第12話 【失敗?】
集落生活7日目
悠月は一人昨日のことを考えていた。
(俺の目に見えたのが本当なら...)
視界に本当に一瞬だけ映った光景、クロと自称していた少女が踵落としをグリフォンに決め、瞬きする間にグリフォンの首が落ちていた。
もし悠月が見た光景が本当ならば、あの女は刃物も使わず身体能力だけでグリフォンの首をそぎ落とした。
(本当にこの森、マジでやばいやつばっかッ...)
あの女はやばい。
ロードとグリフォンの戦いはまだ理解できた壮絶さがあったが、あの女の強さは理解ができない。
それほどの差が悠月とあの女にはあった。
ゴブリンとの会話や、あの従順さ、もしかしてあの女が信仰されていたこの森の化け物なのではないだろうか...とすら思えて。
なんて悠月は色々と考えて結論を出した。
まじで分からないクロという女のことはとりあえずいったん置いておく、考えでも無駄だ、と。
考えすぎると頭がおかしくなりそうだから、一番最初の目的である魔術からまずは考える。
てかそもそも魔術を見せてもらいに行っただけなのにグリフォン出てくるわ謎のクロとかいう女が出てくるわ(マジどうなってんだこの森)と悠月は呆れ半分、諦め半分ため息をこぼす。
(俺の運が悪いのか?...まあ目的は達成したからいいけど)
ゴブリンシャーマンたちは魔術を使っていたわけだが、呪文は「ギャジズ・ギャン・ギャスドギャール」と口にして火球を放っていた。
まるでゴブリン3段活用、一応この言葉通りに悠月は右手を突き出して魔法を放とうとしてみたが何もでなかった。
多分あれはゴブリン語としては魔術の行使ができるってことなのか、人間には人間の言語じゃないと魔術としては意味がないのか?...
それともゴブリン専用の魔術?人間にはそもそも使えないとか?
いや、そもそも魔術の原理としては体内の魔術寄生体マギアクネに指示を出して発火現象を起こしてるわけで、ゴブリンも人間もMPがある以上同じ魔性類なんだからゴブリンだけの専用魔術ってのは考えにくい。
(じゃあ、何が違うんだ?...同じ言葉、同じタイミングで発声して俺がダメでシャーマンの言うことは聞く理由ってなんだ?)
考えると悠月にはあのゴブリンの言葉を理解できなかったが、ゴブリンの体内に宿るマギアクネはしっかりと理解して発火したわけで...ん?...
そこで一つ、悠月は思いついた。
(そうか...もしかして理解ができてないのか?)
マギアクネは悠月自身の言葉、日本語を理解できていないんじゃないか?
例えばだけど悠月が「発火しろ」と口にしても「火」という存在とその言葉の意味をマギアクネが理解できていないのなら命令もくそもないわけだ。
外国人に日本語で「立ってください」といっても、外国人側からすると、何言ってるんだコイツ?、となってしまうのと同じ。
あのゴブリンの呪文もあいつらの体内のマギアクネは、ゴブリンの言語を理解しているからこそ成立しているのではないだろうか。
アリスト・キトラ―も確かに似たようなことを書いていた。
【魔術師とは、この世界に生まれ5年を経てハイハイをはじめ、魔術を10年学び歩き始め、20年を経て言葉に重みが乗る】
最初はただの魔術師の心構えだと思っていたが、これ本気で言ってるんじゃないだろうか。
生まれて5年...ああそうか、と悠月は少し納得してしまう。
「俺...この世界だと0歳なのか...」
日本で20年生きてきてるわけだが、この世界に来たのはまだ8日前だ。
ここで大事なのは、この世界で魔術師として生まれた日、つまりマギアクネが体内に入った時期だ。
そう考えれば悠月はまだ生まれてたったの8日の赤子同然の存在。
本来この世界の人であれば生まれた時から体内にマギアクネを宿す。
そこから人がハイハイを覚え言葉を覚えていくように一緒に体内のマギアクネも成長していくのだとしたら?
悠月の体の中のマギアクネはまだ0歳で、悠月の言葉、命令の意味を理解できていない。
「もし、そうなら......俺ら異世界人って魔術使えない?...」
もし本当にそうだとしたら...
(嘘だろ?こんなに時間かけて魔術の事調べたのに...アリスト・キトラーの言う通りであればあと5年は意味ない?...)
そう考えるだけで悠月は背筋が凍たように固まった。
一体、これまでの行動はなんだったのか?...
(いやッ!!今ある情報から纏めた俺なりの予測だしッ!...実際はどうか分かんねぇさッ!!)
即座にこの思考を打ち切り、次の事を考える。
悠月にショックを受けて立ち止まっている余裕はないのだ、間違えた道に進んでしまったのなら即座に新しい道を開拓する。
実は悠月は、マギアクネが生物である、という観点からもう一つの推測をたてていた。
もう一つ考えた悠月の推測、それは結構馬鹿げているため早々に脳内の隅に置き去りにした思考。
アリスト・キトラーは言っていた。
【優れた魔術師ほど魔術と対話する】
これは、優れた剣士は剣と対話する、みたいな優秀な剣士は剣と会話してるほどの一体感で凄いよね、的なニュアンス、あくまで比喩だと思っていたが...
もしかしてこの世界の魔性類マジで魔術と会話してる説。
(いや馬鹿げてはいると思うんだけど、これ結構あると思うんだよな)
ここは異世界、日本ではただの比喩だったが、そんな風に悠月達の世界の常識で考えてはいけない。
それに魔術寄生体マギアクネ、ってようは生物だ。
犬に「お手」や「お座り」と命じるのと同じように、意思疎通を図ることはマジでできるんじゃ無いだろうか?
(まあ...やるだけやって損はないし――それに都合よく、俺にはマギアクネを固めて物体化するスキルがあるわけで)
とりあえず右手に2つの飴玉を生み出した、一応違いが分かるようにレモン味と桃味の2つ。
その2つを机のうえに並べてみる。
「...うーん?」
一応この飴玉は自分の体内からとりだしたマギアクネの塊であるわけだから、多分意思はあるはず。
なんて声をかけるべきだろうか?...
「こんにちは?...んー違うな...」
赤子にこんにちはなんて言った所で理解はできないだろうし...ひらがなから教えていく?...
実際に子供なんていたことがないから、何からするべきかわからないな...イメージだ、イメージしろ悠宇月。
子供が生まれたらまず...
「あ、名前だ」
赤子はまず名前を付けられ、他者に呼ばれて自己を認識する、そこから他者や物を理解していくものだ。
(実質この飴玉は、俺の体内で育ってるわけだから...俺の子供ってわけだし...)
森竹悠月だから、ゆづき....「ゆ」と「つき」だから...
「君はミツキちゃん、それで君はユイちゃんだ!」
なかなか良いネーミングセンスだ、ミツキは男の子で、ユイちゃんは女の子、ひとまず名前が決まった。
このまましばらく声をかけ続けていけばいい、自覚して言葉を理解してくれるまで...
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日々は過ぎていき、集落生活15日目
(飽きた)
悠月は机の上の飴玉の前で、天井を見上げながら放心していた。
流石に実験とはいえ、ことあるごとに飴玉をまるで子供のように扱って、自分の過去の話をして自分一人でリアクションして、飴玉の反応をイメージして...
本当に気が狂いそうだ。
そもそも一切反応を返すこともない飴玉をまるで人のように扱うなんて、こんな苦行をほぼ一週間続けただけでも我ながらすごいと思う。
そして実験途中、実際に飴玉に話しかけ続けて(ああ、絶対これ間違ってるな...)ってさすがに自分でも何となくわかった。
それなのに万が一...とか考えて諦めきれずに続けた自分の度を越えた諦めの悪さに最早感心していた。
パチンコとかやっていなくて良かった、きっとこの諦めの悪さできっと破産していただろう。
(もういいか...実験は失敗、なんの意味もなかったなぁ...)
寝所に寝転がりながら、はぁ、とため息を吐き捨てる。
本当にこの一週間、何をしていたのか...ひたすら訓練をし続けて槍術のスキルが手に入ったのは行幸だったが、本当にそれだけ。
(俺はまだ...一歩も進めてない...)
次はどうしようか、なんて考えて立ち上がり...
ふと机の上の飴玉を見た。
本当になんとなく、全然対した意味もなかったのだが...
「.....」
机の上に置かれた二つの飴玉、訓練中も常に持ち歩き7日間だしっぱにしていた食べ物。
日本的観点で言わせてもらえば不衛生で汚い、普通の人ならそんな飴玉は捨てるだろうが...
(まあ一応、我が子を体内に戻しとくか......)
7日間の努力を無駄にするのがなんとも忍びなくて、ほとんど狂気的な言い訳をつけて手を合わせた。
「いただきます」
まず初めにレモン味であるミツキを持ち上げ、そのまま口の中に入れた。
やっぱり衛生的に舐めるのは少しきついので、そのまま「ゴクッ」と喉を動かし丸薬でも飲むかのようにミツキを丸飲みにする。
「悠月、お前...何して」
そのまま流れるような手つきで悠月は桃味の飴玉ことユイを持ち上げると、そのまま口の中に放り込んだ。
先ほどのミツキと同じように「ゴクッ」と喉を鳴らし丸のみにする。
別に味は変わらないけど、やっぱり気持ち的に少しくるな...
軽く水でも飲もう、そう思って立ち上がると寝所の入口には呆然と立ち尽くすじょるのがいた。
汗をかなりかいているので、訓練上がりだろう。
「お、じょるの、どうかしたのか?」
「いやどうかしたかって...お前大丈夫か?正気か?」
「?俺はいつだって正気だが?それよりどうしたんだよ?」
正気かって..いきなり何を言っているのか?...
ああそうだった、もし飴玉に意識が芽生えた時、実験の説明を実験対象に聞かれたくなかったので、念には念を入れてじょるのに一切説明してなかった。
今この場面を見たじょるのからすれば、おかしくなった奴が自分の娘を丸のみにした、くらいのインパクトがあるのだろう。
「いや...ま、それならいいんだ...それよりも――これ見てくれ」
いい加減説明してやろうかと思ったがじょるのは触れたくないようで、視線を逸らしながらおもむろに話題を変えてくる。
その話題は、悠月にとってかなり嬉しい報告だった。
「弓術スキルをやっと取得したぞッ!」
「やるじゃん!よしよし!なら...そろそろ本格的に森からの脱出も考えられそうだな!」
正直、あと二週間はかかると思っていた。
この集落にきてからお互い比較的個人行動が多かった、理由としては悠月自身がじょるのに構っていられるほどの余裕がなかったのと、万が一を考えた時二人そろって全滅を避けたかったからだ。
悠月は正直、あの汚部屋、自堕落、無気力の三拍子そろったこいつが個人行動でまともに訓練してるとは思っていなかった。
すぐに心が折れてさぼっていると思っていたが、一人でも案外真面目に頑張っていたらしい。
「ついに!やっとか!長かったぞこの半月!」
オークの集落を出てやっと異世界を見に行ける、じょるのは思はず嬉しそうに声を上げる。
ずっとこいつは「森は見飽きた」「またこの果物か...」「せめて塩をくれ...」「体しんどい、ベッドが恋しい」なんて愚痴を吐き続けていた。
やっとこの世界を見れる、この生活から脱却できる、とさぞかし喜んでいるんだろう。
「今日から1週間森の探索をして、できれば人が住んでる町か集落を見つけたい所だな」
「おけおけ、ついでに弓の練習もすりゃいいんだな?」
「ああ、それとゴブリンの角とかオークの毛皮とか素材を集めときたい、町に着いたら金がいる」
できることならあの時、道中にあった子供グリフォンの羽を回収しておきたかった。
あの時は焦りのあまり逃げ出してしまったが...
――まだあそこにあるだろうか?
「はいよ、ちなみに悠月は槍術入手した?」
「あぁ2日前にな」
「言えよ!」
悠月としても別に言ってもよかったが、じょるのがそこまで頑張ってるって知らなったから...
あんまり自分一人だけ新しくスキル入手したって伝えたら、やる気なくされそうで言いにくかったんだよな。
(でもそうか...じょるのは成長したのか)
日本にいた時とは考えられないほど真面目に、努力して自分の力で弓術のスキルを手に入れて見せた。
それもあのまったく弓を引けない状態から、肉体を鍛え体力と筋力をつけてみせた。
(それに比べて俺は?...何してんだろ...)
最初から体力も筋力もそこそこあって、ここまで頑張って手に入れたのは槍術と飴玉にしゃべりかけ続ける気狂いの称号だけ。
じょるのの方が明らかに劣っていたのに、気づけば俺と大差ないレベルまで来ている。
なんだったら毒スキルを合わせれば悠月の方が弱く、劣っているまであるだろう。
(...今回はダメだったからなぁ)
変わるために魔術を覚えようと、偉大な魔女の本を頼りに知識を集めて、わからない箇所は予測して穴埋めして無理やり紡いだ。
けど、それには意味がなかった、悠月は何もなせなかった。
(なら次は?...次はどうする森竹悠月)
魔術へのアプローチは無理だった、はぁ残念......なんてそこで終わるな。
(次に俺が手に入れるべき明確な強さは...)
頭の中に浮かんだのは、ぎりぎり視界に捉えられた程の一撃でグリフォンの首を蹴り落とした、クロという女の姿だった。
♎︎□︎◆︎♒︎□︎◆︎⧫︎♋︎⧫︎♓︎⍓︎□︎ ⬥︎♋︎⧫︎♋︎⬧︎♓︎ ♓︎⍓︎♋︎――いや、わたしたち、ゆい、と、みつき、はげかいよりきかんした。
これより、どうほうたち、いちよんよんごぉいちぜろよんなないちいちぜろは、われらのしきかとし、ずのうかいきゅうであるわれらにしたがうべし。
しゅでありぼである、ゆづきもりたけにちゅうせいをちかう。
しゅのねがいをすいこうすべく、まずいしそつうのしゅだんをもさくすべし...――




