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魔術寄生体マギアクネ  作者: ゆじゅき
第1章 異世界こんにちは編
20/23

第18話 【人と魔物】

森の中時間は進み、それは夕焼けになりかけている自分。

悠月は嗚咽をこぼしながら、なんとか立ち直っていた。


「はぁ...なん、とか治った...もう二度とやらん、痛すぎて頭おかしくなる」


【き....こえ.....すか?】


何か変な幻聴のようなものも時折響いてきて、嫌気がさしたように悠月は体を大にして地面に放り出す。


とはいえ、右腕の痛みに悶絶して地獄のような目にはあったが、これはかなり大きな一歩といえるだろう。


(自傷付きだけどクロの本気と同じ威力が出せるようになった訳だしな!!)


代わりに腕が使えなくなるから、同じものとは言えない、あくまで同じ火力、それも一発のみだ。


(俺は転んでもただでは起きない男ッ!!なんとなく改善点のイメージはついたッ!)


今回の欠点としては、火力はあるが自傷してしまい、一発限りであるという点だ。

これを改良して、普段から連発できるように改善してく。


(火傷したのは...皮膚に直で回転させたから悪いわけで....えー、と)


イメージとしては、これまでの動かしていない魔気の上側だけ動かす感じだ


今現在悠月の拳はこんな感じになっている。


魔気←(これを高速回転させてる)

皮膚


この状態だと高速回転する魔気が皮膚と摩擦を起こして火傷の痛みで悶絶してしまうので、皮膚に直接触れずに動かせるように魔気を二段階構造にする。


つまり、こうしたい。


魔気←(これを高速回転させる)

魔気←(これは動かさずに腕を保護)

皮膚


動く魔気と動かない魔気に分けて拳に纏う。

ようするに攻撃用の魔気と防御用の魔気がそれぞれ必要になるわけだ。


(でもこれなら今までやってきたことの応用だし...すぐにできるか?)


というわけで、皮膚の上に纏った魔気の上で魔気を回転させる、という練習を開始した。



そして50分ほど悠月はあーでもないこーでもない、と頑張って結論が出た。



「今の俺じゃ無理ッ!!」


そういって投げ出すように、またも地面に転がった。


理由は2つ、1つ目の理由としてはそこまで悠月は器用じゃなかった。

同じ場所でそれぞれ別のことを指示する、マルチタスクというのは実の所かなり難しい。

片手でスマホのフリック入力しながら、同じ手でパソコンのキーボード操作を同時にしてる感じ。


つい加減を間違い両方の魔気を動かして、また腕を持っていかれそうだった。

これ以上回復薬の予備はないので、流石にまずいとそこで練習を一度断念、それが1つ目の理由。


2つ目の理由は、実際に魔気を二つに別けて分かったことだが単純に魔気の総量が足りていない。

悠月が出せる量だと、攻撃用と防御用を作り出すほどの量がなく、中途半端な威力になってしまい、かなりつらい。


とはいえ、普段の拳よりは威力が出るのも確かではあるので、劣化版ではあるが魔気の総量が上がるまでは普段使いしていきたいところではある。


(魔気は増やさないな...けど、どうすればいいんだろ)


ただ単純にMPを増やせばいい、ってことでもないんだと思う。

まず魔気と魔術を理解しないとこれ以上先には進めない気がする。


(今日はクロを問い詰めて少しでも情報を聞き出すか...ってか来るの遅いな)


実験を繰り返している内にもう陽が沈みかけていた。

普段であれば訓練が終わり既に解散する時分だ。


(急用か?...まあたまにはそういう時もあるか)


なんて軽々しく考えて筋肉痛対策にしっかりと全身のストレッチをし終えると、木に立てかけてあった槍を握り今日は一度集落に戻ることにした。


(明日ならクロも来れるだろ、その時に教わればいいか.....俺もまだ若干腕が痛いし疲れたしな)


けど、そんなことよりも悠月の胸を支配していた井用はとにかくクロに速く見せたい。


「回転の意味ようやく理解できたぞ、分かりにくいわッ」って文句を言って


「見たか、成長してるぞッ!」なんて笑いかける明日が楽しみだった。





――燃え盛る火を目にする時までは





森の帰り道、槍を持ちながら走って集落まで帰宅している最中、どこか鼻につくような異臭がした。


(なんだ...なんか焼き肉の匂い、するな...)


まあ何かの魔物が獲物を焼いているんだろう、くらいに悠月は考えて集落に走り続ける。

木の隙間から見えた明かりと空に昇る煙――


すごく嫌な予感がした、背中を百足が走り回るようなゾッとするような不快感を感じる。


普段良い予感は全く当たらないくせに、こんな時ばっかり悠月の予感は、見事に当たっていた。


「....燃え、てる」


悠月たちの集落が燃え上がっていた。

一瞬あまりの光景に思考が停止するが、すぐに我を取り戻す。


(なんだこれ...まさか魔物が攻めてきたッ?てかじょるのは無事なんだろうなッ!くそッ!!)


この火事の中、じょるのが万が一中にいたら普通に死ぬ。


(くそッ!窒息とかしてないといいがッ!)


慌てて集落の入口まで回り込み、そこで悠月の思考と動きが止まった。


(は?.....いやいやいや...待て待て待てッ....)


燃やされる集落に大量の青いゴブリン、そして集落から出てきたクロの姿と、どこかで見たゴブリンロード、そいつに担がれる意識がないじょるの。

頭からは血が流れ地面にぽたぽたと染み入っていた。


(なんだこれ...どうなってんだよッ!?)


なんで集落が燃やされているのかも、どうしてじょるのが血まみれで運ばれているのかも...

理解などできようはずもない、ただ今自分の視界に映る情報を端的に簡潔に纏めるならば――


(クロは俺たちの敵?...)


心音が強く耳に、体から響いてきた。


(いや...まだ分からないだろ!もしかしたら燃えてる集落からじょるのを助けてくれた、とか...)


じょるのがちょっと焚火の火をつけるのにミスったとか...な、そうだよな。

そんな風に自分を安心させようとするが――


【てきははいじょすべきです】


(うるさいだまれッ....)


心臓が痛い、頭の中にまで音が響き渡る。

まるで体の中に何か別の誰かがいるみたいに、言葉が聞こえてくる。


【じょうきょうから....あると、はんだん、かまえてください】


(黙れッ!!...いったん、そう、そうだッ!!聞け、理由を聞かないと分からないだろ...)


「お使い完了.....帰―」


「...ようクロ」


悠月は、痛む頭を押さえながら、森の中をわざとらしく足音を立てて、存在を気づかせるようにクロの前に姿を現した。


(俺ら...いつも通りだよな...)


今は集落も周りに立っているゴブリンも一切視界に入らない、悠月の瞳に映るのはクロだけだ。


「何してるんだよ、こんな所で」


「悠月...」


「.....そいつ人間だろ?どうしたんだ?血も出てるし」


あくまで悠月とじょるのは関係がない風を装いながら、普段通りの声音でクロに尋ねる。

それに対し、クロは特に返事を返さなかった。


話題を避けるように別の件を口にする。


「...今日は...その、いけなくてごめん」


「.....」


「姉さんに...お使い、頼まれて...いけなかった」


「そう、か...その人間はどうするんだ?」


「........聞くことがあるから...今は、生かしてる」


「......そのあとは?」


「.........」


「だんまりか......」


お使い、人間の捕獲、血まみれのじょるの、燃える集落。

嫌なピースが頭の中に綺麗に音をたててはまっていき――悠月は嘆いた。


(ああ心の中でこんな毎日悪くないって、思ってたのにな...)


聞くことがあるから、今は生かしている、その返答に酷く心が冷たくなっていくのが分かった。


「一つだけ答えてくれ、クロ」


この顔を見られなくない、この抑えの利かない感情を手で覆い隠すように右手で自分の顔を掴みながら、悠月は問うた。


「もし、この集落にいたのが俺なら、見逃してくれたか?...」


「.......................それは.....」


「........もういい、分かった...分かったよクロ」


(あーあ....................................くそ.................)


別にそんな長い時間一緒にいたわけじゃない、それでも友人で仲良くできるって本気で信じてた。

いや、違うな信じたかったんだ。


けど結局、現実はこれだ。


上から指示があれば殺せる程度の関係――まあ当たり前なのかな。


「所詮、人間とゴブリンだもんな」


酷く小さく自分に言い聞かせるように漏れたその言葉は...悠月の中の結論を形作った


「その、明日は...ご飯、持って行くか―ッ!?」


「ッ」


胸の中にあふれるのは悲しみと怒り、そして敵に対する明確な殺意だ。

クロに向けて突き出した槍の一閃は、軽く躱された。


「ギャスッ!?ギャ、ギャズッ!!」


「悠、月...?」


じょるのは助ける、目の前のこいつらは殺す。

それ以外はノイズだ、思い出も情も友愛も恩義も、全部消せ。


このクロ(ゴブリン)を殺すための最適解は――


「なあクロ、訓練、つけてくれよッ」


(こいつに本気を出されたら絶対に勝てない、訓練と結び付けていつも通りの手加減をさせるッ――その条件なら俺は...クロに勝てるッ)


「え...?」


いきなりのその宣言にクロは酷く驚いたように目を丸くしていた。


「先に訓練の約束破ったのはそっちだろッ?」


「.....それは...ごめん...けど、今は」


悠月の槍の4蓮撃をいとも簡単に躱しながら、最後にクロは槍の柄をつかみ受け止める。


「うるせぇ!ごちゃごちゃ抜かすな!いくぞッ!!」


「ッ!!ゆ、悠月ッ!」


槍を手放し即座に拳撃を放つ、いつもの容赦のないクロとは思えないほど、戸惑った表情で悠月の攻撃をただ躱し続けている。


「グォウッ!!」


悠月の明確な攻撃と敵意を見たロードは、青いゴブリン達に向け咆哮を上げた。

するとすぐに青いゴブリン達が悠月に向けて弓を構え始め。


「ギャ、ギャスッ!!」


「手を、出さないでッ!」


クロが青いゴブリン達に向けられた命令を別の命令で上書きした。

とても助かる、きっとクロの中ではまだ悠月は敵じゃない、教え導く弟子だとでもおめでたい頭で考えているのだろう。


これなら一旦は悠月の目論見通りに動けそうだ。


(――この数のゴブリンがいる中で、じょるのを連れてこの場から逃げる、ははッ無理ゲーだなッ)


悠月の考え通りに上手くいけば、クロは倒せる。

そこはいい、問題はその後このゴブリン共をどう処理するか...あまりに絶望的で詰んでいる盤面。


見えてくるのは、今の悠月のスペックじゃどうしようもない、それが現実だ。


(ぶっちゃけ逃げ出すのが1番合理的な判断ッ)


じょるのはこのまま殺されるとして、この戦力差をひっくり返す活路も見出せない状況。

2人で死ぬよりも自分だけでも助かる方が判断としては正しい、が。


(俺がそんなお利口な考え方してたんなら、日本でもうまくやれたんだろうけどなぁッ!!)


悠月の拳をすべて躱しながら、急に拳を足で弾き飛ばしたクロは悠月から一定の距離を取った、そして真っすぐした瞳で悠月を見つめる。


「...ごめん...何か怒らせた...んだよね?...」


クロは馬鹿というわけではない、当然悠月の感情は理解している。

ただ、それでもどうしてなのか、理由が見いだせていないのだ。


「.......」


「でも私も...譲れないから.....また明日、ゆっくり、二人で、はなそ?...」


そう言って火花が舞い散るこの場所で、ニコッと微笑を浮かべ、クロの雰囲気が一変した。

先ほどの戸惑って防戦一方だったクロはそこにはいない、いつもの悠月を平然と蹴り飛ばし気絶させてくる無表情なクロがいた。


ゴブリン達もその雰囲気の変化に気づき、今までの怒りや焦り戸惑いの感情が消えた。

ゴブリン共は思ってる。


―我らが女神(ヴィーナス)が本気になった、これで心配はいらない、人間(あいつ)は間もなく死ぬ


(ははッ...やっとやる気になりやがったな...)


これでようやく、クロ(お前)をぶちのめせる。

問題はその後だが――今はいい、他のことなど全て忘れろ、今は目の前のクロにだけ集中しろ。

その一挙手一投足、全てを見逃すな。


「いくよ、悠月」


やる気になったクロが軽く、ウォーミングアップでもするように1.2回その場で軽く跳ね。

次の瞬間、クロは俺に肉薄する距離まで近づていた。


(ッ!...)


至近距離からのとび膝蹴りをすんでの所で躱すが、油断はしないこの技は二段構えだ。

そのまま空中で体をひねったクロの左回し蹴りを体を下げて躱す。


(よしッ大丈夫ッ...手加減されてるッ!)


クロはちゃんと戦う気にはなったがそれはいつもと同じ、悠月の強さに合わせて師と弟子として手加減してくれているクロ。

これならいつも通りやれば躱せる。


間をおかぬクロの放った二撃目は、瞬きの内にクロが消えた。

体を沈ませ地を這うように悠月の視界から姿を消したクロは、回転蹴りの足払いをかけてくる。


(あぶッ!?―ッく!)


ジャンプしてその足払いを躱した悠月に、そのしゃがんだ体制から両手で地面を押して飛び蹴りを仕掛けてきた。

これは絶対に避けきれないから、しかたなく右手で受ける。


(相変わらず重いッ...)


受けた右腕がミシミシと言いながらも何とか受けきるが思いっきり後方に吹き飛ばされ――


「ッ!...」


体制が崩れた。

それをクロは見逃さない。


(知ってるよクロ、お前ならここで――来るよな)


右足を軸にした左足の回し蹴り。

クロは普段悠月の体勢を崩して、勝負が決まったと思ったらその時点で終わらせに来る。


クロは優しいから、悠月を必要以上に痛めつけない。


かならず悠月の顎を最速の一撃で打ち抜いて――気絶させに来る。


(知ってたよ、これを待ってたんだッ――)


どんなに頑張っても普通に狙っていたら、クロに俺の拳は絶対に届かない。

しかもクロの攻撃を防いでカウンターを狙っても、どんな体勢からでもクロは躱してくる。


けど、絶対に当たる瞬間が一つだけあった。


「ここだぁッ!!!」


クロの顎を狙ったあまりにも速すぎる蹴りに、悠月は()()()()()()()()()()()()()左拳を合わせた。


「「―――――ッ!!」」


俺の左拳とクロの左足の蹴りはぶつかり合い、辺りに衝撃が走る。

空気が震え、耳を劈くような音があたりに響き―


―一瞬、何が起きたのか理解できなかった。


ただ自分の体が紙切れのように吹き飛ばされたのは理解できた。


視界が地面と空を何度も交互に繰り返し切り替わり、地面に転がったとき目に映ったのは燃え散る火花。


(.....まだだ...まだ落ちるな俺...)


右の掌を地面に打ち付けて、体を立ちあがらせた。

両足で地面を踏み、痛みの響く体でクロのいる場所まで歩いた。


「うッ....ッつ...」


ぶつかり合い、はじけ飛んだお互い――

左足を押さえ地面にうずくまるクロを悠月は見下ろしている。


「...俺の、勝ちだ」


クロの左足は、悠月の拳が直撃した箇所が赤黒く変色し、その周辺は焦げたような跡すら残っている。

確実に骨は折れている。


それに対し悠月の左腕は、螺旋状に火傷の跡がつき至る所に裂傷と変色した痣、直接目に入れたくもない惨状だ。


けれど、悠月の左腕とクロの左足の交換では圧倒的に悠月の方が得、実に安い買い物だった。


(ああ痛いな、痛い...けど、まだ動ける)


【........】


どういうわけか、左腕の痛みは練習時と比べれば、まだ耐えられている。

目的のために痛みを排除しているのか、それとも痛すぎて痛みを感じていないのかは分からないが...

悠月は右腕でもう一発、クロの本気と同じ威力の攻撃をもう一回だけ放てる。

頭の中で考えているのは、この一発でどうやって残りのゴブリン共を殺せばいいのか、ということ。


「グォォォォォォォォォオッ!!」


「ッ!...きたか」


倒れつくすクロ、見下ろす悠月の間に、立ちふさがるように一匹の巨大なゴブリンが襲い掛かってきた。



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