第17話 【襲撃者たち】
空の陽は沈みかけ、夕焼け空になりかけている、そんな時分森の中を行進する影。
そんな黒髪褐色肌の少女を先頭に、ゴブリンロード、シャーマンが一歩退いて後を追い、その後ろを青い肌を御覆い隠すように皮の装備を纏い、弓を持ったゴブリン軍団が追従する。
そしてたどり着いたのは大きな丸太がそのまま地面に突き刺さったような円形に防護壁が敷かれた元オークの集落。
「ここ...止まって」
集落が視界に入ったタイミングでアルシャは振り返り部隊を静止させた。
「もう一度、伝える...人間は殺さない、捕縛して...連れ帰る」
クロの言葉にゴブリン達は静かに首を縦に振る。
それを確認した後、アルシャは即座に跳躍、木の枝を足場に速攻で上まで上り詰めると集落の地形を上から見下ろす。
(...あれが...標的.....悠月じゃない...良かった)
上から見えたのはアルシャと同じ黒髪の男、服は緑を基調としたよくみる狩人の一般的な装備。
持っているのは骨の弓、弓使い、であると推測した。
その男は、弓を外に立てかけると一つの小屋の中へと入っていった。
(武器を置いた...)
木の枝をつたって素早く駆け降りるとすぐさま指示を飛ばした。
「ホブ達は...逃がさないように...集落を囲んで...キング...シャーマンは、私に、ついてきて――行くよ」
「「「ギャウ」」」
ホブゴブリン達は即座に行動に移し、集落の入口を重点的に全体を囲っていく。
そのすぐ後にアルシャは最速で集落の中に入り込み小屋まで一直線、そしてまず初めに外に置いてあった骨の弓を手に取り、そのままへし折った。
(武器は...これで使えない...)
少し音が鳴ったはずだが、小屋の中から出てくる様子はない。
遅れてきたキングとシャーマンに小屋の前で待機するように手で簡単に指示を出す。
「.....」
そしてアルシャは小屋の扉を開け、中に踏み込んだ。
そこで中にいた一人の男と目があった。
「....え、は...だれ?...どちらさま?」
小屋の藁に背中を預け何か一冊の本を持っている男は、困惑気にアルシャの姿をみて――本を捨て飛び上がるように立ち上がった。
じょるのが警戒したのはアルシャではなく、出口に見えた紫の肌に巨大な槌をもった凶悪なゴブリンの姿、それを見てじょるのは女からも距離を取り始める。
(なんで人間とゴブリンが....ってか、え、これ襲撃!?まじで!?...よりによって悠月もいないこのタイミング!?...武器外置いてきちゃったぞ!?)
(警戒されてる....武器は...もってなさそう...)
アルシャの見立てによれば、この目の前に映る男は明らかに自分より格下である、そう判断した。
「......目的、はなんだ?たいしたもんないぞ、こんなぼろっちい集落」
そうアルシャに向けて質問を投げかけながら距離を取るように小屋の奥に後ずさり、窓の外にちらりと視線を向ける。
(窓からの脱出は無理ッ!...てか時間的にそろそろ悠月が帰ってくるはずッ!!武器もねぇしなんとか時間を稼ぐしかねぇッ!!)
「狙いは...あなた...この森に...人間はいちゃいけない...」
「ッ!...」
そう言ってアルシャが一歩じょるのに向けて歩みを進め――その瞬間じょるのが駆け出した。
(時間稼ぎは無理...殺されるくらいならッ一か八かッ!!)
アルシャの発言的に、この森からの人間の排除が目的、つまり自分達を殺しに来た、とじょるのは判断し、このまま抵抗できずに殺されるくらいなら、一か八かこの少女の横を通り抜け外の弓を取りに行くことを決め――駆け出した。
(遅い...)
アルシャにとってその動きはあまりに緩慢で隙だらけ。
隣を通り過ぎようと駆けるじょるのの首に、アルシャは冷静にポケットから取り出した一本の薬液が入った針を突き刺した。
「うッ!...」
(これで...終わり...)
じょるのは何か刺されたことには気づいたがその程度で動きを止めず出口まで走り抜けて――アルシャは驚いたように目を丸くした。
(.......?.....どうして...まだ、動けるの?...首に直接刺した、はず...)
そのまま小屋の外に出たじょるのは待ち構えていた、ロードとシャーマンに相対した。
そこで気づいた、地面に粉々にされた骨の破片が転がっていることに――
(まあだよな!武器壊すよなッ!!くそッ!!)
そうしているうちにロードがじょるのに向けて槌を大きく振りかぶる。
(さすがにその大振りはッ――足がッ!?)
「ッ!?」
避けようと後ろに一歩踏み込んだ箇所は沼のようにじょるのの足を飲み込み動きを奪った。
ゴブリンシャーマンがしてやったりと笑みを浮かべ――その一瞬の遅れが致命的だった。
「ウガァッ!!」
「がッ!?」
振り下ろされた槌の一撃が頭に直撃し、じょるのの体が地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけられた体は大きく跳ね血をまき散らし――そのままじょるのは動かなくなった。
「あ...」
慌てたアルシャがじょるのに駆け寄り心拍と呼吸を確認する、間違って殺してしまっていないかと。
(弱かったから...無傷で捕えたかった、のに...でも息はある...大丈夫)
ほっとしながらもアルシャには少し疑問が残った。
人間をできるだけ無傷で捕らえる為に用意した、ピスケス特性の超強力な神経毒、それを直接首に打ち込んだのに、この人間は普通に動いていた。
アルシャですら、首に受ければ即座に動けなくなるような強力な代物のはずだが...
(これも報告...しないと)
何かこの人間には特殊な力があるかもしれない。
そう思案している間にゴブリンロードがじょるのの体を持ち上げ肩に担ぎあげる。
「シャーマン...全部、燃やして...」
「ギャスっ!」
シャーマンが詠唱を始め、小屋から順に火をつけていく、その間にホブ達に危険だから少し離れるように指示を出す。
集落は轟々と燃え盛り、いくつかの小屋も、周りを囲っていた柵すらも燃え始める。
数分もすれば夕焼け空の景色も相まって一面が全て赤く染まっていた。
「お使い完了.....帰―」
「...ようクロ」
全てが終わり帰還する時、森の奥から声がした。
夕焼け空も燃え盛る炎も照らせない、森の暗闇の奥から姿を現したのは――
「何してるんだよ、こんな所で」
「悠月...」
赤い柄を強く握りしめ悠然と歩みを止めずに近づいてくる悠月。
その瞳も表情も、森の暗闇が全てを飲み込んでいた。




