中学三年の秋の話
「あれだけの美少女にあんなこと言われて告白しないとか、男かよ」
彼女が出ていくと同時に教壇の方の扉から男子生徒が入ってくる。
中学からの悪友、佐川 海斗だ。
「うるせぇ佐川、誰のせいでこんな感じになったと思ってる」
そう、何を隠そうこいつが全ての元凶である。
時は中学三年生の秋に遡る。
「いい加減、行けよ~」
僕の椅子の反対に、座りながら他人事の様に彼は僕を煽ってくる。
「いいよ、僕は」
「いい訳あるか、お前いつから彼女の事が好きなんだ?」
いつからと言われれば、思い出せない。
彼女のことはいつの間にか、女友達から恋愛に変わっていたのだ。
「そんなの分かるわけないだろ」
「少なくと、俺に相談して何年になる?」
こいつに相談して約二年……入学してしばらくして仲良くなって二年の時に打ち明けた。
それからは「面白そう」と言っていろいろ相談に乗ってくれていた。
「一年くらい?」
「あぁ、一年どころかもうすぐ二年に突入するな」
僕の言葉に深く溜息を吐く海斗。
「そういうお前だって、二組の斎藤さんの告白断ったんだって?」
勉強や運動もできるこいつは非常にモテる。
それに顔もそこそこ整っている。
そのため、女子からすれば最高な優良物件だ。
しかし、こういう奴に限って……。
「だって、恋愛すれば趣味に費やす時間が無くなるじゃん」
そう、こいつは趣味に費やす奴なのだ。
「それに、相手に時間を費やして精神擦り減らすのは俺には耐えられないね」
「だからって、断り方ってのがあるだろ?」
「事実を捻じ曲げて言う言葉が優しさとは限らないんじゃないか?」
「だからって君に費やすくらい位なら二次元に費やした方が効率的だ、何て普通いうか?」
そう、こいつは僕より重度の二次元オタクだ。
普通、オタクというのは思春期の男女にとっては隠すべき事だ。
そうしなければ異性からは避けられる……普通は。
しかし、彼はイケメンで勉強も運動も出来るし、それなりに交友関係がある。
だから、こいつはモテる。
要は、顔がよければそれなりにモテるのだ。
世の中理不尽極まりないな。
こういう奴が、彼女にとっては相応しいと僕は思う。
美男美女、文武両道才色兼備の二人なら誰も異を唱える者など出来ないだろう。
「そう言った方が相手も諦めがつくだろう?」
「お前、いつか刺されるぞ」
「そんなんで刺されるか、誰彼構わず女に手を出す某アニメキャラと恋愛のドロドロでない限り刺されることなんてない!!」
「そう言っても、彼女を振った事で男子に恨みを買うかもしれんぞ?」
今回、こいつに告白してきた女子の斎藤さんは学校で付き合いたい女子トップ4に入る女の子だ。
小柄で可愛らしく、その小動物のような性格と相まって人気を博しているのだ。
「いいじゃん、俺が振ることで付き合える可能性のあるやつが増えるんだぜ? いい事じゃねえか」
一理あるが、言い方ってものがあろう。
彼の言い方だと軽い傷ではなく、致命傷になる程深く切り裂かれるだろう。
ましてや彼女はモテてプライドが高く、男なんて選びたい放題だ。
待っていれば男が寄ってくるのを蹴って彼女は彼に告白したのに、本命があの答えだ。
さぞかし彼女の心を抉った事だろう。
「話を戻すが、お前いつまで引き延ばすつもりだ?」
「僕はいいんだ、どうせ振られるに決まってる」
彼女にとって僕は只の幼馴染で、幼馴染みでなければ関わることなど一生ないだろう。
「でも好きなんだろ?」
「あぁ」
一緒に居ると心地いい感覚がする。
一緒に居るだけで安心する。
他の男子に告白されると毎回胸が締め付けられる。
「なら、決着をつけるべきだ」
「でも」
今は只の幼馴染だが、告白して関係が崩れるのが怖かった。
「関係が崩れるのが嫌ってか? 馬鹿じゃねえか?」
僕の心を見透かしたように海斗は僕に言い放つ。
「馬鹿って……」
「いいか? そんなので関係が変わるようならその程度の関係ってこった……お前達はその程度の関係なのか?」
変わらないと思いたい……だけど、前に踏み出すのが怖い。
「大丈夫だ、成功する……それに振られても俺がいるじゃねえか」
「えぇ~?」
僕が引いている顔を見て海斗は自分の発言の意味を焦ったような顔で動揺している。
「大丈夫だ、俺にそっちの趣味はない……振られても親友で居てやる」
「振られる前提かよ」
「ってかなんで振られると思ってるんだ?」
「彼女は何もかも完璧だし、男子にモテるし君と違ってモテない、存在感の薄くて何の取柄もない僕が他の男子に勝てる要素なんてないじゃないか」
自分で言ってて悲しくなってくるが事実だ。
「とにかく、ウジウジしてないでさっさと行くぞ……今、違う奴らに告白されてるはずだ」
そう言って彼は腕を引っ張り僕を教室から連れ出した。
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