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魔術寄生体マギアクネ  作者: ゆじゅき
第1章 異世界こんにちは編
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第16話 【不穏】

集落生活26日目。


「訓練中止っ!」


ついに今日、じょるのに矢、撃ち落とし訓練の中止を言い渡された。


「え...なんでだよ、当てられないから拗ねたのか?」


「違ぇよッ!お前がバキバキ、腹立つほどぶっ壊すから矢の在庫が尽きそうなんだよッ!?」


オークの集落の倉庫にはオークたちが作ったであろう簡素な矢が大量に置かれていた。

最近の訓練では矢を弾くたびに高確率でぶっ壊していたので、在庫が少なくなってきたのだろう。

できれば今後も矢撃ち落とし訓練を続けたかったが、とはいえ矢がなくなるのはまずい。


「ちなみに残りの在庫数は?」


「あと40本くらい?」


「まあ...それだけあればどうにかなる、か」


どうせもうすぐこの森からは出ていく予定だ、それまで矢が持てばいい。


(...出てくんだよな、この森から)


そう考えると、浮かんでくるのは容赦なく人の意識を刈り取ってくる優しい貧乳女、クロの姿。

どこかクロに入れ込んでいる自分がいるのは、悠月自身分かってはいた。

本当は、今すぐにでも森の出口を探して出ていくべきなのに、強くなるためと理由をつけて無駄に引き延ばしている自覚はある。


「いい加減、覚悟決めないとな...」


「...何だよ、何急に黄昏てんの?中二病ならぬ、中二十病はやばいぞお前」


そう20歳の悠月を見てじょるのが呆れたような目を向けてくる。


「うるせぇよッ!お前と違って俺は考えることが多いんだ」


「へーそりゃたいそうな悩み事なんだろうな?」


「そりゃまぁ....多分?」


「そこで不安になんなよ」


(悩み事...悩み事なのか?...俺は何か悩んでるのか?)


ただクロに少し入れ込んでるなって思っただけで、クロに対して悩んでるわけではない。


(ああ...別れたくないって、思ってんのか俺)


無自覚に漏れた「覚悟」という言葉。

森を出ていくために必要な覚悟など、本来無い。

あくまで悠月はクロのことを利用している側で、あいつは悠月達に森から出て行けと脅している上位者、本来は敵でもおかしくない関係のはずだ。

最初は関わりたくなかったし、さっさと逃げ出したいとすら思っていたはずだった――


(だいぶ重症だな...俺...)


あいつが悪い、この世界で優しく扱われてつい勘違いしてしまったのだ。

何処か抜けていて、容赦がなくて、見た目は可愛いゴブリン。


(.....チョロすぎるだろ俺...あくまで利害の一致だっただけだ)


「急に黙るなよ、悠月本当に大丈夫か?最近、というか1週間前くらいから変だぞ」


「あぁ...飴玉の件か?」


「それもだけど、なんかこう雰囲気?あっちにいた頃とは違うというか...んー言葉にするとむずいな」


「まあそりゃ当たり前じゃないか?命のやり取りが当たり前の世界だ。あっちみたいに何もせずに食べ物が出てくるような世界じゃない――それにそんなこと言ったらお前もだいぶ変わったろ」


「そうか?」


「だいぶマシになってきた、やっぱりまともな人格は健全な肉体に宿るってわけだな」


「おいッお前日本にいた俺のことまともじゃないと思ってたの?」


「言い難いがヘドロ以下だ」


「言い難いわりにスラスラ言葉が出てきたなおい」


そんなくだらないやり取りをして気づけば、昼を過ぎかなり時間が経っていた。

太陽の角度的にそろそろクロとの訓練の時間だ。


「んじゃ、俺は行くわ」


「へいへい、そろそろ集落の一つや二つでも見つけてきてくれよ」


「頑張ってはみる、期待せず訓練しててくれ」


じょるのにはそんな風にごまかしてクロとの訓練場までいつも通り槍をもって走って向かった。





20分ほどでいつもの場所につくと、そこにはクロの姿がない。


(珍しいな、いつも先についてるのに...)


普段クロとは、お昼後という約束をしているだけで詳細な時間は約束はしていない。

けれど基本的に毎回悠月より早くここで待ってくれている。

悠月の体内時計的に14時くらいを想定して毎回来るようにしているのだが、今回は自身の体内時計の感覚をミスって想定より早く来すぎたのかもしれない。


(...楽しみにしすぎて時間間隔狂った?...だったらはずいな...)


今日はご飯持ってきてくれるって言ってたし、それに変に期待しすぎただろうか?

そう思うと少し気恥ずかしくて顔が熱くなる。


「...訓練して待つか」


速く来て時間ができたのならむしろ都合が良い。

昨日クロから教わった「回転=威力」理論を検証する時間ができた、そう思えばいい。


ずっと悠月の頭の中で、回転、と聞いたときにイメージするのは、循環、だった。

体内を巡るマギアクネのイメージ。




けれど、昨日の夜肉を食べながらじょるのに相談したら――




「回転?まあ回転って言ったらやっぱライフルだよな!」


「え...なんで?どのイメージからライフル?」


「なんでってそりゃ、ライフルの弾丸って回転してるだろ?」


「へぇ回転してるんだ...初めて知った」


「お前FPSやるけど、プレイヤー殺したいだけで銃自体に興味ないもんな」


「まあね、ぶっちゃけFPSにたまにあるネタ系の近接武器の方が好き、フライパンとかスリッパとか」


「それ、FPSやる意味ねぇだろ」


「まあ俺はそもそもFPS自体そこまで好きなジャンルってわけでもないからなぁ」


「お前は死にゲーの縛りプレイばっかだろ、変態が」


「うっせぇ、お前は戦車と銃ばっかだろうが.....――にしても弾丸に回転...ね、あんまり結びつかんな」


「弾丸の回転は弾の安定性と真っすぐ飛びやすくなるってのがメインらしいけど、まあ俺としてはやっぱ威力に目が行くよな。ライフルなんかマッハ2で飛んで相手の体を高速回転しながら抉るわけだ、しかも熱を持った弾丸は皮膚を爛れさせる二段構えッ!!くうゥゥゥうッ!!つまりロマンって訳だな!」


「.......前から思ってたけど、お前のロマン陰湿だよな」





――ということらしい。


今回ばかりはじょるのが居てくれて助かった、なんとなく俺の頭の中にも回転=威力のイメージはついた。


(つまり...魔気に指向性を持たせて...こう?)


拳の衝撃地点から二の腕の当たりまでをイメージして、二重螺旋上に魔気を纏っていく。

そしてその魔気を動かす、できるだけ早く動かして、少しづつ速度を上げていく。


(お...できた?...っぽいな、動いてるのが分かる)


皮膚の上をゆったりと動いている、魔気が悠月がイメージした二重螺旋上に散歩してる感じ。


(もっと、高速に...イメージは掘削機だ...)


普段なら何度も何度も失敗しながら少しづつ成功していくのだが、なぜか魔気はすぐに悠月のイメージ通りに速度を上げ始め...


「あっつッ!?...と、とまれッ!!?」


皮膚と摩擦を起こして腕に二重螺旋上の火傷が出来上がった。

じめんを転げまわりながら慌てて魔気を止める。


「うっわ...酷いッな、これ...マジで、やばいッ!」


右腕の火傷の惨状は想像よりやばく、ずきずきとした酷い痛みに襲われる。

正直今すぐ回復薬を使ってしまいたい。


実は、矢で怪我してここに来て以来、クロから「念のため...置いとく」と、2本だけ丸太のなかに回復薬をしまってくれていた。


今回は仕方ない、というか痛すぎて我慢できないので、とりあえず一本蓋を開けて右腕にぶっかけた。

シューという音と共に、腕の火傷が逆再生するように治っていく。

回復しているときも、結構痛いが...それでも火傷の痛みは少しづつ消えていった。


(回復薬はあと一本、試せるのはあと一回。か...)


できればあんまり安易には使いたくなかったが仕方ない。

気絶慣れしている悠月でも火傷は少々痛すぎる。

そう考えると、クロは痛みを感じる前に気絶させてくれるからまだ優しい方なのだろうか?...


それはそれで何か違う気がする。


(さて....火傷覚悟で最高速まで上げて、ぶん殴ってみるか)


本当はもっと効率的なやり方もあるのだろうが、どうせまたクロが回復薬を持ってきてくれる。

とりあえず今悠月が一番気になっている、最高回転数でどれほどの威力が出るのかを試す。

右腕の魔気を二重螺旋上に再構築し、高速回転させる。

最初は鈍いが少しづつ速度が上がっていき...


悲鳴を上げてしまいそうだ。


(熱い熱い熱い熱いッ!!?)


右腕に炎でできた蛇が絡みつきながら蠢いている、そんな気持ち悪さと痛みに襲われながら、悠月は(まだいけるッ!!)と痛みに耐えながら速度を出し続け...


(もう無理ッ!!!――くたばれッ!!)


歯を食いしばり、右拳を近くの木にブチ当てた。


その一撃は、音すら発せず。

元からそこに木なんてなかったように、拳の当たった箇所だけを消し飛ばした。

最初にクロが見せてくれたお手本と同じ威力、少し違ったのは拳でぶち抜いた箇所から「シュー」「パチッ..パチパチッ」と焼けこげ、火の跡が残っていること。


それと――


「ぐぁぁぁあッ!?うッ!?...がぁッ!!」


右腕の指から腕、ほとんど感覚がなく内部から響く猛烈な痛み、に焼け爛れた皮膚。


(や、やばいッ!...本当に死ぬッ!?マジで死ぬッ!?)


痛みのあまり頭がおかしくなりそうだ。

狂ったように地面をのたうち回り、すぐに近くに置いてあった回復薬を手に取ると、荒い呼吸と涙をぼとぼとと体調に流しながら右腕にぶっかける。


(治れ治れ治れ治れ治れッ!!!!)


ほぼ見えていた肉に火傷の跡、ぱっくりと割れていた右拳も急速に治っていく。

ただ右腕の中からは未だにジンジンとひどい痛みがずっと流れ込んでくる。


「はぁ...げほッゴホッ!...痛すぎる...しばらく無理だこれ...うッ!?...」


悠月は寝転がり涙をぽろぽろとこぼしながら、右腕の痛みが引くまで現実逃避をするように青空を眺めていた。



※※※※※※※※※



.....

...........

..................


「....終わ...った.....」


アルシャは疲れ切ったように、本の上に頬をくっつけて机の上に倒れ込んだ。

窓の外を眺めると太陽が沈みだしている時間、普段なら悠月との待ち合わせ場所で特訓をしている頃だ。

けれど、結局姉との授業はこの時間まで終わらず、今姉が笑顔で「お疲れ様、美味しい紅茶だよ」なんてトレーを手に部屋に戻ってきていた。


(今日は....もう、間に合わない...悠月に...謝らないと)


姉の淹れてくれた紅茶を飲みながらも、意識は全く別の悠月に向けられていた。


「さて、アルシャ」


アルシャとは反対側のソファに座った姉は、紅茶を嗜み真面目な顔で告げる。


「そろそろお使いの時間だ、大丈夫かい?」


「ッ!はい」


「内容は覚えているね?」


「オークの集落...に住み着く、人間の捕縛...です」


「そうだ、あとついでにあの集落はもういらないから焼却処分してくれ、くれぐれも森に引火させないように気を付けるんだよ?」


「はい」


「それと、勉強で疲れるわけも無いと思うが、一応彼女らを連れていきなさい」


そういって姉が窓の外を指さす、窓から下を見てみると大樹の入口にゴブリンキングやシャーマン、ブルーゴブリンなど20匹ほどの少数精鋭のゴブリン達が集まっていた。


「何やら()()に恩返しがしたいらしい、覚えはあるかい?」


「...それは......いえ、私一人で...大丈夫、です」


「連れて行きなさいアルシャ」


「...ですが...」


「アルシャが強いのは分かっているよ、けれど世の中では常に異常事態(イレギュラー)が起こるものだ。私は君を失いたくない、念には念を押させておくれ」


「...わかり、ました」


「ありがとう、お使い頑張っておくれ」


そういって姉はアルシャを一度強く抱きしめると、ゆっくり手放す。

抱擁から離れたアルシャは、一度ぺこりと頭を下げて扉から出ていった。


「そんなに心配なら僕も行こうか?ピスケス様?」


「...フェルグ、行儀が悪いよ?」


天井の木に足だけぶら下がった状態で上半身だけ垂らしてヌッと出てきたのは、真っ白い髪をした少女。


「おっと、こりゃ失礼!」


そういって一言軽く謝罪をしたフェルグは、ひっかけていた足を放し三回転、ピスケスと呼ばれるアルシャの姉の横に曲芸のようにすたっと着地した。


「で、僕はいいの?」


「大丈夫、万が一に備えて監視はつけてるさ」


「そんなに警戒してるって、やっぱり秘術を抜けてきた可能性も考えてるんだ?ピスケス様の秘術は完璧だと思うけどね」


「私もそう願っているよ――さてそんなことよりもフェルグ、またサボりかい?」


「え?...いやぁ~アルシャが心配で抜けてきただけだよッ決してサボりじゃないッ!!いうなれば僕の姉妹愛は僕自身でも抑えきれなかったんだ!!」


芝居がった笑顔に動き、最後は二カッと自慢の八重歯を見せびらかすようにポーズと満面の笑みを浮かべるが、ピスケスは一切反応することなく、何かと会話をしていた。


「...ああいるよ、アルシャの部屋に.....ふふ、伝えておこう――フェルグ、レーヴァが今から迎えに来るそうだ」


「え....ひィィィィィィいッ!!そんなぁッ!!」


「あと伝言だが、肉体言語で大事な話がある、腹か顔か会話する箇所を選んでおけ。だそうだ」


「........終わった...今度ばかりは終わった、死ぬ」


床に手をつきすでに土下座の準備を始めるフェルグ。

そんなフェルグにピスケスはすでに眼中になく、窓の外、果樹園の手前でゴブリン軍団に指示を出すアルシャの姿を見ていた。


(.....たいした隠し事じゃないといいが...)

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