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二度目のお泊り会と複雑に絡み合う想い

「お、アンリとバノフィーも来たな」

「やぁ二人とも、ごきげんよう」

「アンリちゃんにフレッドくん、ごきげんよう!」


 長期休暇が始まって数日後、アンリはトランクを持つフレッドと共に学園へ登校し、クラブに来ていた。

 と言うもの長期休暇が始まる数日前、長期休暇に入ればなかなか五人で集まる機会が無くなるという話しになった。それならばいっそのこと、長期休暇中にお泊り会を開こうと主にミンスが言い出したのだ。そのため、フレッドの持つトランクにはアンリとフレッド、二人分の寝間着などが詰められている。


 ちなみに去年、初めてお泊り会をするという話になった時、あんなにも渋っていたクイニーだが今回は驚くほどあっさり受け入れた。そしてお母様やお父様も前回同様「楽しんでおいで」と許可を出し、今朝は二人揃って笑顔でアンリとフレッドを送り出した。


「ごきげんよう!みんなは早くに来ていたんだね」

「実はミンスが朝早くに屋敷にやって来て、待ちきれないから早く行こうと言って強引に連れて来られたおかげで朝一には学園に来ていたんだ」

「えへへ、だってみんなと会えるの数日ぶりだったし、楽しみにしていたんだもん」

「だからって朝一に来ても、意味無いだろう。それに巻き込まれる私の気持ちを少しくらい考えてくれ」


 顔を合わせられただけで飛び跳ねて喜ぶミンスと、それを宥めながら冷静に返すザックは相変わらずだ。

 数日ぶりでもいつもと変わらない空気を漂わせる中、アンリの半歩後ろに立つフレッドは何を考えているのか、浮かない表情だ。


「フレッド?どうしたの?」

「あの、僕まで来ちゃって本当に良かったんでしょうか。せっかくの機会ですし、みなさんだけで楽しんだ方が…」


 アンリに向けて、というよりはクイニーやミンス、ザックに問うようにフレッドは口を開く。

 

 そしてフレッドがこうして自らの存在の必要性を問うのは今日が初めてでは無い。昨夜も、それこそお泊り会をすると決まった日からアンリの前でずっと同じ問いを口にしていた。「僕は一緒に行かない方が良いんじゃないか」「迷惑になるんじゃないか」と。

 昨夜、お泊り会の準備を終えた後も同じような事を口にして渋るフレッドに「フレッドが一緒に行かないなら、私も行かない」と言うと、ようやく頷き納得したのだ。だがそれでも内心では同じ疑問を繰り返していたようだ。


「もぉ、なに言ってるのフレッドくん」


 フレッドの悩みを吹き飛ばすように明るく声を掛けるミンス。そして肘掛け椅子に堂々と座るクイニーも遅れてフレッドを呼び止める。


「バノフィー、お前だって今は俺らの一員だろ」


 不器用に告げるクイニーは言い終えた途端、目を逸らす。

 クイニーがそういう事を素直に言うのは珍しく、顔には出さないが驚いてしまう。そして驚きを隠すアンリとは対照的に、突如素直になったクイニーに同じく驚いたザックやミンスはここぞとばかりにクイニーを揶揄う。


「へぇ、クイニーがそんな事を言うなんて珍しいな」

「ね!クイニーってツンデレだし怒ると怖いけど、やっぱり良い奴だよね」

「うるせぇ、俺はお前らの気持ちを代弁しただけだ」


 照れたように目を逸らし吐き出す姿にアンリやミンス、ザックは声を上げて笑う。そしてそんな光景にフレッドもようやく肩の荷が下りたのか自然な笑みを浮かべるとアンリ達の輪に入るのだった。


      ***


「アンリちゃん、そのブローチ可愛いね」


 定位置であるソファーにフレッドと並んで座ると、アンリの制服の左胸に付けられたブローチを目にしたミンスが声を上げる。

 このブローチは先日、フレッドがアンリにくれたスノーフレークのブローチだ。


「えへへ、ありがとう。実はフレッドに貰ったんだ」

「へぇ、そうなんだ〜。フレッドくんはセンスあるね」

「ほんとそうなの!おまけに頭も良くて優しくて、女の子にモテない理由が無いよ」


 勢いよく答えるとミンスは「確かに~」と肯定し、フレッドは照れたのかアンリの隣で困ったように頬を掻く。

 そしてクイニーとザックは複雑そうに笑うが、話に夢中になっているアンリは二人の変化に気がつかない。


 会話に夢中になっていると突如扉をノックする音が響き、室内は途端に静かになる。そしてフレッドが腰を浮かすが、それを制止する。


「いつもフレッドが一番に動いてくれるし、今日は私が出るよ」


 扉の元まで小走りで向かい、扉を引くとおさげの髪を揺らすフルールと今日は眼鏡を掛けていないカリマーが並んで立っている。


「フルール先輩にカリマー先輩!お二人揃って、どうしたんですか?」

「アンリさん、突然押しかけてすいません。みなさんもお久しぶりです」

「実はアンリちゃんに少しだけお話があって、今お時間を貰っても大丈夫ですか?」


 背後を振り返ると様子を眺めていた彼らは「行っておいで」とアンリを送り出す。

 一度廊下に出て扉を閉じると、再びフルールやカリマーと向かい合う。


「それで、どうしたんですか?」

「今日はアンリちゃんに忘れ物を届けに来たんです。これ、アンリちゃんのモノですよね」


 フルールは右手に持っていたカゴを差し出す。そのカゴは先日、フルールのお屋敷にお邪魔した時に持って行った手土産を入れていたカゴだ。そう言えば持って帰るのを忘れていたどころか、今の今まで存在を忘れていた。


「わざわざありがとうございます」


 フルールからカゴを受け取るが、何も入っていないはずのカゴにズッシリとした重さがある。上蓋を持ち上げ中を覗くと、たくさんの焼き菓子が詰められている。


「これ…」

「えへへ、実は昨日カリマーとお出掛けして来たんですけど、途中でお菓子屋さんに立ち寄ったんです。それで今日、クラブで集まるという話を聞いていたので、せっかくですしアンリちゃんにもと思って」

「フルールからアンリさんが一日一緒に遊んでくれたのだと話を聞かせて貰いました。なのでこれは少しものお礼です」

「そんな、気にしなくていいのに…」

「是非クラブの方々と召し上がって下さい」


 アンリに笑いかけるカリマーの隣で途端に瞳を輝かせるフルールはアンリの腕を引くと、カリマーから距離を取り、アンリの耳元で声を抑えて話す。


「アンリちゃん、あれから何か進展はありましたか?」

「え?進展?何のですか?」

「もぉ、アンリちゃんったら。あの方々との進展の事なのです」


 つまりフルールが言いたいのは恋の進展があったかと言うことだろう。だが、クイニーやミンス、ザックと会うのは長期休暇が始まって以来だ。


「いえ、今日はお泊り会で集まったんですけど、今日まで彼らと会えていなかったので」

「まぁ!お泊り会?それはビッグイベントですね!!」


 フルールはより一層、瞳を輝かせる。そして脳内で妄想を広げているのか視線を彷徨わせた後、アンリの胸元のブローチへと視線を持って行く。


「あら?アンリちゃん、このブローチ…」

「え?あぁこれは先日、フレッドから贈り物として貰ったんです」

「まぁ、ついに彼も動き出したんですね」


 フルールは再び妄想世界に戻っていったのかニヤニヤと頬を緩ませながらブツブツと独り言を言っている。

 アンリとフルールの様子を伺いつつも、それまで話の内容が聞こえないように離れた位置に移動してくれていたカリマーは独り言を呟き続けるフルールの元にやって来るとフルールの肩に手を遠慮がちに乗せる。


「フルール、そろそろ戻ろう」

「えぇ、もう少しだけ…」

「アンリさんだってクラブのみなさんと過ごしていた中、わざわざ抜け出して来てくれたんだろう?これ以上は迷惑になってしまうよ」

「うぅ…。じゃあ最後にアンリちゃんのこと、ギューッて抱きしめさせて下さい」


 そう言うとカリマーの返答を聞く前にフルールはアンリの胸に飛び込むと小さな体で力強くアンリの事を抱きしめる。


「はぁ、やっぱりアンリちゃんを抱きしめると落ち着きますぅ」

「こら、フルール」


 上目遣いのままフニャッとした顔で幸せそうな声を出すフルールと、そんな相変わらずのフルールに呆れるカリマー。


 そんな二人を前に途端に疑問が浮かび上がる。

 そういえば二人はなぜここに来たんだろう。今は長期休暇中だ。アンリ達の様にクラブで集まるために学園に来ていたり、よほど成績が悪く補習で登校している学生も居るようだが、フルールとカリマーはクラブには所属していない。おまけに成績は四年生で一位と二位という好成績だったはず。そんな二人が補習で学園に来るというのは無いだろう。


 ちなみに成績の一位はカリマーでは無く、フルールらしい。普段、おっとりしていて可愛い先輩であり友人のため忘れそうになるが、生徒会副会長を務めるフルールはカリマーと同じようにスイッチが入ると、まるで別人の様に真面目な表情に変わるという一面もあるのだ。


「そう言えば二人はどうして学園に?」

「生徒会は長期休暇中でも定期的にお仕事がありますから。今はその休憩中なんです」

「そういう事なのです。だからこのハグも残りのお仕事を頑張るための充電なのです」

「そんな事ばかり言うならフルールを置いて僕は先に戻ろうかな」

「うぅ、それはイヤ…。じゃあカリマー、手を繋いで戻ろう?」

「学生が少ないと行っても、それはさすがに…」


 フルールは渋るカリマーの手を握ると嬉しそうに笑う。そしてそんな笑顔を前にして手を振り解く事は出来ないのか、カリマーもフルールの手を遠慮がちにだが握り返す。

 カリマーは真っ正面から気持ちを伝えるフルールに比べたら不器用だ。でもだからこそ、そんな二人を見ているとホッコリするし、二人の恋を応援したくなる。


「じゃあそういう事でアンリちゃん、私達は戻りますね」


 二人に改めてお礼を伝えると、生徒会室に戻っていく二人を見送ったアンリもカゴを持ち直し、フレッドやクイニー、ミンスやザックの待つクラブへと戻るのだった。


      ***


 アンリが会長や副会長に連れられて廊下へ出ていくと、残された四人は顔を見合わせ微笑んでいた。


「相変わらずアンリちゃんは人に好かれるよね」

「まぁそれがアンリの良い所だな」

「そう言えばアンリ様にバノフィーくんが贈ったというブローチはスノーフレークがモチーフだったかな?」

「はい、そうですよ」

「確かスノーフレークの花言葉には皆を惹きつける魅力というのがあったな」

「確かにアンリを表現している花だな」

「さすがフレッドくん。そんな事まで考えて贈り物を選ぶなんてロマンチストだね」


 そう、アンリには軽く教えたがスノーフレークには純粋、純潔、汚れ無き心、皆を惹きつける魅力という花言葉がある。

 買い物に出掛け、偶然足を踏み入れた装飾品店。ブローチだけで無く髪留めやペンダント、ブレスレット、懐中時計など数多くの装飾品が並ぶ中、あのスノーフレークのブローチを目にした途端、アンリにピッタリな贈り物はこれしか無いと即決したのだ。


「…ねぇ僕、アンリちゃんに気持ち伝えたんだよね」


 静かになった部屋で突如、ミンスは真剣な眼差しで打ち明けた。

 ミンスが気持ちを伝えている場面にフレッドは偶然遭遇していたため、彼の突然の暴露に驚くことは無かったが、そんな事を知らないソアラとレジスは驚き目を見開く。


「なっ、お前もか」

「え?お前もって事はクイニーもアンリちゃんに告白していたの?」

「あぁ、舞踏会のファーストダンスを踊っている時に。まぁすぐに忘れてくれって言ったからアンリがどう受け止めたかは分からねぇけど」


 ソアラから告白された話はアンリから聞いていたし、ソアラから「忘れてくれ」と言われ、どうするべきなのか悩むアンリに相談まで受けた。なにより普段のソアラを見ていればアンリに気持ちを寄せている事など一目瞭然だ。

 だが実際に本人の口から聞くと胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われる。


 ミンスの隣に座り大人しく話を聞いていたレジスはその場で静かに溜息を吐く。


「なんだ、揃いも揃って…」

「良いだろ、別に。俺は思ったことは口に出すタイプなんだ」

「僕もアンリちゃんが好きだから、その気持ちを言っただけだもん」

「いや、そういう意味じゃ無い。ただ想定はしていたが、まさか二人揃ってアンリ様に気持ちを伝えていたなんて思わないだろう」

「って事はまさかザックも…?」

「あぁ、私も学祭の日に伝えた」

「は?お前も?」

「え、ザックもアンリちゃんの事が好きだったの?ザックって顔に出さないし、女の子のことを好きにならないんだと思ってた」

「失礼だな。私は二人と違って思っていることが顔に出ないタイプなだけだ」


 アンリが人に好かれるタイプだというのは関わっていれば分かる。親しくなった人には特段優しいし、愛嬌があって可愛らしく笑う。そんなアンリを好きにならない方がおかしい。それにアンリが好かれるのは嬉しいことだ。


 …そう思うはずなのに、胸は刃物が刺さっているかのようにズキズキと痛み続ける。


「そう言えばアンリちゃんって好きな人、居るのかな」

「いや、でもアンリ様だからな」

「だな、恋路にはあり得ないくらい鈍感だし」

「フレッドくんはアンリちゃんとそういう話はしないの?」


 それまで傍観者だったというのに、いきなり話を振られると同時に視線が集まる。

 胸の痛みを悟られないよう表情を変えずに口を開く。


「いえ、そういう話はしないですね」


 彼らの言う様にアンリは人からの好意に鈍感だ。

 それにもし、アンリが誰かに恋心を抱きそれを自覚していたとして、そんな話をいつものように笑顔で頷いて聞ける気がしない。


「おまたせ~」


 話題の中心だった人物はこの場で今までどんな会話が繰り広げられていたのか気にすること無く、笑顔で副会長達に貰ったのだというお菓子をローテーブルに広げる。


 そんな彼女の無邪気な笑顔や優しさが好きなはずなのに、同時にこの場でこれ以上笑わないで欲しいと思ってしまう僕はおかしいのだろうか…。

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