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魔術寄生体マギアクネ  作者: ゆじゅき
第1章 異世界こんにちは編
17/23

第15話 【尽きぬ疑問】

集落生活25日目。


「ふッ!...」


「...まじやべぇな」


最近は日課の訓練に加えじょるのの弓落としが新しく訓練に追加された。

やることは比較的シンプル、じょるのが撃ってくる弓を魔気を纏った拳で弾き続ける。


ただ、60mも距離があると結構反応できて、8割は拳で弾き飛ばせる。

驚異的なのは、60m離れた距離からもほとんど外すことがないじょるのの異常なエイム力だ。


「はぁ...自信なくすわ」


本人は理解していないようだが、60mの距離をこうも当てられるのは素直にすごいし、60mも距離があれば多分悠月以外のそこら辺の一般人でも弾くくらいはできる。

そんなに自信を無くすことではないのだが、じょるのはどこか納得いかないようだ。


「そうか?よくなってきてると思うぞ...人を射ることに躊躇なくなってきたし、たまにやばい矢もあるし...」


残りの2割の内、1割はタイミングずれの反応ミスだが、実は数本は悠月の怪我の割合だったりする。

じょるのは本当にたまに、やばい矢を放ってくる。

反応ができていたのに弾けず腕をスパッと矢じりで切り裂かれたり、魔気を貫通して拳に突き刺さったり、急に変な挙動で落下して脛を引き裂いたり。


野球選手みたいに弓矢でフォークを射てくるのは本当に辞めてほしい。


「なんであんな挙動になるんだろな?...威力の違いもよく分からん、普通にやってるはずなんだが...」


「あれを使いこなせるようになったら最高だけどな」


「それな、あんな感じで毎回悠月をぶち抜きたいのに...」


「意図的に出せるようになったらこの訓練辞めるからな?普通に死ぬ」


それはそれでつまらなそうな顔をするじょるの。

本当に、最初の頃は悠月を撃つのにかなり忌避感を抱いてたが、習慣にして毎日するとすぐに慣れるものだ。


(そろそろ魔気を共有してもいいけど...まだ早いか)


今後戦闘をするとき、じょるのの役割は遠距離攻撃と毒のデバフだ。

ぶっちゃけ魔気は近距離戦闘の技術、当然遠距離専門でも使い所は沢山あるだろう....が。

今行っている、体力づくり、弓の修練、そこに魔気の訓練を入れてどっちつかずになるのだけは避けたい。


(今、こいつも変わり始めてるし...)


悠月に矢を弾かれ続けて悔しかったのか、魔気をぶち抜くほどの威力や、防がれないための変化球を学び始めてる。

余計な知識に時間を割かず、必ず役に立つ弓の修練を続けてもらった方が合理的だ。


「さて、と...んじゃそろそろ良い時間だし、森行ってくるわ」


「おう、最近森の探索任せっぱなしだけど...今日は俺行こうか?」


じょるのは悠月が森の中を探索しながら、人の住む街を探していると勘違いをしている。


「いや、いいよ。じょるのは頑張って弓の練習しててくれ」


実際はじょるのに置いてかれ役立たずになるのが嫌で、クロの所で訓練してるとは言えない。


「...はいはい、悠月如きに勝てない俺は練習してますよ」


なんて少し拗ねたようなことを言っているが、実際こいつは毒スキルを使ってない。

訓練でどうであろうと、実戦では悠月よりもじょるのの方が有能なのは変わらない。

じょるのの毒弓は悠月の拳を貫通なんてしなくても触れた少しでも傷ができれば終わりなのだから。


――とはいえ、そんな事実を言ってやるわけもなく。


「ま、精々がんばれよ、置いてかれないようにな」


じょるのを煽って悠月は一度集落に戻った。


最近はクロのスタイルが板についてきてしまって、槍を使うことがなくなってしまったが、一応持っていく。


(さて、精々置いて行かれないように頑張りに行きますか...)


軽く伸びをして森の中に踏み入った。

いい感じに集落から距離が離れていて、クロとの実戦前に身体を温めながら向かえる、ちょうどよい距離感にある場所。

実演でクロがぶっ倒した木がいい感じの休憩場所(ベンチ)になっていたりする。


20分ほど走りながらそこまで向かうと、すでに先にクロが丸太に座りながら何か分厚い本に目を通していた。


「ふぅ...悪い、待たせた?」


「...30分くらい?...」


「それは申し訳ない」


「やることあったから...大丈夫」


そういって本を丸太に置いたクロ、悠月がここにくる際大体その本に目を通している。

気にはなるが、なんかあまり触れられたくなさそうな気がしたので特に聞いたりはしていない。


「今日は...けが、なし?」


そういって体をじろじろと見てくる。

実はじょるのに貫通された拳や、切り裂かれた裂傷はクロの回復薬で治してもらっていた。

しかもその傷でちゃんと、「弓矢に...やられたの?」なんて若干気づかれてしまっている。


正直じょるののこと、この森にもう一人人間がいることを話してもいいかな...

なんて悠月は少し思い始めてはいるのだが、一応「オークに射られた」とごまかした。

クロも特に疑わず、「気抜きすぎ...よくないよ?」とおしかりをいただいた。


「じゃ...始めよ」


「おっけ、やろうか」


両拳に意識的にびりびりとした感触、魔気を纏い自然体でクロの攻撃を待つ。


「行くよ」


本日のクロの一撃目は、レアパターン。

距離を詰めてきて顎狙いの掌底、相変わらず動きが速すぎる。

若干掠りながらもなんとかギリギリで後ろに回避、次はお馴染みの回し蹴り。

右腕でなんとか受け止める。

受け止めても骨まで響いて結構痛い。


(受け止めてからじゃ...ダメだな)


反撃も考えたが、もうすでに間に合わないので距離を取る。


(俺はいつもワンテンポ遅い...)


クロの攻撃を受け止める→反撃


だと余裕で受け止められてしまう、理想としては


クロの攻撃を受け止める=反撃


という形にしたいわけだ。


けどこれが結構ムズイ、受け止めると同時に相手に拳を届かせるのはかなり至難の業だ。

あとぶっちゃけ痛みにはかなり慣れてきたつもりだったけど、クロの一撃一撃は骨に響き、受け止めるたびに体が竦む。


そのせいで完璧に反撃したつもりでも、必ずワンテンポ遅れてしまう。


(やッば...ギリッ!?...)


右足の腹部狙いの蹴りをクロは手の甲で受けとめ、そのまま距離詰めからの側転。

勢いを乗せた蹴りによる一撃がもろに肩に突き刺さる。


「うがッ!...」


めちゃくちゃ嫌な音が脳内に響いた。

左肩は外れ、あまりの痛みに悠月が地面に膝をつく。

容赦ないクロがその機を逃すわけもなく、崩れ落ちた悠月の顎に向けてサマーソルトが放たれて...――


「.....ッ!!」


(ッ!かわ...せたッ!!)


完全に勘だったが、悠月はクロの動きを読んで事前に回避行動をとり、ぎりぎりの所をクロの足が過ぎ去っていく。


「ッ!」


(着地狩りだッ!!)


サマーソルトを撃ち終わって地面に着地するその瞬間、狙うならそこしかない。

痛みを考えず、しゃがみ込んだ体制から地面を蹴り飛ばしクロに肉薄、地面に強く踏み込み。右こぶしを引き締める。


クロに向かって渾身の右こぶしを叩き込んだ。


「ぽふっ」


「......?」


悠月の拳はクロの腹部に当たって――止まった。


打ち抜いた悠月渾身の一撃は、クロの腹部に当たりぴくりとも動かなかった。

その状況に、冷や汗をだらだらと垂らしながら身構える悠月と、困惑気に首を傾げるクロ。


その後――カウンターに放たれたクロの右足が無情に悠月の意識を刈り取った。




※※※※※※※※※



.....

...........

..................




約2時間後。

初戦から気絶して起き上がるを繰り返すこと5回、悠月の体に限界がきていた。

丸太に座りながら空を見上げ嘆く。


「結局最初が一番良かったな...」


威力は置いておいても、回避をしながら反撃まで狙えた。

他のは躱すまでは行けても、反撃は一切できなかった、そう考えるとかなり無様な結果ではあったが一番最初が一番マシだった。


「いい感じ...成長してる」


そんな風に褒めてくれるクロは、悠月のすぐ隣に腰を下ろし頭を撫でてくる。

何故か分からないが、膝枕の時以降クロはよく悠月の頭を撫でるようになった、まるでペット扱いされている気分だ。


(別に嬉しくはない...けど)


まあ無理に拒否する理由もないから好きにさせてる。


「なあクロ...俺には何が足りない?」


「...威力、速さ.....あと呼吸...」


「威力かぁ...」


威力と言われてもって感じだ。

多分クロと悠月では捻出してる魔気の量が違う気がしている。

こう体内の魔気【内魔】を拳から噴出してるイメージなのだが...

悠月は水道の蛇口くらいの勢いでしか出せてなくて、クロはジェットノズルで出してるイメージだ。

それゆえにあの木にも穴開けれるし威力も出るんじゃないだろうか、


という推測、まあぶっちゃけ悠月の妄想とイメージである。


(なんの文献も情報もなく、教えられたのも一言二言だけの簡単な説明で原理なんかわかるかっての.....)


未だにどうやって魔気を纏ってるのかも訳が分からないのに...

俺が両方の拳に纏っている魔気は内魔なのか外魔なのか...

全部俺とクロの違いから推測してイメージしていくしかない。


(一番の疑問は....なんかやったらすんなりできたことだよなぁ...なんで俺は魔気を纏うなんてことが出来てるんだろう...)


何も理解していないのに、イメージとクロの雑な説明だけで、魔気を纏う、なんてことができてしまった。

もしこれが魔術と同じ、マギアクネへの命令だとしたら、どうして魔術の命令は聞かずに、マギアクネを拳に纏うことはOKだというのか、疑問は深まるばかり。


(答えと理論、説明がある教科書が欲しい)


「はぁ...」


結局、クロと知り合って1週間、得たのは魔気という防御力。

本当は火力が欲しかったのに.....このままだと本当にじょるのの前に立ちふさがるだけの肉壁扱いになる。


ヒントが欲しい、この魔気を理解するヒントが...


「そういえば...悠月は...ご飯、ちゃんと食べてる?」


悩んでる俺に対して、クロは急に一人暮らししてる息子にするような質問を投げかけてきた。


「へ?...食べてるぞ?最近は少し食べすぎなくらい」


「そっか...どこ...住んでるの?...」


「あ~...ここから少し離れた所で野宿してる」


実際はオークの住処を奪って住んでるけど、もし場所がばれて万が一にも来られるとじょるのの存在がばれるのでさらっとごまかした。


「...よかったら.....いや...ん、なんでもない」


「...?」


「...明日から...ご飯、持ってくる...食べて」


「え、いいのか?」


「ん...悠月は...痩せすぎ...心配」


「あー...まぁ、よく言われる」


懐かしいな、仕事先の上司にもよく言われたっけ。

男の体つきに見えない、もっと食え、食って体を作れ、って。

塾講師は親御さんとの信頼が第一、悠月の細い見た目はどこか頼りなく見えるから改善しろって。


(クロにもそう見えるか...)


日本に居たころに比べれば、運動と訓練のおかげでだいぶ剣道時代の肉体に戻ってきたんだけどな。

拳も格闘技者特有のゴツゴツとした手に戻ってきたし。


「ありがと楽しみにしてる」


と、いい笑顔で言っておいて、後で少しだけ(ゴブリンって人間と味覚...同じだよな?虫とか人肉は無理だぞ)と不安になっていた。


「...ん、任せて」


「...それじゃ、そろそろやるか?」


「...今日は終わり...少し、用事がある」


「ああそうなのか、了解」


「時間あるなら...悠月は...威力の特訓」


「はいよ...頑張るけど、まだよく分からないんだよね」


「...悠月は...回せてない...回せばもっと...威力出る」


そのクロの何気ない言葉に、悠月は一瞬、固まった。


「ん?...え?待って、ちょっと待ってくれ。前から言ってた回すってのは、=魔気の威力に直結するのか?」


「うん」


予想外だった。

悠月のイメージの中で、回す、ってのは循環と捉えていた。

体内の魔気を循環させてできるだけ魔気を放出し続けろって意味だと思い込んでいた。


いや、これ自体もそもそも纏っている謎の魔気が【内魔】であると誤認して、体内から放出しているガスのようなものだと勘違いしたからだ。


「それじゃ...私は行くね」


「ああ...また明日な」


「ん...」


(威力=回転、考えろ俺.....)


丸太に座りながら脳みそフル回転で推測と妄想を広げていく俺を少しの間だけ見つめ、クロは一瞬の間に姿を消した。



※※※※※※※※※



.....

...........

..................


桜岳大森林のちょうど中央には、広大な果樹園が広がりその更に中心には雄大な巨大樹がそびえたつ。

黒髪に褐色肌の少女は、飛び跳ねるように果樹園を抜けその大樹の根本まで足を運んだ。

大樹の根本には隆起した巨大な根が飛び出しており、ちょうど北側から反時計回りに12番目の根。

その根元には大きな木製の扉が付けられていた。


「ただいま...」


扉を開けると、柔和で甘い香りが鼻孔を擽る。

慣れ親しんだ我が家の香り、中は大樹を丸ごとくりぬいた家になっていて、ここは一家の大広間。

中心には螺旋階段があり、12階まで続いている。


「おかえり、()()()()


その階段から降りてきたのは一人の女性、地面につくほどに長く淡い緑色の髪、毛先は水色に染まっている。


「最近は毎日森の監視に赴いているようだけど、ちゃんと私の渡した本には目を通しているのかい?」


「.....」


その質問にアルシャは、無言で視線を下に逸らす。

その様子に女は困ったように小さく息を吐いた。


「まだ読み終えていないようだね、この悪い子め」


「ごめんなさい...姉さん」


そういって少しうなだれた様子のアルシャをそっと抱きしめる女。

その美しい黒髪をそっと手ですいている。


「まあいいさ、最近のアルシャはとても楽しそうだ、きっといいことがあったんだろう?」


「ッ!...はい」


「可愛い妹が楽しそうなのを喜ばない姉はいないよ――ただ、娯楽ばかりではいけないね?」


「はい...姉さん」


しゅん、と縮こまるアルシャの姿に女は思わずギュッと胸に押し付けるように抱きしめ、髪の毛に頬ずりをし始める。


「分かったならよろしい。さて勉強を疎かにした罰として、ちょっとしたお使いを頼みたい」


「分かり...ました」


「実は最近、この森に私以外の人間がいるみたいなんだ」


「ッ!!」


女から出たその言葉に、アルシャはビクッと肩を震わせる。


(悠月...のこと?...)


「どうかしたかい?アルシャ」


「...なんでも...ない、です」


姉に黙っているのは得策ではない。

普段のアルシャであれば絶対に隠すようなことはしなかったが、まだ悠月のことだと決まったわけじゃない、聞かれたら答える、と胸中でそんな言い訳をしながら、女の胸の中でアルシャは小さく首を振った。


「...話を続けよう、実はその人間がここから南方の1か月前にできたばかりのオークの集落を奪って住処にしているようでね」


(オークの集落...なら...悠月とは関係...ない?...別の...人間)


「アルシャにはその人間を眠らせて捕まえてきてほしいんだ」


「眠らせて?...」


「今回は殺しちゃいけない、その人間には聞くことがある。どうやってこの不可視の森に侵入したのか、とかね。万が一私の【慈愛の水鏡(エリダヌス・テルグム)】を突破してこの森に来たのであれば、修正は急務だ」


「分かった...」


この森の危機はアルシャたちの危機でもある、話を聞いている内に捉える人間が悠月説(アルシャの憂い)も消えた。

即座に動こうと、女の抱擁から抜け出すと踵を返し扉に手をかけ――今度は背後からもう一度女に抱きしめられる。


「ああ待て待て、今行かなくていいよ」


「急務...じゃないの?」


アルシャは上を見上げ抱きしめてきた女の顔を不思議そうに見つめると、とても嬉しそうにニコッと微笑みを浮かべた――アルシャに冷や汗が走る。


この笑顔は、めんどうくさいパターンだとアルシャは知っていた。


「そっちも急務だが、アルシャはサボってた分の勉強もあるだろう?」


「ッ!!」


「ちょうど実験が一区切りしてね、清書はレーヴァにぶん投げているから久しぶりの姉妹水入らずだ。怠った分の勉強をみっちりと指導してあげようじゃないか、人間の捕縛はその後でいいさ」


「う.....はい」


断れない、先に約束の勉強をサボっていたのはアルシャ自身だ。


(姉さん...うぅ...明日...悠月にご飯...無理かも...ごめん)


姉の勉強会は、アルシャへの愛が空回りして膝の上に乗せられずっと抱きしめられながら(苦しい体勢で)続く。

それもずっと、本当にその分野が終わる(一区切りする)までの間続く、きっと今夜は寝かせてもらえないだろう事をアルシャは知っていた。


「さぁ私の部屋に行こうか」


「ぅ......はい」


夜はまだまだ始まったばかり、姉の嬉しそうな表情とアルシャの苦しそうなため息。



大樹の外、森にさす暗闇はより一層深さを増していった。


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