五十五話 千年前からの肩の荷
ありがとうございます。
朝夕の通勤は、長袖長ズボンにしました。
窓を開けて風を通せば、十分涼しいです。
「......疲れましたぁ......」
セルガさんは、椅子にへたり混んでいる。
「誠に......申し訳無く......」
その足元では、アリーさんが綺麗な土下座を決めていた。
『意識』は素体と同期しているので、普通の人族の声だ。
「じゃあメルダさん、アリーさんを宜しく。隼もな」
「うけたまわりました♪」
「アイサ」
アリーさんは元から『教会の神官長』と同期する管制精霊だし、隼執事のアリーさんへの補佐も、受けられる。
メルダさんは『財務会計アプリ』としての隼のマネジメント能力に、絶対的な信頼を置いている。
その隼が、二十四時間破壊神セルガさんへのフォロー役を引き受けてくれるので、嬉しそうだ。
「胃薬摂取の量が減りそうで、嬉しいです!」
「あ〜......すまない」
ワードマンさんは、メルダさんに謝意を示す。
「大変じゃったのう......」ニーグさまも、苦笑いしてしまう。
「さて、アリーさん」
「は、はい!マスター!」
何故か彼女は、軍隊式に気を付けをして、猛に礼を払う。
「いや、そこは隼を真似しなくて良いですよ。貴女の主は『教会の神官長』です」
「は、はい!勇者タケシ様!」
「いやいや、アリーさん。こう言う御縁で知り合いましたが、貴女も私の友人です。
これからも、宜しく御願いします」
猛はアリーさんに、右手を差し出す。
「は......あ......ありがとうございます」
アリーさんは、おずおずと握手を返す。
互いに一度、ぎゅっと握る。
握手を解くと、バスク動力長を見る。
「では、神殿コア関連の先行きを、御願いします」
「おう。任されたぜ!」
バスクも、にこにこと返答する。
ニーグとワードマンと猛は、バスクの部屋を出て、地上階に上がるゴンドラに乗る。
まぁ、全員飛べるのだが......大人しくしておこう。
ギギギギ ギチギチ
木製のゴンドラと、巻き上げる太いロープが軋む
。
「タケシ......ありがとうの」
「はい?あぁ、どういたしまして」
「千年前からの『肩の荷』を、ひとつ降ろせたは」
「千年ですか......スケールが違いますね」
思わず、苦笑してしまう。
「......私の記憶の御祖母様は、ずっと落ち着いた淑女であらせられましたが......」
「......それはのう、記憶を失えば『教育のやり直し』も、可能じゃて......」
「......では、トレアドール家が......」
「うむ。アリーの父のカリスからは......『密かに礼』を言われてしもうた。
王都から、キングス・マナーの師範を、呼んでおったな」
「......カスケイド先生......ですね......ずっと御祖母様の傍らに、仕えて居られた......否!」
「監視役、だったのでしょうね」
「......で、あろうな」
「御祖母様の......『偉業』とは、なんでしょうか?」
ニーグさまは、目をそらす。
ワードマンさんはジト目でニーグさまを、見つめる。
「表の偉業と......『裏偉業』があるのじゃ......
『裏偉業』が、圧倒的に多くてな......カリスを何度慰めた事か......」
「それは......記憶喪失は、礼を言われてしまうかも知れませんね......」
猛は、遠い目をしてしまう。『表の偉業』とは『やらかした氷山の一角』なんだろうなぁ。
「......後で、『表も裏も』教えて下さい。仮に、本調子に戻った|御祖母様対策に、必須となります」
「じゃあ、ニーグさまも『隼』を呼び出して、『表と裏』を思い出して下さい。
隼がまとめて、ワードマンさんに渡します」
「なんともはや」
「隼さんは、便利ですねぇ」
「恐縮です」
「「!」」
ワードマンとニーグの間に、水晶フラーレン・オーブ形態の『隼』が二つ、フワリと浮いていた。
「どうぞ、活用して下さい」
「マスター。地上階に出られる前に、被り物を御勧め致します」
「おう。そうだった」
カシュン
銀色甲冑のヘルメットが、装着される。
「なるほど」
「有能だのう」
「恐れ入ります」
ガコン
地上一階に到着する。
二十二時くらいだろうか、こちらではもう、深夜帯だろう。
神殿内は、暗い。
『ライト』
ヴォイスチェンジャーの声音で、命ずる。
フラーレン・オーブが、優しく輝く。
ゴンドラ?から出たホールが、ふんわり明るくなる。
『あ〜、私だけが『不審者』ですねぇ』
「我とワードマンが居るのじゃ。大丈夫じゃい」
メルダさんとの軽い打ち合わせでは、この建物の裏庭にハウスを出して良いと、許可をもらった。
ので、裏庭に向かって、だだっ広い回廊を三人で歩き出す。
これだけ広いと、隅まで光は届かない。
中途半端に先が見えにくい中、回廊を歩き続ける。
『しかし......本当に『迷路』みたいな建物群ですね。この建物の裏庭と言っても、そこそこ歩きますね』
「そうなのです。千年の間の教えの、『辻褄合わせ』が激しくてですね......」
『例えば、『多民族の宗教』が加わったり?』
「その通りじゃ。いい加減......」
ブン
シュオン
警告も何も無く、打撃が来た。
猛は事もなく、三尺鉄扇を右手に出して、軽くいなす。
ブン ブンブン
いなされても、棒は止まらない。
ただの円柱の......丈夫な木製の棒か
カキン
ぐるん
「え!?」
鉄扇で巻き上げ技を繰り出し、襲撃者から棒を取り上げる。
カラン カラン
棒が落ちる音が、
「くっ」
コローン
「神殿コア回廊!二番!三名!急行!」
あれ?
警備役かな?
「警備末端まで、話が通っていない様子ですねぇ」
「ふむ。まぁ、バスクが呼んだのも、突然じゃったからのう」
バタバタ バタバタ
程なく数名が、回廊に駆け込んでくる。
「お、おい!あっちの灯篭を付けろ!俺はこっちを付ける!」
「お、おう!」
ふむ、容疑者を囲む陣形には、問題は無いな。
各人、良く鍛錬されている。
まぁ、この時間帯の事態には、想定が弱かったか。
そもそも固定の戦力がある、教会には忍びこめないよね。
灯篭が明るく輝き、互いの顔が判明出来る明るさになる。
「!ワードマン様!?」
「と、赤髪の龍族さま?......!!! 龍神ニーグヘッズ様!!!?」
「「「「「「ははぁ!!!」」」」」
全員が、慌てて床に片膝を付き、平伏する。
「あぁ、よい。気にするな。バスクに無理矢理、突然呼ばれての。警備への訪問伝達情報も遅れたのじゃろう」
「......面目ありません。伝達漏れを起こしてしまいました。以後改善させて頂きます」
「よし。この話は、これにて終了だな」
ワードマンさんが、にこやかに宣言する。
「あのう......では、こちらの銀色兜の方が......」
『『聖光剣の勇者』です。
ニーグ様の『まだ名を伏せよ』との助言を受けまして、
今少し『聖光剣の勇者』と、呼称して頂けたら助かります』
さらりと、爽やかに挨拶をする。
「!」
ザッ
全員が、見事な四十五度のお辞儀を見せる。
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「『聖光剣の勇者』様の御活躍にて、皆、命救われました!」
『お役に立てて、幸いです』
これまた、さらりと答える。
「さぁさぁ夜もふけるぞ、当番以外は解散しよう。
ちゃんと休めよ」
ワードマンさんが、早めの解散指示を出す。
「御気配りの程、ありがたく。では皆休もう。
明日も討伐があるのだから、もう休めよ」
ほう。魔獣討伐か♪
これは、参加したいな。
『隊長さん』
「へ? あ、いや、はい!『聖光剣の勇者』様。
如何されましたか?」
楽しんで頂けたら、評価の程を
宜しく御願い致します。




