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6話 一骨の助け

「おらぁっ!!」


 目を閉じで死を覚悟していたスピネを救ったのは、乱暴な声だった。瞼を開けると一骨が空中へと跳んで、力任せにケルベロスを殴り飛ばす。一骨の何十倍もの巨大な身体が、その一撃で大きく傾いた。

 足音もなく軽やかに着地した一骨は、背中越しに笑った。


「おい。「死ぬといいわ」とか言いながら、お前の方が死にそうじゃんかよ? 骨どころか何も残らないところだったぜ?」


 振り向いた一骨。スピネにはその姿がカスパールと重なって見えた。


「カスパール様……!?」


「はぁ、なに言ってんだ。俺は一骨だ。しょうがないから今回は俺が助けてやるからよ。泣いてないで、さっさと逃げろよな」


 一骨の言葉に、スピネはようやく自分が泣いていることに気付いた。頬を濡らす水滴を両手で拭う。


「……た、助けてくれてありがとう」


「は? お前、なんで感謝なんかしてんだよ。俺は今、お前を馬鹿にしたんだぞ?」


「でも……助けてくれたのは事実だから」


 改めて頭を下げるスピネに身体を向ける一骨。


「だー! だから、今は改まって礼を言う時じゃねぇーだろうが! お前といると調子狂うぜ。この状況、普通は他人なんざ置いて自分だけが逃げてくだろうがよ!!」


 一骨は生まれてからずっと、【バサナテル墓地】で暮らしていた。スケルトンが暮らす領域(テリトリー)。貴重な魔物の素材や、墓地に眠るとされている宝を求めて幾人もの人間が訪れた。その度に一骨は目にしていた。強力な魔物から逃げるために、他人を蹴落とし、囮にして自分だけが助かろうとする人間たちの醜さを。


 だが、目の前にいるスピネにはそれがなかった。ケルベロスを前にしても、一骨への恩を忘れない。それどころか、


「……わ、私、もう逃げられなさそうだから、あなただけでも逃げてよ」


 と、一骨の袖を掴んで自分の後ろに隠そうとする。


「お前……。本当に馬鹿なのか?」


「馬鹿は一骨の方だよ。一人でケルベロスに殴りかかるなんて……。相手は、【壊級かいきゅうの三ツ星】。早く助けを呼ばないと……」


 前に立つスピネの首根っこを掴み、横にある墓石に座らせた。


「【何級の何星】とか良く分かんねぇけどよ、要するに、相手にとって不足がねぇってことだよな?」


 一骨は右手、左手と指の骨を鳴らす。立ち上がったケルベロスが怒りに目を充血させて唸り声を上げる。


「お前も骨が好きなら、思いっきり食わせてやるよ!」


 一骨はそう言うと、左手の人差し指を右手で掴み、力任せに引きちぎった。


「な、なにしてるのよ!!」


 スピネは驚きの声を上げる。

 肉が千切れ、赤い鮮血が散った。墓地の地面に垂れて血だまりとなる。自分の血液の上に立った一骨は、千切った指を空中へ放る。


「へっ。面白いモン見せてやるから、黙ってみてろ!!」


 次の瞬間――。

 指は巨大化し、弓のような形状へ変化した。外見こそ骨で作られた弓のようではあるが、弦はない。弓というよりも大きく刃が湾曲した二振りの刀がくっ付いたと云うべき形状。

 骨から作られた武器を自慢げに見せびらかす一骨。


「どうだ! 格好いいだろう!!」


「それは……【物質の変形】!?」


 スピネが驚いたのは武器の形状ではなく、一骨が見せた物質の変形だった。それはカスパールのみが知る秘伝の【魔術】。スピネは何度か教えて貰ったが習得することが出来なかった【魔術】だった……。

 スピネはそっと頭に付けた髪留めを振れる。


「行くぜぇ! 覚悟しな、三馬鹿犬が!!」


 一骨の挑発に乗るかのように叫ぶケルベロス。右の前足を大きく振り上げて薙ぎ払う。離れた場所にいるスピネを突風が襲う。その威力は自然災害と変わらない。


 だが、一骨はケルベロスの攻撃よりも早く、空中へ跳ぶと三つある顔の一つに着地した。指を変形させて作った刃を首元に突き刺すと、そのまま力任せに引き裂いた。顔と身体を繋ぐ肉が断ち切られ、鈍い音と共に地面に落ちる。


「す、凄い……」


 たった一人で【壊級】を圧倒する一骨。得意気に地面に舞い降りた。

 しかし、首を失ったケルベロスは


「なっ!」


 切り裂いたはずの首元から、血と肉が混ざったような無数の水泡が湧き上がり、徐々に形を変えていく。数秒後、そこには切り落としたはずの顔があった。

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