十九話 龍神の一択
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がんばります。
「どうだ? セルガ神官長達は、あそこで何をして居る?」
王都衛兵隊隊長タキタルは『望遠魔法』が使える魔導士を捕まえて、展望室まで引きずって来た。
セルガ達が龍神の処で何をしているのか、観させようとしている。
「タキタル隊長! カンベンして下さいませ! 多分『勇者様』が展開された『障壁』です。
あちらの勇者様の『魔力量』と『ランク』は、私如きより、ケタ違いに上位な方です。
上位の方の魔法は、破れません。寄って障壁の向こうは、見えません!」
多分タキタル隊長より年上の、ベテラン魔導士は、情け無い声をあげて懇願する。
「むぅ。されば致し方無い。出来る事を、準備するか」
タキタル隊長はアッサリ魔導士を離し、展望室を出て行く。
◯ ◯ ◯
ビクン!
ぐらり
切り離され、役目を終えたハズの龍神の左前腕が、急に動き深く刺さる三又のピッチフォークも動いてしまう。
「! 失礼!」
猛はこれ幸いと、龍神の豊かな双丘から逃れる。
(アナライズ)
先ほどの、左前腕の3D分析展開図の映像が、AR表情で立ち上がる。
ヤバい。エビル・エレメントの蠢きが止まらない。
どんどん『魔族細胞』に、変換されてしまう。
左前腕に、目とか小さな四肢が生えて、歩き出しても不思議じゃない。
(隼、巨大魔人を倒した時の、フォトン・ソードのデーターを出してくれ)
(こちらでス)
(……ふぅん。巨大魔人を『内部から焼いた』データーが参考になるか)
「龍神様」
猛は、龍神ニーグヘッズに話しかける。
「タケーシ勇者殿、ニーグと呼んでくれぬか」
龍神、いやニーグは、シナを作る。
「んではニーグ様。貴女の左前腕を処分しないと、手足が生えて、勝手に歩き出しそうです。
巨大魔人の様に、消滅させて宜しいでしょうか?」
内心 (めんどくせー)と思うが、早く処理しなくては成らないので、ポーカーフェースで、話す。
龍神ニーグは、一瞬真顔に成る。
「……よい。消してくれ」
と言いつつも、やや寂しげに自分の左前腕を見つめる。
「良く働いてくた」
彼女は、ほろ苦く微笑む。
「では『光子対消滅』!」
左前腕と、刺さっている三又のピッチフォークが、蒼白い清浄な光に包まれる。
◯ ◯ ◯
「ヒィ! 何だ!? 何なのだ!? 『まるで太陽』の如くの強烈強大な魔力は!」
まだ、神殿の湖側窓からセルガ達の様子を伺っていた魔導士が、
猛の発する前代未聞の強大な魔力に、その身をガタガタ震わせ恐れおののく。
「ヒィイイイイ」
腰を抜かし、ペタンと女子の様に展望室の床にヘタり込んでしまう。
◯ ◯ ◯
「なんと見事な聖魔素なのでしょう」
セルガさんは『光子対消滅』の青白い清浄な光を、ウットリと見つめる。
(セルガさんから聖魔素と言う用語がでたぞ。『光子』は、『聖魔素』なんだな)
(押さえましタ)
キカッ
カラン
魔族細胞化しつつあった左前腕と、三又のピッチフォークは、刺さっていた地面の土壌ごと消える。
後に、龍神の指輪やブレスレットや前腕リングが残される。
大きさは、現在の人間の大きさだ。
(龍神の何かと、リンクしてるのだろうなぁ)
ゆっくりと、拾い集める。
「どうぞ」
龍神ニーグの右手に受け取り易い様に、そっと差し出す。
「……感謝する。タケシ勇者殿は、心根が優しいのだな」
彼女は、受け取った『魔道アクセサリー』達を、しみじみ見つめる。
「……これらは我には、もう必要無い。ヌシが受け取ってくれぬか」
「……何か『思い出』が有るのでは?」
「まぁな。さすが、鋭いの」
「御預かりします」
それ以上問わず、さっさとインベントリへ仕舞う。
「…… そして、懐も深い……」
ずい、と一歩近付く。
「やはり御主は良い雄だ!、是非是非子種をくれ!」
ガバッと、抱き締め様とする。
「ちょっ、一寸待って下さい!」
龍神ニーグの右手首と左肘を、ガッと押さえる。
ギリギリギリギリギリギリ
御互いの剛力が拮抗する、手押し相撲が、始まる。
「おう! さすがは勇者。 御主の剛力はスゴイのう。で、なんじゃ。今更何の障害がある?」
「先ほども伝えましたが、私はこの世界に来て、一時間も経過して無いのです。
状況確認や判断出来る情報が欲しい。どうか、話を聞かせて下さい」
「ならば寝屋で睦言として、
微に入り細に入り、ジックリと話してやるぞ」
「いや、召喚したセルガさんにも、話を伺いたので」
「なんじゃ、二人同時に種付けが希望か? 御主は『そちら』も、有能なのじゃな」
「だからなんで! 種付け一択なんですかっ!」
『あのー、ニーグ様。
タケシ勇者殿の『状況判断したい』と言う御意見は、御尤もかと。
優秀な武人として『情報収集し、戦況を判断したい』と見受けます……
ここは一つ種付けの件は、一度脇に置いて頂けませんか?』
ワードマンさんが、やんわり助け舟を出してくれる。
「ニーグ様。地球では、私は『最終兵器』なのです。
僭越ながら巨大魔人を倒せる程に。
ので、絶えず状況判断をしながら行動しませんと『人々の暮らし』が、カンタンに滅びます。
ですから状況判断出来る情報が欲しい。
御願い致します。普通に、話を聞かせて下さい」
ビクとも動かない手押し相撲をしながら、真摯に要請する。
両者の足元は拮抗する剛力で、砂浜にのめり込み始めている。
「むぅ……」(=3=)
人間女性化した龍神ニーグヘッズは、唇を尖らせ、不服そうな表情をする。
自分自身もある意味『最終兵器』なので、他人事では無い実感はあるのだろう。
案外可愛い……アレ? フェロモンの影響か?
威圧系美女は嫌いではないけど。
けど、元がアノ巨大な龍神て。気後れするよね。
また、どちらにしても知り合ってまだ小一時間だし、
いきなり『つがえ! 子種くれ!』と言われても盛り上がれ無いよね。
「とにかく事態は沈静化した様子ですし、神殿に入って落ち着きませんか?
美味しい御茶で、一服しませんか? 一服しながらタケシー勇者様に、
この世界の『現在の状況』を御説明させて頂けたら、と」
セルガが、折衝案をだす。
「それならば、異存ありません」
猛は、微笑む。
と、ちろりと、ニーグ様を見る。
「わかった! 後にしよう!
……そんな(かわいい)微笑みで、ウヤムヤにしようと思っておらんだろうの?」
ニーグ様は、ジト目で軽く威圧してくる。
「…… 断ろうかなぁ…… 帰ろうかなぁ」
ワザと、不服そうな表情をする。
「! …… わかった! …… どうか、検討してくれ」
ニーグ様は焦り、しおらしく懇願してくる。
「わかりました『検討』は、しましょう」
「ぬぅ…… 言質を取らせぬか、強かだのう」
「地球での『平和維持活動』は、意見が正反対同士との、交渉と調停の繰り返しでしたからね~」
紛争地帯での『泥沼交渉』を思い出しながら、ほろ苦く微笑む。
「ふぅむ、根気良く交渉も出来るか。セルガ。御主の手に余るやも知れぬ勇者殿じゃぞ。大丈夫か?」
「…… 現段階で、手詰まりです。
もういっそ、タケ-シ勇者様に全て『丸投げ』させて頂こうかと……」
セルガさんの碧眼は疲れ果て、光を失いかけている。
「え? って、そんなに事態は行き詰まりなのですか?」
「はい…… 魔族だけの問題ではないのです」
セルガは、ショボンとうなだれる。
「あー…… では、御茶を下さい…… で、どっから神殿に入ります?」
「えーと、申し訳ありません。城壁外から上がれる道は無いのです。グルリと城壁を徒歩で周り、正面の街道を回りませんと」
猛は、城壁を見上げる。
「飛びましょう。失礼」
セルガをお姫様抱っこし、フワリと浮かび上がる。
「ひょおおおおお」
またセルガは、抱き付く。
(たゆん♪)
…… 至福♪ ……
「やはり人族同士がよいか。まぁ、セルガは抱き心地は良さそうだがの」
真横から、龍神ニーグが突っ込んで来る。
前を見るとワードマンさんは、またも苦笑いしながら浮かんでいた。
「行きましょう」
彼に『ポーカーフェイス』で頷き、エレベーター位の速度で、ゆっくり上昇する。
「まて! タケシ!」
急に龍神ニーグは、猛を制止する。
「何か?」
「御主、鎧兜とか……
仮面とか、持って居らぬか?」
「有りますよ。何故?」
「御主も『最終兵器』と言うならば、御主が『状況判断』付くまでは、素顔は隠した方が良い」
なるほど。顔バレしたら、各派閥から自分等の陣営に有利な様に、引き込み合戦になるか。
それは煩わしいな。
「えと。でも、勇者認定が」
セルガは、困惑顔で言う。
「なに。タケシ勇者殿には、些細な認定だ。
それに、巨大魔人を一撃した『聖光剣』があるではないか。それを出現させれば、一発だ」
なるほど。自然な情報収集にも、個人不詳が良いか。
「では、自前のバトル・アーマーを装着します」
カタカタカタカタカタ
銀色の細かいパーツが多数、インベントリから猛の身体に沿って流れ出し、すばやく武良の全身を覆い出す。
カシャン
最後にフェイス・プレートが武良の素顔を覆うと、銀色の全身甲冑の戦士が、セルガをお姫様抱っこして居た。
全身甲冑とは言え、ひとつ一つのパーツは身体に張り付く様に薄く、彼のハガネの様に精悍に鍛え上げられた身体のラインを浮かびあがらせ、シャープな印象だ。
「どれだけ驚かすのじゃ…… 御主の生きて来た世界に、行って見たく成るの」
龍神ニーグは、驚きと呆れと好奇心の、ないまぜな表情になる。
抱かれているセルガも、綺麗な碧眼を真ん丸くして居る。
「……硬くありませんのね。当たって居ても、痛くありませんは」
「はい。人造筋肉で構成され、人族の筋力を倍増します。
その人造筋肉の上に『パワー・フィールド』を発生させて稼働するので、全身甲冑の戦闘力は無限に上がります。
また敵の攻撃が当たる時は、エネルギー障壁で弾くので、通常は柔らかくて良いのです」
もっとも身体に『パワー・フィールド』を発生させれば、同様に『スーパーパワー』は稼働するので、武良的には余り必要を感じなかった。
また、地球でも『顔出しNG』の『侍』も居る。
ので、彼はむしろ『広告塔』として顔出しして居たので、『侍』甲冑装甲スーツは、それ程使用して居ない。
『…… 是非『仕組み』を教えて下さいませ』
多分、生前は軍属だったであろうワードマンさんが、興味心身で問うて来る。
「あ~。まぁ、その内に」苦笑いで、回答をあいまいにする。
『おっと、軍事機密ですかな。あぁ、そうだ。顔を隠すなら『なにがし』勇者様と、異名が必要ですな』
「おお」
「ふむ」
「…… 『聖光剣の勇者』様では?」セルガが、ポツリとつぶやく。
「それじゃな。表立って魔族・魔人を倒すときは、その銀色甲冑で『聖光剣の勇者』じゃな。普段は、素顔等で知らんぷりして居れば良いし」
「なるほど、そうですね。わかりました」
猛は、同意する。
「では、行こうかの。おう。セルガの教義姉妹の姉、ランファ・ディグリーも来とるようじゃの。魔族警報は、ディグリーの王都『神官長権限』で出されたからの」
「はい…… 義姉様は……」セルガさんの表情と声は、沈む。
ありがとうございます。