二十三話 断罪
ありがとうございます。
二回目投稿致します。
今回、残忍な描写がございます。
苦手な方は、御注意くださいませ。
『やれやれ。現場を押さえられてしまったら、致し方無いですね』
キラリ
突然、神霊が見えて居ない者達にも見える様に、
タイ・クォーン教会第一守護天使ワードマンは、勇者の隣へ『顕現』する。
「第一守護天使である」
「あっ! ワードマン様!」
「「「ははぁ!」」」
白色甲冑の教会衛兵隊の何名かが、何とか平伏する。
「よい。楽にせよ」
ワードマンは苦笑しながら、手を振る。
「ハナマサ勇者管理省長、起きよ」
パシン!
「ぎゃ! は、ひ、はい」
ワードマンさんが、何かハジける系の気付け魔法使い、ハナマサをタタき起こす。
飛び起きた彼は、何とか顔をワードマンに向ける。
「我は現在より『聖光剣の勇者』様の『使役』を受ける。そう心得よ」
「へ! ひげ!?」
ハナマサ勇者管理局長は、更なる『信じられ無い事』を聞いた様に、驚愕の表情に成る。
「そっ、それはっ! タイ公爵領を見捨てると言うことかっ!」
フラ付きながらもタイ公爵が、ワードマンに叫ぶ。
(『使役』? ってなんですか?)
(はい。タケヨシ様の『使いっ走り』になる事です。)
(はい?)
(まぁ、詳しくは後ほど(笑)
「我は『庶民を守護』する存在。『聖光剣の勇者』様もしかり。
目的・目標は同じ。合力させて頂いて何の不都合がある?」
「なっ! 我を無視するかっ! 『タイ公爵領・守護盟約』の不履行ではないかっ!」
「壮大な勘違いをしておるな、御主は。
歴代タイ公爵とは『庶民の平穏』を『守護盟約の対価』としておる。
昨今のタイ公爵領内の『紛糾・紛争』は、どうした!
御主の圧政のせいではないかっ!」
広い礼拝堂一杯に響くワードマンの大喝が、タイ公爵に鋭く入る。
「ぐっ」
タイ公爵は、言葉に詰まる。
しばらく俯いて打ち震えていた。
突然顔を、振り上げる。
「『我は、カール・タイ公爵である。
控えおろう!
先祖伝来の栄光や、我の威光に寄り、公爵領は運営されて居るのである。
そして我は、『生まれながら』にして公爵なのだ。
あらためて、我の威光に、ありがたく平伏すが良い。
だから領内の物は元来、全て私の物だ。私物を回収して、何が悪い?
ええぃ。
領民も、我の土地に住まわせてやってるのだ。
感謝されるのが当たり前なのに、何故生意気にも暴動を起こすのだ!!
また、領軍を送り込まねば、ならんではないか。暴れる御前らが、悪いんだ!』」
…… 何かの呪文の様に、『自分に言い聞かせる』様に、手前勝手な持論? を暗唱? し始める。
「「「「「はい?」」」」」
全員が(何を言ってるんだ?)な表情に成ってしまう。
(……そうか、タイ公爵は『不安』なんだ。彼は『責務の重圧』や『歴代公爵の実績』に
『実は小心者』の心が潰れそうに成りながら、『無慈悲な公爵』を演じ、心のバランスを取り、
今日まで来た…… とか?)
タイ公爵の『心の闇』を汲み取ってみる。
(これは…… 近々にも、彼から公爵位を剥奪した方が、良いのでは?)
(私もそう思いますが…… この国の政治論理は、ややこしいのです……
血統が大事でして、
『トップが『アレ』でも支える下々が支えれば所領は回る』
と言う考えが主流でして……)
ワードマンさんは渋い顔で、うな垂れる。
(…… 兎も角この問題は、直ぐには片付きません! 今はスルーして、逃げましょう!)
ワードマンに、進言する。
(…… ですな)
猛とワードマンは頷き合い、背後のステンドグラスをチラリと見る。
「…… フンッ! 我より横取りしたセルガの肉を、精々『楽しめ』ば、良いは!」
タイ公爵は、憎々しげに吐き捨てる。
猛の動きが、止まる。
ワードマンの動きも、止まる。
龍神ニーグは、苦虫を噛み潰した表情に成る。
ディグリー王都神官長は、怒りに眉をひそめる。
ハナマサ勇者管理局長は…… 再度へばって居る。
公都衛兵隊達ですら、自らトップの『不快な発言』に、眉をひそめる。
タキタル隊長は、(あ、マズイ!)と感じる。
『…… ワードマンさん。治癒魔法を、御願い致します』
据わった眼差しで、ワードマンを見る。
「…… 承りました」
ワードマンも据わった眼差しで、猛を見返す。
猛は再度、タイ公爵を見る。いや、睨む。
さり気無く、セルガを龍神ニーグに渡す。
「おぅ? どうした?」
ニーグには返答せず、無言でタイ公爵を睨み続ける。
ふっ、と、猛は消える。
次の瞬間タイ公爵の目の前に、現れる。
「えっ?」
タイ公爵は、事態を理解出来ず、放心する。
シャキン
二人の間に、銀色の一閃が、走る。
ごろん
「えっ?」
タイ公爵は、音がした右側の足元を見る。
誰かの腕が、落ちている。
「えっ?」
ブシュ!
ズッ、ギン!
「ぐあああああ!」
急に、脳天を突き抜ける痛みが、走る。
右手が二の腕から、斬り飛ばされていた。
ブシャァァァアァ!
赤い血が二の腕の断面から、どんどん噴き出し、流れ落ちる。
「ヒール」
ワードマンの厳かな声が、響く。
シュオン
「あっ? えっ?」
右腕の痛みは、一瞬で消える。
タイ公爵の切り落とされたハズの右腕は、一瞬で元通りに成る。
足元の自分の血溜りは、消えないが。
「よし、ワードマン。それで良いのだ。我を……」
タイ公爵は、ニヤリと笑いながら、ワードマンに話しかける。
「御主は、また勘違いしておる」
「えっ?」
シュン
また、一閃が、走る。
ゴトン
今度は左腕に、灼熱の痛みを感じ、脳天まで突き抜ける。
「ぎゃぁああぁあああぁ!」
ブシャ!
左腕から、一気に血が噴き出す。
タイ公爵は床に転がり、自分の血溜まりで、のたうちまわる。
「ヒール」
再度、ワードマンの厳かな声が、響く。
シュオン
タイ公爵の左腕の痛みは、一瞬で消える。
彼の左腕は、一瞬で元通りに成る。
タイ公爵はビクビクしながら、上半身だけ身を起こす。
「ワードマン! まさか!」
シュパッ
また一閃が、光る。
コロ、コロン。
「あぎゃああああ! ひきぃぃぃぎぃ!」
タイ公爵の両足首が、同時に切り飛ばされ、転がる。
ブシャ! ブシュー!
「はがああぁぁぐぁ! や、やべでぐで!」
「そうだ。斬る為に、ヒールを掛けて居る。本当は掛けたく無いがな。ヒール」
シュ、シュン
タイ公爵の両足首は、一瞬で治る。
「はぁ、ひはぁ…… やめろぉ……」
いくら治癒されるとは言え、斬られた時の痛みは全身を駆け抜ける。
痛みが消えても痛みの記憶は残り、精神がゴリゴリすり潰される。
タイ公爵は、立ち上がる気力も消耗し、ヘロヘロだ。
『…… 御前には正妻の他に妾が十一人も居て、それぞれの妾に子が二~三人居るそうだな』
猛は、つまらなさそうに話し出す。
「?! 何故それを?」
『いくら『産めよ殖やせよが奨励されて居ても、多過ぎです』と、
呆れながらワードマンさんが教えてくれたよ』
冷たく苦笑する。
「だから何だと言うのだ! 手前勝手な事ではないか」
『だから、もう要らんな』
「え?」
シュパッ
タイ公爵の『股間』に、突き技の様に、一閃が走る。
プシュ
タイ公爵の『社会の窓』から、赤い血が噴き出す。
ポロン、コロリ。
「うわあぁあああぁ! 何と言う事を! ギャァアアアア!」
タイ公爵は股間からの激痛に、股間を両手で強く押さえる。
しかし、指の隙間から流れ出る血は、止まらない。
「いやだぁあぁぁぁ! た、だのむぅ! ヒールを……」
彼は這い蹲ったまま、ワードマンを見上げて懇願する。
『断る』
ワードマンは、冷たい眼差しで見返す。
「そんだぁあぁ」
タイ公爵の顔は、血と冷や汗と涙と垂れ流しのヨダレで、グチャグチャだ。
タイ公爵領主の『無駄に立派な制服』もヨレヨレで、自分の血で真っ赤だ。
「思い知れ。『血が流れた』とは、今、御主の身に起こって居る事態だ。実に痛かろう。
御主の圧政で、どれだけの庶民の『血が流れた』と思う。その痛みを、実感するが良い」
ワードマンは、無慈悲に言い渡す。
「ふぐぁぁあぁ……」
ガクン
タイ公爵は、あっさり失神してしまう。
「不甲斐ない…… ヒール!」
ワードマンさんは『しかたなく』ヒールを掛ける。
シュオン
タイ公爵の股間の血は止まり、『ポロン、コロリ』したモノは元通りに治癒する。
『まぁ、これ以後もセルガさんに『種付けしたい』とでも言える様なら、逆に私は尊敬しますがね』
猛は苦笑し、足元で失神したタイ公爵を、冷たく見下ろしながら言う。
「同感です」
ワードマンも、彼を冷たく見下ろす。
(すげぇ、『聖光剣の勇者』様は、タイ公爵様に『天罰』を落とされたぞ)
(しかも、この教会の『第一守護天使様の断罪』付き)
(……どうあれ、公爵様の『命は見逃した』形か)
(まぁ、結局『無傷』…… だからね?)
(うーん『治癒』してるのだから、勇者様を『不敬罪』に出来ないよな?)
(ソコは『アソコを斬られた』公爵様の御判断だろ)
(ソコも『第一守護天使様の訓示』で、不問だろ)
(…… 仮に、勇者様を『不敬罪』と判決されたとして、
誰が『巨大魔人を一撃』な勇者様に『猫の鈴』を付けられるんだ?)
(((だよね!)))
(…… 公爵様は『怒らせてはいけない相手』を、余計な一言で怒らせた……
俺はあんな『無慈悲な天罰』は、絶対ヤダし)
彼は思わず、自分の股間を守る様に押さえる。
(((同感です!)))
全員、自分の股間を押さえてしまう。
これ以降、巨大魔人を一撃し、更にタイ公爵へ斬撃と治癒を繰り返した『聖光剣の勇者』の名は、
畏怖と畏敬と共に、あっという間に公都全域に伝播して行く。
特に『タイ公爵のアソコ』を切り飛ばした行為は、
反公爵陣営に『良くやってくれた!』と胸を空く思いを抱かせ、凄まじい指示を集め、
我先と勇者へ合力を申し出る。
猛は、彼に怯える衛兵隊達の間を、ゆっくりと進み、
フラつくセルガを右腕だけで支える龍神ニーグの元に戻る。
『ココを、出ましょう』
乾いた微笑を、ニーグに向ける。
「あ、あぁ」
ぞくり
その『乾いた微笑』に、
龍神ニーグの背中に、悪寒が走る。
(母様の訓示の、
『この世には、怒らせてはいけない相手が居ります』とは、この事か……)
『では、ニーグ様』
「あ、あぁ」
セルガを受け取り、再度御姫様抱っこする。
そしてステンドグラスに向く。
『破壊』
バシャン!
天井まで届くステンドグラスが、一気に粉砕する。
しかし、破片は中に浮いたままだ。
フワリ
猛は、中に浮かぶ。
そのまま、ステンドグラスが除かれた窓から、出て行く。
龍神ニーグと、顕現したワードマンも、出て行く。
シュン
ステンドグラスは、綺麗に修復される。
(((…… 行っちゃった……)))
衛兵隊達は急に礼拝堂の広さが実感され、ガランと淋しさを感じる。
あんなに『聖光剣の勇者』様の『怒り』に怯えたのに、
去った彼に、ナゼかもう『懐かしさ』を感じるのは、ナゼだ?
そうか。子供の頃、無条件に頼れる『両親』に、『一人で留守番』を言い付けられた時の感覚だ。
立った今出て行ってしまった四人は、無条件に頼れる人達だ。
その人達に、置いて行かれてしまった。
見れば、タイ公爵は、失神してる。
ハナマサ勇者管理局長は、床にへばって居る。
タキタル隊長もまだ、膝を着いて居る。
現在この場には、『事態を仕切れる指揮官』が居ない。
衛兵隊達の胸に、焦燥感が生まれて来る。
宜しくお願い致します。
御意見頂けたら、幸いです。