序章2.「ネウロプ帝国」
イダル人の植民都市群は、当初は互いに独立した都市国家に過ぎなかった。
それらは海路によって結ばれ、交易と防衛のための同盟を結ぶことで、徐々に一つの政治的まとまりを形成していった。
やがて13の有力市が建国を宣言し、連邦議会を結成した。
のちに「ネウロプ帝国」と呼ばれるその国の、正式な国号は、
City League of Adventurers of Neurope
(ネウロプの冒険者たちの都市同盟)
通称CLANである。
名前の由来となったのは、この同盟の守護神、女神ネウロペだった。
彼女は「最初にこの大陸へ渡った存在」とされ、新天地そのものの象徴ともいえた。
この女神の威光は瞬く間に広がって行き、その支配領域は建国当初とは比べものにならない規模となっていく。
やがて、広大な領土を治めるために、強力な権限をもった唯一の調停者が求められるようになった。
都市間の利害調整、原住民との戦争、旧大陸との交易管理――
それらを統括する存在として選ばれたのが、
「マスター」と呼ばれる国家元首であった。
この名称は、当初は単に各分野における「第一人者」、「最も熟練した者」を意味していたに過ぎない。
しかし同盟が国家へと変質するにつれ、「マスター」は次第に、国家そのものの第一人者、盟主を指す言葉へと変わっていく。
定義が曖昧な言葉なため、似たものを指す単語は多い。
盟主、連盟の第一人者、最上位の指令
だか、そのなかに「王」や「皇帝」を意味する言葉はない。
「ネウロペ帝国」とは、あくまで後世の呼称であり、同時代の市民には一度も「帝国」と呼ばれてはいない。
それはあくまで、各都市の自由を前提とした連合体であったのだ。
ナーロッパの歴史は、イダル人と原住民との長い敵対の歴史でもある。
原住民たちは製鉄技術を持たず、青銅製の武器を用いていた。
また、大陸には馬が生息しておらず、戦いはすべて徒歩の兵士によって行われていた。
イダル人は鉄と馬、そして戦車を携えて上陸し、沿岸部から内陸へと勢力を拡大していった。
多くの時代において、両者の関係は敵対的であり、原住民は征討の対象であった。
帝国は境界線を定め、その外側を「文明の外」とみなした。
ただし帝国も後期に入ると、一部の部族とは同盟を結ぶ。
彼らは軍事力として組み込まれ、編成されるようになる。
帝国はその全盛期においては、全世界の中でも圧倒的に高度な文明を持ち、古代世界においては異例ともいえる、奴隷制の廃止すら議論されるようになる。
しかし、その栄光と繁栄も永遠ではない。
むしろ、帝国の崩壊とともに、ナーロッパ世界の変革が始まったとも言えるのだ。




