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女子会

「アンリちゃん!お待ちしていました」

「フルール先輩、今日はご招待ありがとうございます!」


 生徒会室に呼ばれた日からしばらくが経ち、学園ではついに長期休暇が始まった。

 そしてそれと同時に生徒会の仕事が一段落ついたというフルールから、ジャンミリー領の隣のクナウティア領に建つというお屋敷に招待されていた。


 今日のフルールはいつもの制服姿とは違い、白いブラウスにふんわりとした茶色いスカートに身を包んでいる。そしてそんなフルールの隣にはメイドが立つ。


「私、女の子のお友達を呼んで女子会をするのが夢だったんです。だから今日、こうしてアンリちゃんが来てくれて、とっても嬉しいのです」

「私も休日にこうして先輩と会えてとっても嬉しいです。あ、そうだフルール先輩。これ、手土産です」


 そう言って、右手に持っていたカゴを差し出す。カゴの中にはルエお手製のタルトレットが数種類入っている。


「まぁありがとうございます。じゃあ早速、お茶会の準備はしてありますから、行きましょう」


 フルールがアンリを連れて向かったのはフルールの自室だ。

 室内には可愛らしい小物の並べられたデスクや、枕元にぬいぐるみの置かれたベッド、フワフワなクッションの並べられたソファーなんかが並び、全体的に白いテイストで女の子らしい可愛いお部屋だ。

 

 アンリとフルールは揃ってバルコニーへ出る。バルコニーにはガーデンテーブルが置かれ、テーブルの中央に置かれたティースタンドにはお菓子や軽食が数多く並べられている。


 席に座るとメイドがワゴンの上に乗っているポットから湯気の立つ紅茶を花柄のカップへと注いで、ソーサーごと置いてくれる。


「ティリー、アンリちゃんの持ってきたお菓子も一緒に並べてくれますか?」

「かしこまりました」


 どうやらティリーというのがメイドの名前のようだ。彼女はフルールからカゴを受け取ると、ワゴンの上にあったトングで花柄のお皿へと丁寧にタルトレットを並べるとテーブルの空いていたスペースに置いてくれる。


「ではお嬢様、オーリン様、ごゆっくりお楽しみ下さい。私は隣の部屋に居ますので、なにかあればお呼び下さい」


 そう言うとティリーは静かに部屋を後にした。そしてこの空間に二人だけになると、正面に座るフルールは「さぁ!」とワントーン明るい声を出す。


「さぁ!アンリちゃん、今日は時間が許す限り、たくさんお喋りしましょうね。お菓子や軽食も用意していただきましたから、たくさん食べて下さいね」

「はい、ありがとうございます!」


      ***


「アンリちゃん、ずっと気になっていたんですけど、いつも一緒に居る方々の誰かと恋仲なのですか?」


 フルールは突如、眼鏡の奥の瞳を輝かせながら突然そんな事を聞いてくるモノだから、アンリは飲んでいた紅茶でむせそうになる。


「えっと.....急になんですか?」

「だってアンリちゃんはいつもあの方々と一緒に居るようですし、先日はバノフィーさんやシェパードさんと手を繋いでいたでしょう?他の方もアンリちゃんには特別な感情を抱いているようですし」


 アンリは彼らに告白されるまで気がつかなかったが、フルールは彼らがアンリに寄せる想いに気づいているようだ。

 そしてそんなフルールのキラキラとした瞳は、この話題からアンリを逃がす気は無いのだと告げている。


 なによりクイニーから気持ちを告げられた後、フレッドに一度だけ相談したことがあったが、同じ女の子の目線でも話を聞いてみたいと思っていた。それに相談するのなら、周りの目がない今が一番良いだろう。


「実はクイニーやザックくん、ミンスくんからそれぞれ告白されて...」

「まぁ!そうだったんですか!」

「でも今まで恋愛経験も無いし、どうするべきなのか分からなくて…。なにかアドバイスを貰えませんか?」


 そう言うとフルールは悩む仕草を見せる。


「なによりアンリちゃんの気持ちが大切なんじゃないでしょうか。彼らも告白したからといって返事は急いでいないようですし。素直に気持ちを伝えたかったと同時に、変わらずにアンリちゃん達と笑っていたいんだと思います」


 そう、それはクイニーやザックからも言われた。今いる環境が大切だし、関係を壊したくないと。

 ミンスからも後日「気持ちを伝えたからってアンリちゃんに何かを求めたい訳じゃないの。ただ僕の気持ちを知っていて欲しかったんだ」と言われた。

 

 だからといって本当に後回しにしていて良いのだろうか。


「なにより、アンリちゃんが急いで答えを見つけようとせずに、自分の気持ちに気がつけたタイミングで彼らには返事をすれば良いのではないでしょうか」


 私が私の気持ちに気がついたタイミング…。


 そう言えば彼らに告白はされたがアンリ自身、彼らをどう思っているんだろう。

 もちろん友達として彼らの事は大好きだ。でもだからといって恋心を抱いているのか、と聞かれれば分からない。

 そもそも生きてきて恋をした事の無いアンリには恋がどんなモノなのか、今だに分からないままだ。


 一人頭を悩ませているとフルールは微笑む。


「うふふ、恋に悩むアンリちゃんもとっても可愛らしいです」

「フルール先輩、フルール先輩はカリマー先輩と婚約していると聞きました。なによりお互いに両思いだと私が見ていても伝わってきます。フルール先輩はどうしてカリマー先輩が好きなんですか?」

「人の恋のお話を聞くのは好きですが、私が聞かれる番になると照れちゃいますね」


 フルールは頬をピンク色に染めると過去を思い出すように青空を見上げた後、愛おしそうな表情を浮かべ語り出す。


「私とカリマーはアンリちゃんも知っての通り、幼い頃からずっと一緒に育った幼馴染なんです。もちろん初めは大切なお友達として遊んでいたし、カリマーは私の唯一のお友達でした。でもいつからか、読書が好きで舞台に立つと人が変わった様に演技をして、普段は消極的な性格なのに、それでも私を守って支えてくれようとする彼が好きだと気がつきました」

「どうして気がつけたんですか?」

「カリマーと一緒に居ると胸がドキドキして、それ以上に幸せな気持ちになれるんです。そしてそれと同時にカリマーにはずっと笑っていて欲しいとも思うんです。そう男の子に対して思えたのはカリマーが初めてです。そして自分の気持ちの違和感に気がつくと同時に、もしカリマーが他の女の子のモノになってしまったら…、私はイヤです。そう思うと同時に、これが恋なんだと理解しました」


 そう照れながらも堂々と話す姿を見ていると、どれだけフルールがカリマーに想いを寄せているのかが分かる。

 カリマーがフルールの事を話していた時もそうだったが、恋をする人が相手の事を想い、語る姿はキラキラと輝いていて幸せそうで、可愛いのだ。


「フルール先輩は本当にカリマー先輩が好きなんですね」

「はい、大好きです!それにアンリちゃんの事も大好きですよ!」

「えへへ、私もフルール先輩の事、大好きです。これからも仲良くしてくれますか?」

「もちろんです!これからもたくさんお話しして、遊びましょう。あ、もちろん恋の相談も聞かせてくださいね」


 アンリとフルールは互いに笑い合い、時間が許すまで女子会は続くのだった。

 そして改めて、フルールが初めて出来た女の子のお友達で良かったと思うのだった。


      ***


「フルール先輩、今日は一日ありがとうございました。とても楽しかったです」


 空がオレンジ色に変わりだした頃、フルールと共にお屋敷を出るとルイが馬車で迎えに来てくれていた。

 そして驚く事に、今日は朝から買い物に行くと民用馬車に乗って出掛けて行ったフレッドもルイと一緒に迎えに来てくれていた。


「こちらこそ、私もアンリちゃんと二人でゆっくりお喋り出来て楽しかったです。ぜひまた今度、遊びましょう」

「じゃあ今度はぜひ、私のお屋敷に遊びに来てください」

「それなら第二回の女子会はアンリちゃんのお屋敷で決定ですね。ではアンリちゃん、気をつけてお帰りくださいね」


 馬車に乗り込みフレッドと向き合う様に座ると馬車はゆったりとしたペースで走りだす。姿が見えなくなるまでフルールはお屋敷の前で手を振り続けてくれる。そんなフルールにアンリも手を振り返すが、あっという間にお互いに姿が見えなくなってしまった。


「アンリ、その表情を見れば聞かなくても分かるけど、今日は楽しかった?」

「うん!とっても楽しかった!」


 そう笑顔で返すとフレッドはまるで自分の事のように喜び笑ってくれる。


「やっぱり同性の友達相手の方が喋りやすい事もあるだろうし、アンリに副会長さんみたいな優しい友達が出来て良かったよ」

「えへへ、ありがとう。そういえばフレッドはお買い物に行ってたんだよね。何か良いものは買えた?」

「実は今日の買い物はアンリへのプレゼントを買いに行ってたんだ」

「私の?」

「いつも僕とアンリは一緒にいるでしょう?だからなかなかサプライズするのも難しくて。でも今日は副会長さんと遊ぶって言うから、ちょうど良いタイミングだなって思って買い物に行ってきたんだ。これ、受け取ってくれる?」


 フレッドはピンク色のリボンに巻かれた小さな包みを差し出す。


 今朝、朝食を食べていると突然、一緒に食事を取っていたフレッドが「今日、僕は買い物に行ってこようかな」と言いだした。フレッドが自らの用事で出掛けてくると言うのは珍しい事だったし、せっかくなら有意義な時間を過ごして欲しいと思って「今日は一日楽しんで来てね」と送り出したのに、まさかアンリへのプレゼントを買うために外出していたなんて。


「開けても良い?」

「うん、もちろん。開けてみて」


 ゆっくりリボンを解き、箱の蓋を開けると白いお花のモチーフのブローチが顔を出す。お花はスズランに似ているが少し違うようにも見える。


「スノーフレークってお花がイメージなんだって」

「スノーフレーク?」

「春に咲くお花で花言葉は純粋、汚れなき心、みんなを惹きつける魅力。アンリのイメージにピッタリでしょう?」

「ありがとう!すっごい嬉しい」

「アンリが喜んでくれて良かった」


 こうしてサプライズで贈り物を貰ったのは初めてだ。贈り物をもらえただけで十分すぎるほど嬉しいが、それ以上にアンリの事を考えて選んでくれたというのがなによりも嬉しい。


「でもどうして急に贈り物をくれたの?何か特別な日って訳でもないよね」

「前にアンリが僕に懐中時計をくれたでしょう?そのお返しの意味もあるけど、それ以上に僕から贈り物をしたいと思ったんだ。だから気軽に受け取ってくれると僕も嬉しいな」


 フレッドがアンリの執事をしてくれていた頃、日頃支えてくれている感謝も込めて懐中時計をプレゼントした。そんな時計をフレッドは今でも大切そうに、毎日使ってくれている。


「ありがとう!私もこれ、毎日身に付けるよ!」


 女子会で色々なお話が出来たこと、そしてフルールとより一層仲良くなれただけで今日はとても良いい一日になったと嬉しくなっていたというのに、こんなにも素敵なブローチをプレゼントして貰えて、今日は幸せな気持ちで溢れて溺れてしまいそうだ。


 フワフワとした幸せな気持ちに包まれたまま、アンリはフレッドと共にお屋敷への道を馬車に揺られて帰っていくのだった。

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