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いろいろあってしまいにゃスカウトされるまでになっちまった。

作者: 夜闇

 『ねぇ何そのモッサイ髪型。www』

『何?厨二病なの?w』

『片目隠しといて、何それ、前見えてんの?ww』


 こんな言葉を何度かけられたかわからない。

理由は、俺の髪型にある。


 前髪をあごの辺りまで伸ばし、左目を隠している。

それも、ただ伸びているのではなく、あごのあたりをキープし続けているので、変な髪型と言われてるんだ。


 俺は気に入ってんだけどなぁ………

なんかおかしいのかな?


 この疑問を、クラスの仲のいい男子にぶつけてみた。


『んー、にあってんじゃない?』

『でも、顔の八割隠してんのはもったいないかも。』

『もうちょい目見せた方がいんじゃね?』


 クラスのギャルに言われたのとは正反対のことを言われ、やっぱ男子はいいなと思う今日この頃。


 俺は髪型をキープしたままである。

俺の兄&姉いわく、


『おいてめ、なんで顔隠してんだよ、もったいねっ!』

『えー、いのりくん、隠しちゃうの?もったいなぁ〜。』


とのこと。


 別にいいじゃん。

俺の自由じゃん。


 両目を人と合わせると、恥ずかしくて恥ずかしくて汗かいちゃうんだよね。

だから、わざと片目を隠してるんだけどさぁ。


Q .前見えてんの?

A .片目さえ残ってれば見えてるよ。


 俺目悪くないから。

テメェらナメすぎ。


って、俺は女子に言われたときに思ってたよね。





 「おーい、いのり、さっさとかえんぞー。」

中学の頃は”前髪祷まえがみいのり”とか、”前髪まえがみくん”とかって呼ばれてたけど、高校に入ると、男子のほとんどからはいのり、女子のほとんどからは、秋田あきたくん、と呼ばれている。


 やっぱ、高校になると大人になるんかな、精神が。



 そんなこんなで、高校生活は充実している。


 ………が。


 「ねぇ、そろそろ、前髪、な、後ろに流すか、切りそろえるかしよう。」

頼み込むように、親友:長野素晴ながのすばるは言う。


「えー、別にいーじゃん、俺の勝手だろ?」

「いや、だからって………はぁ。」

諦めたように素晴すばるは自分の髪をかきあげた。


「ほらイケメン、イケてる仕草すんのやめろって。」

素晴すばるはすんごく顔がいい。


 切れ長の目に、180ちょっとある身長、細くしなやかで長い手足。


 ま、あれだ。

渋谷とか、原宿とか行って、


『すいませ〜ん、私こういうものなんですけどぉ………。』

『君、芸能界に興味ないかな?』

と言われるのが普通になっているのが素晴すばるだ。


 「いや、イケメンってそれは………はぁ。」

ため息をついた素晴すばる

かわいそうなことに、教室に残っていた女子が数人悲鳴をあげた。


 「はーい、帰るぞー、お前がいると女子が大変なことになるから。」


俺はそう言って素晴すばるを教室の外に押し出すと、目を剥いている女子たちに頭を下げて、一緒に帰ることにした。


 歩きながら、素晴すばるは言う。


「な、今日の帰り、アイスでも食べよーか。」

俺の前髪の件は諦めてくれたみたいだ。

彼の提案に一緒に帰る二人が次々頷く。



 アイスクリーム専門店に着いた。


 「なーにたーべる?」

クラスで一番可愛い、と俺らが個人的に思っている、友達の一人、山形明文やまがたあきふみが言った。


「んー?おれはぁ、チョコ系のがいいー!」

クラスで一番マイペースな、富山渚とやまなぎさがのんびりと言い放った。


「あー、俺もチョコのがいー。」

俺はメニューを見ながら言う。


「僕はこのパチパチのやつと、ストロベリーのやつ………」

素晴すばるはメニューを指差す。


「じゃ、ぼくはこの、四角いチョコレートが入ってるやつと、普通のチョコレートがいい。で?なぎさいのりは何がいいの?」

明文あきふみの問いかけに、俺となぎさは悩む。


「んじゃ、俺は四角いチョコレートが入ってるやつと、ストロベリーにチョコが入ってるやつがいい。」

「じゃー、おれはー、フツーのチョコとー、ナッツとマシュマロが入っているチョコのがいいー。」

「わかった。すみませーん。」

明文あきふみが全員分まとめて注文してくれ、俺らは席で待っていることにした。


 明文あきふみがよいしょ、よいしょと全員分持ってくると、それぞれ金を払う。


 冷たいアイスに頭を襲われつつも、美味しくいただいている間、


「んでさぁ、なぎさ、水泳部最近どうなの?」

と聞いてみることにした。


「え?あーねー、えーっとねー、んー、悪くないよー。」

「いや、具体的に教えてよ。」

「えー?あんねー、今度、大会があるからー、それに向けてー、練習してるとこー。」

美味しそうにアイスを頬張りながら、のんびりと言うなぎさ


「え?じゃ、ぼくらと一緒にこうやって食べてていいの?」

もっともな疑問をぶつける明文あきふみ


「えー、いいと思うよー。」

のんびりしてるけど、なぎさは泳いでいる時、とてもかっこいい。

でもプールから上がってくると、眠たそうなトロンとした目になるのが、女子にに人気らしい。


 「じゃー、いのりはどうなの?書道部。」

「ん?あー、いい感じだよ。書きすぎると手がつりそうになるのが唯一の弱点だよね。」


 俺のやっている書道部は、条幅じょうふく………いわゆる、太い筆でながーい紙に乗って書くものだったり、普通の半紙に書いたり、とりあえず、”書く!”部活。

腱鞘炎けんしょうえんになったこともなんどもあるが、今はもう慣れた。


 「じゃ、じゃ、じゃあさ、素晴すばるは?」

明文あきふみが口の端にチョコをつけながら、身を乗り出して聞く。


「チョコをふけよ………そうだな、サッカー部はまぁまぁ安定してるぞ。めっちゃ焼けるけどな。」

「わー、イケメンでサッカー部とか勝ち組じゃんー。(棒)」

俺がそう言うと、素晴すばるは俺のからかいに何も反応せず、


 「そんで?明文あきふみは?」

「んー、フツー!」

「フツーって………もっと他にないのか?」

みんなが思ったことを、素晴すばるが代弁してくれる。


「あーでも、女の子たちがうるさい。」

「おい。」

全員の総ツッコミを無視して、明文あきふみはコーンをガリッとかじる。


 全く、贅沢なことを言いやがる。


 明文あきふみはモテるから、そりゃあ、女の子が煩わしく感じることもあるかもしれませんよ?

それを俺らに言って、何か得はあるんですか?

って話。


 「ぼくがさ、集中してサーブしたいときとかもさ、わーきゃー言うしさ、うるさいんだって、ともかく。」

明文あきふみの行っている部活はバレー部だ。

明文あきふみはウイングスパイカー(アウトサイドヒッター)。


 明文あきふみは確かに可愛い。

見た目が可愛いし、基本、優しくてふわふわしてて穏やかだ。


でも、こうやって男友達だけで集まったとき、辛辣なことをさらっと言ってのけるのが明文あきふみである。


 「明文あきふみ、ちょっとあの………やめとこ。もうちょい声落とそう。あんまり人の悪口を大声で言うのはやめとこう。」

「えー?なんでー?悪口じゃないよ、事実だよ?」

「ん、それが一番ひどいんだよ?」

俺はコーンをガリガリかじる明文あきふみと目を合わせた。


 「はーい、この話題ー、終了ー!他の話しよー。」

なぎさがそう言って、入ってたらしいアーモンドをバリバリ噛んでいる。


 「そーいえばさー、最近さぁ、暑くなってきたじゃん。」

「あぁ、確かにね。」

なぎさにあいづちを打った素晴すばるは、ちらっと俺を見る。


おい、俺を見るな。

前髪長くて暑そうとか思わないでよ。


「んでさぁ、おれ、ちょっと髪伸びちゃったわけよ。」

また、素晴すばるがおれを見る。


「でさー、今度切りにいこーと思ってんだけどー、イメチェンもしたいしー、失敗しない美容院知らないかなーっておもって、聞いてるんだけどさー、どこかあるー?」

間延びした声で言い終わったなぎさは、アイスをひとくち口に入れてから頭を押さえた。


 素晴すばるは俺の顔をじーっと見つめた後、

「駅前の大通り沿いにさ、新しくできた美容院があるんだけど、あそこはいいってよく聞くよ。若い人がやってるらしいから、イメチェンにもいいんじゃないのかな?」

なぎさにアドバイスした。


「あー、あそこ有名だよねー。」

明文あきふみがニコニコ可愛い笑顔で言った。


「あ、機嫌戻ってる。」

小さい声で言ったつもりだったのに、明文あきふみは聞き逃さない。


「?なんか言ったかなぁ?」

笑ってるのが怖くて、ブンブン手と首を揃えて振る。


 「じゃーさー、じゃーさー、おれさー、イメチェンをさー、一人は怖いからさー、みんなでさー、行こーよー。」

なぎさの提案に素晴すばるは目を輝かせ、


「俺、ちょっとトイレ行こうかな………」

と立ち上がろうとする俺の首に手を回して、逃がさないようにがっちりガードした。


「おいっ、離せっ!」

バタバタ暴れるも、サッカー部で毎日トレーニングを欠かさない素晴すばるに勝てるわけもない。


 「じゃ、みんなで行こうよ!」

明文あきふみは俺と素晴すばるを見て、いつもの可愛い笑いじゃなくて、ニヤリとした、絡みつくような笑みを浮かべる。

こわっ!


「ね、行くよね、いのり?」

その笑顔のままプレッシャーをかけられると、頷く以外の選択肢がなくなる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

頷く     ⬅️

頷く

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ってな感じ。


 素晴すばるの顔がパッと輝き、なぎさは眠そうにしていたとろんとした目を、少しいつもより大きく見開き、明文あきふみは満足そうに頷いた。



 俺は諦めて、アイスクリームを腹に収めることに専念することにした。






 家に帰ると、逃げ道を消すためか、


「今週の土曜日!10時!駅前集合!逃げたら月曜日にお前の前髪、素人の僕たちがどうにかするからなっ!」

という脅迫メッセージが、メッセグループに届いた。


 俺は諦め、できるだけ前髪をいじらずに済む方法を探ることにした。








 ───そして、決戦の日(土曜日)

俺は怖くて怖くて眠れなかった。


頼むから、この前髪を短くしたりするのだけはやめてくれ!

(知らない)人と目を合わせるのは本当に嫌いだ。


 祈りながら(いのりだけに)集合場所であった駅に向かうと、すでにみんながいた。


 「お、いのり、逃げなかったんだ!」

明文あきふみに驚いたように言われ、


「俺をなんだと思ってる………」

とつっこむ。


明文あきふみ:「自分の前髪を守るために」

なぎさ :「必死でー毎日を過ごすー、」

素晴すばる:「なぜか前がはっきり見えている人」


 卒業式の呼びかけか?と思うほどに揃いまくった俺の印象を聞き、心が痛い。


 「ひどい………」

ふざけて泣き真似をしてみせると、


「はいはーい、わかりましたわかりましたー、ほら行くよー。」

明文あきふみに流された。


ひどい………


 なんだ!?

俺にはは人権がねーのか!?

なんで流すんだよっ!!



 プンプンしながら噂の美容院へ向かう。


「わぁー、いまどきって感じだー。」

なぎさが笑って感想を述べた。


「確かにー。」

明文あきふみが笑いながら、押すタイプのドアに手をかける。


目で、『行くよ。』という圧を、(主に俺に)かけられて、俺は息を飲む。


 うし、と拳を自分に引き寄せて気合い入れをすると、ゆっくりと中に入った。

店内は結構空いている。


 「いらっしゃっせー。」

青と緑と黒の髪をした男の人が、笑いながら挨拶をしてくれる。

店長って札を下げている。



 わー。

めっちゃイケメンやないか。

あれだ、女性客には毎回指名されてるやつだ。

人気者なんだろうなぁ。


 今回ここにきた目的はなぎさのイメチェンだ。


 「おーい、たにやん、このお客様よろしく。」

たにやんと呼ばれてやってきた男の人は、店長さんに負けず劣らずすごい髪色をしていた。

ぱっと見黒なのだが、所々、エメラルドグリーン(店長もそんな感じ。)と赤、銀色が下に隠れている。


それが似合うからいいんだろうな、こんちくしょう。


 「あのー、髪を短くして、さっぱりさせて欲しいんですけどー。あと、おれ水泳部なんで、水泳に支障がないようにして欲しいでーす。」

もーちょい具体的に言わないと、たにやんさんわからないのでは?


「わかりましたー。」

なんでわかったんですか!?


 もしかして、天才………?(頭がおかしくなっている)



 「じゃあ、こちらのお客様はのっちで………こちらのお客様はりんりんで………こちらのお客様は僕が対応させていただきます。」


 まさかの、俺の担当は店長さんだった。


 ってか、ここの美容師さんの呼ばれ方はメイドカフェみたいだな。


 「あ、いや、でも俺は付き添い………」

そう口を開いた俺は、りんりんさんという美容師さんに連れていかれ、椅子に座っていたと思っていた明文あきふみと、のっちさんという美容師さんに連れていかれていた素晴すばるに、


『?どうかしたの?』

『まさか、今更逃げるなんて言わないよな?』

という圧をいただいた。


 グルンと首を回していたのをすぐに直し、美容師さんと笑顔で話す二人のイケメン。

なぎさは全く興味がないのか、それとも聞こえていないのか、美容師さんとのんびり何か喋っている。


 助けろ、なぎさっ!


 そのまま席に座ると、


「どんな髪型にしたいですか?」

「あの、えっと………」

俺は視線をキョどらせ、頭の中でシュミレーションする。



パターン1.

    俺⇨髪型を直さない

明文あきふみ素晴すばる⇨めっちゃ怒る

    なぎさ⇨怒るor興味なし


パターン2.

    俺⇨髪型をほんの少しでも直す

明文あきふみ素晴すばる⇨そんなに怒らない(ただし前髪の長さが同じだった場合は機嫌が悪くなる。)

    なぎさ⇨褒めてくれる(多分)



 何も言わない俺に、 店長さんは話しかけてくれる。


 「それじゃあ、その前髪を短くしたいんですか?」

「あ、いえその………あっ!」

俺は最高の考えを思いついた。


「あの、前髪の長さを変えずに、スッキリさせて欲しい、です。」

「わかりましたー。」

えっ!?

わかったの!?


 なぎさの時と言い、ここの美容師さんは想像力に富んでるね!?


 店長さんはクルッとくしを手の上で回し、カッコよくハサミを操りながら俺の前髪を切りそろえていく。



 「終わりましたよー。」

店長さんに言われ、鏡を見ると、


「へなっ!?」

と声をあげた。


 確かに重たい感じはないのだが、ちゃんと自分の目が鏡に映っている。

なのに、視界がいい感じに遮られているので、人と目を合わせても、裸眼で合わせた時ほどのダメージはなさそう。


 「ありがとうございます!」

感極まってそう言うと、店長さんは恥ずかしそうな顔をした後、でもなぁ、と複雑そうにした。


「切ってる時に思ったんですけど、お兄さん、目を見せた方がいいと思うんだけどなぁ………」

「それはちょっと………この髪型気に入ってるんで。」


 申し訳ないが、髪型を変える気は無いんです。

でも、良くなったとは思うので、今度からこの美容院を行きつけにしようかと思います。


 その思いを胸に秘めて会計を済ませた後、


「友達が終わるのを待ってなよ。」

と言ってくれた店長さんの好意に甘え、待合室の青いソファに座って、手渡してもらった雑誌を読んだり、スマホをいじったりしていた。


 すると、


「あれー、おれー、二番目ー?」

のんびりとしたなぎさの声がした。


「お、なぎさ、終わったんだな。」

「うーん。でもー、おれより切る箇所少ないはずのー、明文あきふみとー、素晴すばるがー、おれより遅いってー、何があったんだと思うー?」

「俺も知らねーよ。あ、雑誌、読む?」

「読むー。」

俺の渡した雑誌をパラパラとめくる渚は、相変わらず眠たそうな目をしていた。


 「なぎさってさぁ。」

頭に浮かんだ疑問を直球でぶつけてみる。


「今のその目は、眠いからそんななの?」

「えー?今は別にー。眠くないよー。なんかねー、おれのねー、かあさんもねー、眠そうな目をねー、してるんだよねー。」

「そういえばそうだね。」


 なぎさのお母さんも、ちょっとトロンとした目をしている。

でも、なぎさほどじゃないじゃん。


 「ってか、髪、にあってんね。」

少し伸びた髪はすっきりして、前髪をセンター分けしているのだが、いつもは頑張って後ろに流しているので、前髪を前にしているのは新鮮だ。


 なぎさは雑誌を閉じて、


「ほんとー?あんねー、いのりのねー、前髪もねー、いい感じだねー。」

「だろ?なんかいい感じだ。スッキリして。俺、今度から、髪切るときはここに来ようと思ってんだ。」

「へー。おれもー。行くときはー、一緒に行こーよー。」

いつも、素晴すばる明文あきふみなぎさとは目を合わせて喋ってるんだけど、いつもよりしっかり目が合っている気がする。


 なぎさは雑誌を読むことに戻った。


 待つことさらに数分。

素晴すばる明文あきふみは一緒にやってきた。


 正直輝きすぎて、目が痛い。

お前ら、さらにイケメンになってどうするつもりだっ!!


「うわっ!?」

二人は俺となぎさを見て、声をあげた。


「うわっ!?とはなんだ、失礼な。」

俺が怒ると、


「いや、なぎさが前髪を前におろしてんのもびっくりだけど………それより何より、いのり、こんなに目が綺麗だったっけ?」

シツレーなことに不思議そうに言う明文あきふみに、素晴すばるは自慢げに言う。


いのりは目が綺麗なんだよね。ってか、今までも片目出てたじゃん。」

「いやでも………片目だけだとあれだけど、両目だと………ね。」

「まー、その気持ちは僕もわかる。」


「いや、俺、目綺麗じゃないよ?」


何言ってんのこいつら。


「目の色も、頑張れば群青に見えるくらいの色だし、素晴すばるみたいにかっこいい切れ長じゃないし………」

俺が指折り数えると、みんなはキョトンとした顔をして、


「まーいーでしょー、今言わなくてもー。」

「いまはやめとこっ。ね、素晴すばる。」

「そうだな、明文あきふみ。どうせ明後日にゃわかる。」

と言い合った。


 明後日?

学校に行ったら、ってこと?






 俺は疑問を抱えて、月曜日を迎えた。


 「あ、おはよう。」

朝食でパンパンのお腹を抱えて歩いていると、素晴すばるに会った。


素晴すばるは、なんだかそわそわしている。


「?」

首をひねった俺は、素晴すばると一緒に歩きだす。


「そんなことより、なんだかお腹が重そうだね。」

「え?あぁ〜、俺、朝ごはん食べすぎちゃって。ホットケーキ四枚も食っちまった。」

「ホットケーキ4枚………お前は顔と胃袋が一致しないな。」

「確かに俺も、あのふわふわのホットケーキを4枚も平らげられるとは思わなかったよ。」

素晴すばるは苦笑いを見せる。


 俺は歩きながら唇を舐めた。

ん、と伸びをして、気づく。


「俺、身長伸びたかも。」

「え?マジで?………あー、確かに。ズボンも短くなってるな。シャツも。」

「マジかー。買わないといけないのかなぁー。制服、高いんだよ………」

「でも小さいのは困るだろう?買ったほうがいいって。」

「そうだけどさぁ。」

口を尖らせる。


本当に高いんだもん。

親にお願いするの、気がひけるなぁ。


 どうやって頼んだものか、と頭を抱えながら歩いていると、学校についた。


「うわっ。」

俺は素晴すばるから距離を取る。


「どうしたの?」

「お前といると、女子が………わっ!」

言い終わらないうちに、待ち伏せをしていたらしい女子が集まってきた。


渦に巻き込まれる。


 「ねぇ素晴すばるくんっ!」

「おはよう素晴すばるくんっ!」

「あれ?髪型かえたのっ!?にあってるぅ!」

女子の甲高い声が耳にキンキン響くけれど、女子の波に揉まれているので抜け出せない。

耳も塞げない。


 ワタワタしていたら、


「あれ?」

と一人の女子に見つかった。


「こんな子、うちの学校にいたっけ?」


えー………

俺、顔すら覚えられてないの?

同じクラスなのにっ!?

席も近い人なのにっ!?

なんでなんっ!?



 「こんなイケメン、わたしたちの学校にいた!?」

は?

い、イケメン?

誰のこと?

どこの誰のこと?


「ほんとだ〜!髪型もミステリアスでー、それに、とっても目が綺麗!髪もサラサラ〜!」

「え?いや、あの、俺は………」

俺が自分の名前を言おうとすると、その前に素晴すばるを囲んでいた女子がそっくり俺に移動した。


「ねー、君はどこからきたの?」

「何年生?もしかして一年?」

「いや、俺は、三年で………」

「えー、三年生?」

「先輩?」

「ね、ね、名前は?」

「いや、あの………秋田祷あきたいのりです、けど。」

俺が顔色を伺うように言うと、


「えー!?」

「本当!?」

秋田あきたくんなの!?」

みんなに驚かれた。


 えー!

なんで気づかなかったの!?

わけわかんないんだけど。



 「いのり。」

素晴すばるが俺を呼んだ。


「?」

と歩いて行くと、


「お前が髪型変わったからだよ。」

と言われる。


「は?それだけで!?」

俺は大声を出す。


「え?それ、それ、え!?それだけ!?それに、ちょっと目が見えるようになっただけだよ!?」

「それでも、結構な変化なんだよ。」

落ち着いて言われ、俺は首をひねる。


 ちょっと目が見えるようになっただけでこんなに騒がれるって、完全に前髪をあげてしまったらどうなってしまうことやら。


 「なぁ、いのり。こんだけ人気になるんだから、もうちょい前髪あげて、顔を見せてみないか?」

「嫌だ。」

「なんでだよ。モテたくないのか?」

この発言を女子に聞かれたら、と思ったけれど、今俺らは女子から結構離れて喋っている。


「モテたいよ?けど、ここまで騒がれるのは嫌だね。」

「はぁ。」

素晴すばるはため息をつくと、あ、と何かを思いついたような顔をした。


「じゃあ、わかった。いいよ。………今はね。」

「は?」

ニヤリと笑う素晴すばる


今はって………

嫌な予感しかしないんだけど!?



 素晴すばるの笑みの意味がわかったのは、その日の五時間目だった。


 「今度文化祭がありますよね。今日は、クラスでやる内容を考えて行ってもらおうと思います。委員長いいんちょう、お願いします。」

先生の声で、学級委員長がっきゅういいんちょうが教壇に立つ。


 まさか………


素晴すばるに目をやっても、素晴すばるは黒板を見つめている。


 「はーい。女装・男装メイド喫茶なんてどーですかー?」

女子がそう提案した。


文化祭で一番多い提案ではないかと思う。


 学級委員長がっきゅういいんちょうはそれを黒板に書いた。


 「ただのカフェでよくね?」

「あ、ちょっと重めの、ちゃんとした料理を出す、レストランみたいなのは?」

さっきから飲食系が多いねー。


 ちなみに、うちの学校は教室で行う物と体育館のステージで行う演し物(ダンス・劇など)が義務化されている。

これ、結構珍しいってよく聞く。


しかしステージでの演し物は三年生に限定されていて、一、二年生は三年生の演し物を観るだけである。


 つまり。

三年生はアホみたいに忙しいのだ。


 「展示てんじっつっても、絵とかだしなー。」

「描くのめんどいよねー。」

「なー。」

なるほど、展示てんじをする気は無いらしい。


 「飲食系やるんだったら、許可とかもいるよなぁ。」

「ねー。ってか、このクラスに料理うまい人いるの?」

女子の問いかけに、素晴すばるは俺を、明文あきふみなぎさを見た。


 そうなんだよね。

俺となぎさは、なかなか料理が得意である。


両親が共働きで、小さい頃から自分で料理を作ってた、っていうのがあるんだけども。


 でも俺、普通の料理しか作れないよ?

オシャレなもの作れって言われたところで、って話だからね。


 話し合いの結果、ちゃんとした料理を作るレストランになった。

先生が許可を取ってくれるらしい。


 そうなると、問題はステージで行う演し物の内容だ。


「まずは、劇かダンスか、って話だよね。」

すると、素晴すばるが手を挙げた。


「はい、長野ながのさん、どうぞ。」

素晴すばるは立ち上がる前に俺の顔をチラッと見ると、ニヤッと笑った。


悪いね、と言うように手を振ると、


「僕はダンスがいいと思います。いくつかのグループに別れて、それぞれが短い間ダンスを披露する、というのはどうでしょう?」

この時点で、もうダンスに決まったと言える。


 なにせ、素晴すばるの顔と言ったら!

自分の顔面を使いに使って、上目遣いで、少し恥ずかしげに微笑みながら、自分のサラサラの髪を触っているのだから。


 これで、クラスの女子全員の票と、俺以外の俺たちのグループの票と、一部の男子票を獲得できるわけだ。

この後、どんな意見を言ったところで、素晴すばるの意見が負けることはない。


 そしてさっきの素晴すばるの笑み。

嫌な予感が強まる。


 今日の放課後は一人で帰ろうかな?



 そう、思ったのに。


 「なんでついてくんの!?」

だんだん歩を速めても、関係ないように全員ついてくる。


け、書道部しょどうぶvs.運動部うんどうぶじゃ勝ち目がねーよ!


 ダッシュしながら帰るのは大変なので、仕方なく一緒に帰ることにした。


 「さて、さっきの話だけどさぁ。」

明文あきふみが俺の顔を見た。


「な、なんの話?」

俺はとぼけてみる。


「ほら、文化祭のダンス!ぼくらで組もーよ!グループ。」

「言うと思った。でも、俺ダンス苦手だから、みんなの足引っ張ると思うよ。」

「大丈夫!ぼくらがカバーするから!」

絶対に逃さない、という目をしている。


「でもー、おれもー、あんまりー、ダンスー、得意じゃー、ないよー?」

なぎさが恐る恐る、という様子0で手をあげる。


「だいじょうぶっ!ぼくと素晴すばるが得意だからね。だろ、素晴すばる?」

「うん。でも、僕はもう一つ目的があるんだよね。」

そう言うと、素晴すばるは何事かを明文の耳に囁いた。


 明文あきふみは目を見開いて、なぎさに伝える。

なぎさは眠そうな目じゃなくなり、口をポカンと開けた。


 「わかった!」

明文あきふみなぎさは嬉しそうに笑うと、舌なめずりをした。


 「?」

俺の頭の上のはてなマークを無視すると、明文あきふみはスマホを引っ張り出して何事かを打ち込んだ。


ぐっ、と素晴すばるにグッジョブサインを送る。


「?」

なぎさだけが俺のはてなマークに気づいてくれて、


「大丈夫、近いうちに、わかる。文化祭は3ヶ月後だし。」

文化祭で何かある………?


やっぱり、やばいじゃんっ!?




 〜一ヶ月後〜


 嫌な予感は以前の無限倍にもなっていた。


 それを示すように、朝から素晴すばるたちは顔がやばかった。

ワクワクしてる、という顔を隠し切れていない。


 やばいなぁ、と思うし、嫌な予感しかしない。


文化祭の準備をする時間は日に日に増えて行っていて、俺は素晴すばるたちと同じダンスグループになってしまった。


 練習してても女子が見てくる。


みんなからすると、俺は”イケメン”に見えるらしい。

ということはだよ。


 元からイケメンの素晴すばると、顔だけは可愛い明文あきふみと、眠たそうでかわいいなぎさ

半分アイドルグループのようになってしまったこともあり、俺らはクラスのトリで踊ることになってしまった。


 素晴すばる明文あきふみの教え方がうまいので、俺となぎさはなかなかにちゃんと踊れている。

今日の5・6時間目もダンス練習である。


 料理の方は、親がレストランをやっているという女子三人と、おかし作り要員でなぎさがやることになった。


 「なぎさ、忙しいのに大丈夫そう?」

と聞くと、


「大丈夫ー。なんとかなると思うー。」

のんびり返された。


 5、6時間目の前、弁当を食べている時、明文あきふみ素晴すばるが何やら喋っていた。

それも、意味深な顔で。



 そして迎えた、5、6時間目。

それぞれ、ダンスのグループに別れて、柔軟をしたりしている。


「んっ、んっ………」

俺も、足を伸ばして、体を足につける。


「ちょっと硬いねー。」

明文あきふみに笑われ、後ろから背中を押される。


「あぅ………痛い、痛いってば!」

「もっと柔らかくないと、怪我しちゃうかもよ?」

明文あきふみに言われ、


「じゃ、お前は柔らかいのかよ。」

と言ってしまった。


明文あきふみは、笑顔をすこしひきつらせると、


「柔らかいけど?見てみる?」

と、かなり怖い声音で、足を180度に開いた。

体をぺちゃんと前につける。


「で?これで、柔らかくないのかな?」

「………柔らかいです。」

明文あきふみは今、怒っている。


 明文あきふみは、男子では珍しく、とても体が柔らかい。

バレー部は、筋肉痛にならないために必ずストレッチをするらしいけれど、それでも明文あきふみ以外はみんな体が硬いらしい。


 ちなみに、なぎさも溺れないためとか、いろいろな理由でストレッチをしているので、体は柔らかい。

そして、素晴すばるはと言うと………


 「んっ………あぁっ!」

素晴すばるは体が硬いのである。


「はーい、行きますよー。」

なぎさ素晴すばるの背中を押す。


「あ─────っ!!!ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って、痛いって、痛いって!なぎさ!聞こえてる!?」

素晴すばるは死にそうな顔をしている。


 俺もである。


「あっ!なっ、ちょっと待て!明文あきふみ明文あきふみ、痛いって、痛いってば!ぎゃ────っ!!!」

教室に響き渡る悲鳴。


 残っていたダンスグループの数人が、こっちを見ていることがわかる。


 しばらく、明文に体を無理やり伸ばされたあと、俺らは体育館に向かった。


 俺の学校には、第一体育館、第二体育館があって、俺らのクラスが当日披露するのは第一体育館。

でも、みんながみんな第一で練習していたらダメだから、俺らは第二で練習するんだけれども。


 第二に着くと、すでに音楽をかけて練習している人もいた。


 俺らも、空いているスペースに向かい、ウォーミングアップがわりにラジオ体操をする。


 それが終わると、本格的に練習を始める。


「ワン・ツー・右・左・左足軸で一回転!」

明文あきふみは、俺らが振り付けを覚えた後も、声に出して振り付けを教えてくれる。


おかげで、俺となぎさは完璧に踊れるようになった。



 数分後


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」

運動に慣れていない俺は、クタクタである。


「一回休憩!終わったら、ちょっと衣装合わせやろう。」

「衣装合わせ?制服じゃないのか?」

明文あきふみに聞くと、なぎさも、


「そーだよー。制服でよくなーい?」

「でも、母さんがさぁ、」

それで、俺らは納得した。


 明文あきふみの母親はとてもオシャレだ。

そりゃあ制服でダンスなんて絶対反対されるだろう。


 その上。


その子供である明文あきふみはたくさんの服を持っている。


明文あきふみは、バレー部なだけあってとても身長が高い。

高いんだけど、でもやっぱり可愛いわけなんだよな。


んでもって、明文あきふみは入学当初から身長が高いわけじゃなくて、高校に入っているうちにだんだん背が伸びていったわけ。


だから、高一の時から、今までの服のサイズには結構な幅がある。


 そしたら、背が低い俺も、背が高いなぎさ素晴すばるも、オシャレな格好ができるってわけ。



 「でさー、みんなに似合うようなの持ってきたんだけど、どうなのかなー、サイズは、って感じだから、着てみて欲しいんだよね。」

そして、明文あきふみ素晴すばるに視線を流した。


 うなずきあう。


 え、なになになに?

怖いんだけど。



 休憩が終わり、衣装合わせの時間になると、


「あーでもー、この服にー、この髪型はー、どうかなー。」

と、なぎさが棒読みで言った。


「確かにねー。」

「そうだなー。」

明文あきふみ素晴すばるも棒読みで続く。


 え?

「ちょっと待って、髪は切らないからね!目も見せないし!」

俺が言うと、


「大丈夫。髪は切らない。目も、全部は見せないし。」

「本当?」

俺が訝しむと、


「はーい、目ーつぶって。」

なぎさに目隠しをされる。


「へにゃっ!?」

よって、この後なぎさたちが俺に何かしたかは知らない。


 しかし、数十分後。


 「はーい、できたよー。」

という明文あきふみの声とともに、視界が開けた。


「ほら、鏡見て。」

と、素晴すばるは微笑む。


 手渡された鏡を持って覗き込むと、


「ハァ!?」


こ、これが、俺?


 鏡に映った俺は、髪をセンター分けにして、左目を隠していた前髪の一部が横に移動していた。


「これ、ほとんど左目見えてるから!」

俺が叫ぶと、


「でも、全部じゃないじゃん。文化祭ではカッコ良くしようよ。」

明文あきふみに言われる。


「でもさぁ………」

と俺が粘ると、


「お願い、いのり。」

明文あきふみに仔犬のような可愛い顔で見つめられ、俺は反論の言葉を失った。


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うなずく   ◀️


うなずく

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 結果、俺は目を見せたまま、文化祭に臨むことになった。



 〜文化祭1日目〜

 ダンスグループと料理グループは交代制になっている。


 スイーツを作る指示を出したりするなぎさの関係もありつつ、俺らは一番最後にダンスをする。


 なので。


「三番テーブル!フランスパンのサンドイッチ一つです!」

「承りましたーっ!!」


「すみません、二番テーブル、マンゴーラッシー三つ!!」

「承りましたーっ!!」


 店番をしている、俺らのグループの声が響く。


 厨房では、別の三つのグループがくるくると動きながら、もらったレシピを見て料理を作っていると思われる。


 ちなみに。

俺は今だけ、左目を隠すことが許されている。


 素晴すばるたちいわく、


「「「ギャップがあったほうがいいっしょ。」」」

とのこと。


 ギャップって………

やめてくれ。



 「すいませーん!」

「今行きます!」

お客さんに呼ばれ、走っていく。


「えっと、明太子パスタと、オリーブオイルのシンプルパスタで。」

「わかりました。五番テーブル、明太パスタとシンプルパスタ!」

「承りましたー!!」

会計のために、注文内容を書いたメモを置いておくんだけど。


それを書いている時に、前髪がメモ帳にかかった。


邪魔だな、と言いかけるも、明文あきふみたちに聞かれれば前髪を切る大切さをとくとくと語られるので、飲み込む。


 ファっと前髪をかきあげる。


目の前の女性客二人が、ハッと目を見張った。


 あ、やばい。

何がやばいか自分でもわかんないけど、なんだか逃げ出したい衝動に駆られている。


 「すいません、あの、お兄さんって、お名前なんていうんですかぁ?」

猫なで声で言われて、助けを求めるようになぎさを見た。


なぎさは目がバッチリあったにも関わらず、すっとそらしてきた。


 『自分でー、何とかしてー。おれもー、自分の業務でー、精一杯だからー。」

俺は諦めて、


「えーっと………秋田あきたって言います。」

無駄に凝っている、店員の名前の書かれているプレートを見せる。


「あ、えっと、そうじゃなくて、下の名前………」

だよね。

やっぱそうだね。


 「あーえっと………下の名前はねー、えーっと………」

素晴すばるを見ると、クイッとあごをしゃくられた。


『いいよ、言っちまえ。」

って意味である。


 「えっと、下の名前は………い、いのり、です。」

「イノリくん!へぇ、かっこいい名前〜!」

絶対思ってねぇだろ!


 素晴すばるの方が、絶対かっこいい名前だしっ!


 俺は自分の気持ちを押し殺すと、はは、と苦笑いして厨房に戻った。


 しばらくしてやってきた素晴すばるに、言う。

「ねぇ!助けてよ。」

「名前くらいいいだろう。」

「いや、別にいいけど、いいけどさぁ。でもほら、友達じゃん。」

「あぁ、はいはい、そうですね。あ、お客様が手ぇ挙げてる。そんじゃまた。」

「おい!」

冷たくあしらわれ、俺は食ってかかろうとしたが、新しいお客さんがきたので、案内に行くことにした。




 そしてとうとう、ダンスの時間がやってきた。

舞台袖で、俺だけがカチコチに緊張している。


「ちょっと、大丈夫だって。どうせ、一、二年と保護者くらいしかいないんだから。」

「いや多いよっ。」

前髪をあげて視界が晴れたときに人をみると、緊張して緊張してたまらなくなるんだよ。


 「もう、大丈夫だって。あ、ほら、呼ばれた。行くよ。」

ドン、と明文あきふみに背中を押されて、ややつんのめりながらステージへ向かう。


 えっと、俺の位置は素晴すばるの隣、だよな。


素晴すばるの位置を確認しながら、自分の位置につく。


 第一段階、終了。

あとは、踊るだけだ。



 ───結果から言おう。

大成功だった。


 絶対やらかす!と思っていた俺は、案の定転びかけたのだが、明文あきふみのフォローでなんとかダンスっぽくなった。

なぎさたちはノーミス。


おいなぎさ、本当にダンスできないのかよっ!?


 終わったあと、ミス以外のダンスの記憶が消し飛んでいた。


 もう店番はないし、四人一緒に文化祭を楽しんだ。



 で、文化祭が終わったあと。


「これはどーゆーことですかっ!?」

俺は毎朝、素晴すばると同じように女子に囲まれる羽目になった。


みんな曰く、

「このあいだの文化祭で、お前のイケメン具合がわかったからだろ。観念しろ。」

「よかったねー、いのり。」

いのりはー、元からー、かっこいいからー、こうなることはー、目に見えてたっていうかー。」

とのこと。


 おいなぎさ、絶対わかっててやったんだろっ!


 まあでも、俺がイケメンだってことはまぁまぁわかる。

いや、俺が、俺を見てそう思うんじゃなくて。


俺の姉ちゃんもにいちゃんも美人だし、父さん母さんの卒アルの写真も美人だ。

突然変異がなければ、俺の顔がそんなにひどくなることはないかなぁ、とは、思う。


 でもさ。

でもさでもさ。


 なんか、自由に外出できなくなったよね。

普通に素晴すばると街を歩いていたら、


「あ〜!お兄さんたち、芸能界興味ありませんかぁ?いまぁ、モデル探してましてぇ。」

「お兄さんたち、親友?これは売り出しがいがあるわぁ。」

何、売り出しがいって。

まず、やるとも言ってないし。


 そんな感じで、常に伊達メガネとマスクを着用する羽目になっている。


 学校行くのも一苦労だし。


 だからさ。


 モテすぎるのも考えものだって、男子諸君は覚えておこうぜ。

 読んでくださってありがとうございます!!


 実はこれ、ずっと前から温めていた短編なんです。

ただ今度新しい短編を書き始めるので、その前に出しておこうと思いまして。


 どうでしたでしょうか。

みなさん、頭の中で登場人物を想像しながら読むと楽しいと思います!!


 なんども読めるように、ブックマーク登録もよろしくお願いします。


 それでは、また次の機会にお会いしましょう。

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