第10話 【マギアクネ】
集落生活4日目。
朝目が覚めて、まず初めに枝を削って作った繊維の歯ブラシで歯を磨いていた。
流石に毎日飴を食べすぎてそろそろ虫歯になるような気がした悠月は、こういった事も気をつけるようにしていた。
(はぁ...風呂が恋しい)
ついでに体からずぶ濡れの犬みたいな匂いがしてきたので、悠月達は川で水浴びをしている。
「悠月ッ...えほッげほッ...もう、いいか?」
「あぁいいぞ、あと10回な」
「...悪意のある倒置法やめろ.....くそ」
その水浴びの最中、じょるのは今半裸の状態で川でクロールをさせられていた。
だいたい20〜30mくらいを何度も泳がせている。
今12セット目、あと10セットも泳いだら休ませてやろう、そのあとはバタフライでもう22セットだ。
そんなじょるのが頑張っている様子を眺めながら、悠月は木に背中を預け木陰の下で本を読んでいた。
かなり分厚い量の本で今ようやく半分読み進められたくらい。
書かれていたのは、この世界における魔術の原点、基礎の話だった。
ただ文字はしっかりと読めるし意味は分かるのだが、途中から悠月は訳がわからなくなっていた。
この世界で一般体系化されている魔術の用語がさっぱり理解できなかったのだ。
(作者はアリスト・キトラー...自称始まりの魔女...)
本の書き方はまさに論文のような文章だったが、書かれている内容はなかなかにぶっとんだ内容で、これを書いた始まりの魔女はきっとイカレタ女なのだろうと、悠月は勝手に予測していた。
なにせ、このアリスト・キトラーは始めの文章からイカレた女である正体をばらしてきて、そしてそれを隠そうともしていなかった。
[まず初めに、この本を受け取りし者よ。
それが誰であろうと私は問わない、人、亜人、魔族、魔生類、力を求めし神秘の探究者であればそれ以外は些事である。
この理論を欲望の為、復讐の為、戦争の為、生きる為、どのように用いようと好きにせよ――ただ力無き者は淘汰されるが必定、我を通すなれば強くあれ。
そしていつか偉大なる始まりの魔女アリスト・キトラーを殺害し栄光を掴んでみせよ。
魔光術影、進化は根源的恐怖の先にしかあり得ない、私は更なる先を望んでいる]
「ははッ...ほんと、今読んでもマジどんな女だよこいつ」
自分を殺しに来いってさ、しかもその為の術を教えてやる?
正直イカレテるとしか思えない、けど何故だろうか、あったこともないし知りもしないのに...悠月は何か確信めいてそう思った。
(きっとこいつは...話が合うな)
この論文に度々出る命の価値観、考え方、理論、正直世間一般的には非難されてもおかしくないないようだったが、何故か悠月は否定する材料がなくスルッと受け入れられた。
多分この女には何故か余裕が無い、今の悠月と同じように。
「いつか...殺しに行ってやろうかな...」
それも良いのかもしれない、この世界で今の所目標も何もなくただ今を生きるために頑張っている。
今後の明確な目標というわけじゃないが、この魔女に会ってみたい、そして気が乗れば殺してもいい、くらいには思っていた。
(まぁ俺が今後も無事この世界で生きてたらだけど...)
「悠月ッ!お、終わった...げほッごほッ!」
苦しそうに藻掻くように陸に上がってきたじょるのはそのまま地面に寝転がり荒く息を吐いている。
「お疲れさん、魚とかいた?」
「え?...し、知らん、見てる余裕なんか...なかったっつの」
「じゃあはい、魚取ってこいよ」
疲れ切って荒い息を吐くじょるのに悠月は笑顔でオーク製の石槍を手渡した。
「え?...きゅ、休憩は?」
「そもそも休んでいいって俺言ってないだろ?」
「.....」
「早く行けよ、夜ご飯なしになるぞ」
いつか殴る、そんな目で悠月を見ながら渡された石槍を持ってじょるのはとぼとぼと川の中に入っていった。
その後結局魚は捕まらず、罰としてバタフライを30セットやらせて(さすがに少し休ませた)夜ご飯は果実を食べて1日が終わった。
*********************
集落生活5日目
日頃の生活習慣を終えて、悠月はついに左腕が少し動くようになった。
そしてついに最後の食料であった果実が底をついた。
「なので、そろそろ森の探索を始めようと思います」
朝一で、弓の練習をしようとしていたじょるのを捕まえて、籠を背負って見知らぬ服を着ていた悠月はそう宣言した。
「いや思いますって...お前もう動くのか?その体で?」
じょるのが訝しげな表情で悠月の体を見て、もう一度確かめるように問いかけてきた。
悠月としてもぶっちゃけ本調子ではないが、まあ動けないほどじゃない。
それに今回の目的は食料調達、それ以外の目的はない。
「別に殺し合いをするわけじゃないし、魔物がいたら逃げるよ」
「いや...だったら俺が行く」
「そう言ってくれんのは嬉しいが...まだお前じゃ体力が不安だ」
「...その分弓と毒があればどうにかなるだろ、病み上がりのお前がいくより絶対マシ。森の中で傷開いてぶっ倒れたりしたらどうすんだよ」
普段であればそれ相応の理由を口にしておけば、こういった場合じょるのは納得して自分から引き下がるのだが、今回は食い下がってきて、なお、自分が行く、と言ってくるなんて悠月は少し予想外だった。
「冗談抜きで、こんな無茶続けてたらお前そのうち本当に死ぬぞ」
ここまで真剣に止めてくるなんて悠月もかなり驚いていたし、普段人任せだったコイツも何かこの世界で心境の変化があったのかもしれない。
(それにこれだけ食い下がってきたのならじょるのも何か考えはあるだろうし)
めんどくさがりのこいつがここまでやる気になっているなら任せても大丈夫だろう、と悠月が先に折れた。
「...はぁ、わかったよ食料探しはそっちに任せる、ただあんまり遠くまで行くなよ、やばかったらすぐに引き返してこいよ」
「分かってる」
果物を入れるような籠をじょるのに渡すと籠の中に弓と矢筒をいれて背負うと、じょるのはそのまま森の中に入っていった。
「せっかく新しい服を着たが...意味なかったな」
怒レッドオークに服をボロボロにされ、新しく三人からはぎ取った服を着ていたのだが、結局じょるのが森の探索に行ってしまったため意味がなくなった。
「まあ体力づくりでもするか」
じょるのを見送って、することもなくなった悠月はとりあえず軽めのランニングから始めることにした。
まず集落の周りを槍を持ちながら簡単に20週した、その後は直剣で素振り、ひたすら素振りを始める。
「ふッ!」
この素振り中、悠月は頭の中ではずっと本の内容を考えていた。
(魔術....魔術かぁ...)
新しい力を求めそんな事を考えて考えて...30分から1時間ほど素振りを終えて、悠月は本を読み返したくなってきた。
「ふぅ〜...」
一息ついて、寝所においておいた魔術書をもってくると木陰に座り込み本を開く。
この本から何かを学び、力に変える、それが悠月の望んだことではあるが、今の所進展はなかった。
――というのも、そもそもこの本は魔術に関する本、というよりは魔術の原点、歴史や研究結果の本だった。
しかもその大半が魔術分野の用語ばかりで書かれていたり【Project・Resurrectio】とか【Astral】とか他の知識を前提とした上で話が進む、【占星術】とか【祭壇魔術】とかは悠月でも少しは理解できるが、他の事に関してはさっぱりだ。
その中で唯一理解できて、面白いと感じ何かに使えそうだと判断したのは【魔術気体】それと【内魔】と【外魔】この2つの存在についてだ。
アリスト・キトラー曰く【魔術気体】とは。
[正式名称【Magia】、今時の名称で言えば魔術気体、略して【魔気】。魔生類を狩ることに特化した狩人達ならば【MP】と呼ぶものだ。
これら魔気は遥か昔、古の時代、新生代には存在しておらずジュラ紀以降から突如出現したと観測された。
その転換点でありジュラ紀から魔素紀へと至った要因、魔気の根幹と考えられるのは巨大隕石の衝突である。
遥か空の彼方から落ちた隕石は謎の物体【魔気】を運び、この世界海洋球に落ち爆発的に広まったと考えられる]
これだけで情報量がやばくて頭がおかしくなりそうだ。
新生代とかジュラ紀とか日本と同じ名称、そして巨大隕石の衝突、これらは実際に日本に起こったことと変わらない。
海洋球ってのは、多分この世界でいう地球の意味だと悠月は判断した。
すでにこの情報だけで突っ込みどころは多い、それに何故か分からないが、この世界は元居た世界との類似点がかなり多い――が悠月はあえて無視する。
今生き残るために必要なのは魔術の技術、もしくは力。
歴史のお勉強をしたくてこの本を開いたわけじゃないからだ。
アリスト・キトラーは続ける。
[-私は、魔術の研鑽の末、世界最強の名を得て、一つの結論に至った。
魔気とは
【空気感染型寄生体】である]
アリスト・キトラーはそう述べた。
[この論内においては今後、魔術寄生体【Magiachne】と呼称する。
【マギアクネ】は空気中に存在はできても、宿主の中でしか増殖ができない。
増殖の瞬間は諸君もよく知っているだろう、MP上限値の上昇だ。
体内で増殖した【マギアクネ】は宿主の死後体内から放出され、また新しい宿主を探し始める。
これはあくまで生命活動としての面である、今回の本題とは逸れる為以後割愛する。
寄生体【マギアクネ】における、魔術師たる我々が重視すべき本質とは、宿主の頭脳を頼りとした共生である。
―分かりやすく例えよう。
宿主とは国王であり、【マギアクネ】とは国王の命令を命を懸けて順守する従順な軍体である。
宿主が体内の【マギアクネ】に命令、魔術式を送り込むことにより、【マギアクネ】が自身の生命を消費し、未知なる現象、発火や落雷などの現象を引き起こす、これこそを魔術と呼ぶ。
――優れた魔術師ほど魔術と対話する
このことわざを作った作家は、くだらぬ童話ではあったがしかし、ある意味真理に近づいていた、賞賛に値する]
この本からこの世界における魔術の在り方はなんとなく理解ができた。
魔気が寄生体である、ということも。
ただ一番の問題は、国王が軍隊に命令する為の【魔術式】これが全くもって分からない。
アリスト・キトラーも術式は基礎中の基礎の内容過ぎて、本の中では一切触れてはいない。
結局魔術のド素人とも言える悠月には、活用できない知識だった。
「はぁー...分からん...せめて一回でも魔術を見れればな...」
そこからは正直理解できないページを飛ばし魔術書をパラパラとめくると、悠月はおもむろに【魔気】に関するページを開いた。
[魔気には大きく分けて2種が存在している、1つは体内に宿る宿主の支配下に置かれた魔気【内魔】と、空気中の至る所に散布された指向性を持たぬ魔気【外魔】が存在している。
【内魔】とは宿主の支配下にあるマギアクネであり、MPとはその宿主の支配下における【内魔】の総量を表す。普段魔術師は、消費したMPを細胞一つ一つの呼吸により回復している、勘違いしてはいけないが回復の要因は決して時間経過ではない、【外魔】をいかに取り込み【内魔】に変換したかである。
つまり【外魔】と【内魔】とは宿主に支配されているか否かの違いである。
ではここで、一つクイズといこう。
初級魔術【エークリス】を2人の人間がMP40を消費して放つ。
片方は、まだ魔術を知り使い始めて2年の若造。
もう片方は、魔術を始めて600年の大ベテランだ。
発動速度や魔術制御、改変術式などもあるだろうが、そこは一度忘れてほしい。
全く同じ条件で魔術の威力だけ考えた時、果たして2人の魔術の威力はどうなるだろうか?
正解は...
当然、600年の大ベテランの方が威力の高い魔術を放つ。
読者諸君は当然不思議に思った事だろう、同じMPの消費量でなぜ差がつくのか。
その理由は【外魔】にこそある。
【エークリス】は簡単な爆裂魔術だ。
【内魔】40を体内から取り出し、爆発する指示を出し爆発させる、基礎中の基礎の魔術、そこら辺の稚児ですら扱えるようなものだ。
この時【内魔】に出した、爆発しろ、という指示は空気中の【外魔】へと伝播する。
内魔40に爆発しろ、と命じたがその指示は外魔にも伝播し、40の威力のはずが、50、60と威力が増大する。
より卓越した魔術師であるほど、この【外魔】への伝達が巧妙だ。
たった40の爆発を外魔80を巻き込み120もの強力な魔術へと変化させる事もできれば、逆に小さな威力に抑えることも可能だ。
私レベルになると、【内魔】1の消費で【外魔】1000を消費して大魔術を放つ、なんて事も可能だ]
これを読んで思ったことは色々とあるんだが、まず確認として。
(俺はMP2消費してMP2回復する飴玉を作っている訳なんだが...)
この本の言うとおりであれば悠月は飴玉に【外魔】を一切取り込めてない。
それゆえにこの飴玉スキルはほとんど使えないゴミになり果てている可能性がある。
(もしかして俺って...魔術の才能がない?だからこんなに飴玉はゴミなのか?)
この魔術書の書いてあるニュアンスとしては、一般的な魔術師なら威力が10から20上がる、といった書き方をされていた、が悠月が作り出す飴玉は1も上がってない。
(てかそもそも、寄生体とか考えると飴玉マジでグロいな、2体の寄生生物を飴玉状に丸めて飲み込んでるわけだろ?)
寄生虫で例えるならアニサキス2匹丸めて口に放り込んで、舐めて噛み砕いて飲み込んでるイメージ。
「.....うッ」
想像してみるとかなりグロくて気分が悪くなってきた。
余計なこと考えたら今後飴玉が食えなくなりそうだ。
そんな風にただ気分が悪くなっただけで、悠月にはこの情報から強くなれるイメージが全く浮かばない。
そもそもこの世界での魔術の一般的な扱いが全く分からないから予測もたてられない。
せめて一つでも魔術式が分かれば...
(ん、いや待てよ...この理論通りなら、俺はマギアクネに飴玉に変換する指示を出してるってことだよな?)
そこでふと何かが食い違っているような気がした。
そもそもスキルと魔術は同じものなのだろうか?...だがMP、【内魔】を消費しているってことは飴玉の素材として体内のマギアクネを使っているわけだから、本質的には飴玉は魔術と同じじゃないのだろうか?
(やっべぇ、マジで訳わかんねぇ...)
生きるために強くなる、気持ちだけが先行して技術と知識が足りていない、
まるで何か目に見えない壁にぶち当たっているような感じだ。
――ただどんなに先が見えなくても悠月は思考を辞めない。
試行錯誤を繰り返し間違えて引き返して遠回りして、それでも努力する歩みだけは止めない。
頭の中であーでもないこーでもない、と悠月は頭のなかで思考を巡らせ、水泳にランニング、素振り、槍の訓練、それっぽい五芒星を描いた魔術っぽい儀式とか、「エ―クリスッ!!」と一人川辺で叫んでみたり...
そんな事を繰り返している内に、気がつけば陽は沈みかけていた。
運動を終えた後川で汗を流し悠月が集落に戻ると、Tシャツ血で真っ赤に染めたじょるのが大量の果物を背負っていた。
「じょるの!腹やられたのか!?」
「え?...ああ、ゴブリンの返り血だな最悪...まあいいや、てかそれより見ろよ!めっちゃ見つけた!」
悠月が慌ててじょるのに問いかけるが、じょるのはいざ自分の服を見て気色悪そうに顔を歪める、がすぐに笑顔で果物がいっぱい入った籠を前に突き出してきた。
「おぉ!やるじゃん!!」
背負っている籠の中に入っているのは、いつも食べている桃味のりんご、それに黒い謎の果実のようなものも入っていた、大きすぎる葡萄の実、まるでプラムのような見た目だ。
じょるのを舐めすぎていたようだ、ゴブリンを殺してしかも果物まで持って帰ってくるとは、嬉しい想定外だ。
「とりあえず飯にしよう、めっちゃ腹減った」
焚き火を起こしながら、籠に入った桃味のりんごを焼く。
最近は生で食べるのも流石に飽きてきて、焼いて食べている。
確か何かの知識で焼いた方が栄養価が高いと聞いた事があった。
焼き桃というべきか焼きリンゴというべきかは、少し判断がつかず悩ましい所ではある。
「そういや一応倒したゴブリンの角だけ採ってきたんだけど...流石にゴブリンの肉は食べんよな?」
「あ~流石にゴブリンの肉は...かなり抵抗あるな」
オークはこう豚や猪感が強くていけたのだが、ゴブリンは少し人間臭過ぎる。
人間みたいに宗教してる奴ら焼いて食べるのはかなり抵抗感がある。
やはり食べるなオーク、それと果物でしばらくは大丈夫だろう。
本当に食料がなくなったらゴブリンも考えはするけど。
とりあえず今あるご飯を食べながらじょるのと雑談をしていた。
「今日見た感じだとこの森に生息してるのはスライムにゴブリン、オーク、まあかなり王道な魔物達ばっかだな」
「ああ確かに...そうすると次は有名どころなら...オーガとか?」
「オーガって種族の場合と魔物の場合、二つあるけど...この世界はどっちだろな?」
「まあどっちにしろこの森では会いたくないがな...そういやじょる、お前ゴブリンの亜種って見た?」
「亜種、っていうと?」
「よくゲームとかで出てくる王道なゴブリンの...進化先?ゴブリンアーチャーみたいな」
「あー、今の所ノーマルなゴブリンしか見かけてないけど...ゴブリンって言えば魔法使うゴブリンマジシャン?シャーマン?とか、ゴブリンロードみたいなゴブリンの王様的な大きいやつとかいなかったっけ?実際にこの世界にいるかどうかは分からんけど」
「いや、多分それはいる、というか実際にゴブリンシャーマンっぽい奴はオークから逃走してる時に見、て.......ん、あ!そうか、その手が....」
くだらない雑談から、急に視界が開けた。
悠月自身もこんな簡単なことを見落としていた、と自分の思考の至らなさを恥じた。
(別に人間から魔術を教わる必要はない、魔物の魔術を盗み見て教わればいいのんだ)
悠月は勝手に勘違いしてしまっていたが、魔術寄生体の宿主は別に人間だけじゃない。
怒レッドオークのステータスにもMPは存在していた。
魔物こと魔性類という分類は、マギアクネが寄生できる生物の総称であって人間だけが特別というわけでは決してない。
悠月が考えるに、まず最初に大きな括りとして、魔性類か魔性類じゃないか(マギアクネが寄生可能か不可か)があって、そこから魔性類科の哺乳類、魔性類科の鳥類、魔性類科の魚類みたいに別れているのだろう。
多分こんな感じだと思われる。
それなら別にマギアクネの使い方理解しているのは、何も人間の特権ではない。
魔術を扱うゴブリンがいても何もおかしくはない、そこから魔術式を盗み見て覚えてしまえばいいのだ。
百聞は一見に如かず、とはよく言ったものだ。
「いきなりどうした?」
「いや...かなりいい考えが浮かんだサンキュー」
「そうか?ならまぁいいんだけど」
「そういえばゴブリン殺したなら、レベル上がったんじゃないか?」
ポケットに突っ込んでいた、ステータス用紙をじょるのに渡すが、じょるのは微妙な表情でステータスをみていた。
「いや、特に変わらないな」
「そうか「シャクッ」...ん、げほッげほッ......えッ!?」
じょるのから返されたステータス用紙を受け取り、ポケットにしまおうとした時、そこの文字が見えた。
そこに書いてあった文字に驚いて悠月はももりんごを喉に詰まらせかけて酷くむせる。
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『森岳 悠月 (人間)』Lv12
HP :109/143
MP:142/144
スキル
・飴玉Lv2
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「あ、飴玉...」
「え、なに?」
「飴玉のLvが...上がった!」
「え、ま、マジかよ!あの産廃スキルが!?どうやって上げたんだ!」
「ひたすら出して食ってたんだよ!!やっぱこの世界のスキルLvは熟練度形式だなッ!!」
「で!?能力は!?何か増えたよな!?」
飴玉スキルの新しい力に期待してその場で「はぁッ!!」と意気込んで右手を強く握りしめると、悠月の右手に現れたのは...いつもとは色の違う黄色の飴。
じょるのと飴玉を凝視して顔を見合わせると、意を決したように悠月は自分の口に放り込んだ。。
「なん、だろ...」
口いっぱいに酸味が広がる。
この世界ではいまだに見つけることができていない、懐かしい柑橘類の香りが鼻孔をくすぐった。
「うん、なるほど...」
ステータスを確認すると、MPが2減って2増えている、いつも通りだ。
そして悠月は核心に迫ったように、一人で静かに頷いた。
「これは...あれだな、うん...」
「何が増えたんだッ!?」
「............レモン味が増えた」
「.....は?...え、効果は?」
「...いつも通り」
「.....え、マジでそれだけ?」
「.....まあ、味に飽きることは無くなったよね...」
「あぁ...そう...」
「.....」
「.....」
その後悠月達は、今までの雑談はすっかりとなりを潜め、言葉を忘れたのかと思えるほど静かに無言でりんごもどきを食べ続けた。
綺麗な夜空の下咀嚼音だけが響いている。
(あぁ、マジでこのスキルに期待するの辞めよう)




