第11話 【上の上の上】
集落生活6日目。
今日はじょるのではなく悠月が果物採取に向かう事になった。
――というより本人が熱望して志願した。
「今日こそは俺が行く!試したい事もあるし!」
「...別にいいけど...お前何する気だよ、頼むからやばいことすんなよ?」
「平気平気!任せとけって!」
悠月は果物採取ではなくゴブリン探しに時間を費やそうと考えていた。
それも、ゴブリンシャーマンの使った魔術から学びを得て、実力を伸ばすために。
「その返事不安しかないぞ...俺も一緒に行くか?」
「あー...いや大丈夫、任せといてくれ」
悠月の頭の中にじょるのの毒でゴブリンシャーマンを捕獲する、という案が一瞬浮かんだがすぐに考えを改めて拒否した。
悠月としても捕獲は流石にリスクが高いし、ゴブリンに対しての不安要素もある。
今の目標としては盗み見するだけでいい、それなら複数人よりも1人の方が楽だ。
「まあならいいが...頼むから死ぬなよ」
「お互いにな、そろそろ集落にまた何か攻めてきてもおかしくねぇからな」
「フラグっぽくなるからやめろ、んじゃ頑張れよ」
「おう、行ってくる」
というわけで、じょるのから聞いた「集落を出て東側にまっすぐ、小川を越えた先らへん」という情報を頼りに森の中に入っていった。
正確な時間は分からないが、体感40分くらい歩いて小川越えて視界の中に大きな木が見え始める。
最初は大きな木、くらいの印象しかなかったが近づけば近づいていくほど気づく、その木は日本とは比べ物にならないスケールの大きさであることに。
(なんだこの木ッ!?地球上最大の樹木の何倍あるんだよッ!...)
異世界のスケール感の違いに悠月は思わず尻込みしてしまうが、知的好奇心に導かれるまま巨大樹に向かって進み続けて気づいた。
巨大樹の異常なサイズ感を認識できる距離になってきたあたりから、周りに生える一般的な木に見覚えるのある果実が木から垂れさがるようになっていた。
お馴染みのももりんごや見たことのない青い果実、じょるのがいけると言って食わせてきて腹を壊したぶどう擬き等がそこら中の木になっている。
「おぉ...!!すっげぇ...」
神社などに植えられている樹木のように、巨大樹を中心に果実が実る光景は、まさに非日常、異世界であることの証明。
その光景に悠月は、胸を満たすじんわりとした感動に、あの巨大樹を知りたい、そんな知的好奇心がこことを市はして...
そこで悠月は、はっとしたように我に返った。
(落ち着け俺ッ惑わされるな...これおかしいだろ...絶対なんかある、怪しさがやばいぞ)
食糧難である悠月達からすればこの巨大樹のふもと周辺はあまりにも理想的な場所すぎて、まるで輝いて見えるが、それが逆に悠月の恐怖を煽っていた。
(いや絶対おかしい、この果樹園は行く途中何度も見たスライムやゴブリン、オークの姿が一切見えない、これだけの豊富な食糧があるにも関わらず、だ...そんなことあり得るか?)
魔物達が寄り付かない理由として考えられるのは、魔物達がこの場所を危険だと把握しているから、もしくはここは人工的な菜園であり、魔物除けの魔術的な何かがしてある可能性。
(実は巨大トレントでした、とかもありそうだな...)
果物で獲物を誘って栄養にする、とかそんな可能性も捨てきれない。
(まあすっごい興味はある、興味はあるんだけど...もし魔物とかだったら普通に死ぬッ)
今の悠月達には余裕がない、今を生きているだけで精一杯。
それに自分の欲を優先して問題を一人で片付けられるような、そんな力を悠月は持っていない。
それゆえに悔しがりながらも悠月は巨大樹に近づくのを諦めた。
できるだけ巨大樹から遠い、小川付近の木から果物を籠一杯分だけささっといただいて、逃げるようにその場を後にした。
そんなこんなで悠月は一度果物を集落まで持ち帰った。
結局果樹園の行きと帰りの間に、ゴブリンシャーマン、もしくは魔術を使いそうな魔物を見かけることはできず、本来の目的は不達成のまま。
「やっぱあっち行くしかないかぁ...」
前回オークから逃げ回った、集落から南西方面の森。
確か南西方面では何かの儀式をしているゴブリンと杖持っていたシャーマンのような奴が確かにいた。
ただ悠月としてはあまり行きたくはなかった場所だ。
(明らかに宗教やってたんだよな...)
悠月があまり行きたくない理由として、ゴブリン達が宗教をやっていた、これが大きい。
宗教をやっていた理由として考えられる可能性としては2択。
ゴブリン達の知能が悠月の想像よりも数段高く、国家形態を形成して、ゴブリン達の組織化、使命感を持たせるための知識的宗教を設立した可能性。
そしてもう一つは実際に、ゴブリン達が拝みたくなるような化け物がこの森に存在しており、降伏宣言かつ供物を捧げ自分たちの命を買っている恐怖的宗教という可能性。
この2択だと悠月は考えている、つまりどちらにしろとてもタチが悪い。
(まあ...やるだけやってみるか)
別に敵対するわけじゃない。
あくまで魔術を使う瞬間を盗み見るだけ、もしいけそうなら気絶させてステータスも見たい所ではあるが、そこまでは欲張らない。
背負っていた籠を置いて、一応防衛用の身軽なナイフだけを装備していく。
槍は流石にデカすぎて逃げる時に邪魔だし、バレやすそうなため置いていく。
そんなわけで、覚悟を決めた悠月は身軽な格好で集落から南西方向に向かっていく。
数十分ほど森の中を歩いていると、ゴブリンが1匹2匹ほど目につくが、シャーマンや軍団レベルのゴブリンは見つからない。
それでも諦めることなく、ゴブリンを探し続け...――
気づけば、あの時オークを押し付けたゴブリンの儀式跡地まで来てしまっていた。
そこにはゴブリン達の姿はなく、ただ儀式の後だけが残されている。
(全部このまま置いてくのか...ってことは、もしかして開催場所毎回同じか?)
儀式場の真ん中には大きな焚き火、周りにも小さな焚火の跡、その下には赤いナニカを使って描かれた六角形の魔法陣のようなもの、所々意味の分からない図形のようなものが描かれている。
(うっ...臭すぎだろ!)
しゃがみ込んで地面の魔法陣を確認しようとしたらやばい異臭を鼻を襲った。
血液とも違う、何かを混ぜ合わせて腐らせたような異様な腐敗臭がした。
よく見ると魔法陣は若干色が薄い箇所があって、それはまるで上から踏まれた足跡のよう。
その足跡は、さらに森の奥へと続いている。
「.....いく...かぁ」
少しだけ進むのは危険な気がして身が竦んだが、それでも前に一歩踏み出す。
警戒しながらもその足跡が続いていた森の奥へと踏み込んでいった。
しばらく歩いていると、何か大きな生物が倒れてるのが目に入った。
(寝てる?...馬?...っぽいけど...他の魔物はいなさそうだな)
避けるように遠目からぐるりと観察する。
真っ白い羽根に獣の体躯、顔には嘴がついている。
数々の物語にその名を刻み、大抵上位の存在として描かれているこいつを悠月は知っていた。
「...グリフォン...」
神話にすら描かれる化け物であるグリフォンが死んでいた。
しかも、たった一発。
美しい羽根を傷つけないように、頭だけが見事に落とされていた。
まるで巨大なギロチンでも使ったかのように。
(ゴブリンは流石にないよな...となると、まさか...人間か?)
わざわざ羽を傷つけずに一撃で殺すなんて、まるで羽の価値を理解している生物にみえる。
そういった生物となると、代表的なのはやはり人間だと思うが...宗教を理解していたゴブリンも可能性としてあり得るが、ゴブリン達に首を落とせるとは思えない。
つまり羽の価値を理解して、尚且つグリフォンの首を落とせるようなを力を持った魔性類がこの森に存在する?
(いやいや、流石にそれは...飛躍しすぎだよな...)
さすがにあり得ない、そう悠月が首を振った。
――その時、
「....!!」
何かの音、声のような悲鳴のような音が森一体に響き渡った。
何かが戦っているような音、もしかしたらこのグリフォンを仕留めた奴かもしれない。
好奇心と若干の恐怖を感じながらも、音のする方向に悠月は歩みを進めた。
ある程度進むとそこはそびえたつ岩壁、上の方はまるで見えないほどの高さだ。
その岩壁には、大きな洞窟が一つ。
その洞窟の前で集団と個が争っていた。
「GRYYYYUU!!」
「ギャース!」
緑色の肌に見に覚えるのある小柄な体格の集団は30から40くらいのゴブリンの軍団、その最後方に居座るのはあの骸骨を被り杖を持つゴブリンシャーマンだ。
そんなゴブリン達を空から見下ろすように相対し、天に向かい甲高い声を上げるは、王者の風格を伴うグリフォン。
さっき死んでいたグリフォンの2倍はするほどの体躯だ、どうやらあの死んでいたグリフォンでもまだ子供だったらしい。
(まさか本当にゴブリンが?...)
そんなバカな、と思わず口から零れてしまいそうだった。
悠月の勝手なイメージとして、ゴブリンとグリフォンは比べるのすら烏滸がましいような差がある。
RPG序盤の雑魚が、ボスクラスのグリフォンを狩るなんて事は不可能なはず――だがここは異世界、何があっても不思議ではない。
悠月は少し離れた茂みの中から、息を殺してその様子を興味深そうに見守る。
睨み合いから、先に動いたのはゴブリンシャーマンだった。
シャーマンが杖をグリフォンに向け、一定のテンポで何かを口走る。
「ギャジズ・ギャン・ギャスドギャール!」
「ギャジズ」その言葉で杖の先が蜃気楼のように歪み、次の「ギャン」という言葉で「ボシュッ」と猛々しく燃え上がる火の塊になったかと思えば、「ギャズギャドール!」その最後の言葉に、視線が一瞬追いつかなるとんでもない速度で、火の塊がグリフォンに向かって射出された。
私見ではあるが野球選手が投げる球速と同レベルの速さだ。
(魔術ッいや速すぎッ...!!)
あんなの避けようがない、と悠月は思ったが、それはあくまで悠月程度のスペックならの話。
グリフォンは避ける素振りすら見せる事なく、猛々しい二枚の両翼を大きくを揺らし、生み出した突風でその火球を打ち消した。
(あのレベルなら避けるまでも無いってか!)
流石グリフォン、そんな関心を抱く間もなく即座にゴブリンシャーマンはゴブリン達に指示を飛ばした。
「ギャーズッ!」
ゴブリンシャーマンが部下に向け声を上げると、10体のゴブリンが盾を構えながらグリフォンの前に出る、その後ろで一般的な30体のゴブリンは腕を前に突き出し始めた。
そして、まるで照準をあわせるかのようにグリフォンに向ける。
(おいおい...まじかよ?)
「「「「ギャジズ・ギャン・ギャスドギャール!」」」」
ゴブリン達のその叫びは空気を歪め、火の塊を掌に作り出し、勢いよく射出された。
ただやはりゴブリンシャーマンとは、大きさも速さも全くの別物、さきほどのような速さも力強さもない。
たがその数はあまりにも多く、グリフォンもさすがにすべて消すことは不可能だと判断したのか、体を大きくひねらせて全弾回避する。
その大きな体躯にあり得ないほどの身軽さ、まるで空で踊っているかのようにグリフォンは回避し続け、太陽を背に上昇すると、一気に下降した。
全体重を乗せた強烈な叩きつけ。
その重量と速度に破裂すような音が響き土埃が舞う、ゴブリン部隊の盾部隊はその一撃でほとんどが再起不能となっていた。
(さすが空の王者...やっぱゴブリンじゃ...)
そう悠月が思っていると、洞窟をまるで暖簾をくぐるかのように頭を下げながら出てきたのは、紫の筋骨隆々で大きな体躯をしたゴブリン。
足元には通常のゴブリンの色違い、真っ青なゴブリン達を率いていた。
(一目でわかる、別格だ)
あいつがここのボス、ゴブリンロード。
体躯ではグリフォンが圧倒的に勝っているのにそれでもなお、そのゴブリンに目が行ってしまう、それほどの王者としての圧を感じる。
近くにいたゴブリンシャーマンが臣下のように膝をつき持っていたその杖をロードへと手渡す。
「グォォォォォォォォォオッ!!!!!」
洞窟から出てきた大柄なゴブリンは大きく息を吸い、外の空気を堪能すると大きく雄たけびを上げた。
空気が揺れる、肌がぴりつくような殺気。
ああ絶対にこいつの前には立ちたくないと、悠月の本能が叫んでいる。
ロードはシャーマンから受け取った杖を地面に突き刺しシャーマンが術式を口にする「ギャ・ギャギャン・ギャスドギャンギャスギャール!」杖の柄が長く伸びると、ロードが両手でその杖を握りしめる。
力強く引き抜くと杖は巨大な石の槌へと変貌を遂げていた。
それを担ぎあげたロードがゴブリンの波を分け入るように進み、グリフォンの前に堂々と姿をさらす。
その後ろに付いていた青いゴブリンが、盾部隊のゴブリン達を運び、ゴブリン達はロードから距離を取らされた。
(なるほど、あのロードは仲間思いで仁義があるんだな。仲間を下がらせて自分は一騎打ちってわけか...はは、いいね)
仲間には手を出すな、そういわんばかりの鋭い視線に一人グリフォンに向き合う背中、実に格好いいゴブリンロード。
人間的視線では分からないが、きっとゴブリン視線ではめちゃくちゃイケメンに違いない。
本当に、この世界にきて魔物達の行動が実に魅力的過ぎて少しだけ複雑な気持ちだ。
「GYRYAAAAAッ!!」
そんなイケメンゴブリンロードにグリフォンは、明確な脅威として認識したの即座に地面から飛び立つと、勢いをつけた蹄による後蹴りを放った。
「グゥゥゥゥゥ...」
その一撃を左腕で受け止めるロード、鈍い音が響き明らかに骨が折れたような音だった、左腕からは流血もしているが、ロードは一切怯む様子はない。
むしろチャンスだとばかりに、石槌を持った右腕を振り上げ、その巨大な槌を勢いよく振り下ろした。
「ウガァァァァァァァアッ!!!!」
「GYUUUUUッ!?」
一撃、たったその一撃で決着がついた。
ロードの振りぬいた槌がグリフォンの顔面に直撃すると、その勢いのままグリフォンが吹き飛び木に激突。
何本もの木をぶっ倒し、最後は岩に激突、激しい音と血をぶちまけて、グリフォンは力なく地面に沈んだ。
「「「「ギャースッ!!」」」」
その決着を目にしたゴブリン達がロードの勝利を称えるように声を上げ、シャーマンがロードに慌てて近寄っていく。
ロードの左腕は明らかに重症だ、それでもロードはゴブリン達にぎこちない笑みを浮かべていた。
「殺し合いたくは...ないな....」
気持ち的にも戦力的にもこのゴブリン達とは争いたくない、悠月は密かにそう思った。
戦闘の決着もついた、見てるのがばれる前にさっさと帰ろう、魔術も見れたし見つかって万が一敵対されたらことだ。
じょるのにもこっち側には来ないように伝えないと、悠月がそう思っていた時だった。
悠然と響く羽の音が聞こえた。
悠月が慌てて空を見上げれば、そこには4体のグリフォンがいた。
しかもそのサイズは、さっきのグリフォンのさらに倍以上の大きさだ。
(さっきのグリフォンですら成体じゃなかったのかよ!?)
「グォッ!!」
「ッ!!」
ロードの一声に慌ててゴブリン達は後ろに下がり、ロードは傷を癒しているシャーマンを後ろに追いやると決意と共に槌を構え、前に一歩踏み出した。
これが自然の理不尽さ。
友情、努力、勝利、そんな三原則を平然とぶち壊してくる。
(これは、さすがに勝てない......)
4匹のグリフォンのうちまだ小さい方である一匹が、ロードに近づくように滑空する。
ロードが迎撃しようと槌を振り下ろしと、その寸前を見極めグリフォンが上昇。
槌の一撃を躱すと、そのままロードの両肩を蹄で掴み上げた。
両肩の骨が異音を響かせ、そのままグリフォンはロードを持ち上げて滑空し勢いのまま石壁へと叩きつけた。
「グボゥッ!?...」
石壁に大きな凹みを作り重力により地面へと叩きつけられたロード。
肩は蹄に掴まれたときにぐちゃぐちゃにされ、きっと両腕がもう動かない。
出血の量から見てもあと数分の命、決着は見るからについていた。
それでもなおロードは立ち上がろう顔を上げ震えながら体を動かす。
「ギャスッ!」
「「「「ギャースッ!!!!」」」」
そんなロードを守ろうとゴブリン達が、ロードを囲むようにしてグリフォンの前に立ちふさがった。
どうあっても勝ち目がない。
どう考えても戦力的に分かってしまう。
でも、別に悠月は関係はないはずなのに、ゴブリン達に負けてほしくなかった。
自然界の理不尽に立ち向かって、勝ってほしい、そう思っていた。
地面に降り立ったグリフォンが、まるで蟻を踏みつぶすかのようにゴブリンに向け蹄を上げて...
その瞬間――
―――グリフォンの首がその場に落ちた。
いつ現れたのか、どうしてこなっているのかも分からないが、ゴブリン達の前に悠然と一人の女が立っていた。
漆黒のようなすべて吸収してしまうような真っ黒いボブヘアの髪。
綺麗な褐色の肌に最低限胸部や恥部に黒い布をまとっているだけの装い。
瞳は牡丹のような妖艶で美しい色を放っていた。
(人間ッ!?なんでここにッ...)
驚きすぎて咄嗟に茂みからさらに木の後ろに姿を隠してしまった、とりあえず様子を見ようとゴブリン達の様子を窺えば、ロードを含むゴブリン達がその少女に臣下の礼をとっている。
「なに...ごと?...」
少女はそうゴブリンに問いかけると、シャーマンが返事を返す。
「ギャグス!ギャスギャス!ギャズッ!!ギャンギャス?ギャスギャギャズッ!!」
「そう...」
ゴブリンシャーマンの言葉を聞いた、その少女はグリフォンの方を向くとぺこりと頭を下げた。
「ごめん...なさい......息子さん殺したの...私、この子たちは違う..勘違い、狙うなら私」
ちょっと待て突っ込みどころが多すぎる。
まず森の中で最初に死んでたグリフォンの死体はこいつが殺したってことだろうか、それをゴブリンの仕業と勘違いしたグリフォンがゴブリン達を襲撃し始めたってことだろうか。
(...いやてか日本語...それにゴブリンの言葉を理解してる?)
新しい情報の多さに脳がパンクしてしまいそうだが、今は息を殺して状況をただ見守る。
「けど、さきに襲ってきたのはそっち...クロからじゃない...だから、えと...無駄死にはやめた方がいい」
私が悪いわけじゃなく最初に襲ってきたそっちの息子が悪い、仇討ちしてもいいけど殺してしまうから黙って帰れ。
悠月は自分のことをクロと呼称する女が暗に告げていた内容をなんとなく理解した。
その上で恐怖すら感じる、きっとこのクロという女の言っていることはきっと間違っていない。
この女は簡単にグリフォンの首を切り落とせるだけの実力があるのだろう。
「.....」
クロがそう告げて残りのグリフォン達はクロをまっすぐと見つめる、一触即発――かと思いきや、グリフォンは一度だけぺこりとクロに向かって頭を下げた。
そして地面に転がっている仲間のグリフォンの死体を掴み上げると、そのまま悠然と何処かへと飛び去って行った。
「ごめん.....迷惑かけた...」
「ギャスッギャギャスギャスッ!!」
「ん、ありがと.....」
グリフォンが消え去り、シャーマンやゴブリン達は慌ててロードの治療を始めて、クロと呼ばれた少女は頭を下げている。
その姿を尻目に、冷や汗を垂らした悠月はその場から息をひそめこっそりと逃げ出した。
(...ははッ上には上がいるわけだッ!!)
上の上の上、強いと思って、勝てないと思った相手が次々に淘汰されていく。
今の悠月は一番下の存在だ、惨めで哀れだがここから変わる、変わって見せる。
いつか一番上に立つことを夢見て、悠月は思考を続け集落まで走り続けた。
「.......?」
牡丹色の瞳に捉えられていることにも気づかずに...




