六十三話 天羽
ありがとうございます。
朝夕寒くなりましたね。
御自愛下さい。
......残念でした......
朝から仕事があるので、昨夜は就寝しましたが......
起きたら......残念でした......
ヒューン!
大鷲を思わせる白い翼を空気抵抗を最小限に抑える様にたたみ、
音速で飛ぶ......天使!?......が、雲ひとつ無い青空を突き進む。
それも三体で、三角編隊を取る。
「カムラン、回したぞ」
【こぴー。確認した。落とす】
ギャオーーーーーン!
天使風飛行形態の三角編隊が追いかけて居るのは、巨大ワイバーンだ。
ワイバーンの背中に、三本のランスが鈍く光る。
ケダマワシしながら、一本ずつ刺してやったら慌て逃げ出した。
追い回す天使の三角編隊を背後に気にしながら、ワイバーンは全速で飛ぶ。
「おいおい、そんなに背後に気を取られてると」
ドスッ!
ゲアッ!?
ワイバーンのアゴの下に、急にランスが深深と現れる。
ワイバーンは飛ぶ姿勢を崩す。
ドスッ
ドスッ
さらに二本のランスが、現れる。
カクンッ、とワイバーンから力抜け、自然落下を始める。
【インベントリ!】
ワイバーンは急に、空中から消える。
ヴン
ステルスモードを切った、天使形態のカムラン達が現れる。
......正直、似合わない。
『よーし。群れを片付けたな♪』
「あぁ」
『お疲れ様でした。全体で三十二体のワイバーンを捕獲しました』
自分付きの火器管制システムのゼントが、報告して来る。
「ありがとう。あぁ、馬車ごと攫われていた家族は?」
『全員無事です。......』
「どうした?」
不意に無言になったゼントに問いかける。
『途中、ゴブリンの群れが湧きましたが......リート班が無双しまして......』
『『『『『「あぁ〜」』』』』』
その場全員が、苦笑してしまう。
......目覚めたら、衛兵達は様変わりしていた。
一人ひとりが屈強な戦士に、様変わりしていた。
特にリートと愛馬が、一番様変わりしていた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
リートの姿形は、変わらないのだが、
言動が果敢となり、度胸の底が抜けた。
むしろ所作は粛々と整い、美しいのだが、
迂闊に触れると、即時に切り返される凄みが出た。
その時その場の行動に、迷いが無い。
とっさな判断を求められる場合も、迷い無く適切な対応を行う。
まるで......師匠の気配に似て来た。
......白い世界で、どんな修行をして来た!?
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
(ユグドラシルの入口に、気が付いたんだろう)
『聖光剣の勇者』師匠が、つぶやいた。
(ユグドラシル?入口?)
(......気が付いたら、否応無しに『あの中はヤバい』と理解出来る。
タムも気が付いたら、吸い込まれない様に気を付けろよ。
赤子が濁流に呑み込まれる様なものだ。
吸い込まれたタムの魂は、広大なユグドラシルに『希釈』され『拡散』されてしまう)
まるで、なんでも吸い込むブラックホールの様な存在なのだ。
(魂が、『拡散』!?)
(そうだ。残されたタムの肉体は、ただ生きているだけの抜け殻となる)
(......もし、吸い込まれたら、どう対処したら?)
(ふむ......タムの大事な......『存在』は?)
......タムの脳裏に、ある顔が浮かぶ。
師匠は、暖かく微笑む。
(飲み込まれたら、その『存在』を強く思い出せ。その『存在』が、命綱となる)
そう言う事か。
(......師匠は、戻って来られたのですね)
(あぁ、『命からがら』な。だから、もう二度と行きたくは無い)
お陰で、ユグドラシルの仕組と力は、手にする事は出来た。
異世界に、その命綱は居ないし。
そもそも何度も、ナイアガラの滝みたいな濁流に、呑み込まれる趣味は無い。
(師匠?)
(あぁ、いや、なんでもない)
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
【ブルル♪】
「来たか、ディーカ」
ファサッ
雄々しくも美しい天馬が、タムに近づく。
何時もは人馬一体で空中戦を行なうのだが、さすがにワイバーンの飛行速度には、天馬は今少し遅い。
致し方なく天羽のみで、飛んだ。
タムはそっと鞍にまたがり臀を落ち着けると、白い翼を収納する。
「はぁ、ヤッパリお前の鞍が、落ち着く」
ブルル♪
ティーガも嬉しげに、嘶く。
『たしかに』
オープンチャンネルにしてあるので、タムの独り言にもカムランの軽口が入って来る。
見れば丁度、タムも愛馬の鞍に臀を下ろし、天羽を収納した。
(しかし......)
背の天羽といい、愛馬への飛行ゆにっと?天馬と言い、規格外過ぎる。
今まで馬車で数日掛かる距離が、数十秒で到達出来る。
大国全土何処からでも、魔獣の一報が入れば『すくらんぶる?』で、天馬ごと魔法陣から打ち出される。
なので交代制で、三人の衛兵隊が『れーるがん?』魔法陣の上で、常に待機する様になる。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
(まぁ、見習い勇者はドンドン増やすから、交代間隔はいずれ月単位のシフト制になるよ)
そう言う『聖光剣の勇者』様の生身の右手の平に、 飴玉程の銀色の金属球が六個、
フワフワ浮いている。
(何ですか?)
(あぁ、魔獣発生などを監視する『監視衛星』なんだ)
(かんしえいせい?)
(あぁ。はるか高高度に打ち出すと、地球の自転と同期して、
飛んでいるけど同じ空に留まり続け、
真下を監視し続けられる『監視出来る魔道具』だよ)
(それって、現在の魔獣対策に?)
(即応部隊が、現着まで何日か掛かるて、まずいでしょ)
ポゥ
浮かぶ『かんしえいせい?』の周りに、青白い魔法陣が浮かぶ。
すっかりこちらの魔道技術を、マスターされた様だ。
普通は数年掛かるのだが。
まぁ、無茶苦茶勇者様だし
シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン!
計六発、『かんしえいせい』が打ち上げられる。
ある程度高度に達すると、東西南北に散らばり、青白い光の尾は消えて行く。
(あとね、何故『今期の魔節が異様に魔獣が強い』のか、調べたい)
『かんしえいせい』が飛んで行った上空を見上げる。
(これまでの魔節の資料を『教会図書館』で、ざっと見返したんだが......もしかすると)
ザワリ
え!?魔節の資料!?......一千年分はあるよね!
聞いていた全員が、書物の迷宮の様な『教会図書館』の内部を思い出す。
数百人の司書が、何時も忙しなく行き交っている。
多分、本好きが一生を掛けても、読み切れないハズなんだが......
まぁ、無茶苦茶勇者様だし......
その勇者様は、右手人差し指で額をかいている。
ポリポリ
(......なんかこう......喉元まで、出かかって居るような......
まぁ、もう少し待っててくれ)
(いえいえ、ありがとうございます......
でも......良いのですか?
こんなに地球の軍事機密を......)
(大丈夫だよ。『不正利用しおったら、天罰下す!』って言ってたし)
(!......どなたが『言って』らしたと?)
右手人差し指が、天を指す。
(グルメし......いや、ヴォーグ神さまだよ)
聞いていた全員が緊張すると共に、
相変わらず無茶苦茶勇者様なら『さも、ありなん』と
腑に落ちてしまう。
(まぁ、魔節が終わるまでだから、気軽に使い倒しておくれ♪)
(はぁ......)
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
万事がこんな感じなので、いちいち考え過ぎる方が、バカバカしくなる。
(......取り敢えず、この魔節を乗り切ろう)
そして、天馬の翼ごしに見る眼下の眺望は、身が震えるほど、美しい。
(この、タイ・クォーン森と言う『宝石』を、守りたい......)
『美しい......』
カムランのつぶやきが、聞こえてくる。
みな、うんうんと、頷いて居る。
「そうだな!」
つい、ハッキリと答えてしまう。
ありがとうございます。
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