害……」


 山田さんは考えている。怪奇現象は災害に該当するか悩ましいところがあるのだろう。政府が怪異の対策について調整中なんて一報が出ようものなら即座にマスコミのネタにされるだろうが、今まさに民間人である私たちが被害にあっている。


「通信遮断も、立派な災害ですよ。緊急通報が不可能な状態ですし」

「しかし、守られるべき対象が──」

「山田さんも、守られるべき国民の一人です」


 私は山田さんに振り返る。彼は驚いたような顔で私を見ていた。


「……編集者さんって、作品作りで法律のこと調べるんですか?」


 しばらくして、山田さんが聞いてきた。


「まぁ、法律系の作品をすれば、ある程度は調べます。ただ私の場合は、前職が法律系の事務職だったんで微妙です。法令は、校正校閲でチェックが入りますしね」

「校閲?」

「文章は作家と編集者だけじゃなく、校正、校閲っていう部署や機関があって、調べるんですよ。誤字脱字のほか、登場人物の名前の呼び方……あと、花とか」


 私は道のわきに生えている彼岸花を差す。


 彼岸花が咲くのは夏から秋。真冬には咲かない。でも真冬の物語で彼岸花が咲いていたら、物語の演出か間違えか、分からない。現代の刑事ドラマでなんの脈絡もなく真冬に彼岸花が咲いていたら、ファンタジーの世界なのか、実は幻覚の世界なのか、混乱を招く。その混乱が著者の伝えたいことの疎外にならないか、調べる。


「なんていうんだろうな、著者の伝えたいことを、誤解させないように、研ぐ」

「かっこいいですね」

「でしょ、ふふ」


 山道を歩きながら、時計を確認する。バスは13時のバスを使った。その後に多分、40分ほど時間をかけた。その後は時計を見ていなかったが、今は16時。日没までは2時間くらいだろうか。


 急斜面を転がった後に意識は手放さなかったが、落下直前に時間を確認していないので、そう思っているだけの可能性はある。


 あの急斜面で転がって死んでいて、今私は幽霊だったりしないだろうか。


「私生きてるんですかね」


 山田さんに聞いてみる。すると彼は一気に怪訝な顔をした。


「念のため……戻ったら病院で検査したほうがいいですよ。頭をうったかもしれないって……なにか気持ち悪くなったりめまいあったりとかは……」

「一切そういう症状は無いんですけど、なんていうか、自覚がないまま死んでたら嫌だなって。自分の手とか結構冷たいので死んでるっぽいというか」


 私は自分の手のひらを見る。透けてはいないが、自分が死んでいることに気付かず、誰かと交流してしまうホラー作品は映画、小説問わず存在する。私がそれになった可能性がぬぐえない。


「あの、腕掴んじゃってましたけど、遺体の温度ではなかったですよ。女性にこんなこと言うのは、良くないというか、難しいんですけど……遺体の感触とも、温度とも、明確に違います」


 山田さんはおそるおそる話す。


 答えづらいことを、聞いてしまったと後悔した。


「でも、それでも、逃げようとはしてくれましたよね」


 恐れの中で、この人は私の腕を掴み山を降りようとした。


「え?」


 山田さんは不思議そうに私の様子をうかがう。私は自分のリュックを漁った。中には札が四枚と、お神酒がひとつ。



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