十一話 至福な天国
ありがとうございます。
「……あぁ、ワードマン様……また御助け下さいましたのね……
あら〜、良い心地。......天国に召されたのかしら……」
セルガさんは、うっすら意識が戻り、布団の温もりに気が付いた様だ。
ゆったりと、寝返りをうっている。
わかるよー。もう、その布団からは出たくなくなりますよー。
猛は余計な妄想をしながら、彼女の生体ARを確認する。
うん、低体温症は回避したな。
『いいや、セルガ。私ではないよ』
「……はい~(むにゃむにゃ)」
セルガさんは、そのまま寝入ってしまう。
猛とワードマンと呼ばれた心霊体は、視線を交わしながら、互いに苦笑いをする。
『恐れ入る。ワードマンと申す。セルガが召喚出来た『勇者様』と存ずる。相違ありませんか?』
一角の武人らしく、問うて来る。
「私の世界に突然彼女が現れ、たしか二~三分で慌ただしく『勇者』の説明をうけました……
だから私はこの『異世界』では『勇者』なんでしょうね」
苦笑いしながら、思わず皮肉で答えてしまう。
『何ともはや。セルガが粗忽で無礼なマネを。
タイ・クォーン教会・第一守護天使として、セルガの不手際をお詫びする』
「だいいちしゅごてんし?」
今度は『天使』て!
『はい。あー。タイ・クォーン教会で、人族の第一責任者はセルガですが、
神霊の第一責任者は、私ワードマンが務めます。
私はセルガの五代ほど前の先祖でして、
戦にて天に召されたのちに神より天使を任じられました』
彼は恭しく、一礼する。
「私は『円鐘 猛』と申します。地球では平和維持組織に属して居ります」
猛も、恭しく一礼する。
『ほう。セルガは『当たり』の勇者様を、引いた様ですな』
「……『ハズレ』な『勇者』も居るのですか?」
思わず軽く眉をひそめ、突っ込んでしまう。
『えー、まぁ……』
ワードマンは、くるりと目玉を回し(失言したかな?)と、とまどう。
「勇者様!?」
いきなりセルガさんは、ガバッと跳ね起きる。
猛は面食らいながら、跳ね起きたセルガさんと視線が合う。
「エーショー、ターケシ勇者様!」
バサッ!
彼女は、心地良い羽布団を跳ね除け、猛に迫る。
「あっ!」
御約束で、彼女の足は布団と絡み、簡易ベッドから前のめりに転がり落ちる。
「おっと」
スッと踏み出した猛は、らくらく抱きとめる。
(たゆん♪)
……至福…… いやいや!
「落ち着いて下さい、セル……」
ぼふん♪
猛の顔面は、(かなり)豊かなノーブラ双丘に、包まれる。
鼻腔いっぱい、良い香りに包まれる。
……天国…… いやいや!
「! ムグ、モガ!」
(名残惜しいが)『離してくれ』と、言いたい。
しかし豊かな(たゆん♪)に、口まで包まれて、言えない。
ぱん、ぱん、ぱん。
セルガさんの背中を、優しく『まいったタップ』する。
「うわぁあああぁん! 勇者様ぁ!」
しかしセルガさんは、『慰められた』と勘違いしたのか、尚強く猛の頭を抱きしめる。
「むぐぐぐ」
こまった。
天国だが、結構苦しい。
召されてしまうかも……本望……?
『至福な天国』状態に、強い『葛藤』に苛まれる。
『これ! セルガ!』
ワードマンさんが、彼女を強く叱責する。
「ひゃい!」
サスガに元武人。部下を一括して、命ずる迫力がある。
やっとセルガの両手が、緩む。
彼女の手を離すのには、強い意識が必要だが、状況判断する情報が欲しい。
「ぷはぁ。セルガさん、落ち着いて。詳しい話を聞かせて下さい」
やっと『天国』から、抜け出せた。
『民間』平和維持組織の『侍』は、武装集団のイメージが強いが、その『圧倒的な武力』を盾に、紛争等の『交渉人や調停人』務める場合が、案外多い。
そして『調停』には、諍う双方の意見を、こと細やかに丁寧に、聴取しなくてはならない。
調停が上手く行けば、話し合いだけで紛争が収まる事態が多い。
地球の昨今では案外、『闘争』に発展する事が少なくなって来ていた。
「ふえぇ、勇者様ぁ!」
彼女は、また泣きくずれる。
十六歳でトップかぁ。トップは孤独だよね。
ずっと我慢していたのだろう。
やっと話を聞いてもらえそうな相手を見付けられ、思わず甘えて居る様だ。
『セルガ。しっかりしなさい。大事な山場なのですよ』
ワードマンさんは、セルガさんを強く励ます。
「まぁまぁ、ワードマンさん。私としては状況を把握したい。セルガさん。どうぞ、もう少し詳しく、話を聞かせていただけますか」
優しく微笑みながら、ワードマンの『彼女を強いトップへと鍛えねば』と言う思い故に『セルガへの厳しさ』をしてしまう彼を、やんわり牽制する。
「えっ」
やっと彼女は、気が付いた様だ。
ワードマンと猛の間を、泣いた赤い目を左右にせわしなく動かし、交互に視線を彷徨わせる。
「……あの……」
彼女はワードマンを、すがる様に見つめる。
『うむ。彼は私の姿が見え、話が出来る。彼の霊格は、我より遥かに高い。まさしく『神位の勇者』様だの……セルガ。良くやった』
ワードマンさんは、満足そうに彼女に頷く。
「えええええ」
彼女の澄んだ碧眼は、驚きに大きく見開く。
うん?彼女は、何を狼狽して居るのだろうか。
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