モフモフとウサミミ
モフモフと幼女シリーズ第二弾
ねぇ、それ、邪魔じゃない?
僕の体をクッション代わりにして、ひなたぼっこするヴィの頭には、大きなリボンが揺れている。
なんか兎の耳みたい。
気になって前足で触れて遊んでいると、ヴィの頬っぺたが膨れた。
そんな直ぐに怒るなよ。
俺達の周りを楽しそうに妖精達が踊っているところを見ると、どうやら奴らがヴィに付けさせたみたいだ。
お前らさ、本当、暇だよな?
ふぅん。
ヴィの魔力って、そんなに美味しいの?
急に元気になって飛び回り始めたのも、そのお陰?
確かに、ヴィが来てから森の気配が変わった。
それまで、どんどん植物が枯れて、どんどん魔物が凶悪化していた。
それが、食べ物も豊作だし、魔物も大人しいもんだ。
ん?
遠くから悲鳴が聞こえた。
ヴィ以外の人間が居るなんて珍しい。
ま、別に興味ないけどね。
『まだ、まじゅしょうなのね(まだ、不味そうなのね)』
食べもしないで、遊ぶように頭のリボンを触る白いモフモフに、ヴィは、頬を膨らませた。
自分のお腹のあたりを摘んで、ムニムニと感触を確かめる。
『しょりょしょりょ、たべごろょぉ(そろそろ、食べ頃よ)』
林檎も、パンも、お肉も、妖精達が持ってくるものを沢山食べて、ほんのちょっぴりお肉も付いた。
臭くもなくなったし、髪の毛もサラサラ。
食料としては、なかなか優秀ではないかと自負している。
なのに、白いモフモフは、ヴィの味見もしない。
まだまだ美味しそうじゃ無いと言う証明だ。
落ち込むこちらの気も知らないで、陽気に飛び回る妖精が、腹立たしい。
「もぉ、しずゅかにしてよぉ(もお、静かにしてよ)」
ヴィは、妖精達に怒ると、耳を塞いで、白いモフモフのお腹に潜り込んだ。
ピカピカの虫さん達は、かなり煩い。
朝も、昼も、晩も、ブンブン飛び回る。
しかも、目が痛いくらい眩しい。
夜怖く無くて良いけど。
「ヴィは、よいこしゃんでしゅかー?(良い子さんですか?)」
消えるくらい小さな声で、白いモフモフの腹に向かって囁いた。
『ヴィ、良い子ね』
母親がよく言ってくれた言葉。
もう、ずいぶん長く聞いていない。
母親が亡くなってから、体温を分けてくれたのは、この白いモフモフだけ。
寒い夜も、くっついていると幸せに思えた。
だから、お腹の中に収まれば、もう二度と離れることは無いのになと、残念に思った。
「ゴニョゴニョゴニョ」
ヴィが、僕のお腹で何かを話している。
吐く息が温かくて、なんか、変な感じ。
ジタバタ足を動かしてるけど、それ以上入れないから。
あ、止まった。
あ、また動き出した。
見てて飽きないけど、不安になる。
このまま、動かなくなったらって。
ヴィは、小さい。
ヴィは、弱い。
ヴィは、直ぐに食べられたがる。
隙あらば、僕の口に飛びこむ。
危うく噛んじゃいそうで、怖いよ。
言葉が伝わらないって、凄く不便。
僕は、君を食べませんよと伝えられたら良いのに。
チョンチョンとお尻を前足で突くと、余計激しく頭を僕のお腹に擦り付け始めた。
もぉ、ちょっと痛いよ。
でも、ヴィなら、いいや。
結局、眠くなったみたいで、スヤスヤ寝息をたて始めた。
ヴィ、おやすみ。
僕も、寝ようっと。
「ひぃっ」
ヴィを虐めた女官の一人が、悲鳴が出そうな口を必死に押さえた。
自分たちが麻袋に入れて捨てた『愛し子』を探す為に、この森に入った。
いや、入ったは、おかしい。
そこには、全く自主性はなかったのだから。
森に『放り込まれた』女官達は、次々襲いかかる魔物に呆気なく狩られた。
ある者は、動けなくされてから、ゆっくり味わうように食べられた。
ある者は、大蛇の鋭い牙に噛みつかれた後、ひと呑みにされた。
気づけば、自分を入れて二人だけになっていた。
そして今、最後の仲間が、巨大な足に踏み潰された。
最後の一人になった女は、魔物に気付かれぬよう、そーっと、そーっと、後退った。
なんでこんな事になったのか?
ただ、仕事のストレスをあの小汚い子供で晴らしていただけ。
誰も怒らなかったし、誰も止めなかった。
恨むなら、最初にきちんと説明できなかった自分を恨めと、心の中で王を罵る。
女は、兎に角、休む事なく走り続けた。
走って、走って、気づけば真夜中になっていた。
もう、一歩も動けない。
喉は、水と呼吸を求めてゼェゼェと喘いでいる。
『私・・・死ぬの?』
視界が、涙で歪んだ。
そう思った時、前方に小さな光が見えた。
疲れ果てた足に力が湧く。
人がいる。
自分以外の人が。
あの灯の元へ辿り着ければ、助かると言う変な自信が芽生えた。
「た・・・すけ・・・」
ウォーーーーーーーー!
お前ら、五月蝿い!
ブンブンブンブン、蠅みたい!
はぁ?
何、その汚いの?
最近森に入ってくる害虫の駆除だって?
ふーん、原型が分からないから何とも言えないけど、結構大きいね。
あ、もぉーーー、ヴィまで起きたじゃないか!
え?僕のせい?
どっちでも良いけど、ソレ、早くどっかに捨ててきてよ。
ヴィの可愛いお目々に映したら可哀想だろ?
ヴィ、もう少し毛の中でモゾモゾしてなさい。
うんうん、そうそう。
ふふふ、お前ら分かってるな。
そうだよ、ヴィは、何やっても可愛いんだ。
さぁ、次は何しよう。
ちょっと暑くなってきたから、水浴びかな。
「くちゃい(臭い)」
ヴィは、白いモフモフの毛から顔だけを出すと鼻を押さえた。
ブーンブーンブーン
いつも金ピカの虫さん達が、何かを運んで忙しなく動いている。
皆、あちこち赤黒くなってて、物凄く臭かった。
ヴィは、自分が初めて森に来た時よりも臭いと思った。
「おふりょはいりょー(お風呂入ろう)」
白いモフモフの毛を引っ張ると、パクリと服の襟元を噛まれて空中に浮かんだ。
のっしのっしのっし
モフモフが歩くたびに、ヴィは左右に揺れて手を叩く。
上機嫌なヴィに、妖精達がまとわりつこうとしたら、
「くちゃい!あっち!(臭い!あっち!」
と森の奥を指さされ、ションボリと肩を落とした。
『ヴィに嫌われたのは、お前のせいだ』
破片と化した女官を、さらに小さな手で殴る。
でも、更に自分達が汚れるだけだと気付いた彼らは、あっという間に地面に転がる臭い物を片付けた。
そして、次々と湖に飛び込むと、水中で体の汚物を洗い流し、ポンポンポンポンと水面から飛び出てくる。
「わぁー、しゅごい!しゅごい!(わー、凄い!凄い!)」
手を叩いて喜ぶヴィに、妖精達は満足げに弧を描いて飛び回った。
えー、なんだよ、自分らばっかりヴィに褒められて。
僕だって、もっと色んなこと、ヴィにしてあげられるのに。
あぁ、早く大きくならなくちゃ。
大きくなって、ヴィと同じ形になって、両手で抱きしめてあげるんだ。
でも、その前に、アイツらばっかり褒めるヴィにお仕置きだ。
ぷーらぷーらぷーら
ブン!
ヴィを左右に振って弾みをつけたら、湖に向かって放り投げた。
クルクル回って落ちていき、ドボンと水に落ちたヴィを追って僕も飛びこむ。
ブクブグブク
沈んでいくヴィの下に一直線。
浮上して、ヴィを背中に乗せる。
水面に出たら、
「きゃはははははははは」
楽しそうにヴィが笑った。
あぁ、僕のヴィ。
君は、そうやって、僕にだけ笑顔を見せたら良いんだよ。
もし、僕から離れたら。
そうだな、パクリと食べちゃおう。
きっと、本当のウサギより美味しいと思う。
完




