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番外編「冒険者ギルドとジャガイモについて」

冒険者都市の体制は、その元来の社会構造から変化して誕生した。


冒険者都市は、帝国の中央政府たる連邦議会(クラン)ではなく各加盟都市の議会がそれぞれの決定で建造したものだった。


その社会構造は、主人都市と繋がりを持つ富裕層を保護者(パトロン)としたコミュニティを、一単位として成り立っていた。


このコミュニティはやがて「ギルド」と呼ばれ、保護者にあたる者は「ギルド・マスター」となる。


マスターは主人都市を通じて連盟(クラン)からクエストを受注し、ギルドにてそれを提示する。


いわば下請け構造であり、冒険者たちはマスターから報酬を受け取る。


冒険者たちは実際の報酬から中抜きされた額しか受け取れない一方、文盲であってもクエスト内容を代読してもらえる上、非常時には相互補助の対象となる。


また、揉め事があった際の後ろ盾ともなるなど、ギルドは社会保障として必要不可欠になっていた。


これが制度化され、「ギルド・マスター」が役職となったのがのちの冒険者ギルドである。



各都市が積極的に冒険者都市を建設したのには、2つの背景がある。


ひとつは、北部に点在する遺跡(ダンジョン)からもたらされる財宝である。


ダンジョンには魔物も多数確認され、命の危険を伴ったが、一攫千金を求めて向かう者は後を経たなかった。

そのような場所、またその通り路には宿場町が形成され、それらが冒険者都市の原型となる。


冒険者都市の多くに宿泊施設があるのはその名残であり、後に冒険者たちが通る街道の源流もそこにある。

つまり、都市の介入以前に原型は存在したのである。


もうひとつ、これが主因だが、旧大陸における情勢の悪化が影響している。


旧大陸には、長く繁栄した大国があったのたが、それが崩壊したことにより多数の難民が発生した。


彼らのうち、コネクションがある者たちは新大陸へと向かう。


連盟は、こうした難民を受け入れる方針をとった。


「女神憲章」の理念によるところもあるが、難民の中には、崩壊した大国の先進的な技術をもつ者もおり、その文化の吸収にも期待があった。


ところが、各加盟都市としては、移民を市内に入れることは避けたい、というのが本音だった。


そこで、彼らが目を付けたのが宿場町である。


宿場町には、元来宿泊施設が揃い、また、移送ルートも明確だった。


各都市は宿場町に増設を施し、難民たちを受け入れ可能な水準にした。


その増設は過剰ともいえるほどだった。

特に、中心部に備え付けられた水道設備は、乾いた気候で育った難民たちの目には、楽園のように映っただろう。

全ては、難民たちをそこに留めるための施策である。



しかし、冒険者都市には、致命的な欠陥が存在する。

それは、食糧事情である。


冒険者都市の多くが存在する北部には、農地に適した土壌が少ない。

ほとんどは肥沃とは言い難い草原であり、

少数ながら存在する肥沃な黒土も、連盟軍の駐屯地として占有されていた。

本来なら、宿泊はできても居住などできない土地なのだ。


それが、冒険者都市が自治権を得ることがなかった、もっとも大きな原因である。


冒険者たちの生活インフラは、結局のところ主人都市によって握られていた。

食べ物も、水も、全て管理されていたのだ。


そんな北部では、広く食される作物がある。

南部から持ち込まれたジャガイモである。

地力の低い地域でも育ち、栄養価の高いこの作物は、住民の生活を支えた。


だが、特定の食物に支えられた生活は脆い。


ある時、ジャガイモに感染する病が流行った。

ジャガイモはこの手の感染には弱く、大規模な飢饉となった。


この事件から、冒険者たちは外部からの食糧への依存をますます強め、法外な値段で穀物を購入する他になかった。


「財宝の山を採集しながら、決してこれ以上豊かにならない」


それが古代ナーロッパにおける冒険者たちの現実であったのだ。



後の帝国崩壊と、封建的社会の形成にも、この食糧事情が関係している。


北部に肥沃な土壌は少ないが、広大な草原が広がっていた。

本来なら、そういった環境は牧畜への高い利用価値を秘めている。


実際、帝国期において冒険者都市の食糧事情に、放牧地の生産は大いに寄与している。


肉とジャガイモ。

冒険者の伝統的な食文化の源流はここにあるともいえる。


しかし、牧畜に利用可能な草原は、"ある事情"から非常に限られていた。

また、限られた牧草地すら、ほとんどが駐屯する帝国軍によって占有されていたため、冒険者たちの腹を満たすにはまるで足りなかったのだ。


"ある事情"とは、原住民によるものである。


古代後期、彼らにも大きな変革が起こっていた。


本来、彼らは森林の資源を活用した狩猟・採集民であった。

ところが、帝国の活動で森林を追われるようになる。


抵抗を続ける部族もいたが、異なる道を選んだ部族もいた。


そのころ、旧大陸産の馬が持ち込まれ、北部でも育てられていたのたが、

一部の部族はそれに跨り騎馬民族化した。

草原を大移動する遊牧民的な生活に変化しつつあったのだ。


そのため大草原は異民族の縄張りであり、安全に牧畜ができる状態ではなかったのだ。


異民族討伐のクエストは幾度となく出されたが、誰も果たせなかった。

個人としての武力しか持たない冒険者では、軍隊規模の勢力に対抗できなかったのである。


一箇所にとどまらず、また退却を恥としない、散発的な騎射戦を繰り広げる彼らには、軍団ですら攻撃が難しい。


しかし、魔族の活動が活発化しだすと、その状況も変化する。


圧力に押された諸部族が、定住地を求めて南下するようになったのだ。

大半の部族は敵対したが、一部は帝国に服属する道を選ぶ。


そうした部族は帝国に農地を与えられ、周辺の軍権を握るようになる。

だがそれ以上に、利用可能な牧草地が大幅に増えたことのほうが、歴史に与えた影響は大きかっただろう。


やがて、フィリップの登場を嚆矢として、数々の部族が王国を建て始める。


その独立を実現できたのは、各部族の軍事力よりも、彼らが軍団に占有されていた農地と牧草地を確保できたことによるところが大きい。

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