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軍艦モノ

三連装実験艦ー計画会議ー

作者: 仲村千夏

 昭和三年。

 海軍省第三会議室。重厚な木製の扉が閉ざされると、部屋の空気は緊張に包まれた。


「――それでは、例の試作艦四隻案。艦政本部より説明願います」


 会議の座長を務める軍務局長・吉田中将の一声に、艦政本部から出向の設計中佐、南郷修三が席を立つ。


「は。では……」


 彼が手にしたのは、一連の新型艦の計画案であった。



一、軽巡洋艦『計画CL-X』

•主砲:15.5cm三連装砲塔×3基

•高角砲:12.7cm連装高角砲×2基

•魚雷:三連装魚雷発射管×4基

•速力:35ノット

•機銃・対空兵装多数

•航空艤装なし



「三連装砲塔による火力集中と、従来型よりも省スペースでの武装効率を図るものです。後の条約型軽巡設計の根幹となる試験艦となります」


「ふむ。重巡の主砲換装も、これが前段階となるわけだな」


 技術本部の佐伯少将が頷く。



二、駆逐艦『実験駆逐艦A』

•主砲:12.7cm三連装砲塔×2基

•魚雷:三連装発射管×2基

•爆雷装備、速力35ノット


三、駆逐艦『実験駆逐艦B(重火力型)』

•主砲:12.7cm三連装砲塔×4基

•魚雷:四連装発射管×1基+次発装填装置

•爆雷装備、速力33ノット



「三連装砲の駆逐艦適用試験です。『B型』は、火力偏重によるバランスの評価も含め、極端な仕様で……」


「火力偏重すぎる! 軽巡と遜色ない主砲数ではないか!」


 海軍省側の高官が声を荒げるが、南郷は表情を崩さず答えた。


「実験艦である以上、極端な設計が必要です。常識の枠に収まっていては、将来の発展はありません」


 静かに、しかし確かな確信をもってそう言い切った。



四、重巡洋艦『計画CA-X』

•主砲:20.3cm三連装砲塔×3基(実験用)

•高角砲:12.7cm連装高角砲×2基

•魚雷:四連装発射管×2基

•航空艤装:回転式射出機+水上機1機

•速力:32ノット



「この艦は最重要です。三連装砲塔の耐久性・砲撃精度・配置バランス、航空運用との調整、全てをこの1隻で行います。将来、より大型の艦――例えば新型高速戦艦や空母護衛巡洋艦の設計に資するでしょう」


 ざわり、と会議室に小波が走る。


「まさか……長門型に続く新型戦艦の下地とでも?」


 その問いに、南郷は小さくうなずいた。


「はい。新技術は蓄積されてこそ力を持ちます。これは『前段』であり『必要な犠牲』です」



 沈黙が訪れた。予算担当官が電卓を叩く音だけが、やけに大きく響いた。


「……艦隊法上、主力艦の建造は制限されております。代案としてのこの案には、政治的意味もあるでしょう」


「条約違反にはなりませんな?」


「いずれも『技術試験艦』として建造。必要艦数1隻限り。主砲口径も条約枠内です。問題ありません」


 海軍省、技術本部、艦政本部。三者の間に、暗黙の合意が生まれつつあった。



 吉田中将が、重々しく口を開いた。


「……よろしい。建造承認の方針で海軍大臣に上申する。だが――」


 そこまで言いかけて、彼は視線を全員に投げかけた。


「……これらが成功すれば、我らは再び主力艦建造の道に戻ることになる。だが、失敗すれば――無用な浪費と、軍縮会議の餌食だ」


「その覚悟でおるか?」


 沈黙が、再び会議室を支配する。やがて、南郷が一歩前へ出た。


「はい。我々は未来のために、いま石を積む者であります。例え陽の目を見ずとも、次の世代に手渡す礎を、今ここに築きます」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。



 こうして、後に“三連装砲塔試験四姉妹”と通称される艦たちの建造は、密かに始まった。

 大和型へと続くその血脈は、この日の決断から始まったのである。

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